休日にしっかり休んでいるはずなのに疲れが取れない。一体なぜなのか。
産業医の池井佑丞さんは「自律神経が乱れている可能性がある。日常生活で知らないうちに自律神経のアクセルとブレーキの切り替えを鈍らせているのかもしれない」という――。
■自律神経の“摩耗サイン”
第一線を走り続けるビジネスパーソンは、責任も裁量も大きく、「多少の不調は仕事のうち」「疲れている自分が普通」と感じがちです。その中には、「休んでも疲れが抜けない」と悩む人も少なくありません。
その背景にあるキーワードのひとつが「自律神経」です。
自律神経は、心拍・血圧・呼吸・体温・胃腸の動き・ホルモン分泌などを24時間調整する、いわば“体のオートパイロット”。このバランスが乱れると、だるさ、集中力低下、イライラ、動悸、寝つきの悪さ、朝起きられない、といった不調として表れます。
自律神経の疲弊は、仕事のパフォーマンスにも直結します。判断力の低下、ミスの増加、言葉がきつくなる、アイデアが出ない――それは「年齢のせい」ではなく、自律神経の“摩耗サイン”かもしれません。短期的に乗り切れても、中長期的にはメンタル不調や生活習慣病、心血管疾患へとつながるリスクもあります。
今回は、パフォーマンスを維持して働き続けるために、「自律神経にいい生活・ダメな生活」を具体的な行動レベルで解説します。
■自律神経は「アクセル」と「ブレーキ」
自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」の2つで構成されています(McCorry, 2007)。
交感神経はアクセル役で、日中の活動や緊張時に心拍数や血圧を上げ、集中力を高めます。一方、副交感神経はブレーキ役として夜間や休息時に働き、心拍を落とし、消化や回復を促します。
本来は、日中は交感神経、夜は副交感神経へと自然に切り替わる日内リズムが保たれています。このスイッチが滑らかに働くことで、パフォーマンスと体調は安定します。
ところが、慢性的なストレス、長時間労働、睡眠不足、不規則な生活、過度な飲酒、夜間のスマホ使用などが続くと、夜になっても交感神経が十分に鎮まらず、回復を担う副交感神経が働きにくくなる可能性があることが報告されています(Zhang et al., 2025Zambotti et al., 2020Nose et al., 2017Jarczok et al., 2013)。このような状態では、心拍変動(HRV)と呼ばれる自律神経の調節機能を反映する指標が低下することが示されています。
■スマートウォッチなどでも測定できる「心拍変動」
心拍変動(HRV:Heart rate variability)とは、心拍と心拍の間の時間間隔の変化を解析した指標で、心電図や心拍センサー付きウェアラブルデバイスなどから測定されます。近年はスマートウォッチなどでも簡易的に測定でき、自律神経の状態を客観的に把握する指標として研究や健康管理の分野で広く用いられています(McCraty and Shaffer, 2015)。
HRVの低下は、自律神経の調節力(アクセルとブレーキをうまく切り替える力)の低下を示すものと考えられており、実際、短時間睡眠や長時間労働ではHRVが約10%前後低下し、アルコール摂取後には夜間のHRVが10~20%低下することが示されています。
さらに、HRVの低下は強い疲労感や抑うつ、不安、いら立ちといった心理的ストレス反応と関連があることも報告されており、こうした状態は、比喩的に「自律神経の疲れ」と表現されることもあります(Okawa et al., 2019)。
■集中力や判断力が落ち、イライラしやすくなる
自律神経の調節力が低下した状態が続くと、当然仕事へも影響が表れます。
まず「朝から体が重い」「休んでも疲れが抜けない」と感じやすくなります。
夜間に副交感神経が十分に働かないと、睡眠中も心身が完全な休息モードに切り替わらず、回復が不十分になりやすいためです(Oliver et al., 2019)。日本人を対象とした研究でも、自律神経機能の低下と主観的疲労感の関連が報告されています(Tanaka et al., 2011)。
それだけでなく、集中力や判断力にも変化が表れます。交感神経優位の状態が長く続くと自律神経の調節機能が低下し、注意力の低下や判断の遅れ、単純ミスの増加につながる可能性が示されています(Tanaka et al., 2011)。HRVが高い人ほど思考力や対応力が良好であるとの報告もあり、逆にHRVが低い状態では、思考のキレや対応力が鈍り、仕事の精度が落ちやすくなると考えられます。
また、自律神経の乱れは感情コントロールとも関係しており、調節力が低いほど、イライラしやすい、落ち込みやすい、過度に緊張しやすいといった傾向がみられることがわかっています(Okawa et al., 2019)。
さらに、バーンアウトする人は、そうでない人と比べてHRVが低いことも報告されており、自律神経の状態は一時的なパフォーマンスの低下だけでなく、長期的に働き続けられるかどうかにも関わる重要な要素であると考えられます(Vente et al., 2003)。
■心血管疾患リスクや死亡リスクも上昇
そして、このような状態を放置すると、うつ・不安障害、高血圧や糖尿病などの生活習慣病にもつながる可能性が指摘されています。(Kemp et al., 2010Chalmers et al., 2014Thayer and Lane, 2007)。
さらに、自律神経が乱れている人は、将来の心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患イベントのリスクが約1.2倍高く、死亡リスクが約1.3~1.5倍高いことも報告されています(Orini et al., 2023Hillebrand et al.,2013)。
つまり、自律神経を整えることは、目先の不調を防ぐためだけでなく、5年後・10年後の健康寿命とパフォーマンスを左右する基盤づくりとして捉えるべきテーマだと言えるでしょう。
■寝だめ、座りっぱなし生活はダメ
自律神経の乱れは、日常の小さな選択が積み重なって形づくられます。

ここでは、自律神経をじわじわ追い込む代表的な5つの生活パターンを整理します。
①平日の寝不足と休日の「寝だめ」
平日は深夜まで仕事や飲み会で睡眠不足、週末はその分昼まで寝て帳尻を合わせる――この生活パターンは、睡眠不足と体内時計の乱れを同時に招きます(Wittmann et al., 2006)。
本来、自律神経と体内時計は「ほぼ同じ時間に寝て起きる」ことでリズムを刻みます。しかしこのズレが続くと日内リズムが乱れ、夜になっても交感神経モードが続きやすくなります。その結果、寝つきの悪さや中途覚醒、翌日のだるさにつながります。
②高ストレス・ノーリカバリー生活
責任の重い立場や長時間労働が続くと、帰宅後も頭が仕事モードのままになりがちです(Jarczok et al., 2013)。1日の中で副交感神経が優位になる“回復タイム”が極端に少ないと、戦闘モードでフルマラソンを走り続けているような状態になります。短期的には乗り切れても、回復の機会が乏しい生活が続けば、心身の消耗は確実に進みます。
③運動ゼロ・座りっぱなし生活
朝から晩までデスクワーク、移動もエレベーターやタクシー中心――これは現代のホワイトカラーに多い働き方です。「忙しいから運動する時間がない」と感じている方ほど、帰宅後はソファでぐったり、という構図になりがちです。しかし、運動不足は、自律神経の調節力(心拍変動)の低下と関連することが知られています(Hamer and Steptoe, 2007)。体を動かさないことを「休んでいる」と思いがちですが、実際にはストレスの発散ができず、頭だけが疲れた状態が続いてしまいます。

■「お酒でスイッチオフ」が招く悪循環
④アルコール頼みの“強制オフモード”
「寝る前の一杯がないとリラックスできない」と、寝酒が習慣となっている方もいると思います。たしかに、アルコールは一時的に不安や緊張を和らげ、寝つきを良くするように感じられることもあります。しかし実際には、深い睡眠を減らし、夜間の心拍を上げるなど自律神経には負担となることが示されています(Zambotti et al., 2020)。量が増えるほど眠りは浅くなり、「疲れが取れない→またお酒で無理やりオフにする」という悪循環に陥りやすい点も問題です。
⑤スマホ・夜更かし
スマホのブルーライトは体内時計を後ろにずらします。夜遅くまで画面を見続けると、本来眠りたい時間になっても副交感神経が十分に働きにくくなります(Nose et al., 2017)。入眠が遅れるだけでなく、睡眠の質も低下しやすくなります。翌朝のだるさをコーヒーでごまかし、夜は疲れた頭でまたスマホを眺める――その循環が固定化すると、自律神経のリズムはさらに乱れやすくなります。
これらは単独で起こるのではなく、しばしば組み合わさって表れます。ストレスを酒で紛らわせ、寝不足で疲れて運動できない――その積み重ねが、知らないうちに自律神経のアクセルとブレーキの切り替えを鈍らせているかもしれません。
続いては、その逆、つまり「自律神経にとっていい生活」を具体的に整理します。
■自律神経は「鍛える」より「整える」
自律神経は、「鍛える」ものというより、「整える」ものです。

自律神経にとっての「いい生活」の基本はシンプルです。
・起床時刻を一定にする(休日も±1~2時間以内)

・朝の光を浴びて体内時計をリセットする

・平均6.5~7.5時間の睡眠を確保する

・定期的な運動習慣(少し息が弾む程度の有酸素運動を週3~5回、20~30分行うことが理想だが、階段昇降やスクワットなどを小分けにして行うのでも効果あり)

・「寝酒」は基本的に避け、飲む場合は「就寝3時間前まで」を意識

・カフェインは16時以降は控える

・入浴は38~40℃程度のぬるめの温度で、就寝の1~2時間前に済ませる
ただし、忙しいビジネスパーソンにとって重要なのは、「日中に乱れた神経をどう戻すか」です。そこで意識してほしいのが呼吸です。
■呼吸と音楽の効果は侮れない
呼吸は、自律神経の中で数少ない「意思で調整できる要素」です。
ポイントは“速度”。1分間に6回程度(4秒吸って6秒吐く)のゆっくりした腹式呼吸を数分間行うのがおすすめです。
実際、この呼吸法を5分間実施すると、心拍変動(HRV)が増大し、副交感神経活動を反映する指標が20~40%程度上昇したとの報告もあります(Lehrer et al., 2000Sakakibara. 2022)。
会議や商談の前に取り入れれば、過度な緊張を整えてくれ、終了後に行えば、高ぶった神経を速やかに通常モードへ戻しやすくなります。トイレ休憩や移動の合間の数分でも効果が期待できます。
もう一つ、意外に効果が見込めるのが音楽です。
穏やかな音楽を5~10分程度聴くことで、心拍変動(HRV)に変化をもたらし、副交感神経活動を上昇させる可能性があると報告されています。特に、歌詞のないリラックス系の楽曲の方が、神経系を安定させやすい傾向があると言われています(Mojtabavi et al., 2020)。

ポイントは、「ながら聴き」ではなく、“意識して聴く”こと。通勤電車で目を閉じ、呼吸とテンポを合わせるようにすると、交感神経優位の状態からの回復を後押ししてくれます。
■「頑張る力」だけでなく「戻る力」を持つ
長時間労働そのものよりも問題なのは、「回復の余白がない」ことです。
1~2時間ごとに1~3分立ち上がる、深呼吸を取り入れる、通勤時間を音楽で整える。こうした小さな回復ポイントを意図的に配置することが、神経の摩耗を防いでくれるかもしれません。
“頑張る力”だけでなく、“戻る力”を持つこと。
それが、持続可能なコンディション設計への最短ルートになるのです。
多くのビジネスパーソンは「頑張り方」は知っていても、「緩め方」は教わってきませんでした。ですが、自律神経が味方をするのは、頑張るときと緩めるときを上手に切り替えられる人です。
もし、3カ月以上続くだるさや不眠、理由のはっきりしない動悸・息切れ・めまい、気分の落ち込みがあるなら、一度医療機関に相談してください。生活を整えることで改善する場合もありますが、うつ病や睡眠時無呼吸症候群など、治療が必要なケースが隠れていることもあります。
よく寝て、よく動き、よく休み、よく働く――。
この当たり前のサイクルを、今の自分に合わせて再設計すること。それこそが、自律神経の調節力を取り戻し、長く安定して活躍するための、最もシンプルで強力な戦略です。

※参考文献

・Castro-Diehl C, Diez Roux AV, Redline S, Seeman T, McKinley P, Sloan R, Shea S. Sleep Duration and Quality in Relation to Autonomic Nervous System Measures: The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis (MESA). Sleep. 2016 Nov 1;39(11):1927-1940.

・Holmes KE, Kim J, Fielding F, Zeitzer JM, von Hippel W. Four core circadian behaviors that improve cardiorespiratory fitness through consistent sleep. Sleep. 2026 Feb 10;49(2):zsaf318.

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)

産業医

プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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