■東日本は大阪が苦手、西日本は東京が苦手
あなたには「苦手な都道府県」があるだろうか。旅行や出張した先、親戚・友人・知人の出生地や出身地……。
さまざまな経験や人間関係の中であまりよく印象が残る都道府県とは何か。
以前、Jタウンネットが調べたwebアンケートの結果がネット上で何回か話題となったことがある。今回は、このデータを手始めに、このデータの加工から見えてくるもの、また以前に行われた「親しみを感じる都道府県」のデータを分析し、都道府県どうしの間で抱かれている感情の姿を垣間見てみよう。
まず、話題となった「苦手な都道府県」データを図表1に掲げた。
これを見ると、東日本では大阪を苦手と考える人が多く、西日本では東京を苦手と考える人が多いという日本人の地域的な感情構造が明確である。
西日本と東日本をむしろ東京が苦手か、大阪が苦手かという感情で区分したほうが適切と言えるかもしれない。すると西と東の境界は、富山、岐阜、愛知と新潟、長野、静岡の間に引かれることとなる。
また、「例外的な地域の感情」構造も明らかとなっている。
第一に、遠く離れた東京や大阪が苦手というのと異なり、広島の周辺県では広島が苦手という人が多くなっている。これは広島が抱いている中国四国地方で自分が一番という優越感への反感が理由と言われる。
第二に、山形は東北であるが、東京が苦手ということから、むしろ、感情的には西日本であるともいえる。これは北前船(江戸中期から明治中期まで、大阪から瀬戸内・日本海を経て北海道まで、港々で積荷を売買しながら航行した交易船)の影響で古くから上方文化の影響が大きかったからであろう。

第三に、福島は山口が苦手という個別事例が目立っている。これは、やはり、戊辰戦争(1868年)で攻める長州藩に対し会津藩が屈辱を味わった影響だろう。
第四に千葉県民が京都に対して苦手意識をもっているという点であるが、これはこれといった明確な理由が不明である。強いて理解しようとすると、全国的に京都は「いけず」といわれる「意地悪」で「裏表がある」イメージから、東京、大阪に次いで苦手地域として挙げられることが多く、千葉県民の海洋的、開放的な性格と相いれない側面が大きいからと考えられる。
■では「人口10万人当たりの苦手票数」1位は?
ここまでは、各都道府県民がもっとも苦手とするのはどの都道府県かという調査結果だったが、次に、同じ調査で「全体として」どの都道府県が苦手意識を抱かれているかについての集計結果を見てみよう(図表2)。
もっとも苦手都道府県としての票を全国から集めたのは東京の802票(21.4%)であり、これに大阪の646票(17.2%)、京都の439票(11.7%)が次いでいた。
一方、票数がもっとも少なかったのは鳥取の6票であり、宮崎、奈良の9票がこれに次いでいた。票数が少ない県は苦手と思われる割合が小さいというよりは、存在感が希薄で苦手とも意識されないだけと考えられる。
ひるがえって苦手と意識される票数が多い都道府県も単に存在感が大きいからだけとも考えられる。
■苦手1位は京都…2位沖縄をかなり上回る
図では、そうした存在感の大小をキャンセルアウトした苦手都道府県ランキングとして「人口10万人当たりの苦手票数」の指標を点グラフで表した。
こちらの指標で判断すると苦手とする意識が全国的に最も大きい都道府県は京都だということが明らかになった。そして、沖縄、大阪が第2位、第3位で続いた。
京都を苦手とする程度は2位の沖縄をかなり上回っている点に京都の特異性が見て取れる。
京都は全国の中でも例外的に苦手意識の対象となっている点でやはり目立っている。洛中の京都人が、周辺部の宇治など京都市以外の府下や同じ京都市でも嵯峨や山科など洛外の人びとから苦手とされていることなどを題材にした『京都ぎらい』という書籍があるぐらいである(著者は嵯峨出身の井上章一、朝日新書、2017年)。
脳科学者の中野信子さんも、『エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術』(日経BP)の中で、こう語っている。
(京都の人は)家の中でふすまやドアを開けっ放しにしていると、「誰か来るの?」と言われる、というのはもう定番の形だそうです。この場合「誰かこのあとから来はるの?」と聞かれたって、「あとから来はる人」なんかいるわけがない。それをどちらも承知しているわけです。真意は「開けっ放しはやめようね」という意味だということを、お互いに分かっている。ほかには、「これは風水か何かですか?」というバリエーションもあるそうです
また、京都の人が語る「おもしろいこと言わはる」は「理解できない」という意味であり、これはコミュニケーションで角を立てないための知恵として直接的な言い回しを避け、自分の気持ちを遠回しに伝える伝統だろう、とも。
一方、票数そのものでは1位だった東京は人口比では4位と大阪を下回っている。東京は存在感が大きい分、苦手とする人数が多いだけで、地域として特段に苦手意識の対象となっているわけではないことが分かる。
人口比で見ると、東日本の中ではやはり東京がもっとも苦手意識を招いているが、西日本の京都、大阪、沖縄は東京以上に苦手意識の対象となっている。

地方ブロックで周辺から意外と苦手と見なされているのは上述の通り、広島が目立っているが、人口比の苦手程度からみると、東北では秋田、関東では東京以外で茨城、九州では福岡でなく佐賀、北陸では石川もけっこう苦手とされているようだ。
逆に苦手ととらえられる程度が最も低いのは、この指標では静岡であり、兵庫、奈良がこれに次いでいる。こうした県の嫌われにくい温和な地域性がうかがわれる。
■「親しみ意識」はややローカル
これまで「苦手の都道府県」について見て来たが、「親しみを感じる都道府県」のほうが先ではなかろうかというふうに感じた読者もいるかもしれない。キライを見るなら、スキも見なきゃということだ。果たして、この2つは正反対なのか、それとも同じなのか?
実は、調査年次が1996年と古いが、「親しみを感じる都道府県はどこか」という点を調べた調査がNHKの全国県民意識調査の中で行われたので、そのデータを見てみよう。
まず、苦手意識と同様に、まず、どの県に一番親しみを感じるのか(自県以外で)という点を都道府県地図に落としたマップを見てみよう(図表3)。
苦手意識マップと異なり、対象先が多いので元と対象の都道府県は矢印で表した。
苦手意識と同様に、東京と大阪が、親しみを感じる都道府県として中心をなしている。しかし、苦手と異なり、東北の諸県では、東京というより仙台のある宮城にもっとも親しみを感じ、九州の諸県では、大阪というより福岡にもっとも親しみを感じているケースが多くなっている。
また、苦手意識と異なり、親しみ意識のほうは、宮崎と鹿児島のように隣接県どうしで親しみを感じている場合も多い。
つまり、苦手意識は全国的であるが、親しみ意識はややローカルなのである。
もっとも、広島に関しては、周辺県で広島を苦手としている場合が多いのと同様に広島に親しみを感じている場合も多い。
この他、富山が金沢を抱える石川に最も親しみを感じ、石川はむしろ京都に親しみを最も多く感じている点、鳥取が島根に最も親しみを感じ、島根は広島に最も親しみを感じている点、あるいは青森、秋田は北海道に最も親しみを感じ、北海道は東京に最も親しみを感じている点などは、やや片思い的な状況ともいえる。
■苦手も親しみやすさも「京都」が一番
ここまでは、各都道府県民が一番親しみを感じるのはどの都道府県かという調査結果だったが、次に、苦手意識と同様に、同じ調査で全体としてどの都道府県に「親しみ意識」が抱かれているかについての集計結果を見てみよう(図表4参照)。
もっとも親しみを感じる都道府県として比率が高いのは東京の9.2%であり、これに大阪の5.9%、京都の5.1%が次いでいた。一方、比率がもっとも少なかったのは鳥取の0.3%であり、福井、徳島の0.4%がこれに次いでいた。比率が少ない県は親しいと思われる割合が小さいというよりは、存在感が希薄で親しいとも意識されないだけと考えられる。
ひるがえって親しいと意識される都道府県も単に存在感が大きいからだけとも考えられる。
図では、そうした存在感の大小をキャンセルアウトした「親しみ程度ランキング」として人口10万人当たりの親しさ比率の指標を点グラフで表した。
こちらの指標で判断すると京都を親しいと感じる程度が全国的に最も大きく、長野、宮崎が第2位、第3位で続いていることが明らかになる。
前述した調査での京都を苦手とする程度は2位の長野をかなり上回っている点に京都の特異性が見て取れる。
苦手意識でも京都は特段高い程度を示している。親しみ意識と苦手意識は裏腹の関係にあると言ってよかろう。
好きな相手ほど嫌いということもあるのだ。ともかく京都は日本人の感情構造の中で特別の地位を占めていることだけは確かである。江戸時代まで朝廷が置かれ、長きにわたり、政治の拠点、文化の発信地だった京都はいまでもそれだけ影響力のある地域なのである。
■好まれるだけの長野、人気のない埼玉
なお、苦手な都道府県では目立たなかった長野が親しみを感じる都道府県としてはその程度として京都に次ぐ第2位の高さとなっている点が注目される。嫌われることなくもっぱら好まれるだけの地域もあるということを意味しており、ほほえましく感じられる。
逆に親しみ程度が最も低いのは、この指標では埼玉であり、千葉、愛知がこれに次いでいる。こうした県の人気のなさがうかがわれる。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)

統計探偵/統計データ分析家

東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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