なんか面倒くさいことになってきている社会保障国民会議、通称「国民会議」ですが、野党からだけでなく高市早苗さんを支えるはずの与党・自由民主党からも「これって何の意味があるの?」という話になってきております。
「普通に国会で議論すればいいんでは?」と素朴な疑問を投げかけられてしまう本件で、いったい何が起きているんでしょうか。
2月26日、首相官邸で「社会保障国民会議」の初会合が開かれました。集まること自体はいいことです。これは、高市早苗首相が衆院選の目玉公約として掲げた「飲食料品の消費税2年間ゼロ」と、その後に導入する「給付付き税額控除」の制度設計を議論する場として、鳴り物入りで立ち上げられた会議体です。
ところが、初会合は15分で終了。いや、本来であればそれなりに段取りや道筋をある程度固めてから各党に呼び掛けるべき会議だと思うんですが、実際に野党で参加したのはチームみらいの安野貴博さんだけ。というか、安野さん何しに来たんでしょう……。
この会議の初会合にあたっては、中道改革連合の小川淳也さんは「具体的な成果につながりそうだという確信に至らなかった」と不参加の理由を説明し、国民民主党の古川元久さんも「参加を決めるに足る環境が整っていない」と見送りました。参政党と共産党にはそもそも声すらかかっていません。
■与党からも「疑問の声」があがるワケ
解散総選挙で大勝したはずの高市早苗政権が、いきなり余計な屋上屋を架するような会議を設計したのに何をするのかわからん会議になってしまっているのであれば、別に野党でなくても何これってなるのは当然です。
実のところ、もともとこの国民会議の構想は、昨年12月24日、まだ少数与党だった頃に官房長官の木原稔さんが記者会見で「給付付き税額控除などの制度設計を行う目的で」設置すると話しています。
後述しますが、過去の事例で言えば、これらの会議体の設置は旧民主党・野田佳彦政権だったときに、衆参ねじれがあることから必要に迫られて社会保障国民会議の立ち上げに至ったものがあります。
当然、しょっぱなの会合では超党派の「国民会議」を名乗りながら、実質的に与党+チームみらいさんだけで船出した格好で、せめて日本維新の会さんぐらいには声がけして形だけでも整えておくべきだったんじゃないでしょうか。しかし、ここで立ち止まって考えるべきは、そもそもこの国民会議という座組自体が、消費税減税や給付付き税額控除の実現にとって本当に必要なものなのか、という点です。
■そもそも法的には設置する必要がない
結論から申し上げれば、国民会議は消費税法改正のために法的に必要な手続きではありません。閣議決定に基づく会議体に過ぎず、法的な設置根拠はないのです。
衆議院で自民党だけで316議席、連立パートナーの維新を合わせれば350議席超。定数465の3分の2をゆうに超えています。仮に参院で否決されても衆院で再議決できる。
つまり、高市政権が本気で消費税減税をやりたければ、政府・与党で制度設計を詰め、閣法として国会に提出し、国会で適切かつ必要な審議を経て堂々と議決して消費税減税を実現してしまえばいい。それだけの数の力を、有権者は2月8日の衆院選で高市さんに与えたはずです。
過去の消費税率変更を振り返ってみても、3%の導入(1989年)は竹下登政権が国会で押し通しましたし、5%への引き上げ(1997年)も村山政権下の法律を橋本龍太郎政権が執行したものです。8%、10%への段階的引き上げも、2012年の三党合意を経てはいますが、最終的には法案を国会に出して議決しています。
■政府与党で決めて国会に出せばいいのに…
唯一の例外が2012~13年の「社会保障制度改革国民会議」ですが、あれは衆参のねじれ状態の中で自民・公明・民主の三党合意がなければ何も動かないという特殊な政治環境があったからこそ設置されたものです。ただ、そこでの議論の下敷きはデキが良かった面があるので「税と社会保障の一体改革」で進められた議論は税制の大枠を考える上ではいまでも参考になります。ありがとう野田佳彦。
一方、今回の高市早苗政権は衆院で3分の2を超える与党であるわけで、わざわざ国会の外に協議体を作って「超党派の合意」を求めるのは、率直に言って異例です。
一連の問題では高市早苗さんというよりは官房長官・木原稔さんが各種調整に奔走させられていて、むしろ木原稔さんがまともだからかろうじて何とかなっている、という側面すらも感じさせます。
■自民党内で囁かれる「3つの仮説」
では、なぜ高市政権は国民会議という迂回路を選んだのか。与党関係の偉い人や高市官邸の皆さんの話も賜りつつ、いくつかの仮説を検討してみます。
仮説①:制度設計の見通しが立っていない
最も素朴な読みは、「やりたいけれど、どうやればいいかわからない」というものです。
よく聞かれる声は「高市早苗さんが『国民会議を立ち上げろ』とおっしゃるので、中身はともかくとりあえず国民会議をやっています」という話です。
食料品の消費税率をゼロにすれば、年間およそ5兆円の税収が消えます。高市さんは「特例公債の発行に頼らない」と明言していますから、補助金や租税特別措置の見直し、税外収入で5兆円×2年分=10兆円を工面しなければなりません。
しかし、具体的にどの補助金をいくら削るのか、どの租特を廃止するのかという話になれば、それぞれに利害関係者がいます。選挙で「消費税ゼロ」と言うのは簡単ですが、その裏側の財源論を詰めるのは別次元の作業です。
それでもやるのだと高市さんが数の力で押し切ろうとしても、今度は「国会で決めようにも制度が立ち上がらない」という話になるので、高市さんは消費税減税を進めたくても進まないのを、超党派国民会議で議論すればそれっぽい結論が出るだろうと考えたのではないか、という話になります。
■実質的に「時間を稼いでいる」
さらに技術的な課題もあります。小売店のレジシステムの改修にはおよそ1年かかるとされ、テイクアウトと店内飲食の税率差が10%に拡大する外食産業への影響も未整理です。どこぞで「あんなのレジの数字を変えるだけなので一瞬ですよ」と解説した人物がおられましたが、現実的には民間の負担が大きくむつかしいと判断するほかありません。
なにより、給付付き税額控除に至っては、前提となるインフラ自体が存在しません。所得税額に応じて給付額が決まるわけですから、正確な所得把握が必要です。それを実現するためにはマイナンバーと預貯金口座の紐付けが必要ですが、現状では任意登録にとどまっています。2013年の国民会議でも同じ論点が議論され、当時は「所得・資産の把握が困難」という理由で導入が見送られた経緯があります。あれから13年が経ちましたが、この根本的な問題はほとんど前進していません。
つまり、与党内で案をまとめようにも、まとまる見通しが立たない。それは、国会で圧倒的な議席数を持つ与党であったとしても、ない財源を前提に制度設計はできないし、国会で成立させることはできない。だから「国民会議で議論する」という形を作ることで、検討を進めている体裁を整えつつ、実質的には時間を稼いでいる――そういう見方です。
■野党に「責任転嫁」するシナリオ
仮説②:「やらない言い訳」としての国民会議
さらに歩を進めてみると、より辛辣な読みもあります。国民会議を野党が不参加ないし不同意のまま推移させ、最終的に「超党派の合意が得られなかったので実施を見送る」という着地に持っていくシナリオです。「いやー、やろうと思ったんだけどなー、野党が協力してくれなくてさー、残念だなー。まいったまいった」という感じでしょうか。
この仮説を裏付けるのが、高市さん自身の発言パターンです。衆院予算委員会で消費税減税の実現について問われるたびに、「野党の協力が得られたら」「国民会議で結論を得る」という条件を繰り返し付けています。3分の2を持つ政権の首相が、なぜ野党の協力を減税実施の条件にするのか。普通に考えれば不自然です。
中道改革連合や国民民主党が参加を躊躇しているのも、まさにこの点への警戒からでしょう。
先にも述べた通り、これらの国民会議云々以前に、そもそも何かをやり繰りして10兆円を超える財源を捻出するという当初方針自体に無理があります。ここからさらに防衛費の捻出も控えていることを考えれば、最初からやる気がなかったのを責任転嫁するための国民会議なんだろと勘繰られても仕方がない面があります。
東京新聞の社説が「国民会議に具体策検討を『丸投げ』するのは無責任極まりない」と書いたのは、この構造を正確に言い当てています。
仮説③:自民党内の財政規律派との調整弁
もう一つ見逃せないのは、自民党内の力学です。
党内には消費税減税に慎重な勢力が根強く残っています。衆院選の公約でさえ「検討」止まりだったのは、財務省や党税調の抵抗が強かったからです。自民党が掲げる公約をめぐって、政調会長で元税調インナーの小林鷹之さんが高市早苗さんの考えに納得せず、党内で大変な激論となり、廊下にまで聞こえてきてみんなニヤニヤしてたりしました。
もちろん、選挙での圧勝によって高市さんの求心力は高まりましたが、だからといって党内の財政規律派を完全に黙らせたわけではありません。いわば、高市早苗さんの本当の政敵であり、懐柔するなどして協力を引き出さなければならないのは野党ではなく、むしろ与党のリアリストたちだという面は見逃せません。
■「抵抗勢力」を制度的に封じ込め
したがって、国民会議という枠組みを使えば、消費税減税は「総理・高市さんが独断で決めた」のではなく「超党派の国民的議論の結果」という体裁になります。小野寺五典さん(自民党税調会長)を実務者会議の議長に据えた人事は、税調を国民会議の枠内に取り込むことで、内部抵抗を制度的に封じ込める意図があるようにも見えます。
ただし、小野寺五典さんも高市さんが「やれ」と言えば「はい」と応じるタイプの人物ではなく、むしろ現実派で是々非々な立場を堅持する可能性も高くあります。そうなると、超党派で合意を取るというのはむしろ党内説得の材料にすらなる、野党も合意があるのだからお前ら党内調整を進めてくれという話になり得ます。
逆に言えば、国民会議で「やはり財源の見通しが立たない」という結論が出た場合にも、それは「国民会議の総意」であって高市早苗個人の判断ではない、という逃げ道が確保されるわけです。
ここで興味深いのが、チームみらいの安野貴博さんの動きです。
安野さんは国民会議に唯一の野党として参加しておきながら、消費税減税には反対の立場を表明しました。そして代替案として「所得連動型給付」の検討を提案しています。消費税を下げるのではなく、所得に応じた給付で中低所得者を支援するほうが合理的だ、という主張です。
■チームみらい「反対参加」の本当の意味
一見すると、与党の方針に真っ向から異を唱える野党が国民会議に参加しているという奇妙な構図ですが、ここに一つの政治的な含意が見えます。安野さんの提案が「消費税ゼロは難しいが、こういう代替案もある」という着地点への伏線になり得るとすれば、国民会議は高市政権にとって「当初の公約からの軌道修正を正当化する装置」としても機能し得るのです。
つまり、「2年間の消費税ゼロ」という選挙公約を掲げて圧勝した政権が、いざ実行段階になって「国民会議での議論の結果、所得連動型の給付措置に変更します」と言えるようにする。選挙公約の事実上の撤回を、超党派の合意というオブラートに包んで有権者に提示する。そういうシナリオも、この座組ならば可能になります。
ただ、チームみらいさん党内やその周辺で、この手の政策について細やかな議論を積み重ねて安野貴博さんが国民会議に出てきた、という気配は現段階ではゼロです。正直、チームみらいさんはまだ立ち上げたばかりの党だからというのもあって、財源論や制度設計のような込み入った政策を過去の実例、法制から未来に向けてどう改革すれば政治的に着地させられるのかを検証する政調機能が備わっていないように見受けられます。
■数の力だけでは越えられない壁とは
最後にもう一つ、見落とされがちな文脈があります。参議院の存在です。
衆院では3分の2を超えている与党ですが、参院では過半数に5議席足りません。2月の首相指名選挙でも、参院では1票足らずに決選投票にもつれ込んでいます。消費税法の改正は衆院の再議決で通すことは可能ですが、政治的なコストは小さくありません。
参院で国民民主党(25議席)や公明党(参院のみ)の協力を得られれば、予算案だけでなく重要法案の円滑な審議が可能になります。あくまで、数字上は。そのため、国民会議は、法案提出前の段階でこれらの勢力を取り込み、参院での抵抗を事前に和らげるための「お膳立て」という側面もあるでしょう。
3月3日に公明党の竹谷とし子さんが「参加する方向で検討している」と表明し、中道の階猛さんも「環境が整ってきている」と述べたのは、この参院対策の文脈で読むと合点がいきます。高市政権が国民会議の間口を徐々に広げているのは、衆院の数の力だけでは越えられない参院の壁を意識しているからにほかなりません。
■「高市イズム」を感じさせる動き
ただ、そこには伝統芸的な与野党間での国対での調整というお座敷の問題があって、高市早苗さんが野党の立場を尊重しようとする梶山弘志さんから器用に話が進められる萩生田光一さんに国対委員長をスイッチさせようとして、いまや自民党の良心とも言える幹事長・鈴木俊一さんに止められたのもまた、このような参院への配慮よりも自らが決めたことの実現を優先させたい高市イズムみたいなものを感じさせます。
改めて整理をいたしますと、高市政権の「国民会議」は、法的には不要で、政治的には複数の機能を同時に果たそうとしている座組です。そもそもそんな国民会議なんてアリバイでしかないんだから要らないんじゃないかという声も大きく、横で見ている私なんかもそう思います。
党内や野党への配慮にせよ制度設計上の工夫の問題にせよ、国民会議なんてやってないで国会で論争すればそれでいいじゃないですか。それで無理なら消費税減税など間に挟まず粛々と給付付き税額控除をダイレクトに決めて、それができる法制を今国会で決めちゃえば問題ないでしょう、という。
■国民会議を「目的化」させてはいけない
すなわち、このよくわからない国民会議があまり合理的でない思惑で満ちている面があるんですよね。制度設計の実務を進める場として。党内の財政規律派への緩衝材として。野党を巻き込み参院対策の地ならしをする装置として。そして場合によっては、公約からの軌道修正を正当化する出口として。
そして、問題は、これだけ多くの政治的機能を一つの会議体に背負わせた結果、肝心の「消費税減税をいつ、どうやって実現するのか」という本題が曖昧なまま漂流するリスクが高いことです。
夏前の中間とりまとめ、秋の臨時国会での法案提出――高市さんが示したスケジュール感は決して緩いものではありません。しかも、年5兆円の財源確保策も、レジシステムの改修計画ほか民間対応のあり方の検討も、マイナンバーによる所得把握のロードマップも、現時点では何一つ具体的に示されていない。
やれと言われればさっさと検討するのが官邸の役割ですが、いろんな意味で機能低下している面があるのでうまく動かせていないのではないでしょうか。この国民会議が、国民のための政策実現の「手段」ではなく「目的」そのものになってしまう危険を、私たちは注視し続ける必要があります。
綺麗事を言うようでなんですが、しかし割と本音として、空前の316議席とかいう大勢力を託された政権には、有権者に対して約束を果たす責任があります。その約束を果たすために国民会議が本当に必要なのか、それとも約束を先送りするための装置に過ぎないのか。
答えは、この年度末までの議論でだいたい明らかになるでしょう。
皆さま、どうかご安全に。
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山本 一郎(やまもと・いちろう)
情報法制研究所 事務局次長・上席研究員
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。
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(情報法制研究所 事務局次長・上席研究員 山本 一郎)

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