高齢者の健康維持に適正な体重は何か。医師の和田秀樹さんは「宮城県で40~79歳の約5万人を12年間追跡調査すると、BMI25~30のいわゆる『小太り』の人の死亡率が最も低く、最も死亡率が高かったのはBMI18.5未満のやせの人だった。
具体的な数値で見ると、やせ型の人は小太りな人に比べて平均6~8年も早く亡くなる」という――。
※本稿は、和田秀樹『65歳からは戦略的ちょいデブ』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■高齢期における最大の敵は体重と免疫力の低下
これまでご自身の健康のために食事を節制し、体重が増えないようにと気を使ってこられたという方も多いでしょう。
健康診断のたびに「メタボ予備軍」という判定に冷や冷やし、腹囲を気にしてビールを控えたり、脂っこい食事をがまんしたり……。
その努力は、素晴らしいものです。40代、50代の働き盛りの時期において、その節制はある程度あなたの体を守ってきたかもしれません。
しかし65歳をすぎた方に、私は医師として新しい提案をしたいと思います。「もう、がまんしなくていいですよ」と。それどころか、「これからは、意識して『太め』を目指してください」と申し上げたいのです。
人間の体というものは、60代、70代と年齢を重ねるにつれて、戦うべき敵が変わります。若いころの敵は肥満や生活習慣病でしたが、高齢期における最大の敵は、栄養不足による体重と免疫力の低下なのです。
■「ちょいデブが長生き」を示す数々のデータ
世界的にもよく用いられている肥満度を表す体格指数に、BMI(ボディマス指数)があります。
体重と身長から算出されるもので、計算式は下記の通りです。
日本肥満学会はBMI22を適正体重としており、統計的に最も病気になりにくい(総死亡率が最も低い)体重と定めています。25以上は「肥満」、18.5未満は「低体重(やせ)」です。
ところが、中高年を対象に含めた調査の場合、「BMI22で総死亡率が最低になった」という研究結果は、日本にも欧米にもありません。
それどころか、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)がさまざまな人種の約288万人を対象に、BMIが「18.5~25未満の標準体重グループ」と「25~30未満の過体重グループ」を比較調査した結果、過体重グループのほうが死亡リスクが6%低いことがわかりました。
九州大学第二内科でも、福岡県久山町で40歳以上の住人2000人を13年間調査しましたが、BMI23~25の「ちょっと太め」の人々の総死亡率が最低という結果でした。
■平均6~8年も早く亡くなる
また、宮城県で40~79歳の約5万人を12年間追跡調査すると、BMI25~30のいわゆる「小太り」の人の死亡率が最も低いというデータが出ました。次に低いのはBMI30以上の肥満の人、最も死亡率が高かったのはBMI18.5未満のやせの人だったのです。
つまり日本ではやせている人より、少しお腹が出ているくらいの人のほうが、統計的に見ても長生きしているのです。
具体的な数値で見ると、やせ型の人は小太りな人に比べて平均6~8年も早く亡くなっていました。また、老年医学の権威である桜美林大学名誉教授の柴田博先生も紹介されていますが、アメリカの国民健康栄養調査(25年間の追跡調査)でも同様の結果が出ています。
最も死亡率が低かったのはBMI25~29.9(日本基準では肥満)の人たちで、逆にBMI18.5未満のやせ型の人は、その2.5倍も死亡率が高かったのです。

これまで信じられてきた「やせている=健康」という常識は、仮に正しかったとしても40歳までの話。それ以降はルールが変わります。ちょいデブでいることこそが、病気を寄せつけず、若々しく生きるため秘訣なのです。
■なぜ日本では「やせ=健康信仰」が根強いのか
こうしたデータがあるにもかかわらず、なぜ日本人はここまで「やせなければならない」「メタボは悪だ」と信じ込まされているのでしょうか。
テレビをつければ「脂肪を減らす」効果があるとするサプリメントのコマーシャルが流れ、健康診断では厳しい基準値を突きつけられます。
実は、この「脂肪=悪」という図式のそもそもの発端は、1980年代初頭のアメリカにあります。当時、肥満とコレステロールが心筋梗塞の主犯であるとして、国家レベルでの追放運動が始まりました。
現在もアメリカの肥満問題は深刻で、成人の4割以上(約40.3%)がBMI30以上の「肥満」に該当し、OECD諸国で肥満率ナンバーワンです(2021年8月~2023年8月のデータ)。
死因のトップが心臓病(特に心筋梗塞)であり、肥満が動脈硬化を招き、命とりになるケースが非常に多いのです。だからこそ、国を挙げて肥満対策にとり組む必要があります。肥満人口が極めて多いアメリカでその戦略は合理的です。
■日本人の死因トップ「がん」に対抗する
しかし、私たち日本人はどうでしょうか。
日本人の死因のトップは当時からがんで、50年近く続いています。そして、心筋梗塞で亡くなる人はアメリカに比べて格段に少ないというのが現状です。
日本の医療界がこのアメリカの健康常識をそのまま輸入し、そこに美学的なやせ文化が結びついたことで、現在の「やせ信仰」が完成したというわけです。
しかし、冷静にデータを比較してみると、この輸入された常識が日本人の体質や疾病構造に合致していないことが明らかになります。
がんに対抗するために最も必要なものは免疫力。そして、その免疫力を維持する材料となるのが、これまで悪者扱いされてきたコレステロール(脂質)やたんぱく質なのです。
先進国の中で唯一、日本だけでがん患者の死亡数が増え続けているという事態の背景には、過剰栄養よりむしろ低栄養があるのではないかと推測されます。
アメリカの常識を鵜呑みにしてやせたり低栄養になったりすると、日本人の死因トップである「がん」に対して無防備になってしまいかねません。
■脂肪や筋肉は病気と戦う備蓄エネルギー
さらに、医学の世界には「肥満パラドックス」と呼ばれる事実が存在します。これは、一般的に「太っていると悪化する」と思われている病気でも、実際には太っている人のほうが予後がいいという現象です。
たとえば、足の動脈が硬化して狭くなるASO(閉塞性動脈硬化症)という病気があります。かつては血管への負担を減らすためにやせるよう指導されていました。
ところが、10年後の生存率を追跡調査したところ、驚くべき結果が出たのです。
●BMI25以上のちょいデブ層→10年生存率約5割

●やせ型層→10年生存率2割未満
心臓に負担がかかるとされる心不全においても同様です。太っている人のほうが心不全が起こることを回避でき、最もリスクが高かったのはやせ型の人でした。高齢期において、脂肪や筋肉は病気と戦うための備蓄エネルギーであり、生命をつなぎ止めるための重要な防波堤なのです。
日本の医療現場では、高齢者医療の実態をあまり知らない学者や官僚が決めた基準に従って、欧米並みの厳しいメタボ対策が高齢者にも適用されています。
「健康のために」と真面目に食事を減らし、やせてしまった結果、免疫力が落ちてがんになりやすくなったり、体力が落ちて寝たきりになったりしては、まさに本末転倒です。
国の基準や医者の言葉を鵜呑みにして、自分の首を絞める必要はありません。日本人の体質、そしてあなたの年齢に合った「戦略」を選びとってください。
■長寿県・沖縄が短命化した本当の理由
「健康のために粗食にしなさい」「太るのは悪」。
こうした指導がいかに危険かを示す事例があります。かつて長寿日本一を誇った沖縄県の平均寿命のデータです。
1980年代まで、沖縄は男女ともに平均寿命が全国トップクラスでした。
当時の沖縄の食文化は調理にラード(脂)を使い、豚肉をよく食べ、全国平均より脂肪摂取量が多いのが特徴でした。
ところが、ある時期から「欧米化した食生活は健康によくない」「脂肪を減らして野菜と大豆を食べよう」という健康指導が徹底されました。真面目な県民はそれに従い、脂肪摂取量を減らしていきました。
その結果、どうなったと思いますか? 2000年には男性の平均寿命が全国26位に急落。2020年にはなんと43位(厚生労働省「都道府県別生命表」)にまで転がり落ちてしまったのです(いわゆる「26ショック」)。
「肉と脂」を減らした結果、長寿県の座を失ってしまったという事実は、今の日本のメタボ対策がシニアの方にはいかに的はずれかを雄弁に物語っています。国や学者のいう健康的な食事が、必ずしも長生きを保証するわけではないのです。
■真面目なAさんと、不真面目なBさんの分かれ道
ここで、私が実際に見てきた患者さんの例をご紹介しましょう。
Aさん(72歳男性)は、現役時代から非常に真面目な方でした。定年後も会社の健康診断の数値を気にして、医師にいわれた通り「塩分控えめ、脂質控えめ」の粗食を徹底していました。
大好きだったトンカツも年に一度とがまんし、奥様の手料理も野菜中心。その甲斐あって体重は20代のころと同じというスリムな体型を維持していました。

しかし、70代に入ってから、Aさんは急に風邪をひきやすくなりました。一度風邪をひくと長引き、肺炎になりかけて入院。退院後も食欲が戻らず、みるみるやせてしまい、今では「外に出るのが怖い」と家に引きこもりがちになりました。典型的なフレイル(虚弱)のスパイラルに陥ってしまったのです。
一方、Bさん(72歳男性)は、いわゆるちょいワルな雰囲気を持つ、少しお腹の出ている方です。健康診断で「中性脂肪が高い」「やせなさい」といわれても、「はいはい」と聞き流し、週に数回は友人と焼肉や居酒屋に行き、好物の肉料理を平らげています。
医師から見れば不真面目な患者かもしれませんが、Bさんは肌もツヤツヤで、声にも張りがあります。風邪などほとんどひきませんし、毎日あちこちに出かけて人生を謳歌しています。
AさんとBさん、どちらが幸せな70代といえるでしょうか? 医学的に見ても、Bさんのように「栄養(たんぱく質と脂質)」が満ちている体のほうが、免疫力が高く、病気を跳ね返す力があるのです。
真面目さが裏目に出るのが、高齢期の健康管理の落とし穴です。Bさんのように「少し不真面目なくらいがちょうどいい」というのが、私の実感から導き出される結論なのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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