※本稿は、田原優『集中力を爆上げするカフェインの教科書』(日本能率協会)の一部を再編集したものです。
■カフェインを摂取しすぎると「依存」「中毒」に
「昼間にコーヒーを飲むと眠れなくなる」と言っていた妻が最近、自分でコーヒー豆を買ってくるようになりました。
もともとは、カフェインの代謝が遅いタイプだったのか、日中の1杯ですら効果が夜まで残り続けていたようです。それが今では「眠れない」とも言わず、自分でコーヒーを淹れる。自宅のコーヒーミルとエスプレッソマシンは、私よりも妻のほうが使っています。
考えられる理由は「耐性」です。カフェインは慢性的に飲んでいると、だんだんと効果を感じづらくなります。妻の場合も、少しずつでも長期間飲むうちに、耐性がついて覚醒作用が薄れていったのではと考えられます。
カフェインを摂り続けると、私たちの体にはいろいろな影響が表れることがあります。
たとえば、耐性以外にも、依存や中毒になることもあります。
気持ちの上でカフェインに頼ったり、身体的にもそれを常に欲するようであれば、仕事や生活にも支障が出ます。「ちょっとしたルーティン」というレベルを超えて、「それがなければもう何も手につかない」となっては周囲に迷惑をかけるかもしれません。
■「カフェイン使用障害」チェックリスト
「やめたくても、やめられない(依存)」状態に陥る危険性は、ギャンブルやアルコールなどでも、しばしば指摘されています。こわい話ですが、カフェインでも同様のことは起こり得ます。
精神疾患の国際的な診断基準「DSM-5」では「カフェイン使用障害」の基準が取り上げられています。具体的には図表1に挙げる9項目のリストがあり、特に①~③がこの1年以内に起きているかどうかを基準にするといいとされています。専門知識なしには、ここから「自分はカフェイン使用障害なんだ」や「違うから安心だな」とは判断できません。
実際は医師による診断が必要です。ただ一つの参考に、確認してみるのもいいでしょう。頭痛が起こるのを知りながらつい飲んでしまう方や、1杯のつもりが何杯も飲んでしまう方はいないでしょうか。また他の時間がなくなるほどコーヒーを淹れるのに時間をかけたり、お財布事情を無視して高価すぎるお茶を買ったりするというのも注意したいところです。
この表で、みなさんが聞き慣れない言葉は「離脱症状」でしょうか。
離脱症状とは、日常的に多量のカフェインを摂っている方が、急に摂取をやめたり、量を減らしたりすると現れる不快な症状のこと。具体的には頭痛や吐き気、気持ちの不安定さなどです。
■筆者自身に起こった「摂りすぎ」の症状
私がアメリカに留学していたときに、隣には韓国人の留学生が座っていました。アメリカではコーヒーが仕事のパフォーマンスを高める手段の一つになっています。(本書の序章で触れています)。そして例外なく彼女もコーヒーをたくさん飲んでいました。けれども彼女が飲む理由の一つが「私、飲まないと逆につらいから」。急にやめると、頭が痛くなるというんですね。まさに離脱症状です。
余談ですが、研究室の他の方たちはそんな彼女に同情しつつも「そういうものだよね」と。アメリカではわりとよくある話として受け入れられていることに驚いた記憶があります。
こう書くと「この人はカフェインで困ったことなんてないんだろうな」と思われるかもしれません。
でも、実は私自身もカフェインに悩まされた経験があります。あるときからコーヒーを飲むと心臓が少しドキドキするようになったのです。私もまたカフェインを摂りすぎていたのでしょう。
期待していた覚醒作用よりも体への負担のほうが大きく感じられるようになってしまいました。「これはマズいな」と思い、それ以来カフェインとの付き合い方を見直すようになりました。
■「エナジードリンク」による死亡事故も
本稿では、少しこわいけど知っておきたいカフェインの落とし穴の話をしていきます。どんな影響があるのか、心身に負担のかかるようなカフェイン習慣とは何か。きちんと知っておいてもらいたいと思います。
あらかじめお伝えしておくと、私は今でもコーヒーを飲んでいます。
九州に住む20代の男性がカフェイン中毒で亡くなったというニュースが流れたのは2015年のことでした。男性は日常的にエナジードリンクを多量に飲んでいたことに加え、カフェイン錠剤も併用していたようです。
アメリカではさかのぼること2011年に14歳の少女がエナジードリンクによる多量のカフェイン摂取により亡くなっています。
短時間での多量のカフェイン摂取は死に至るリスクがあります。個人差はあるものの、カフェインの致死量は1日5~10gといわれます。しかし、日本人の平均的なカフェイン摂取量を考えると、日常的なカフェイン摂取であればこのような量には至らないのでご安心ください。
■「飲めば飲むほど力が湧く」ものではない
これは最悪のケースですが、他にも多量のカフェイン摂取には副作用があります。
めまいや心拍数の増加、興奮、不安、ふるえ、不眠、下痢や吐き気、嘔吐など。心拍数の増加から、動悸や不整脈を引き起こすこともありますし、特にカフェインに敏感な方の場合は不整脈のリスクが高まります。
また、アドレナリンの分泌を増やすことから、過剰摂取により不安になったりパニック症状が出る可能性もあるでしょう。不安障害やパニック障害のある方は、避けたほうが無難だといえます。加えて、カフェインは胃酸分泌も促します。胃もたれや胸やけを引き起こす場合もあるでしょう。さらに第4回で利尿作用があることにも触れましたが、利尿作用が進めば脱水症状もありえます。
いずれも短い時間にたくさんのカフェインを摂ることでのリスクですから、まずは摂取量に気をつけたいところです。
そもそもですが、カフェインは「飲めば飲むほど力が湧く」ようなものではありません。
マウスへの実験では、カフェインを与えた後のマウスはケージの中で4時間ほど動き続けます。とにかく元気いっぱいになるんですね。ところが与える量が多すぎると、逆に活動量は下がります。
■「摂取量」を増やしても“効果”は出ない
図表2はイギリスの医学誌に発表されたもので、マウスにカフェインを与えた量と活動量の関係を表しています。はじめのうちは、カフェインを与えたマウスのほうが、与えないマウスよりも活動量が上がっています。
(Malika El Yacoubi et al.(2000). The stimulant effects of caffeine on locomotor behaviour in mice are mediated through its blockade of adenosine A2A receptors. British Journal of Pharmacology,129,1465-1473.)
ところが15分をすぎた頃から体重1kgあたり50mgのカフェインを与えたマウスと、カフェインを与えないマウスの活動量に差は見られなくなります。また、同じく100mg与えたマウスは、摂取直後でも活動量は低い状態でした。
集中力やパフォーマンスを上げたい、疲労感を軽減したい、から摂取量を増やすというのは大きな誤解です。十分に注意してください。
また、「健康にいいから」とカフェイン入り飲料を選んでいる方もいると思いますが、そのすべてがカフェインによるものかは定かではありません。というのもコーヒーや緑茶、紅茶にはポリフェノールが多く含まれており、その効果によって健康になっている可能性もあるからです。
ポリフェノールには抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用などがあることが知られます。さらに、がんや動脈硬化、生活習慣病の予防にもポリフェノールがよいといわれます。また「老化を防ぎ、美容に効果がある」と聞いたこともあるかもしれません。コーヒーを1日3杯飲む習慣がある方は、そうでない方と比べてシミが少ないというデータもあります。
■「ポリフェノール」が健康に役立っているだけ
細かくいえば、ポリフェノールにはさまざまな種類があります。その数、8000以上。有名なものでは、赤ワインに含まれるアントシアニン、大豆に含まれるイソフラボン、チョコレートに含まれるカカオポリフェノール、緑茶に含まれるカテキンもポリフェノールの一種です。コーヒーに含まれるのは、クロロゲン酸というポリフェノールです。
ちなみに柑橘類に含まれるノビレチンというポリフェノールは、体内時計を調節する力があります。体内時計を調節するものとしては、ノビレチンとカフェインが二強といってよいほどです。柑橘類の中でもシークワーサーはノビレチンが多く含まれる優れモノです。
ノビレチンやカカオポリフェノールは朝に摂ることで体内時計の調整にもつながります。
ポリフェノールが含まれていることでよく知られる赤ワインは、100ml当たり約230mg含まれていると言われています。図表3は一つの目安ですが、コーヒーのポリフェノール量は赤ワインよりは少ないものの200mgです。
(Yoichi Fukushima et al.(2009).Coffee and green tea as a large source of antioxidant polyphenols in the Japanese population. Journal of Agricultural and Food Chemistry,57(4),1253-1259.)
緑茶はその半分ほどの115mg。いずれも他に比べれば、相当に多いですよね。
ですから「カフェインで健康になっている」というのは案外、勘違いかもしれません。「コーヒーに含まれるポリフェノールの効果が、健康のために役立っている」と捉え直しておくことは、カフェインの摂取量を増やさないポイントにもなります。
■カフェイン摂取の5時間後でも、半分残る
摂取量への注意があれば、摂取タイミングにも注意があります。
厚生労働省は2024年に「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を発表しました。この中には、夕方以降に100mg以上のカフェインを摂ると睡眠の質を下げることが指摘されています。
たとえば19時に100mgのカフェインを摂ると24時になっても50mg分のカフェインが体内に残ってしまい、寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりするなどの影響があるといいます。またこのガイドは、子供は少量のカフェインでも影響を受けること、さらに高齢者も年を重ねるにつれてカフェインの代謝が弱まっていくこと、妊娠中も控えたほうがいいことにも触れ、注意を促しています。
カフェインと睡眠の質の関係性は、海外でも研究されています。
オーストラリアの研究者らは2023年に論文を発表しました。この研究では、睡眠とカフェインの関係について調べた24の論文を併せて解析しています。これによるとカフェインを摂ることで総睡眠時間は45分減り、睡眠効率は7%下がるという結果が出ています。
(Carissa Gardiner et al.(2023).The effect of caffeine on subsequent sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews,69,101764.)
睡眠効率とは、ベッドや布団にいる時間のうち、寝つくまでの時間や途中で起きた時間を差し引いた、実際に眠っている時間の割合のことです。より具体的には寝つくまでの時間は9分、寝てから途中で起きた時間は12分増加したといいます。また浅い睡眠は6.1分(1.7%)増え、深い睡眠は11.4分(1.4%)減りました。
■23時就寝なら「14時以降はコーヒーNG」
これらの結果からこの論文では、総睡眠時間を減らさないためには、コーヒー(カフェイン約100mg)は就寝の少なくとも8.8時間前に摂るべきだとしています。つまりこれに則って考えれば、23時に寝る方は14時以降にカフェインを摂らないほうがいいということですね。なお、カフェインの効果が半減するまでには大人でも大きな差があり、2~10時間だといいます。
平日、寝不足になっている方、睡眠に問題があるなと感じている方は、午後の仕事中に口にしたカフェイン入り飲料が原因になっている可能性を見直してみましょう。
ここでみなさんは思いませんでしたか。
「えっ、午後の仕事中ですか? ちょうど睡魔も襲ってくるので、いつもコーヒーを飲んでますよ」
その気持ち、私もよくわかります。部署内での定例の報告会議、参加が義務付けられたセミナーや研修、あるいはお客様との大事な打ち合わせ。当然、眠るわけにはいきませんよね。
眠気については本書で詳しく話しますので、ここではまず間違ったカフェイン習慣が会議やセミナーの効率を下げている可能性について知っておきましょう。
■「デメリット」も意識してほしい
カフェインは30~60分後に効果が表れます。これを踏まえると、1時間以内の会議であれば、開始時間よりも少し前に飲むほうが効果はあるかもしれません。
また一方でカフェインの効果は代謝により薄れていきます。そのため会議が長時間にわたる場合は、早い段階で摂ると、会議の後半に眠気や集中力の低下を招く可能性もあるでしょう。
さらに人によっては、カフェインが引き起こす不安や興奮が会議の効率を下げるかもしれません。水分のとり過ぎや利尿作用でトイレが近くなるというのも、その時間に集中できなくなりますし効率は下がります。
いずれも個人差があるため、一概に「こうしたほうがいい」とは言い切れません。ただご自身のいつものカフェインの摂り方や、仕事の進め方を振り返ってみると、見えてくるものはないでしょうか?
たとえば会議だらけという1日に、会議のたびに「とりあえずコーヒー」を選んでいたらカフェイン量は相当に増えます。喫煙者の中にはタバコとコーヒーをセットにする方がいます。
■「タバコ→缶コーヒー」「夕方のカフェイン飲料」に注意
「短い休憩時間にタバコを一服して、缶コーヒーを一気飲み」。これもカフェイン摂取量が増えやすい習慣だといえるでしょう。オランダとイギリスでの研究によれば、喫煙者は非喫煙者よりも1日のカフェインの摂取量が平均で50~80mg多くなっています。
他にも夕方以降に始まる会議を前に「元気を出したいから」とカフェイン入り飲料を飲む方もいますが、その日全体でのカフェイン摂取量や、その後の睡眠の質にも目を向けてみてほしいと思います。
他の参加者に「居眠りしてほしくないから」とコーヒーを用意しておくというのも要注意ですね。会議には集中できても翌日のパフォーマンスに影響が出る可能性もありえます。このような場合、もしも可能なら会議の時間帯を変えるのも一案かもしれません。
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田原 優(たはら・ゆう)
広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授
1985年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学大学院先進理工学研究科修了。博士(理学)。2015年より早稲田大学高等研究所助教、17年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部助教、19年より早稲田大学理工学術院准教授を経て、22年より現職。研究開始当時より体内時計の研究を継続。発光イメージングによるマウス体内時計測定、食・運動・ストレスによる体内時計の調節などの成果を発表。新しい研究分野として時間栄養学の立ち上げに関わる。
現在は、時間健康科学として、個人に合わせた健康管理システムの創出を目指し、企業と連携しながら日常行動の最適なタイミングについて研究を進めている。著書に『Q&Aですらすらわかる体内時計健康法』(共著、杏林書院)などがある。
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(広島大学大学院 医系科学研究科 公衆衛生学 准教授 田原 優)

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