※本稿は、澤野弘之『錯覚の音』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■「絶対ヒットする」とまでは思っていなかった
『進撃の巨人』(*1)の音楽を担当することが決まった時、この作品がヒットするとは、実はそこまで思っていなかった。
*1:諫山創によるダークファンタジー漫画。荒木哲郎監督、WIT STUDIO制作により2013年にテレビアニメ化され、以降、制作体制を変えながら第4期まで放送。2023年に完結した。澤野は全シリーズの劇伴だけでなく、劇場版の主題歌なども担当した。
人気コミックがアニメ化されればヒットが約束されたというような風潮があるが、当時の僕は逆のイメージももっていた。その頃、原作コミックは絶大な人気を誇りながらも、アニメ化では大成功したとは言い難い作品をいくつか目にしていた。
あまりに原作ファンが多い作品は、期待値も上がる上、ファンそれぞれの中に声やキャラクター・世界観などのイメージができてしまっていて、アニメ化が逆に難しいのではないかと感じていたのだ。
『進撃の巨人』も、書店で平積みされているのを見て注目作であることは知っていたため、そうしたプレッシャーの中にある作品なのではないか、と考えていた。だから、「これはヒットが約束されたぞ」と確信をもって取り組んでいたわけではなかった。
■二度目の依頼でわかる前作の評価
だからといって音楽制作の意欲がなくなったわけでは断じてない。何よりも、『進撃の巨人』の仕事で嬉しかったのは、『ギルティクラウン』で組んだ荒木哲郎監督(*2)が、再び自分にオファーをくれたことだった。同じ監督から二度目のオファーをもらえるなど、当時は考えてもみなかった。おそらく、ドラマの演出家の方を除けば、荒木監督が初めてだったと思う。
*2:1976年生まれのアニメーター、アニメ監督、演出家。代表作は『進撃の巨人』『ギルティクラウン』『甲鉄城のカバネリ』他。そのいずれの作品も澤野が音楽を担当している。
『ギルティクラウン』では、歌モノの楽曲を多用するなど、かなり自由な発想でやらせてもらった。荒木監督が喜んでくれているという手応えはあったが、この業界では社交辞令も多い。「またよろしくお願いします」という言葉も、打ち上げの場では誰もが口にするものだと、天邪鬼な自分は捉えていた。
だから、『進撃の巨人』で再び声をかけてもらった時、初めて「ああ、『ギルティクラウン』の音楽を本当に気に入ってくださったんだ」と実感できたのだ。
これはどの監督に対しても同じだが、こうして二作目のオファーが来た時に、初めて前作での仕事が本当に評価されたのだと感じることができる。
そして、『進撃の巨人』のアニメが放送されると、社会現象とも言える大ヒットとなった。予期せぬ事態に、「自分もこんな作品に関わることがあるんだ」と、少々他人事のような気持ちで状況を見ていた。
■10万枚ヒットでも素直に喜べなかった
『進撃の巨人』のTVアニメが第一期の中盤に差しかかった頃、サウンドトラックが発売された。予約段階で、通常のサントラよりも受注が多く来ているという話は聞いていた。当時、CDとダウンロードを合わせて10万枚近くになったと記憶している。自分のサントラの中では、もちろん『進撃の巨人』が最も売れた作品となった。
サントラとしてはヒットと言える数字だろう。しかし、どこか素直に喜べない自分がいた。
なぜなら、『進撃の巨人』が放送される数年前に、自分が尊敬する菅野よう子さんが『マクロスF(フロンティア)』(*3)のサウンドトラックで、1タイトルあたり25万枚を超える売上を記録していたからだ。
*3:日本のテレビアニメ作品。
『マクロスF』はもちろん大ヒット作だが、『進撃の巨人』も子供から大人までを巻き込む社会現象とまで言える作品だった。それなのに、サウンドトラックの売上は『マクロスF』の方が圧倒的に上なのだ。
■「あの人ならもっと売れたのでは」
その事実を知った時、「自分の音楽の力が弱いということなのだろうか」と、ふと思ってしまった。もし菅野さんが『進撃の巨人』を担当していたら、もっと売れたのではないか。50万枚、あるいはそれ以上のセールスを記録したかもしれない。これだけ社会現象になった作品でありながら、10万枚という数字はこの作品に相応しい結果だったのだろうか。
もちろん多くの人の手にとってもらえたことは幸せであり感謝していたが、作品の力を借りた上で、果たしてこの数字を手放しに喜んで良いものなのだろうか、そんな考えが頭をよぎった。高望みするなという意見もあるだろうが、『進撃の巨人』のヒットをまじまじと感じながらも、複雑な心境が交差していた。
もちろん、この作品に関われたことは僕の音楽人生に大きな影響を与えてくれたし、『ガンダムUC』と並んで、その後のアニメ作品のオファーが増えるきっかけになったのは間違いない。
そして、時間が経ち、サブスクリプションが主流の時代になると、『進撃の巨人』の楽曲は海外を中心にさらに広く聴かれるようになり、当時のショックを払拭してくれるような状況になっている。
■調子に乗れない人生を送ってきた
よく言うのだが、僕の人生は「調子に乗れない人生」だった。音楽を作っている以上、ずっとネガティブな気持ちではいられないから、自分で自分を前向きにさせる部分はある。しかしそれとは別に、少し嬉しいことがあると、内心浮かれたがる部分もあるのだ。
だけど、「今いいところにいけたかも」「やっと少し前に進めたんじゃないか」と感じた直後に、必ずそれを打ち砕くような出来事が起きる。調子に乗りたいのに、乗らせてもらえない。サントラの売れ行きが良いと聞いて「おっ」と思っても、過去に日本で大ヒットしたサントラの数字を思い出すと、「いや、全然まだまだだ」と思い知らされる。
それらを比較対象にして、そこまで思い詰める人間はなかなかいないだろう、と言われたこともある。ストイックなのだと。しかし、自分としてはストイックとも違う気がするし、自惚れるには程遠いと感じているだけなのだ。
“自分の音楽をより多くの人に”という言葉が目立つと、自己顕示欲の塊と捉えられてしまうのかもしれない。“作品のためだけに”と書けば響きはいいかもしれないし、それこそストイックに感じてもらえるかもしれないが、“使命”ではなく、“志向”とともに始めた音楽なのだ。
それに、そもそも“作品のため”というのは言うまでもなく大前提・当たり前のことであり、僕の考えがそこから離れていくとも思わない。
■悔しさが突き動かす音楽制作への思い
『進撃の巨人』のあたりから、雑誌などで自分を取材してもらえる機会も増え、状況が少しずつ前進しているという実感はあった。しかし、その前進は「三歩進んで二歩下がる」のような、もどかしいものだった。果たして去年と比べて、自分はどれだけ進んだのだろうか、と常に自問自答していた。
作品のヒットを受けて、Season1の放送終了後のライブイベント「進撃の巨人“Attack音体感”」で、横浜アリーナのステージに立つこともできた。「こんな大きな会場で、多くの人が自分の曲を聴いてくれている」と思う反面、あくまでここにいるほとんどの人は『進撃の巨人』という作品やキャストが好きで来ているお客さんなのだ、ということも理解していた。「澤野? 誰だこいつ」と思われているのではないか、と。邪念のようなものがどこかに付き纏っていた。
しかし、そうした経験を繰り返すほど、「音楽家としてもっと上に行かなければならない」という気持ちも強くなる。曲を作る上で、モチベーションは非常に重要だ。今でも曲作りが楽しいと思えるのは、一つひとつの楽曲に対しては満足できているからだ。
しかし、自分の活動状況や広がりに対しては、常に理想と現実の狭間で悔しい思いをすることが多い。
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澤野 弘之(さわの・ひろゆき)
音楽家
ドラマ・アニメ・映画など映像の音楽活動、その他にもアーティストへの楽曲提供・編曲など精力的に活動している。主な作品に『Fate/strange Fake』『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』『進撃の巨人』『ギルティクラウン』『医龍 Team Medical Dragon』『魔王』ほか多数。ボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk](サワノヒロユキヌジーク)が2014年春より始動。プロデュースワークとしてはSennaRin(センナリン)とNAQT VANE(ナクトベイン)を手掛ける。
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(音楽家 澤野 弘之)

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