■奄美大島の海底で見つかった「大量の陶磁器」
ダイビングに行くなら、やっぱり南国の透き通るブルーの海……といきたいところですが、湖など河川の調査もあるので、我々水中考古学者は冷たいみそ汁のような水の中を泳いで調査することが多いです。
とはいえ、きれいな海でのプロジェクトもあります。ここでは、南国の透き通る海、しかもシュノーケリングでもアクセスできる遺跡を紹介したいと思います。南西諸島、奄美大島にある倉木崎海底遺跡です。
黒ウサギが有名な、マングローブの生い茂る自然豊かな島、奄美大島。沖縄ほど観光地化されておらず山がちであるため、太古の自然をそのまま感じることができる、神秘の島ともいわれます。そんな島の南西側に、宇検村という村があります。とても魅力的な場所なので、奄美に行ったらちょっと足を延ばして、ゆったりとした時間を感じて欲しいです。
この宇検村の焼内湾の入口にある枝手久島と奄美本島の間の細い水路に、倉木崎海底遺跡があります。水路の幅はおよそ300メートル、長さは1キロメートルほど。だいたい3メートルほどの深さがあり、深い場所でも6メートルぐらいでしょうか。
遺跡発見のきっかけは、30年以上も前のこと。
1997年の調査では、海底に基準点を設置してグリッドを作り、どこになにがどれほど落ちているのか、分布調査を実施しました。遺物は、広く海底面に分布しており、12‐13世紀ごろの中国の青磁や白磁など約2300点の遺物を引き揚げています。
これだけまとまった貿易品が見つかることは、陸の遺跡ではほとんどありません。
■中国で作られた「宝物」だった
発見された遺物は、龍泉窯や同安窯と呼ばれる中国の窯跡で造られた焼き物がそのほとんどです。当時の高級品で、現在でも各地のお寺や神社などで宝物として守られているような品々。
このような鎌倉時代の輸入陶磁器類は、鎌倉幕府と関係の深い金沢文庫の博物館などでも見ることができます。三代将軍源実朝も直接中国から輸入したいと、鎌倉の浜で貿易船を造らせました。まあ、この船が遠浅のため出港できずに朽ち果てたことは有名な話です。
さて、倉木崎の出土品の特徴は、バリエーションが少ないことです。
これらは中国を出発し博多に向かっていた船に積まれていた遺物であると想像できます。当時の日本では、南や西からやってきた貿易船は博多へ向かいました。博多の大博通り沿いの博多遺跡群――中国人商人が住んでいた、今でいうチャイナタウンです――からは、大量の貿易陶磁が見つかっています。
そして、倉木崎海底遺跡の出土品と博多遺跡群の出土品を比べてみると、同じような遺物が両方で確認されました。
ちょっと余談ですが、数年前に韓国の済州島の沖の水中遺跡からたくさんの陶磁器などが発見・発掘されました。この遺跡の出土品、倉木崎の遺物と瓜二つ。並べてみると、どっちがどっちかわからないほどです。
■沈没船の痕跡が見当たらない
ここで問題。陶磁器は大量に見つかりましたが、さて、ここには沈没船があったのでしょうか?
船があったのなら、遺跡のどこかに船の一部である鉄釘や、船員が使った道具などがあるはずです。ところが、ここでは陶磁器しか発見されていません。これはなぜでしょうか?
船が沈んでいないとしたら、なぜこんなに大量の陶磁器が海の中にあるのでしょうか。当時の発掘調査では、その謎については深く追求することはありませんでした。
時はちょっぴり流れ、2014年。文化庁の水中遺跡調査検討委員会の委託を受けた九州国立博物館が、改めて倉木崎で調査を実施することになりました。
■海底を徹底的に調査したが…
この調査、遺物の引き揚げなどを行う調査ではありません。目的は主に二つ。一つは、陶磁器以外の遺物を探すこと――つまり船体がそこにあったのか、検証することです。もう一つは、さまざまな水中探査機器を使用して、それぞれの特性を理解し、国内で運用する際の方法や手順などを考えることです。
将来的には、マニュアルのような形で、調査で得られた知見を全国の自治体に提供することを目指しました(これが第一章で紹介した『水中遺跡ハンドブック』に活かされます)。このときは、サイドスキャン・ソナー、磁気探査、サブボトム・プロファイラ、潜水による調査、金属探知機、水中ロボットなどを使用しました。
もちろん、私も参加しています。通常、水中遺跡の探査を行う場合は、探査機器を船に取り付けて同じ海域を行ったり来たりします。すきまができないようにお目当ての海域(エリア)を塗りつぶしていく感じです。
調査範囲が広いとそれが何日も続きます。一度探査機器を取り付けると、あとは退屈な作業だともいえます。ところが、今回は狭い海域で行うので、一つの機械の作業時間は短め。しかも午前と午後では違う装置を使って探査を行うなど、大忙しでした。それぞれの機材をどのように使ってどのようなデータが得られるのか。それを水中遺跡調査委員会で共有するための、いわばテストランのような調査でした。
■船の残骸はまったく見つからなかった
機器の説明も兼ねて、それぞれの機器で何がわかったのかを解説したいと思います。
サイドスキャン・ソナーは、海底の様子を可視化する装置。生け簀の残骸などのちょっぴり大きな人工物を見つけることはできましたが、中国から来たと思われる船の残骸やアンカーなどは発見できませんでした。ただ、和船のいかりや西洋型のアンカーはいくつかありました。
サブボトム・プロファイラを使うと、海底面の下の層を断面で見ることができます。遺跡周辺を見てみると、表面のサンゴ混じりの粒の粗い層の下にはすぐに岩盤がありました。堆積もそれほど深くありません。つまり、船体などの大きな遺物が埋もれている可能性はないようです。
磁気探査は、おもに鉄製の遺物を見つけるための装置です。埋もれている遺物も見つけることができるので期待していました。でも、今回の調査では現代のゴミなどは見つけたものの、とくに大きな鉄の遺物はありませんでした。
金属探知機は、手に持って使用するタイプのものを使いました。金属があるとピーピーと音がするあれです。
このほか、水中ロボットや潜水作業で広い海域を目視確認しましたが、あったのは陶磁器のカケラばかり……。船体が腐ってなくなったとしても、鉄釘などは残っているはずです。でも、それもありませんでした。
■なぜ「軽くて・高価な物」を放置したのか
これらの探査の結果言えることは……。ニュアンスとしては、「何もないことが確認できた」ということです。船体はありませんし、埋もれている可能性も低い。では、なぜ、ここにこれだけのものが落ちているのでしょうか?
たとえば、中国を出発して博多へ向かっていた商船が難破し、この浅い水路に流れ着いたというのはどうでしょう。座礁しそうになったので積み荷を軽くするために陶磁器などを破棄し、脱出したのかもしれません。
でも、これだけ浅い場所ですから、捨てた積み荷を取りに戻ってくることができたはずですが、積み荷は捨てられたまま。何か戻れない理由があったのでしょうか?
さらに不思議なのは、遺物は小さくても比較的値打ちの高いモノが多いということです。積荷を軽くする必要があったなら、金属製品、甕や壺などのほうが重たいので、そちらを真っ先に捨てるはずです。
謎は深まるばかりです……。
■ミステリー小説のような楽しさがある
文化庁の調査の後、2015年に成果報告会を現地で実施しました。シンポジウム、そして、現地で遺跡を見る見学会も行われました。
この見学会では、海の底に沈んだ遺物を、船の上から箱メガネを使って観察しました。箱メガネというのは、底がガラスのバケツのようなもので、船の上からでもたくさんの遺物が海底に散乱しているのを見ることができます。
この見学会には、想定の倍以上の申し込みが殺到。船を増やしたり時間を長くしたりと、主催した宇検村は準備が大変だったようです。遠くは関東からも、わざわざ見学会のために奄美に来た人もいました。評判もとてもよく、また開催して欲しい!という声が上がっていました。
倉木崎で発見された遺物は、現在、宇検村で見ることができます。宇検村の資料館は、離島の小さな島とは思えないほどのコレクションを誇っています。水中遺跡を見る、そして、そこから出てきた遺物を見る。南の島のちょっと変わった体験としておススメです。
ちょっぴり上級者(?)向けですが、福岡市の博多遺跡群から出土した陶磁器類と比べてみると、新たな発見があるかもしれません。福岡市の博物館にも数点しかない(しかも一部破損している)高級な輸入品が、大量に並べて展示されているのですから。
文章だけでは、なかなかモノを見たときの感動・感情を書き表すことは難しいです。でも、本物の持つ力、その場所を体感したからこそ思いつく直感というものがあります。出土した遺物を見ながら、ミステリー小説のような推理をすることも楽しいかもしれません。
シュノーケリングしながら、ぷかぷか浮いて考えることもできます。このような体験ができる水中遺跡は、そう多くはありません。
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佐々木 ランディ(ささき・らんでぃ)
帝京大学文化財研究所准教授
1976年生まれ、神奈川県出身。高校卒業後に渡米し、サウスウェストミズーリ大学卒業後、テキサスA&M大学大学院にて博士号(人類学部海事考古学)取得。日本各地のさまざまな水中遺跡調査に携わるかたわら、水中考古学の普及のため、講演・イベント企画などの活動を続けている。著書に『水中考古学――地球最後のフロンティア』(エクスナレッジ)、『沈没船はタイムカプセル』(「たくさんのふしぎ」2023年7月号、イラスト・矢野恵司)、『水中遺跡はそこにある』(ちくまプリマー新書)などがある。
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(帝京大学文化財研究所准教授 佐々木 ランディ)

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