■「日本の連覇はかなり厳しい」という見方
第6回WBCが始まった。ミラノ五輪でペアでの日本史上初のメダルをもたらした「りくりゅう」の大活躍によって、日本は冬季五輪で大いに盛り上がったが、その空気は大谷翔平のチャーター機による来日によって一気に塗り替えられた感がある。
今季のWBCは、いろいろな意味で「過去最大」「過去最強」の大会になっている。
まず「陣容」である。
日本が、今や世界一のスター選手になった大谷翔平をはじめ、鈴木誠也、吉田正尚、山本由伸、菊池雄星、菅野智之と6人の現役メジャーリーガーが参戦。さらに今季からMLBに移籍する村上宗隆、岡本和真も参加している。計8人のメジャー選手参加は過去最大だ。
史上最強と前評判は高く、「連覇は確実」と言う声もあがっているが、多くの識者は「日本の連覇はかなり厳しい」との見方になっている。
今回は、アメリカの力の入れ方が半端ではないからだ。
投手ではアメリカンリーグ、ナショナルリーグ両リーグのサイヤング賞投手(【ア】タリク・スクーバル、【ナ】ポール・スキーンズ)、両リーグのホームラン王(【ア】カル・ローリー、【ナ】カイル・シュワバー)が参加。その上、MLBで「最強打者」の称号を大谷翔平と争うヤンキースのアーロン・ジャッジがキャプテンとしてチームを率いている。
チーム本塁打数は405本。これは第1回WBCの時に、ケン・グリフィJr.やアレックス・ロドリゲス、デレク・ジーターなどスター軍団が集結した際の384本を上回る。第1回の時は、選手が準備不足で、準々決勝で敗退したが、今回は、選手の士気も高く「看板倒れ」になることはないと考えられている。
■ライバルはアメリカだけではない
ライバルはアメリカだけではない。ドミニカ共和国も史上最強とされる。30人中29人がメジャーリーガー。フィリーズのエース、クリストファー・サンチェス、ア・リーグの最多セーブのカルロス・エステべス、大谷を上回る大型契約を結んだメッツのフアン・ソト、45本塁打のレイズ、ジュニオール・カミネロと、かつてない陣容となっている。
さらにベネズエラも強烈だ。メジャーリーガーは25人。フィリーズのもう一人のエース、レンジャー・スアレス、ツインズのエース、パブロ・ロペス、NPBオリックスのクローザーのマチャドもいる。打では49本塁打のエイウヘニオ・スアレス、首位打者3回のルイス・アラエスもいる。
それゆえ専門家の多くは「日本の連覇は厳しいのではないか」と言っている。
「人気」という点でも、間違いなく過去最高だ。
WBCの日本戦のチケットは、昨年の内からプラチナチケット化した。
前回はローソンチケットが、自社の「エルアンコールカード」加入者に優先的に抽選販売した。筆者などもこのルートで全試合のチケットを手にしたが、今回は「エルアンコールカード」の加入者が急増し、優先販売でも入手が困難になった。
NPB球団の年間指定席を予約した顧客に対しても優先販売されたが、これも売り切れた。先着順に販売するチケットサイトも一瞬で売り切れた。
■ネトフリのすごい熱の入れよう
さらにWBC本番前の「強化試合」の日本戦チケットも「プラチナ化」し、あっという間に売り切れた。
今回のWBCの大会公式グッズは米ファナティック社から販売されたが、売り切れが続出している。強化試合が行われた京セラドームでは、入場を待つ列よりもはるかに長い「グッズを買う行列」ができていた。
前回大会の放送は、TBS、テレビ朝日と日本の地上波テレビが担当した。放映権料は合わせて約30億円と言われたが、今回は150億円という破格の金額で、アメリカのネット企業Netflix(ネットフリックス)が契約した。
ネットフリックスの目的は、1000万人と言われる日本国内の加入者を増大させることだ。
今年2月に入ってネットフリックスは期間限定で「初月498円」というプランも打ち出した。また番組内のCM枠の販売も非常に好調と聞く。さらに「地上波のテレビで視聴することができない」という不満にこたえるために、ネットフリックスは全国で自治体と提携してパブリックビューイングを実施する。
冬季五輪終了のタイミングで、ネットフリックスは「WBC関連のドキュメント」を連日のように公開した。過去、ネットフリックスは、アメリカ国内で不人気だったモータースポーツのF1をドキュメント映画などによって人気スポーツにした実績がある。プロモーション手法も日本のテレビとは異次元だ。大会クライマックスに向けて、さらに盛り上げていくだろう。
■スポンサーは日本企業ばかり
こうしてみると、WBCは、オリンピックやサッカーのワールドカップに肩を並べる国際大会へと成長していくように思える。
しかしながらWBCは多くの問題点を抱えている。
一つは「日本偏重」「大谷偏重」だ。
アメリカでも2023年のWBCは多くのファンに視聴され、注目度は高かった。
WBCの盛り上がりは圧倒的に日本なのだ。
WBCの主催者はMLBとMLB選手会が出資するWBCIだ。スポンサーもWBCIが一手に獲得しているが、WBCのスポンサーの多くは日本企業なのだ。そのスポンサー費の大半はアメリカ側に入るとされる。もちろんネットフリックスもそれがあって巨費を投じて日本での放映権を獲得したわけだ。
当初から、日本側には「スポンサーの大部分が日本企業なのに、日本の分配金が少なすぎる」という不満の声が大きかった。
■大谷翔平特需の「次」がない
その上に、日本での空前のWBC人気は、ほとんどが大谷翔平人気ということがある。今プラチナチケット化しているのは、大谷翔平が出場する試合だけだ。
昨年の段階では「連覇を目指すドジャースは、大谷翔平の出場を許可しないのではないか?」という憶測があった。それは杞憂に終わり、大谷は出場したが投手としての出場は封印されている。
極端に言えば、今回の空前のWBC人気は大谷翔平ただ一人が担っているといっても良いのだ。これは極めて危うい状況だといって良い。
大谷翔平は今年7月5日に32歳になる。MLB選手の平均年齢29歳をすでに上回っている。彼がいつまで超一流のパフォーマンスを維持できるかは誰にもわからない。
2028年のロサンゼルス・オリンピックでは、自国開催のためMLB選手の参加が有力視されている。そこでも34歳になる大谷が日本代表として出場し、他の国も一流選手を擁して金メダルを争うような展開になれば、野球は大盛り上がりするだろう。
しかしながら「その次は?」「大谷翔平の次は?」の問いに対する答えは残念ながら「ノープラン」だといって良い。
今、日本の地上波テレビでは、大谷翔平の顔を見ない日はない。多くの企業が大谷をアイキャッチにして商品の売り上げを伸ばしている。大谷人気はマーケティングの世界でも「独り勝ち」だといって良い。侍ジャパン、そして日本野球は「大谷翔平特需」に乗っかる形で、ビジネスを巨大化させてきた。
■野球をする人口は減る一方
大谷がメンバーから外れれば、侍ジャパンの人気、注目度は一気に下落するだろうし、チケットの売り上げも下がるだろう。
例えば次世代のスター選手を独自に育成するイベント、プログラムを立ち上げるとか、韓国、台湾とともにアジアの野球を盛り上げるとか侍ジャパンのブランド力を高める動きは、ほとんど行われていない。
プロ野球の観客動員は好調だが、それは各球団の営業努力であって侍ジャパンとは基本的に無関係だ。
一方で、日本国内では「野球離れ」が止まらない。
高校野球の選手数は2014年の17万人をピークとして下がり続け、昨年は12.5万人と26%も減少した。中学校軟式野球部は2001年には29.1万人だったが、昨年年は約13万人と45%の減少。
さらに小学校軟式野球部(スポーツ少年団)は、2010年には18.8万人だったのが昨年は10万人と47%の減少。こうした数字は少子化のペースをはるかに上回っている。
若い世代も侍ジャパンには強い関心を持っているが、それが「野球をやる動機」には結びついていない。
■結局、大谷頼みなだけ
2024年、小学校の競技人口が、9.9万人から10万人へとわずかに増加した。関係者によるとこれは23年オフに当時エンゼルスの大谷翔平が「野球しようぜ!」と、全国の小学校にニューバランス社製のグローブを寄贈したことが影響しているのではないかとのことだ。
本来侍ジャパンが率先すべき普及活動でさえも「大谷さん頼み」になっているのだ。
今の侍ジャパンを運営するNPBエンタープライズは、NPBとNPB12球団が出資して2014年に発足した。プロ野球から大学、高校、中学、小学校、女子野球が同じ侍ジャパンのユニフォームを着ることで「オールジャパン」の一体感を高め、野球の裾野を広げようという大きな目的があった。
しかし実態としては「プロ」だけがひとり繁栄して、その恩恵はアマチュアレベルにはほとんどおりてきていない。
野球人口の裾野はどんどん小さくなっているのに、トップだけが繁栄しているのはいかがなものか。しかも自らの努力というより「大谷景気」にあやかっているのが実情だ。
日本のWBC連覇も大事な話だろうが、大谷翔平がいる今、彼が選手でいることの恩恵をもっと日本野球全体にもたらす方策を、真剣に考えるべき時がきている。
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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。
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(スポーツライター 広尾 晃)

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