■「半兵衛の変わり者ぶり」は“計算”だったか
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」。3月1日と8日の放送で、ついに天才軍師・竹中半兵衛(菅田将暉)が登場した。
竹中半兵衛といえば、史実でも秀吉(池松壮亮)・秀長(仲野太賀)の天下取り前半における最重要人物だ。三木城攻めの最中に夭折(ようせつ)した生涯も含めて、伝説的に語られてきた。これまでの大河ドラマでも米倉斉加年、古谷一行ら名優が演じてきた重要な役どころに、今回は33歳の菅田将暉が挑む。ちなみに史実の半兵衛が世を去ったのは36歳。演じる俳優と役の年齢が、奇妙なほど近い。
菅田が特に強調しているのは「相当の変わり者」としての半兵衛像だ。
史実の半兵衛は、よくぞ秀吉と秀長が使いこなしたと思うほど扱いづらい人物である。訪ねていっても面会すら断る。諸葛孔明への「三顧の礼」は物語として読めば格好いいが、実際に断られた側はたまったものではない。
そんな変わり者の半兵衛だが、現代の視点から見ると、この「変わり者ぶり」がまるで違って見えてくる。もしかして、これはすべて計算しつくされたセルフブランディングだったのではないか。
■コンサルの「案件」そのもの
半兵衛のブランディングの最高傑作は、デビュー戦といえる稲葉山城乗っ取りである。
永禄7年(1564年)2月6日、白昼のことだった。竹中半兵衛は舅・安藤守就の軍勢とともに主君・斎藤龍興の居城・稲葉山城を急襲。側近6名を討ち取り、龍興を城外へ逃亡させた。半兵衛、当時20代。兵力は驚くほどわずかだ。それでも城は落ちた。これは当時の斎藤氏がいかに混乱を極めていたかを示す事件となっている。
このまま、独立するなり、信長に下るなり自分が功成り名を遂げる選択はあっただろう。
ともあれ、半兵衛はせっかく城を乗っ取ったのに、激しく抵抗することはしなかった。つまりは、本気で城を乗っ取り旗揚げする気はなかったのである。
これは現代のコンサルにおけるPoC(概念実証)案件そのものだ。
一流のコンサルは、最初から大型契約を取りに行かない。いきなり「では年間顧問契約を」とは言わない。まず小さく、劇的に、記憶に残る形で「自分の能力の上限」を見せる。それだけでいい。
重要なのは、その後だ。結果を出したら、深追いしない。
そうこうするうちに、最初の鮮烈な印象が薄れ、「いて当たり前」の存在になってしまう。
■「とんでもない軍師」「扱いにくい天才」と見せる戦略
だから、短く関わって、鮮やかに去る。これによって「あの人がいた時期だけ、なぜか物事がうまくいった」という神話が生まれる。次に声がかかる時、相手はもう値段を聞かない。
「どうすれば来てもらえるか」を考え始める。
半兵衛がやったことは、まさにこれだ。城を落とした。そして返した。
あくまで、美濃の小領主の出に過ぎない半兵衛は、このままでは出世の道もつかみ取れないとわかっていた。だからこそ、この捨て身のプレゼンを実行することができたのだ。
さて稲葉山城を退去した後に、すぐに隠遁しているのも非常に作為的だ。まず、ものすごい成果を上げたことで勝手に噂が広まっていく。それを聞いてやってきた仕官の勧誘には顔も見せずに追い返す。これもまた、自分を「扱いにくい天才」と見せるための戦略だ。
普通の人材は「使いやすいこと」で評価される。しかし一流の人材は逆だ。「扱いにくい」という評判こそが、希少性のシグナルになる。
「あの人は気難しいけど、結果は出す」
そんな評価が定着すれば幾らでも自分を高く売れる。
■秀吉という“バッファ”を挟む
このことを半兵衛は的確に計算していたに違いない。
とにかく周囲が「癖が強くても有能なのでぜひ欲しい」と、認識した時点で、そのキャラクターは自律的に機能し始める。本人が演じているのか、本当にそうなのか……現代のコンサルでもありがちだが、半兵衛自身もわからなくなっていたのではないかと思う。
そんな半兵衛の仕官の応じ方も秀逸だ。実質的に半兵衛が仕えたのは秀吉である。信長ではない。史料によると、当初は信長の直参として仕官、後に秀吉の旗下に入ったとされるが、行動を共にしているのはほぼ秀吉である。これが決定的に優れている。
信長直属になれば、確かに格は上がる。しかし同時に、信長の機嫌・戦略転換・粛清リスクに直接さらされる。
なにしろ急成長しつつあるスタートアップのトップである。現代のようにSlackがあるわけではないから、いちいち顔を合わせて説明するのにも手間がかかる。せっかくの軍略も、いつも採用してもらえるとは限らず宝の持ち腐れだ。
そこで、半兵衛が選んだのは「秀吉というバッファを挟む」仕官だったのだ。
■“軍略だけ”に集中できるポジション
つまり、あくまで秀吉の横についているコンサルという立場。これなら、政治的調整、根回し、雑務など面倒なことは、全部秀吉にやらせて(いや、実質面倒なことをやるのは秀長だろうけど)、自分はコア業務(軍略)だけに集中することができる。
いわば、エンドクライアントとの交渉はPMに任せて、自分はデリバリーだけやるサブコン最強ポジションである。
しかも、この構造には副次効果がめちゃくちゃおいしい。秀吉が半兵衛を「自分のもの」だと思うため、秀吉自身が半兵衛の価値を、勝手に社内=信長家臣団で売り込んでくれる。クライアントが自分のセールスをしてくれるわけだから、経費も手間もかからない、非常に効率的な営業である。
のちに半兵衛は宇喜多氏の備前八幡山城を調略し、信長に報告した際には銀子100両を授けられているが、これも秀吉が「いや、ウチの半兵衛ってすごいんですよ」と触れ回ってくれていた効果だろう。
ここで、半兵衛が幸運だったのは、案件がまったく途切れなかったことだ。浅井氏との戦いから、中国遠征へと半兵衛は一箇所にとどまらない。
常に「次の案件がある」状態を保つことで、クライアント側に「引き留めなければ」という緊張感が生まれる。
■最も優れていた「ナラティブを生み出す能力」
もちろん、半兵衛だって「これだけ手柄を上げたから、もういいかな」と思うことはあっただろう。凡人であれば、横山城あたりで「随分頑張ったなあ~やれやれ」となってしまうところだ。
ところが、そうはしなかった。一箇所に長くいると「いて当たり前」になる。報酬は下がり、扱いは雑になることがわかっていたからだ。転戦し続けることで、常に「新規案件を受けた直後」のモチベーションと希少性を維持できる。とにかく止まらないことを自分に課していたかのようだ。もっとも、そんなハードワークを続けていたら、長続きしない。半兵衛が若くして死んだのはワークライフバランスのミスである。
さて、そんな半兵衛のもっとも優れた点は、相手が信じたくなる形でナラティブを生み出す能力を持っていたことだろう。最初に記した、半兵衛が稲葉山城を返す時のことをみてみよう。
半兵衛は、城を返すときに自ら龍興を諌めて諭したということになっている。
実際のところ、乗っ取りは無理と判断したのかもしれないが、それでも「はい、返します」とはしなかった。
わざわざ大仰に「斎藤家の行く末を憂いて」という大義のナラティブを添えたのだ。これによって、自身の「格」を作り上げたのだ。
■「病弱」が秀吉を緊張状態にさせた
これはまさに、エグゼクティブサマリーの技術である。
データは同じでも、語り口次第でクライアントは「これは緊急課題だ」とも「様子見でいい」とも受け取る。半兵衛は情報を持っていたのではなく、解釈を支配していたのだ。
しかも、現代人より優れているのは、これを口頭でやりとげていることだ。
現代であれば、相手を圧倒するのは、まずCanvaとかでつくった格好いいスライドだ。それも、TED風ではなく、文字は多め。格好いいデザインとフォント、英語が交じった右に行くほど増えているグラフ。そして、なんだかわからないけどキャッチーな概念の造語と、定義づけ。そんなものが散りばめられたスライドを見せられながら、ピッチを聞けば、たいていの人は「この人はすごい(いや、なにがすごいかはよくわからないけど)」と納得する。
でも、半兵衛はスライドなし、口頭だけですべてをやり遂げたのだ。まさに、戦国時代のジョブズ。それも、一流コンサルが新入社員に最初に叩き込む「So what?(だから何?)」これを、半兵衛は戦国時代に、自力で体得していたのだから一流である。
そんな半兵衛だが、ブランディングの中でも秀逸なのが「病弱」設定だ。いや、実際病弱だったのだろうが、これはかなり有益な戦略だ。
病弱な自身を逆手にとって「長くは仕えられませぬ」という姿を見せつける。そうすることで、秀吉を永続的な緊張状態に置くことができる。失うかもしれない、という恐怖が、持ち続けている安心より遥かに強く人を動かすというわけだ。
いわば「今期で辞めようと思っています」と毎年告げることで処遇を改善させ続ける戦略だ。
■「ピーク」で亡くなったことが伝説に
そして半兵衛は、36歳で死ぬことで、このブランディングをやりきった。
軍師たるもの、いつまでも絶好調とはいかない。長生きすれば「晩年は鳴かず飛ばず」「結局どこへ消えたのか」で終わる可能性があった。しかし早世したことで、能力の下降曲線が記録されなかった。
やはり、伝説に必要なのは、ピークで終わることなのだ。
つまり、半兵衛が現代人に伝えているのは「セルフブランディングをやるなら、これくらいやれ」という情熱である。
城を落として返す。隠遁して待つ。病弱すら武器にする。そして36歳で死んで伝説になる。FIREなんて逃げはやらない。
半兵衛に比べれば、LinkedInにキャリアを書き連ねている現代人など、まだまだ甘い。
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昼間 たかし(ひるま・たかし)
ルポライター
1975年岡山県生まれ。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。著書に『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!』(マイクロマガジン社)などがある。
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(ルポライター 昼間 たかし)

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