健康維持に断食を取り入れるにはどうするといいか。生活習慣病の専門医・青木厚さんは「私たちが自分の体を守り、健康を維持するシンプルで手軽な方法として多くの人に受け入れられているのが、私が実践する『16時間断食』だ。
この『断食生活』に入る近道は、誰もがある程度まとまった形で取っている睡眠時間を、『食べない時間』に取り入れることだ」という――。
※本稿は、青木厚『「空腹」は最高の健康習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■西洋医学界でも注目される断食の効果
私たちのまわりに生活習慣病が蔓延し、健康に対する不安が渦巻いているのは、「空腹」には適応できるが、「満腹」には脆弱な体を持つ人間の宿命と言えます。
そのような「満腹の時代」に溺れることなく、私たちは自分の体を守り、健康を維持しなくてはなりません。
そのためのシンプルで手軽な方法として多くの人に受け入れられているのが、私が実践する「16時間断食」です。
このメソッドは、
「ものを食べない時間(空腹の状態)を作って、体を健康にすること」
に、きわめて有効です。しかしその理由は、単に、胃腸の疲弊を抑えることだけではありません。
本稿では、この「16時間断食」の背景にある、少し専門的な知識についてお話ししていきたいと思います。
「カロリー摂取を控えることが、さまざまな病気を遠ざけ、長生きにつながる」。この今では当たり前に見える事実が、アメリカの医学会でも盛んに研究され、数多くの論文が発表されてきました。
それらには、空腹と健康を結びつけ、「断食」をすることが体重や体脂肪の減少につながり、ひいては望ましい栄養環境の構築や、健康を導くということもしばしば説かれています。
予防効果があるものとしては、
◎糖尿病

◎がん

◎心筋梗塞や狭心症など

◎アルツハイマー型認知症やパーキンソン病など
が挙げられており、今もそれぞれの専門家が研究を続けています。

「断食」という言葉を使うと、高僧になるための修行のようで、あまり身近に感じられないかもしれませんが、最近は「ファスティング」というちょっと洒落た言葉におきかえられて、若い人たちの間にも広まっています。
■健康のための断食は修行ではないので気楽に
たしかに「断食」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、実は私たちも普段から、けっこうそれと同じ状態は生活の中で経験しているのです。
たとえば、
◎仕事、家事、育児などが忙しすぎて、食事の時間が取れず、気がついたらほぼ1日何も食べていなかった。

◎ゲームや趣味にのめり込んで、食べるのを忘れていた。

◎休日にひたすら寝ていて1日が過ぎた。
これらのような経験は誰にもあるでしょう。私はこのような状態も「断食」とみなしています。
何もそんなに過酷なことをする必要はないのです。
「断食するぞ!」という勢いで始めるから、お腹がグウグウ鳴りだすと、まだかまだかとつらくなってしまうのです。健康のためにするのに、苦しかったりつらかったりでストレスをためたりすると、かえって具合が悪くなってしまうかもしれません。
健康な体のために大事なことは、
◎胃腸や肝臓を休ませてあげること

◎脂肪を燃焼させ、減らすこと

◎血液の状態を改善すること
ということなのですから、できるだけ無理のない形で空腹の時間を作ることができればそれでいいのです。
■睡眠時間の前後に食べない時間を組み込む
食べ過ぎが当たり前になっている現代人が、ある日を境に突然、真剣な「断食生活」に入ろうとするのは全く現実的ではないでしょう。

おそらく栄養不足になる前に、そのストレスから来る不安で心を先に壊してしまいます。
何事も自分が無理なくやれる「よい加減」を見つけましょう。仕事のために健康をおろそかにしてはいけませんし、健康のために仕事を一生懸命やらないというわけにもいきません。
私たちは、健康に生きており、なおかつ、順調に生きているときに、幸福を感じるのだと思います。
ですから、私が推奨する「16時間断食」を実践するときにも、第一に考えていただきたいのは「無理なく」ということです。
そのためには、誰もがある程度まとまった形で取っている睡眠時間を、「食べない時間」に取り入れることが近道です。
睡眠時間の前後に空腹の時間を組み込むと、かなり無理なくまとまった空腹の時間が作れます。

あなたの就寝・起床時間に合わせて、次に紹介するような形で考えてみてください。
最初は、それで数日やってみましょう。
何事も、こうでなければいけないということはないのです。自分に合うか合わないか試してみて、合うように調整すればいいのです。
総務省が行なった2021年の調査によると、10歳以上の日本人の平均睡眠時間は7時間54分です。

多くの人は、8時間前後の睡眠を取っているということでしょう。
睡眠中は空腹を感じることはありませんが、眠っている間も体内の細胞は活動していて、エネルギー消費や新陳代謝は行なわれています。ですから、睡眠時間を利用すれば、「空腹」だというストレスを感じずに、体を飢餓状態にできます。
「16時間断食」をするとして、そのうちの8時間ぐらいは睡眠時間ですから、あとは、睡眠時間の前後に、それぞれの事情に合わせて「起きていて食べない時間」を割り振ればいいのです。
■「たかが健康法」弾力的に楽しみながらやる
私たちの生活は、毎日同じタイムスケジュールになるとは限らないので、そこは柔軟に考えましょう。毎日必ず実行しなくてはいけないなどと考えないようにしましょう。
そういうかたくなな考え方こそ、新しく始める物事にとっては挫折のもとです。
「今日はダメだったけど、明日はやろう」というぐらいのノリで続けるようにしたらいいと思います。
忙しい日常に振り回されていると気がつきにくいものですが、病気の治療も考え方としては同じです。
入院していればしっかり管理されますので話は別ですが、自宅での療養の場合は、可能な範囲で気長にきちんとやるしかありません。
人それぞれに生活環境が異なりますから、モノサシで線を引くようにキチキチと自己管理せよというのは無理な話だと、医者の側もわかっています。
できない日は仕方がないから、できる日は何とか続けてくださいというのが、医者の本音でしょう。

続けていれば、だんだん習慣化してきますから、最初は面倒だったり、つらかったりしたことも、無理なくできるようになっていきます。
それとともに抱えていた病気の治療も軌道に乗っていくのです。
「16時間断食」は健康法です。病気の治療法ではありません。「たかが健康法」です。ですから必死にではなく、弾力的に楽しみながらやってください。

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青木 厚(あおき・あつし)

医学博士

あおき内科さいたま糖尿病クリニック院長。自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科などを経て、2015年、青木内科・リハビリテーション科(2019年に現名称に)を開設。糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病が専門。著書『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム)がある。

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(医学博士 青木 厚)
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