65歳の適正体重はいくつか。医師の和田秀樹さんは「高齢者にとって食欲は意欲そのものなので、無理をしてでも食べたほうがいい。
もしあなたが170センチで70キロ台後半だとしたら、あわててダイエットする必要はない」という――。
※本稿は、和田秀樹『65歳からは戦略的ちょいデブ』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■「最近食が細くなった……」を放置したらダメ
「昔はカルビをお腹いっぱい食べられたのに、最近は脂っこいものを受けつけなくなった」「食事の量が減って、あっさりしたそばやうどんばかり食べている」。
そんな変化を、「年をとったのだから当然だ」と受け入れてしまってはいけません。食が細くなることを放置するのは、自ら老いを受け入れ、心身の活力を手放すことと同じだからです。
加齢とともに消化機能が落ちたり、飲み込む力(嚥下機能)が弱くなったりするのは事実です。だからこそ、これからは意識して食べることが必要になります。
お腹が空かないからといって食事を抜いたり、消化のいいものばかり食べたりしていては、体は省エネモードになり、どんどん筋肉が落ちていきます。食が細くなったと感じたら、それは「もっとおいしいものを探しなさい」という体からのサインだと考えてください。
近所で評判の店に行ってみる、昔好きだったうなぎ屋を訪ねてみる、スーパーで一番いい肉を買ってみる。そうやって脳と胃袋を刺激し、「食べたい」という欲求を呼び覚ますのです。
食べる努力ができる人は、間違いなく長生きできます。
食欲を維持することは、この年代における立派な才能であり、達成すべき目標なのです。
■なぜ私は週5でラーメンを食べるのか
私は現在60代後半ですが、実は週に4~5回はラーメンを食べています。医者でありながら、しかも糖尿病の診断を受けていながら(血糖値600超えの時期もありました)ラーメンを食べ続けていると聞くと、驚かれるかもしれません。
でも、これには私なりの戦略があるのです。まず、最近のラーメンはスープに鶏ガラや豚骨、魚介、野菜など何十種類もの食材が溶け込んでおり、実は多様な食材のエキスを摂取できる完全食に近い側面があります。そして何より重要なのは、新しい店を開拓することによる脳への刺激です。
私がラーメン屋を選ぶとき、週に何度かはこれまで行ったことがない店を開拓するようにしています。
「あそこの店は行列ができているな、並んでみよう」

「あっちの路地裏の店はのれんがいい感じだな」
というように。
そうやって街を歩き、新しい味に出会うという行為は、脳の前頭葉(意欲や判断を司る部分)を強烈に刺激します。
「ラーメンが好きだから食べる」。単純なようですが、この好きという感情が、私を突き動かすエネルギー源なのです。もちろん、店を出たあとは30分以上しっかり歩いて、血糖値をコントロールしています。

好きなものをがまんしてストレスを溜めるより、好きなものを食べて、その分動く。このほうが、間違いなく心身ともに若々しくいられる。このことは、私の体が実証しています。
■戦略的ちょいデブのベスト体重
「ちょいデブがいいとはいうけど、具体的に何キロくらいがベストなの?」
その疑問に答えるために、一つの目安となる数字を出しておきます。
日本人男性の平均的な身長に近い170センチの人を例にとります。統計データ上、最も死亡率が低く、長生きできる体重は「78キロ」です。
BMIでいうと約27。いかがでしょうか。78キロというと、今の日本の一般的な美的感覚やメタボ基準から見れば、太っていると判定される数値です。お腹もそれなりに出ているでしょう。
しかし、見た目がどうであれ、生存率という冷徹なデータが正解を示しているのですから、もしあなたが170センチで70キロ台後半だとしたら、あわててダイエットする必要はありません。
目指す範囲としては、BMI25~30。
たとえば、身長170センチの方なら体重72キロでBMIは約25、85キロでBMIは約29.4です。
このゾーンをキープするためのコツは、自分のベスト体重を自分で決めてしまうことです。もし「自分は75キロのときが一番調子がいい」と感じるなら、それをあなたの標準体重として設定してください。
世間の基準値ではなく、自分の体感を信じるのです。
その体重を下回りそうになったら、意識してこってりした食事を投入。体重が上回りすぎたり、体が重いと感じたりしたら、少し散歩の距離を伸ばします。
医師や世間の常識に振り回されず、自分の体を自分でマネジメントする。これこそが、65歳からの戦略的ちょいデブの生き方なのです。
■体重3ケタは警戒ライン
とはいえ、戦略的ちょいデブにも、ここを超えないようにしようという撤退ラインが存在します。その基準は「BMI35」。身長170センチの人なら体重101キロを超えたあたりです。
この身長で100キロの大台を超えてくると、膝や腰への物理的な負担が大きくなり、歩行困難になるリスクが出てきます。
心臓への負担も無視できません。
そこまでいかない80キロや90キロ程度であれば、シニアにおいては「やせているリスク」より、「太っているメリット」が上回ることが多いのです。
100キロ(BMI35)を超えなければ誤差の範囲、というくらいのおおらかな気持ちで体重管理を考えてください。
■食欲の低下はすべての意欲の低下につながる
私が「無理をしてでも食べなさい」としつこくいうのには、もう一つ理由があります。それは、食欲が意欲そのものだからです。
人間の脳の中で、意欲や創造性を司る前頭葉は、加齢とともに真っ先に萎縮します。前頭葉が衰えると感情が平坦になり、「あれをしたい」「これが欲しい」という意欲がわかなくなります。
「面倒くさい」が口癖になり、出不精になり、人づき合いもおっくうになる。こうして人は老人になっていくのです。
しかし、おいしいものを食べて「うまい!」と感動したり、「次はあそこの店に行きたい」と計画を立てたりすることは、前頭葉を強く刺激します。
また、肉などの動物性たんぱく質に含まれるコレステロールは、男性ホルモン(テストステロン)の原料になります。テストステロンは、社会的な闘争心や冒険心、性欲の源です。

つまり、肉をガツガツ食べることは、枯れないためのエネルギー補給なのです。
同世代を見渡してみてください。第一線で活躍している経営者や政治家、現役感のあるシニアは、みんな例外なくよく食べ、そして少し太っているはず。彼らは、食欲を失うことが現役引退への入り口であることを知っているのです。
だからあなたも、食欲があるうちは大丈夫。「まだ現役だ」と胸を張って、食べたいものを平らげてください。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。
川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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