健康維持に必要な食事量はどのくらいか。生活習慣病の専門医・青木厚さんは「日本では、『食べ放題の時代』を謳歌してきたこの40年間ぐらいで、糖尿病患者が何と50倍に増加した。
食べ過ぎると糖質過剰となり、ミトコンドリア内で糖質を処理する過程で、活性酸素が生じ、体の老化を早めるだけでなく、生活習慣病のリスクを高める」という――。
※本稿は、青木厚『「空腹」は最高の健康習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■人類の歴史は飢餓との戦いの歴史
人類がこの世に誕生してから700万年になります。それから今までの人類の歴史の意味は、常に飢餓との戦いだったと言っても過言ではありません。飢え死にしないためにどうしたらいいのかを考え続けてきたからこそ、人類は現在のように発展することができたのです。
人類はだんだんに知恵をつけていき、狩りや漁や採集生活で得たものを皆で分けて食べる生活から、皆で食べるために食べ物を貯蔵することを覚えて、その日暮らしから脱却するとともに、稲作などを始めてからは自ら食べ物を作り出せるようにまでなったのです。
稲作が広まった弥生時代は紀元前10世紀、今から3000年ぐらい前のことです。人類の歴史700万年のうち、少なくともその日に食べるものがあるという生活になったのは、わずかにここ3000年の出来事なのです。
それまでは、今日は何が食べられるのか、果たして食べられるのかどうか、少ししか食べられないのかたくさん食べられるのか、などは全くわかりませんでした。
ましてや、好きなものをたくさん食べるなどと贅沢なことが言えるようになったのは、昭和40年代(1960年代の後半)以降、ここ50~60年ぐらいの状況にすぎません。
このように、「空腹」であることを前提に進化してきたので、ヒトの体は、エネルギーを蓄えられるようになっているのです。
■人体は血糖値を上げる機能が優先
健康診断でよく問題にされる血糖値について考えると、そのことがよくわかります。
血糖値が高いときに、それを低下させる働きを持つホルモンは、人体が分泌するいくつもの中でインスリンのみ、たった1種類しかありません。
一方、血糖値を上昇させる働きを持つホルモンは、成長ホルモン、グルカゴン、コルチゾール、カテコラミンと、4種類もあるのです。
このことが示すのは、人体にとって血糖値を下げる働きをする機能よりも、上げる働きをする機能が優先になっている、人体が血糖値を上げる機能のほうをたくさん持っていたかったということだと思います。
人間はいつも飢えていて、基本的には血糖値が低いので、何とかして血糖値を上げたいという前提で生きてきたようです。
だから、より多くの機会を捉えようということで、血糖値を上げる複数のホルモンが、下垂体、膵臓、副腎から分泌される形で存在していると思われます。
反面、血糖値を下げる働きについては、もともと日常から血糖値が低いので、わざわざ下げる必要性があまりなかったのではないでしょうか。いつも飢えていましたから、血糖値は上がりようもなかったでしょう。だから1種類しか、ホルモンが備わっていないのです。
■人体は飢餓に対応できるようになっていた
血糖値を上げるもの、それはズバリ「食事」です。
人間にとって、毎日十分なエネルギーを得られる生活は、人類誕生以来の夢だったに違いありません。
狩りや漁といっても、獣も魚も大きなものなどそう簡単には獲れません。木の実も、全員がお腹いっぱいに食べられるほど採れなかったでしょう。

少ない食物で食いつなぐしかないので、いつも「空腹」です。栄養が足りないので、血糖値は常に低いのです。
少ない食物から少しでも多くエネルギーを吸収したいので、その機会や手段を増やすために、複数のホルモンを使いました。
そして、肝臓や筋肉にブドウ糖の塊であるグリコーゲンというエネルギーを、その他のエネルギー成分は脂肪として皮下に貯蓄して、それをもとに次のエネルギーを得るべく活動していたということなのです。
人体は飢餓に対応できるように構成されていました。
そして人類の歴史は、その飢餓の克服のための時間だったと言えるでしょう。私たちにとって「空腹」というのが、もともと「自然な状態」なのです。
■「満腹」の時代に人体は対応できるのか
飢餓、つまりは「空腹」の克服を求めて進歩してきた人間は、今やその願いを叶えました。
現代は「飽食の時代」です。食べたいものを、食べたいときに、食べたいだけ、食べられるようになりました。
そうすると反動として、やはり問題が起きてきました。
もともと「空腹」に備えて作られていた人間の体のシステムは、今度は「満腹」に対応しなければならなくなりました。

しかし、早速満腹に適応しましょうというわけにはいきません。数百万年かけて築かれたシステムは、そう簡単には変われないでしょう。
人間の体は現在、「満腹」に適応できるように、切り替わり始めたところなのかもしれませんね。
「満腹」の時代を生きる夢を叶えた結果、人間は食べ過ぎによって体調が悪くなりました。
肥満の人が増え、それによって膝や腰など体に痛みが生じ、内臓の酷使によって病気を抱えるようになりました。
■糖尿病患者552万人の背景に見えるもの
私の専門とする糖尿病は、その代表的なものと言っていいと思います。日本では、「食べ放題の時代」を謳歌してきたこの40年間ぐらいで、糖尿病患者が何と50倍に増加しました。
厚生労働省による2023(令和5)年の調査では、糖尿病で治療を受けている総患者数は552万3000人となっています。そのうち、生活習慣病ではない1型糖尿病の患者は12万2000人ですから、約2%にすぎません。40歳以上では4人に1人が糖尿病になっています。
糖尿病が原因で失明する人は年間4000人を数えます。糖尿病が原因で新たに透析を必要とする人は、年間8000人にもなってしまいました。

糖尿病は今、肥満とともに社会問題化していると言えるでしょう。糖尿病ではなくても食べ過ぎは、胃腸をはじめとした内臓全般を疲弊させ、機能を低下させます。そうなれば、体の免疫力が低下し、健康が脅かされます。
食べ過ぎると糖質過剰となり、ミトコンドリア内で糖質を処理する過程で、活性酸素が生じます。これは、体の老化を早めてしまいます。そして何よりも、脂肪の蓄積を増やし、肥満になり、生活習慣病のリスクを高めることになっています。
皮肉なことに私たちは、食べるものはたくさんあっても、自由気ままに食べていたら体を悪くするという環境を招いてしまったのです。

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青木 厚(あおき・あつし)

医学博士

あおき内科さいたま糖尿病クリニック院長。自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科などを経て、2015年、青木内科・リハビリテーション科(2019年に現名称に)を開設。糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病が専門。著書『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム)がある。

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(医学博士 青木 厚)
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