糖尿病が発症したら何に注意が必要か。医師の牧田善二さんは「血糖値が乱高下する『血糖値スパイク』を短期的現象と甘く見てはいけない。
そんな糖質の摂り方をしていれば脳も全身も糖化による劣化が進み、後戻りができなくなる」という――。
※本稿は、牧田善二『糖が脳を破壊する』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■糖尿病と同時に高まる認知症リスク
私の専門は糖尿病ですが、患者さんに関して重視しているのは、血糖値の管理よりむしろ全身の健康状態のチェックです。というのも、糖尿病があると、がんをはじめ、さまざまな生活習慣病の発症リスクが上がることがわかっているからです。
せっかく、一生懸命糖尿病を治療している患者さんに、ほかの病気で命を落としてほしくないのです。
なかでも、アルツハイマー型認知症には気を配っており、脳のMRIを受けるときには、VSRAD(ブイエスラッド)という診断支援ツールを用いてくれる医療機関を選ぶようアドバイスしています。それによって早期発見が可能だからです。
糖尿病には1型と2型がありますが、糖質を摂り過ぎるなど生活習慣によって引き起こされるのは2型糖尿病です。日本人の糖尿病患者の約95パーセントを、2型が占めています。
そして、2型糖尿病とアルツハイマー型認知症の発症メカニズムは、驚くほど似ているのです。そのため、専門家の間では、アルツハイマー型認知症を「糖尿病性認知症」「3型糖尿病」などとするべきだという動きも出ています。
さて、ここで大事なことを確認しておきましょう。

糖尿病とアルツハイマー型認知症は、発症メカニズムがほぼ同じです。だから、「糖尿病に罹る人はアルツハイマー型認知症にもなりやすい」と言えます。
しかし、「糖尿病に罹るとアルツハイマー型認知症になりやすい」という表現は正しくありません。糖尿病に罹ったことが、アルツハイマー型認知症の原因となるわけではないからです。
普段から糖質を摂り過ぎていれば、糖尿病とアルツハイマー型認知症のリスクが同時に高まるということです。
そのため、すでに糖質の摂り過ぎで糖尿病を発症しているなら、アルツハイマー型認知症にもより注意が必要であることは確かです。
■ラーメン3杯でも、どら焼き3個でも大丈夫
では、糖尿病とアルツハイマー型認知症は、どのようにつながっているのでしょうか。それを読み解くカギは「インスリン」にあります。
糖質を摂って血液中にブドウ糖が増えると、膵臓からホルモンの一種であるインスリンが分泌されます。そのインスリンは、血液中に余っているブドウ糖に働きかけ、グリコーゲンや中性脂肪に変えて、肝臓、筋肉、脂肪細胞などに貯蔵します。
こうしたインスリンの働きがあるおかげで、健康な人がたとえラーメンを3杯食べても、どら焼きを3個食べても、血糖値が上がり過ぎずにコントロールされます。
一方で、脳においては、インスリンは神経伝達物質として重要な働きをします。
さまざまな情報が脳内ネットワークをリレーするように伝えられていくときに、インスリンが伝達物質として働くのです。
脳はとても大事な臓器なので、おかしな血液成分が入り込まないように「血液脳関門」というバリアがあります。
そのため、インスリンの働きが悪くなる「インスリン抵抗性」が起きると、インスリンがここを通過しにくくなります。
ただし、脳でもインスリンはつくられます。これまで、インスリンは膵臓からのみ分泌されると考えられていましたが、脳の海馬でもつくられることが最近になってわかってきました。
健やかな脳を保てている人は、膵臓由来のインスリンも海馬由来のインスリンも使いこなしながら、脳内ネットワークを維持しているものと思われます。
■糖質の摂り過ぎでインスリンの働きが悪化
インスリンはとても重要なホルモンですが、たくさん出ればいいというわけではありません。インスリンが大量に分泌されて血中インスリン濃度が上がると、がん細胞を増殖させるなど、体にさまざまな悪影響を及ぼすことがわかっています。
また、不安感が増したり、集中力が低下したりといった、脳への悪影響も指摘されています。
つまり、少ない量で、しっかり働いてくれるのが理想。インスリンは、少数精鋭であることが大切なのです。
ところが、糖質を摂り過ぎると少数精鋭が崩壊していきます。

先にも述べたように、ラーメンを3杯食べても、どらやきを3杯食べてもインスリンがしっかり働いていれば血糖値が上がりすぎることはありません。でも、調子に乗って糖質を摂り過ぎていれば、やがてインスリンの働きが悪くなっていきます。
インスリンの働きが悪くなり「インスリン抵抗性」が起こると、大量を用意するしかありません。
しかし、働きの悪い兵士がたくさんいても役立たずなように、インスリンをたくさん分泌してもあまり効果が発揮できなくなります。
すると、ブドウ糖の処理がうまくいかなくなり、血糖値のコントロールが利かず糖尿病を発症します。
加えて、インスリン抵抗性が起きると、膵臓でつくられたインスリンが血液脳関門を通過しにくくなり、脳に届く量が減ります。それによって、脳内ネットワークの情報伝達が悪くなるのです。
さらに、インスリン抵抗性は脳でも起きます。それを「脳インスリン抵抗性」と言います。
膵臓からのインスリンも届きにくく、脳由来のインスリンも働きが悪くなる。この状態に陥ることが、「糖尿病に罹る人はアルツハイマー型認知症にもなりやすい」と言える根拠です。
なお、インスリン抵抗性が起きれば、脳内ネットワークの情報伝達が悪くなるのですから、たとえアルツハイマー型認知症に罹らないとしても、脳の機能維持面では大問題だということがわかるでしょう。

■分泌されたインスリンを処理する仕組み
先に述べたように、インスリンは重要な働きをするけれど、血中インスリン濃度が高いままだと健康に悪影響が出ます。
そこで、私たちの体には、分泌されたインスリンを処理する仕組みが備わっています。それが「IDE(インスリン分解酵素)」です。
余分なインスリンは、この酵素によって処理されていきます。この酵素、実は、アミロイドの分解も行っています。つまり、IDEは一人二役の働きを担っているのです。
アルツハイマー型認知症では、脳にアミロイドが過剰に溜まって老人斑をつくり、脳を萎縮させます。だから、アミロイドの分解も、インスリンの処理と同様に急がなくてはなりません。さあ、どうするか。
あなたが、なにか2つの仕事を同時に抱えたとき、どちらも重要であることはわかっていても、とにかくどちらかを先にやっつけないといけませんよね。IDEにとって、それはインスリンの処理なのです。
要するに、インスリンが多く分泌される状況にあれば、アミロイドの分解が後回しにされてしまうということ。

糖質を摂り過ぎてインスリン抵抗性を起こしてしまうと、働きの悪いインスリンがたくさん分泌されます。すると、IDEはインスリンの処理に大忙しとなり、結果的にアミロイドの分解処理に手が回らなくなります。
当然、脳にアミロイドが溜まりやすくなるわけです。
■血糖値スパイクを短期的現象と甘くみない
血糖値が「急上昇・急降下」する血糖値スパイクは、どちらかと言えば短期的な現象でした。血糖値スパイクによって起きる低血糖の症状は不快だし、集中力も思考力も低下させます。
それでも、短期的現象であるがゆえに「たいしたことない」と捉えてしまう人もいるでしょう。
しかし、血糖値スパイクが起きるような糖質の摂り方をしていれば、その結果、脳も全身も糖化による劣化が進み、後戻りができなくなります。
具体的には、AGEがどんどん生成され、体中のタンパク質を変性させます。血管も、内臓も、皮膚も、骨も、歯も……ボロボロに老化していきます。
脳にAGEが溜まれば、認知症に近づきます。
糖質の過剰摂取を続けて糖尿病に罹れば、さらに事態は深刻になります。
ひとつには、インスリン抵抗性が起きて、脳の情報伝達がうまくいかなくなります。
それはすなわち、思うように頭が働かないということです。
さらに、IDEがインスリンの分解に追われて、アミロイドの分解をこなせなくなり、アルツハイマー型認知症のリスクが高まります。
脳にとって、踏んだり蹴ったりの事態に陥ってしまいます。
大事なのは、とにかく糖質の過剰摂取から抜け出すことです。

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牧田 善二(まきた・ぜんじ)

AGE牧田クリニック院長

1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。
2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。
著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。

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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)
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