※本稿は、小林克『稼げる「ひとり社長」の当たり前』(現代書林)の一部を再編集したものです。
■あなたの名刺はなぜ印象に残らないのか
ビジネスにおいて名刺交換はもっとも基本的なマナーであり、第一印象を決定づける瞬間でもあります。
名刺には、氏名、会社名、役職、住所、電話番号、メールアドレスなどが記載されており、自分がどこの誰で、どのような立場にあるのかを明確に伝えるツールです。口頭で自己紹介するよりも正確で、視覚的に相手に情報を届けることができます。
この名刺交換の文化は、日本特有ともいわれますが、その背景には「相手を尊重する」という精神が根付いています。名刺を両手で差し出し、相手の名刺を大切に扱うことで、「あなたを敬意を持ってお迎えします」という非言語のメッセージを送っているのです。
名刺交換の回数が多くなるほど、「誰と、いつ、どこで交換したか」を忘れてしまうことはないですか。
私自身、これまでに1000人以上と名刺を交わしてきましたが、はっきりと印象に残っている名刺はほんの一握りです。
名刺は確かに「自分を伝える道具」ではありますが、礼儀正しく名刺交換をしただけで、相手の印象に残ることはありません。
■受け取り方がガラッと変わる「ひと工夫」
「自分が相手の役に立てる存在である」と伝えられない名刺は、名刺が持つ本来の可能性を活かし切れていないともいえるでしょう。
では、どうすれば印象に残る名刺になるのか。
答えは簡単です。「自分の情報を伝える名刺」から、「相手にメッセージを届ける名刺」に変えることです。そのために、私はひと工夫をしています。
それは、名刺の裏面に相手の業界や職種に合わせた一言メッセージを書くということです。
たとえば、中小の建設業界や土木業界の方と名刺交換をする機会がある場合、
「若手の現場定着に向けて、一緒に考えます」
というような、業界における課題に寄り添った短いメッセージを手書きで記載します。
この一文があるだけで、相手の関心を引き、「自分の話を理解してくれる人」「課題解決のパートナーになりえる人」という印象を残すことができるのです。
名刺交換のときに、そっと「裏面もぜひご覧ください」と一言添えるだけで、受け取り方がまったく変わります。
■単なる紙片を「強力な武器」へ
独立したばかりのひとり社長は、つい「名刺はとにかく数を配るもの」と考えがちです。もちろん出会いの数を増やすことも大切ですが、数ばかりにこだわると、「誰にも届かない名刺」になってしまう可能性があります。
名刺は「渡した数」ではなく、「相手の記憶に残るかどうか」が重要です。
「名刺を渡す」こと自体が目的になってしまうと、名刺はただの紙きれです。
相手の業界や関心に寄り添ったキーメッセージを添える工夫をするだけで、「名刺が話し出す」ようになります。
ちょっとした数秒の手間で、名刺は単なる紙片から「強力な武器」へと変わります。
ビジネスの場における第一印象は、ときにその後の関係性を左右するほど重要です。
名刺交換という数秒の出来事の中で、どれだけ相手の記憶に残れるか。それは、ビジネスチャンスを生むかどうかの分かれ目でもあります。
名刺交換を、単なる自己紹介で終わらせるのではなく、相手の心に種をまく行為として活用してみてください。
ちょっとした工夫が、大きな信頼や次の仕事につながる可能性を秘めています。
■「話し上手な人」の共通点
「話し上手は聞き上手」とよくいわれます。
これは、相手の話をよく聞き、理解し、共感し、そのうえで自分の言葉を届けられる人こそが、本当の意味での「話し上手」である、という意味です。
話し上手な人の共通点は、「聞く姿勢」が徹底していることです。
・相手の話を途中で遮らず、最後まで丁寧に聞く
・言葉の奥にある気持ちを汲み取る
・相槌や表情で共感を表現する
こうした基本動作を重ねることで、相手は「この人には本音を話しても大丈夫だ」と感じ、深い信頼関係を築くきっかけとなります。
古代ギリシャの哲学者は、こう語りました。
「私たちには口は1つしかないが、耳は2つある。それは、話すよりも2倍多く聞くためである」
「聞く」ことの重要性は、時代や文化を超えて強調されてきた普遍的な知恵なのです。
とはいえ、多くの人にとって「聞く」という行為は簡単ではありません。
一説によると、言語にもよりますが、人が「聞くこと」が苦手な原因は、脳の処理能力の高さにあるとされています。
■「聞くこと」が意外と難しいワケ
人が話すスピードは、およそ1分間に120から160語。しかし、脳は1分間に400~600語を処理できるといわれています。
つまり、「話を聞いている間に脳の処理能力が余ってしまう」のです。その「余白」で、ついつい以下のようなことを考えてしまいます。
・自分の考えごとに意識が向く
・相手の話の途中で勝手に結論を予想してしまう
・次の予定やスマホの通知など、別のことに気をとられる
このように、「聞いているフリ」をしていても、実は意識が別のところに飛んでしまいやすいのが人間の性です。
ですから、聞くことには意識的な努力と工夫が必要なのです。
コンサルタントになったばかりの頃、私はあるコミュニケーションスクールで、自分の商談(折衝)の様子を録画した映像を見ました。売り込み役として参加し、相手が社長役となってやりとりをするロールプレイでした。
初めは「聞く姿勢」ができていました。表情や相槌に気を配り、相手の話を引き出すことを意識していました。
■信頼構築が「壊れる瞬間」とは
しかし映像の後半では、様子が一変します。次第にアイコンタクトが減り、手元の資料をめくりながら「何を伝えようか」と自分の話に意識が向き始めていました。
気づかぬうちに、聞く姿勢が崩れ、話すことに偏っていく……。
その様子は、見ていて愕然とするものでした。結果、社長役の方から「後半はやや押しつけがましく感じた」と率直なフィードバックがありました。
この体験は、聞くことの重要性と、それがいかに簡単に失われるかを身をもって学ぶ機会となりました。
独立したばかりのひとり社長にとって、最初の悩みは「どうやって仕事を取るか」ではないでしょうか。
自分の商品やサービスを理解してもらいたい――。その気持ちが強くなると、つい口数が多くなり、「伝えること」を優先してしまいます。
怖いのは、「聞くことの大切さ」を知っていたはずなのに、気づかぬうちに「自分中心の話し手」になってしまうことです。
その瞬間、相手との信頼構築は壊れます。逆に距離を感じさせてしまうのです。
■第一印象を左右する「シンプルな行動指針」
私はそれを自らの失敗から学びました。だからこそ、現在では面談や商談の際に、次の「シンプルなルール」を設けています。
私が意識しているのは、次のシンプルな行動指針です。
「1つ発し、2つ聴き、3つ頷く」
このリズムを心がけるだけで、自然と相手に話す余白を与え、会話の主導権を「相手」に移すことができます。
それによって、相手は話しやすくなり、本音や悩み、ニーズを話してくれるようになるのです。これは、技術でも理論でもありません。人と人が向き合うときの、基本中の基本です。
大手企業と異なり、ひとり社長のビジネスでは「自分自身」が商品です。
どんなに優れた商品やサービスがあっても、「この人となら仕事をしたい」と思ってもらえなければ、選ばれることはありません。
だからこそ、最初の面談の機会は非常に貴重です。
そしてその第一印象を左右するのは、「話し方ではなく、聴き方」なのです。
面談の場では、何か1つでも「自分なりの決めごと」を持って臨むことをおすすめします。「最初の5分間は質問しかしない」「相手の言葉を繰り返す」など、ルールは何でも構いません。
そうした意識が、「売り込み」から「信頼づくり」へと、対話の質を変えていきます。
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小林 克(こばやし・すぐる)
日本工業大学大学院技術経営研究科 准教授
1980年新潟県生まれ。2004年青山学院大学卒業後、金融機関に就職。その後、メーカーへの転職を経て、2016年法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科修了(MBA)。中小企業診断士の資格を取得。2018年に独立し、これまでの経営支援実績は1000件超。現在は日本工業大学大学院准教授として社会人向け中小企業診断コースの責任者を務め、実践的な経営コンサルタントの育成にあたっている。
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(日本工業大学大学院技術経営研究科 准教授 小林 克)

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