■「男系男子が適切」「女系は1度もない」発言
今年の天皇誕生日に発表された天皇陛下の記者会見でのご発言は、異例の内容を含んでいた。これまで、ご自身のおことばとして率直に語られることがなかった、敬宮(としのみや)(愛子内親王)殿下がご結婚後も「皇族」として皇室にとどまられることを強く願われるご本心が、吐露されていた。このご発言は、皇后陛下や敬宮殿下ご本人のお気持ちを踏まえたものと受け止めるのが、当然だろう。
これについては、先月のプレジデントオンライン、「天皇陛下がこれほど率直な本心を示されたことはない」皇室研究家が会見から読み取った愛子さまへの強い望み(2月27日公開)で詳しく紹介したので、関心のある方は参照してほしい。
天皇皇后両陛下のご長女が皇室にとどまられるのであれば、将来は天皇として即位されることが最もふさわしいはずだ。そのことは幅広い国民の望みとも合致する。何しろこれまでの各種の世論調査では、7割から9割の国民が「女性天皇」を支持する結果が出ているのだから。
ところが高市早苗首相は、天皇誕生日からわずか4日後の2月27日の衆院予算委員会で、皇位継承について「皇統に属する男系男子に限ることが適切」「皇位が女系で継承されたことは1度もない」などと答弁した。これに対して多くの国民から失望の声があがり、波紋を広げている。
■首相発言はあまりにもお粗末な「失言」
まず、「男系男子に限る」という発言が間違いだったことが、同日午後に早速、明らかになった。
木原稔内閣官房長官は記者からの質問に対して、高市首相の「男系男子に限る」という答弁が皇位の継承資格ではなく、皇族数確保策の1つ「養子縁組」の対象者を念頭に置いた発言だった、と事実上の訂正を行った。
高市氏は答弁の中で、「政府としても、私としてもこの報告書を尊重する」と述べていた。
この有識者会議は、もともと「安定的な皇位継承を確保するための諸問題、女性宮家の創設等について」検討するために、設置されたものだ(令和3年[2021年]3月16日、内閣総理大臣決裁)。にもかかわらず、その報告書では皇位継承問題から逃げて議論を先送りし、皇族数の減少への“目先だけの”対策についてしか扱っていなかった。その弥縫(びほう)策の1つとして、旧宮家系子孫の国民男性が皇族との養子縁組が可能になる制度改正も提案されていた(報告書11~12ページ)。
だから当然ながら、皇位継承について「男系男子に限るのが適切」といった文言は、報告書にはまったくない。
高市氏の発言は国会での首相の答弁としてはあまりにもお粗末な「失言」と言うしかない。
■「男系男子」だと皇位継承は行き詰まる
では、有識者会議報告書が本来の課題に対して、「白紙回答」になってしまったのはなぜか。
側室不在の一夫一婦制で、しかも少子化が進む状況なのに、皇位継承資格を「男系男子」という狭い範囲内だけに限定すれば、やがて皇位継承は行き詰まるほかない。だから本気で「安定的な皇位継承」を目指せば、男系男子という“縛り”を解除して、女性天皇も女系天皇も認める以外に打開策はない。
そのことは、平成時代の小泉純一郎内閣の時に設置された「皇室典範に関する有識者会議」の報告書でも、明記されている(ちなみに同報告書の取りまとめに向けたヒアリングには私も応じた)。だから政府(少なくとも官邸官僚たち)は「男系男子」限定ルールを維持することが無理なのは、とっくに分かっているはずだ。
しかし分かっていても、それを真正面から打ち出せない政治的な理由があった。
■報告書に隠された「微妙な事情」
今の時点で、女性天皇・女系天皇を認める方向性を前面に押し出せば、どうなるか。自民党内などの男系派が脊髄反射的に反発して、収拾がつかなくなる。それでは問題の解決にはつながらない。
そこで差し当たり、現実味のない旧宮家養子縁組プランを一方に掲げて男系派を懐柔しながら、それとセットで内親王・女王が婚姻後も皇籍を保持されることを可能にする皇室典範の改正にこぎつける。それでとにかく将来に望みを託するしかない。
……という役人的な発想から、あえて皇位継承問題には立ち入らず、皇族数確保策にスリ替えたのが、今回、高市氏が「尊重する」と述べた報告書の内実だ。
しかし、高市氏の答弁を聴くと、その辺りの微妙な事情をまったく知らず、理解できていなかった。
■「男系男子」の未来は絶望的
しかも、男系男子限定の固定化が「皇統の確実な安楽死を招く」ことを、高市氏は分かっていないようだ。
これについては以前、皇統の存続可能性について、京都大学准教授の川端祐一郎氏がさまざまな試算をしている(『表現者クライテリオン』令和4年[2022年]3月号)。その中で、最もリアルに近い前提条件での数値シミュレーションは、暗澹たる未来を示していた。
すなわち起点を男子1名とし、有配偶率90%、既婚者の平均子供数1.5人、30歳で結婚し、32歳で第1子、平均寿命81歳という設定で1万回のシミュレーションを行うと、皇統が100年未満で途絶える可能性が87.2%という絶望的な結果だった。
この結果を踏まえて、同氏は男系男子限定を前提とした場合、「複数の皇位継承資格者の存在と、2人を上回る子供が継続的に誕生することが必須である」と述べていた。
しかし、数値的にはそうであっても、およそ現実的には可能性のない想定だ。したがって、その「必須」を満たせない以上、男系男子による皇統の維持は無理(!)という結論になる。
■最新AI「30年後に“廃絶”が“存続”の可能性を超える」
また別に最新のAIを使って、起点を同じく男子1名とし、有配偶率85%、平均子供数1.5人、男児出生率51%として10万回の確率的シミュレーションを行った結果では、皇統が存続できる確率は以下の通り。
第1世代(約30年後)=45.4%
第2世代(約60年後)=24.8%
第3世代(約90年後)=14.7%
第4世代(約120年後)=9.1%
第5世代(約150年後)=5.7%
こちらも厳しい結果になっている。この試算では、第1世代からすでに皇統の存続よりも廃絶の可能性の方が高くなる。第2世代ではほぼ存続が不可能な状態だ。
したがって、皇統の存続を望むのであれば、高市氏の答弁とは逆に、現在の男系男子限定ルールはすみやかに撤廃されなければならないことが分かる。
それとも、高市氏は皇統の廃絶を望んでいるのだろうか。
念のために、同じ条件で女性天皇、女系天皇を認めた場合はどうなるか。こちらは男女不問なので、起点はひとまず若年皇族3名とした。
第1世代=96.0%
第2世代=90.0%
第3世代=85.0%
第4世代=81.5%
第5世代=78.8%
これを見ると、第5世代でもおおむね安泰と言えるだろう。
両者を比較すると、皇室の存続を願うならば、どちらを選ぶべきかは改めて言うまでもない。
■「皇室の伝統」とは何か
ここで思い出しておきたいことがある。平成の有識者会議報告書が提出された時に、宮内庁に詰める記者が上皇陛下に、女性天皇、女系天皇を認めると「皇室の伝統の一大転換になります」として「皇室の伝統とその将来」について質問した時のことだ(平成17年12月19日)。
この時、上皇陛下は記者が前提とした“思い込み”をくつがえす答え方をされた。
「私の皇室に対する考え方は、天皇及び皇族は、国民と苦楽を共にすることに努め、国民の幸せを願いつつ務めを果たしていくことが、皇室のあり方として望ましいということであり、またこのあり方が皇室の伝統ではないかと考えているということです」
これは、「皇室の伝統」は狭い男系男子による継承などではなく、「国民と苦楽を共にする」という望ましい「あり方」を受け継ぐことこそが本質だから、女性天皇、女系天皇を認めても、それを支える精神が維持できれば皇室の伝統は守られる、という考え方を示されたものだ。その“精神の継承”は、普通に考えると傍系よりも「直系」によってこそ、より確かに受け継がれるだろう。
実際に、この時の報告書による皇室典範の改正は、天皇皇后両陛下のご長女、敬宮殿下が将来、即位できるようにする内容だった。
■「男系男子限定」は明治の皇室典範以来
見落としてはならないのは、皇位の継承資格が「男系男子」に限定されたのは、明治の皇室典範以来という事実だ。
その皇室典範の草案段階では、女性天皇、女系天皇を認めたものが複数あった(元老院「日本国憲案」明治9年[1876年]、同「国憲草案」明治13年[1880年]、宮内省立案第1稿「皇室制規」明治19年[1886年])。しかし、当時の“男尊女卑”の風潮によって、そうした選択肢がひとまず排除されてしまったにすぎない(井上毅「謹具意見」明治19年[1886年]など)。
このような経緯を振り返っただけでも、男系男子限定ルールが長年の伝統でも、固守すべき絶対的な規範でもないことが分かる。
■「男系」よりも「皇統」
そもそもわが国は、中国の父系制=男系主義の大きな影響を受けながらも、男系だけでなく女系も血統としての意味を持つ双系(双方)的な伝統が指摘されている(吉田孝氏、義江明子氏など)。
歴史を少し丁寧に振り返ると、男系継承とばかり言えないケースも目に入る。
たとえば、応神天皇の誕生は父親だった仲哀天皇が急死した「十月十日」後という作為的なタイミングとされる一方、母親の神功皇后とほかの人物との性的関係を示唆する伝えも残っている(『住吉大社神代記』など)。この天皇が女系を介して皇統につながっていた可能性は排除できない。
その応神天皇の5世の子孫とされるはるかな傍系の継体天皇の場合、直系の皇女だった手白香皇女との婚姻によって、はじめて即位の正当性を得た。それとともに、皇女との間に生まれた欽明天皇からの皇統だけが現代にまで受け継がれており、ほかの女性との間に生まれたお子さまたちは1代限りで、皇統を後代に継げなかった事実がある。よって、これも男系継承と見てよいかは疑いが残る。
あるいは、元正天皇は同時代の基本法である「大宝令」(継嗣令)の規定では、父親である草壁皇子ではなく、母親の元明天皇の血筋=女系とされた。
こうした事実を見ると、皇位の継承については、男系より上位の概念である「皇統(天皇の血統)」による継承こそが、真の伝統として決定的に重要だったことが納得できる。
■「養子縁組プラン」の方が「伝統破壊」になる
明治典範の制定にあたっても、「皇統」による継承を条文で定める根拠として『日本書紀』の書名が挙げられる一方、わが国の伝統とは異なる「男子」限定については、プロイセン、ベルギー、スウェーデンという男系主義のサリカ法典の影響を受けたヨーロッパの君主国の名前を挙げるしかなかった(「皇室典範草案」欄外注記、明治20年[1887年])。
憲法が求める「皇位の世襲」も“皇統による継承”を意味する。その「皇統」に男系も女系も含まれることは、これまでの政府の見解であり(内閣法制局執務資料『憲法関係答弁例集(2)』など)、学界の定説だ。
これに対して、80年近くも前に皇籍を離れ、“親の代から”すでに国民である旧宮家系子孫の男性は名分上、もはや「皇統に属する」とは見なせないだろう(美濃部達吉『憲法撮要 改訂第五版』、里見岸雄『天皇法の研究』など)。
政権与党はその一般国民の男性を養子縁組で皇族にし、その子孫に皇位継承資格を認めようとする方策を「第一優先」とする。
このプランはリアリティがほとんどないのが救いだ。それについてはプレジデントオンライン、高市首相は「女性天皇」を否定していない…皇室研究家が「選択肢は"愛子天皇"しかない」と断言するワケ(2月24日公開)を参照してほしい。だが、万が一にもそれが実現すれば、まさに皇統を断絶させ、民間の賀陽家、久邇家、東久邇家、竹田家という一般国民の血筋から天皇を出す危険性を導く。
■「皇統」が拡大解釈されてしまう
旧宮家については、被占領下での皇籍離脱の印象が強いせいか、養子縁組の対象となる人たちについては、もともと戦前のルール(「皇族の降下に関する施行準則」大正9年[1920年])に照らしても、生まれた時からすでに皇族ではないほど、皇室との血縁が遠い事実が忘れられているようだ。
もし「皇統」という概念を民間にまで拡大すると、それに“属する”一般国民は旧宮家系子孫に限らず、数多く存在する。
たとえば明治以降、敗戦までに臣籍降下した皇族が14名(ほかにも非嫡出子で皇籍になく華族だった人物が2名)いるので、その子孫も当てはまるだろう。
また、男系では旧宮家系子孫より皇室との血縁がはるかに近い、江戸時代の天皇の血筋を引くいわゆる「皇別摂家(こうべつせっけ)」の系統は、「ある計算によると……鷹司系が32名、近衛系が9名、一条系が10名なのだそうだ」という(八幡和郎氏『新潮45』平成29年[2017年]1月号)。
さらに桓武平氏や清和源氏、『新撰姓氏録』の「皇別」氏族などの系統も加えると、際限なく広がる。
しかし、それらの人々まで“皇統に属する”として、養子縁組という法的な手続きだけで手軽に皇族の身分や皇位継承資格まで認められると、皇室と一般国民の区別が曖昧になってしまう。
■取り組むべきは天皇陛下の“強い願い”実現
そもそも皇室典範では、養子縁組を否定し(第9条)、婚姻以外による皇籍の取得をすべて否定している(第15条)。これはなぜか。
その理由を、今の典範が制定される際に法制局(内閣法制局の前身)がまとめた「皇室典範案に関する想定問答」(昭和21年[1946年])では、次のように説明している。
「臣籍に降下した者及びその子孫は、再び皇族となり、又は新たに皇族の身分を取得することがない原則を明らかにしたものである。蓋(けだ)し、皇位継承資格の純粋性(君臣の別)を保つためである」
政権与党は「皇位継承資格の純粋性(君臣の別)」をないがしろにする方策を「第一優先」で推し進めるつもりなのか。
それよりも真っ先に取り組むべきは、ついに天皇陛下ご自身が記者会見という公の場で表明された“強い願い”に、政治が責任をもってお応えすることではないか。
それは敬宮殿下をはじめ未婚の女性皇族方がご結婚後も皇族の身分にとどまられることを可能にする皇室典範の改正にほかならない。その際、夫婦・親子が皇族と国民として身分が違う“異例の家族”を当事者に強制するようなことがあってはならない。近代以来の「家族は同じ身分」という原則がそのまま適用されるべきことは、当たり前だ。
この第一歩を踏み出してこそ、多くの国民が期待する「女性天皇」「愛子天皇」への道も開かれる。
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高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者
1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録」
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(神道学者、皇室研究者 高森 明勅)

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