※本稿は、浜岡範光『圧倒的成果を生む 人事施策の考え方』(テオリア)の一部を再編集したものです。
■「会議の場で何も決まらない……」
「担当役員からのオーダーに基づいて施策を検討していたのに、経営会議の場でみんなが好き放題に意見してきて、いきなりハシゴを外されてしまった……」
「リサーチやサーベイをもとにして、ベストだと思う打ち手を起案したのに、経営陣に『こうしたい』という意志がなく、いつまで経っても物事が前に進まない……」
「近年の理論やトレンドをわかっていないワンマン社長が、その場の思いつきでどんどん発言するので、会議の場で何も決まらない……」
組織人事コンサルタントとして、クライアント企業の経営会議に参加させていただくと、こんなシーンによく遭遇します。また、私が運営に入っている人事塾でも、生徒のみなさんからはこうしたお悩みをよくいただきます。
そして何を隠そう、かつての私自身も似たような「板挟み状態」にしょっちゅう陥っていました。「いったい自分は、誰のため・なんのために仕事をしているんだろう……?」と泣きたくなることも、何度あったかわかりません。
リクルートの経営企画部にいた当時、私に与えられた最も大きな仕事の1つが、毎週の経営会議に向けた「論点整理」でした。
前週に上がってきた起案をすべて事前にチェックし、「本当に経営陣が議論すべき内容なのか?」「彼らが意思決定をするために必要な材料は揃っているか?」を検討していくわけです。多いときには週に10~15件の起案があり、それぞれの起案者と事前打ち合わせをしたりもしていたので、かなりハードな日々を送っていた記憶があります。
■「ひよっこ経営企画」の憤慨
あるとき、とある方から1件の起案がありました。
それはとても魅力的な取り組みであり、社会的インパクトの観点でも「これはやらないより、やったほうがいいな!」と思える内容でした。また、あらかじめその方に話を聞いてみると、彼はそのプロジェクトに並々ならぬ熱い思いを抱いていることも伝わってきました。
しかし、経営会議の当日――。
どういうわけか、その起案内容をめぐって、議論が荒れに荒れたのです。結局、経営陣は落とし所を見つけられず、何も意思決定しないまま会議は終わってしまいました。
その起案をすっかり応援する気持ちになっていた私は、その結末に憤慨しました。せっかくのアイデアが採用されなかったのが、あまりに悔しかったのです。
「あんなことも決められないウチの経営陣ってなんなんですかね! 意思決定するのがあの人たちの仕事なんじゃないんですか? ぶっちゃけ『この人たち、仕事してないじゃないか』って思ってしまいましたよ」
会議後、ひよっこ経営企画だった私は、鼻息荒く上司(当時の部長)にそんな話をしました。すると、部長からはこんな言葉が返ってきたのです。
■「経営陣だってバカじゃない」
「わかった。じゃあ、明日からはお前がリクルートの社長だ。
みんながお前の意思決定に従う。
その代わり、すべての責任はお前が背負う。
それで……お前だったら、あの起案はどう意思決定する?」
呆然としている私にかまわず、部長は続けました。
「『やらないよりはやったほうがいい』なんて、みんなわかってるよ。でも、あの取り組みには◯◯という問題があった。××にも配慮しないといけない。あのプランを採択するということは、経営の重要テーマである△△にも影響が出る。……で、そういうあれこれのトレードオフに、お前ならどう対処するの?」
恥ずかしながら、私は何も答えられませんでした。
そんな私を見て、当時の上司はこう言ったのです。
「浜岡、経営陣だってバカじゃないんだ。もちろん、違うと思ったことにはっきり『違うと思います』と伝えることも、われわれの大事な役割だよ。でも、その前に『経営陣が何を考えて、何に悩んでいるのか』をもっと考えてみるべきなんじゃないの?」
■「ゴール・論点」があいまいだと「やろう!」と言えない
経営陣だって起案者の想いをわかっていて、「できることならやらせてあげたい」と思っています。
しかし、経営に上がってくるテーマは「あちらを立てればこちらが立たず」のトレードオフがあるもの、それなりにリスクの大きなものばかりです。
そういう板挟みの中で、何を大事にして意思決定を下すのか(論点)を絞り込むのが「経営会議」という場です。そして、その会議がうまく機能するためには、しかるべき論点がすっかり洗い出されていなければなりません。
「何もわかっていないのは自分自身だった」と気づかされ、穴があったら入りたい思いでした。
そして私はふと思いました。「はたして自分は、その議論が滞りなく進むように、論点を整理しきれていただろうか?」と――。
いま振り返ると、当時の私は、自分の仕事の重大さをわかっていませんでした。
経営企画部に異動したばかりだったこともあり、現場から上がってきた起案を「いかに通すか?」しか考えておらず、そのせいで起案書のチェックもかなり甘くなっていたように思います。
■目的は「経営陣の説得」ではない
この恥ずかしいエピソードをお伝えしたのは、みなさんには「いかに企画を通すか?」だけを目的にしないでいただきたいからです。
たしかに経営陣とのコミュニケーションは、大変かもしれません。しかし、実現したい人事施策があるとき、われわれがやるべきことは「経営陣の説得」ではありません。
むしろ、彼らが存分に議論をして、ベストな意思決定ができるよう、しっかりと材料を準備して提示すること、すなわち「論点の洗い出し」こそが求められているのです。
そして、必要な論点をしっかり揃えるには、当然ながら施策の「ゴール」もはっきりさせないといけません。
したがって、ここまでの章で見てきた「ゴール」と「論点」は、経営陣とのコミュニケーションにおいても、きわめて重要なカギになり得ます。経営陣に対してこれらを提示し、ふさわしい施策だと判断されれば、その企画はおのずと通るはずなのです。
逆に言えば、経営陣とのすれ違いが生じるのは、それらをしっかりと示せていない証拠なのです。論点やゴールがあいまいである(もしくは伝わっていない)せいで、会議での議論が迷走し、話がとっ散らかり、「声の大きな人」の意見に流されてしまうのです。
■経営者が「全然関係ないアイデア」を平気で口にする理由
人事の仕事をしていると、経営陣との議論のすれ違いは日常茶飯事です。
人事「今回は、A案とB案を提案します。それぞれの施策のメリット・デメリットは次のとおりです。どちらがよさそうでしょうか?」
役員「C案もいいんじゃないかな。どう思う?」
人事「えっと、そうですね……おいおい……AかBのどちらかを聞いたのに、関係ない話をしないでほしいなあ」
こんなミスコミュニケーションが起きたとき、つい「この役員、人の話をちゃんと聞いていないな……」などと思ってしまっていないでしょうか?
あるいは「どちらの提案もイマイチってことなのかな……」とガッカリする人もいるかもしれません。
上記の会話文に登場した人事担当者は、いろいろと考えたり調べたりした末に2案にまで絞り込み、「ここまでお膳立てしたのだから、あとは経営陣が2択で選んでくれればいい」と思っているのでしょう。
だからこそ、その場にいた役員が「C案もいいんじゃないか」と話しだすと、面食らうことになります。「A案かB案か」という二者択一を期待していたので、いきなり話が飛んだと感じているのです。
もちろん、単純に話がちゃんと伝わっていないのかもしれません。しかし、このチグハグは「人事と経営」という役割の違いから生まれている可能性を疑ったほうがいいでしょう。
■経営上の判断には決まった正解がない
まず、組織の経営者は、「A案かB案か」という考え方をしていません。あくまでも目を向けているのは、最終的に会社がどうなればいいのか、そのためにはどんな状態を達成できればいいのか(ゴール)、そのとき何を基準にしながら施策を絞り込めばいいか(論点)といったことです。
ですから、さきほどの会話での経営陣は、そもそも「A案かB案のどちらかを選ばねばならない」とは思っていません。しかるべき条件を満たしながら、目指すゴールにたどり着けるのであれば、ほかの施策(たとえばC案やD案)でもまったく問題ないとわかっているのです。
経営上の判断には、決まった正解がありません。参考になるような過去事例がいつもあるわけではないですし、その場その場で一回きりの決断をどんどん下していかねばなりません。
そういうときには、「目の前に提示されたアイデアからどれかを選ぶ」だけでは不十分なケースも多々あり得ます。むしろ、限られた判断材料の中で、まず「何を重視して意思決定するのか」を決める(=「決め方」を決める)ことをしなければならないのです。
経営における意思決定というのは、本来このようなものです。その事実を知っているかどうかで、起案者側のコミュニケーション戦略はかなり変わってきます。
■「決め方から決める」という姿勢
より高いレイヤーでの意思決定を日常的に行っている人ほど、「決め方から決める」姿勢が自然と身についています。
そういう人に対して、「A案とB案のどちらがいいか?」と聞いても、期待したような答えが返ってこないのは当然です。「そもそもその2択である理由」が腑に落ちない限り、判断のしようがないからです。
だからこそ彼らは、まったく別のアイデアを当然のようにぶつけてきます。起案者サイドからすれば、いきなり関係のない話が飛び出したように思えるかもしれませんが、意思決定者のロジックからすれば、これはごくごく当たり前の思考プロセスなのです。
それを踏まえると、さきほどの役員もC案を本気で推しているわけではないでしょう。彼は次のようなことを知りたいだけなのです。
・いま会社として何を目指しているのか?(経営的に実現したいこと)
・この施策によって、どんな状態を実現しようとしているのか?(ゴール)
・選択肢を絞り込むとき、どんな条件を踏まえるべきなのか?(論点)
・なぜ、数ある手段の中からA案とB案が候補になっているのか?
・それ以外の選択肢は、本当に存在しないのか?
■企画を「通す」ための第一歩
こうした問いに対する答えが、経営陣にとっての検討材料になります。
ですから、施策を提案する側が説明すべきなのは、個別の案のメリット・デメリットだけではありません。取り組みの背景にある「経営的に実現したいこと」や、それらを踏まえたゴール・論点を、経営陣に伝えなければならないのです。
この点を押さえず、いきなり施策の話に入ってしまうと、「そもそも論」からのちゃぶ台返しに遭うことになります。そのときに「ウチの経営陣は人の話に耳を傾けない……」と嘆いたり、「あの人たちは好き勝手なことばかり言う!」と批判したりしていても、状況は変わりません。
ミスコミュニケーションが起こったときには、まずこちら側のアプローチを見直し、経営陣が知りたがっていることを伝えられていたかを振り返ってみましょう。それこそが、経営陣ときちんと向き合い、いい人事施策を「通す」ための第一歩なのです。
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浜岡 範光(はまおか・のりあき)
組織人事コンサルタント/エグゼクティブコーチ
1983年、静岡県生まれ。青山学院大学卒業後、リクルートに入社。人事、営業、経営企画など、多様な職種・部門を経験。人事としては、年間1000名規模の採用業務を担当。のちに結婚情報誌『ゼクシィ』の営業担当として、個人・チームの双方でMVPを獲得。経営企画では、人材領域の事業における中長期経営計画の策定支援や、経営会議の事務局として約1000件の起案・議論設計に携わった。その後、面白法人カヤックにて新規事業の営業責任者となり、赤字事業の黒字転換を達成したほか、人事担当者としてもユニークな施策を通じて組織づくりに従事。再びリクルートグループ(リクルートマネジメントソリューションズ)に戻ってからは、組織人事コンサルタントとして活動し、国内大手企業からスタートアップまで数十社の人事戦略策定・実行を支援。さらに、グループ内の新規事業提案制度「Ring」にて、約1000件の応募の中からグランプリを受賞。ITベンチャー企業Zealsの人事責任者を経て、2023年に独立。現在は組織人事コンサルタントとして、企業の人事施策の立案・実行を支援するかたわら、社外人事として実務も担う。また、経営層を対象としたエグゼクティブコーチとしても活動し、年間200本以上のセッションを提供している。人事担当者・人事コンサルタント向けの2つの実践塾で講師を務めるほか、プロコーチコミュニティの運営責任者も歴任。大手とベンチャー、事業とコーポレートの両面に精通する強みを持ち、経営と現場をつなぐ専門家として活動を続けている。
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(組織人事コンサルタント/エグゼクティブコーチ 浜岡 範光)

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