子供を学習塾に通わせる際、親はどのような点に注意すればいいのか。中学受験に30年余り携わってきた、塾講師で教育コンサルタントの渋田隆之さんは「“成績が伸び悩んでいる”という理由だけで辞めるのはもったいない。
本当に辞めたほうがいい塾は、授業ではないところで“3つのサイン”を出す」という――。
■「塾のボリュームゾーン」を確認する
学習塾を運営していると、お子さんの成績が上がらないのを理由にして、すぐに別の塾へ転塾させようとする親御さんがいらっしゃいます。焦る気持ちも理解できますし、塾との相性もあるので転塾=悪い、とは思っていません。ただ、成績不振だけを理由にした転塾は、多くの場合においてうまくいきません。
そもそも、成績が伸び悩む原因は「塾の指導力が悪いから」と断定できない事情があります。
まず、悩んだときに確認してほしいのは、お子さんの実力と、その塾の合格者の真ん中である「ボリュームゾーン」がミスマッチを起こしていないかという点です。「難関校に何名合格」と華々しい実績を掲げていても、それは一部のトップ層の話かもしれません。その塾のボリュームゾーンにいる生徒がどこに受かっているのかが重要なのです。このミスマッチに気づいていない可能性があります。
また、カリキュラムの問題も避けては通れません。たとえば算数の場合では、速さの単元が終わったと思ったら図形、次には場合の数と変わるので、たまたまその時期にお子さんの学力が定着していないというケースもあります。このような背景にもかかわらず転塾してしまえば、使っているテキストも、カリキュラムの進め方も、指導方針もすべてが一新され、振り出しに戻ってしまいます。

子供がこれまでと全く違うやり方に適応するまでには、どうしても数カ月単位の時間がかかります。その間にも、学習のペースは大きく乱れてしまいます。また、担当講師や塾友との関係性を再構築するのにも時間とストレスがかかります。
■「楽しんでいる」のか「ラクしている」のか
そこを見極めずに、成績が上がらないからと次々に塾を渡り歩いてしまうご家庭がいらっしゃいますが、塾側の視点からしてももったいないなと感じています。子供の成績だけで次々と塾を変えるのは、できれば避けてほしいのです。
では、転塾を決断していいのはどのようなケースなのでしょうか。それは「塾の運営やサービス」が根底から崩壊しているときだけです。
まず、お子さんに「今の塾は楽しい?」と聞いてみてください。もし「楽しい」と言われた場合は、その中身をしっかり確認してください。たとえば「今日は何を習ったの?」「先生の名前は?」と聞いて、具体的な授業の面白さや先生の話が出てくるなら、その塾はお子さんに合っています。
しかし、授業中にスマホを見ていても怒られない、帰りに友達と寄り道してお菓子を食べるのが楽しい……そんな様子を感じ取ったなら、それは「楽(たの)しい」のではなく、ただ「楽(らく)」をしている可能性が高いです。
たとえば、テキストに鉛筆の跡が全く残っていない、記述問題が白紙のままで返ってくるなどに表れます。
こういう状況を放置している塾は、もはや勉強する場所として機能していない恐れすらあります。ただ塾にいって時間を潰しているだけ……このような状態を見過ごしている塾は、サービスとしてすでに終わっているのです。
■サイン① 面談で親を待たせていないか
私はかつて、大手塾の運営責任者として約20の教室を統括してきました。塾業界にすでに30年余り働いていますが、その現場経験から、崩壊しかけている教室が発する「サイン」をお伝えします。
1つ目は、保護者面談などで「親を平気で待たせる」対応です。約束の時間に行っても「前の面談が長引いていまして」と悪びれずに待たせる塾の責任者(校舎長・教室長・塾長などと呼ばれる)がいたら、注意が必要です。
これは親御さんに何を伝えるべきかという事前準備を全くしていない証拠です。親御さんは、仕事や家事の合間を縫って貴重な時間を割いています。その時間を奪うことに鈍感な責任者だということ。こういう鈍感さ、ルーズさは教室全体に伝染し、先生を通じて生徒もズボラになる傾向があるのです。
たとえば、そのような塾には、ほかの先生たちも時間が守れないことが多いのです。授業も平気で延長します。
終わらなかったから宿題ね、と後回しにすることもあります。
子供たち視点でみれば、授業が10分延びれば、本来15分あった休み時間が5分に削られ、トイレにも行けません。そして子供たちは慌てて次の算数の授業に向かい、今度は算数の先生に怒られることになります。
算数の授業時間は削られ、宿題のチェックも甘くなります。子供たちがだらしなくなります。制限時間内で答案を作るという入試において、このだらしなさは致命傷になってしまいます。
■サイン② 電話やメールのレスポンスが早いかどうか
2つ目の危険サインは、電話やメールでの相談に対する「レスポンスが遅い」ことです。塾にプリントを提出したのに忘れられている、子供同士のトラブルを相談したのに数日間も放置される、といったケースです。
特に子供同士の人間関係のトラブルは、初期対応が遅れるとあっという間に燃え広がってしまいます。思春期もしくは思春期にさしかかったお子さんたちですから、放置するのは本質を理解していません。
返信が遅い理由は、単純に忙しいからではありません。お叱りを入れてくる親御さんや、人懐っこく寄ってくる特定の生徒・親の対応ばかりを優先している可能性があるのです。
つまり、何も言わずに真面目に通っている「サイレントマジョリティの親」が軽視されてしまっている、とも捉えられます。
私は運営責任者時代、こうした「サービスの不公平」を厳しく指導してきました。同じ月謝をいただいている以上、サービスはフラットであるべきだからです。新人の先生などは、自分を慕ってくれる子をかわいがりがちですが、それは子供に舐められているだけの可能性もあります。一部の生徒だけを優遇する環境では、静かに・真面目に受けている子や目立たない子が置いてきぼりになってしまいます。
■サイン③ 生徒数が激減していないかどうか
3つ目の危険サインは、「生徒数が目に見えて減っている」ことです。少人数や個別指導などを売りにしていたわけではないのに、クラスの人数が少なくなったことを「少人数で手厚く見ています」とアピールしてきたら注意してください。もしかしたら「面倒見が悪いから生徒が逃げた」可能性もあるのです。
仮に生徒30人いた塾が20人まで減ったとします。本当に少人数で手厚くするつもりなら、「10人ずつ3クラス」に分けていたものを、「7人ずつ3クラス」にするはずです。しかし経営が最優先の塾は、「10人ずつ2クラス」に減らしてしまいます。すると、学力層の幅が広がってしまい、授業の質が一気に下がることになるのです。

さらに、校舎長が他校舎と兼任になって不在がちになったり、先生の数が減らされたりする、とも聞いたことがあります。これに伴い、「授業以外のサービス」が真っ先に消滅します。
たとえば毎月あった保護者会が学期ごと、半年ごと……と減っていく。先生が午前中の学校説明会に足を運ばなくなるため、最新の入試情報や日程変更などの情報を知らないというケースもあるでしょう。「親のほうが学校情報に詳しい」という逆転現象が起きたら、もはや塾として機能していません。
■「今年の入試問題はどうだったか」と尋ねてみる
塾の先生が本当に信頼できるのかを見極める、決定的な質問があります。それは「今年の○○中学校の入試問題はどうでしたか?」と直接聞いてみることです。
もしこの質問に対して、具体的な出題傾向が出てこなかったり、言葉を濁したりする先生がいれば、その先生は今年の入試問題を解いていません。
ただ、注意してほしいのが、塾の先生だからといって全ての学校の問題を解くのは不可能です。忙しければそういうことも生じてしまいます。であるならば「すいません、その学校についてはまだ解いておりませんので、来週までに勉強しておきます」と正直に言えばいいはずです。そうすれば親御さんも納得いただけるのではないでしょうか。

しかし、それを誤魔化したり、解いたふりをしてきたりしたら、根本的な誠実さが欠けていると判断していいでしょう。自分が勉強していないのに、子供たちに「勉強しましょう」と言っても説得力がありませんよね。学校情報も入試情報もアップデートしていない先生に、進路指導を任せるのは危ないですよね。
■「塾の責任者の話」に納得できるか
お子さんが塾に通えば、数年間のお付き合いになることと思います。一緒に子供を育てていくパートナーとも言えます。であるならば、塾は学校選びと同じくらい慎重に、厳しく研究されるべき対象であると思っています。
学校見学に行って校長先生の話に納得できなければ、その学校を受けようとは思わないのではないでしょうか。塾についても、入る前にしっかりと責任者の姿勢を見てほしいと思います。もちろんそこで相性の合う、合わないもはっきりすると思いますが、それでいいと思っています。
普段働いている親御さん自身が、最新の入試傾向を分析して、学校の出題情報を全て把握して、進路指導まで行うのは難しいでしょう。だからこそ、親にできないことを受験のプロとして代わりにやってくれる先生がいるかどうか、という視点で判断してもらいたいと思います。
そして、「この先生に教わってダメだったなら仕方がない」と納得できるかどうか。お子さんの成績だけを指標にせず、その塾の責任者や先生が、親御さんと同じ熱量で向き合ってくれる「先生」であるかどうかを、ぜひ最大の判断軸にしてもらいたいと思います。私自身も含め、大切な時間をお預かりする指導のプロでなければならないと、自戒を込めてそう強く思っています。

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渋田 隆之(しぶた・たかゆき)

国語専門塾・中学受験PREX代表

教育コンサルタント・学習アドバイザー。神奈川大手学習塾で中学受験部門を立ち上げ、責任者として20年携わる。毎年、塾に通う生徒全員と直接面談を実施。保護者向けにも、ガイダンス、進路面談、カウンセリングを担当し、これまで関わった人数は2万人以上にのぼる。日々の思いを綴るブログ「中学受験熱血応援談」は年間100万件以上のアクセスを獲得している。2022年7月に中学受験PREXを立ち上げ、現在も継続して中学受験の最前線に立ち続ける。国内最大の受験人数を誇る首都圏模試センターの中学受験サポーターも歴任し、中学校と受験生の橋渡しとなる情報提供を日々行っている。一番大切にしていることは、ご縁があり指導することになった子どもたちとご家族のために、誠心誠意、ベストを尽くすこと。著書に『中学受験 合格できる子の習慣 できない子の習慣』(KADOKAWA)、『2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100』(かんき出版)、『親の声掛けひとつで合否が決まる! 中学受験で合格に導く魔法のことば77』(KADOKAWA)がある。

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(国語専門塾・中学受験PREX代表 渋田 隆之)
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