※本稿は、伴元裕『集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■集中力は永遠には続かない
試合の終盤で大事なプレーを前にして、周囲の音が少し遠くなる。仕事なら、プレゼンの途中で一瞬言葉が詰まり、視線が泳ぐ。そんな瞬間を味わったことのある人は少なくないでしょう。
そんなとき、「今、少しズレたな」と、注意が逸れたことに気づけたとしましょう。集中できていないというより、注意がどこかに引っ張られる感覚です。
そのズレのあと、注意を戻せるときもあれば、戻れないときもあります。その違いは、どこから生まれるのでしょうか。
戻れないままでいるとき、頭の中では直前のミスや先の結果、あるいは「ちゃんとしなければ」という思考が立ち上がります。気づけば、何をするかよりも「今の自分は大丈夫か」という確認に注意が向いてしまうわけです。
一方で、自然に戻せるときも、不安や緊張が消えているわけではありません。ただ、その中でも「今は、これに注意を戻す」という行動が、身体感覚としてわかっています。
■一度逸れた注意を元に戻せるか
この違いは、才能や集中力の強さによるものではありません。ましてや、これまでの努力量や真面目さの差でもありません。多くの場合、分かれ目になっているのは、「注意を戻す先が定まっているかどうか」です。
戻れないままでいるときも、何も考えていないわけではありません。むしろ、よく考えてきた人ほど、「正しくやろう」「整えよう」として、注意を管理しようとします。
ただし、注意を戻す先が定まっていないと、戻ろうとすればするほど、注意の行き先(戻り先)があいまいになってしまうのです。
逆に、自然に戻せるときも、良い結果を目指していないわけではありません。勝ちたい、うまくやりたい、評価されたい――。その思いは同じです。
ただ、結果にだけ注意を向け続けてはいません。「結果につながると思える行動」に、注意の戻り先を置いているのです。
■選手たちは「行動」に意識を向けていた
2025年のホークス春季キャンプで、約60人の選手に、直近のベストパフォーマンスを振り返ってもらい、そのときプレー中に何に意識を向けていたのかを、できるだけ具体的に書き出してもらいました。
その結果、60人中60人、全員が勝ちたい、打ちたい、抑えたいといった「結果」そのものではなく、その瞬間の「プレーの中身(タイミング、ゾーン、リズムなど)」に注意を向けていたと答えたのでした。
この事実が示しているのは、「選手たちが特別なことをしていた」という話ではありません。分析結果を共有した際には、「自分では結果を意識していたつもりだった」と驚く選手も少なくありませんでした。
プレー中に、意識して行動へ集中しようとしていたわけでも、何かを変えようと決めていたわけでもない。ただ、うまくいっていた場面をあとから振り返ってみると、注意は結果ではなく、自分のプレーの中に向いていたのです。
■「勝ちたい」と思うほど集中できなくなる
ここで注目したいのは、選手たちが向けていた注意の先に、共通した条件があったことです。それは、「今」「自分で」「できる」ものである、という点です。
結果や評価は、強い引力を持っています。勝ちたい、うまくやりたいと感じた瞬間、注意は自然と未来へ向かいます。
しかし、結果は「目指す方向」にはなっても、「注意の戻る場所」にはなりにくいもの。
一方で、行動は違います。視線をどこに置くか、どのリズムで動くか、どこに力を乗せるか。これらはすべて、「今、この瞬間に」「自分で」「選び直すことができる」ものです。行動そのものだけでなく、行動につながる感覚や意図も含めて、注意を戻すことができる対象です。
結果は、行動の積み重ねから生まれます。行動の中に戻り先があれば、注意は結果そのものではなく、その結果をつくる過程へと向かいます。だからこそ、注意が逸れたあとも、「ここに戻ればいい」という感覚が先に立ち、迷うことなく注意を戻すことができるのです。
■「成功」「失敗」に囚われるリスク
多くの場面で、私たちは無意識のうちに、「できたか、できなかったか」「うまくいったか、いかなかったか」という二元論で自分の状態を捉えてしまいます。
打てた試合は良くて、打てなかった試合はダメ。
しかし、そうした捉え方はわかりやすい一方で、本番になればなるほど注意を結果や評価へと引き寄せ、集中を不安定にしていきます。
結果や出来を基準にしてしまうと、プレーや行動は常に評価の対象になります。一つうまくいかない出来事が起きただけで、それまで積み重ねてきた感覚や手応えまで、まるごと否定されたように感じてしまうのです。
すると注意は、今取り組んでいる行動そのものから離れ、「取り返さなければ」「挽回しなければ」という発想へと向かっていきます。その時点で、注意は一点にとどまれなくなり、集中はあちこちに飛び回り始めます。
この捉え方から距離を取る一つのヒントが、目標や戻り先を「結果」ではなく「積み重ねられる対象」に置くことです。
■周東選手が毎打席、集中できる理由
ホークスの周東佑京選手は、目標設定の一つを打率ではなく安打数に置いています。打率はどうしても「上がった」「下がった」と数字に一喜一憂しやすく、感情が揺れ動きやすい指標です。一方で安打数は、一本一本を積み重ねていくものです。打てなかった打席があったとしても、次の打席でまた一本を狙いにいく。その思考に自然と切り替えやすいのです。
周東選手はその構造を理解したうえで、意図的に安打数という目標をシーズンの初めにセットし、シーズン中も常に意識し続けていました。
ここで重要なのは、安打数が増えているかどうかを逐一確認することでも、「打てたか、打てなかったか」を評価することでもありません。ただ、安打数という積み上げ型の目標を置くことで、注意は評価ではなく「次の一本」に向きやすくなります。結果が出なかった打席があっても、その出来が次の打席の意味を奪うことはありません。やることは変わらず、同じ姿勢で次に向かうだけです。
■チームを支えた中村晃選手のひとこと
このような考え方は、シーズン終盤の緊張感の高い局面でも同じです。首位を守らなければならないリーグ戦終盤の2025年9月。チーム全体が結果や他チームの動向に意識を引っ張られ、守りに入りかけたとき、中村晃選手に、優勝争いを戦い抜くうえで大事な考え方を聞いたことがありました。すると、こう返ってきました。
「こういうときは、結果や他チームの動向に意識を向けてはいけない。自分たちが、毎日ヘトヘトになるまで出し切ること、それだけです」
自分が持っているものを、その日、その場でどれだけ出そうとしたか。「出せたか、出せなかったか」ではなく、出し切ろうとする姿勢を貫くことが大切だと、中村選手は考えていたのです。
この言葉は精神論のように聞こえるかもしれませんが、構造としては先ほどの周東選手の事例と同じです。注意を結果に置かず、その場でどんな姿勢でプレーするかに置いている。だからこそ、状況がどれだけ緊迫しても、注意の戻り先は揺れません。やるべきことは変わらず、今この一球、この一打にすべてを出し切ることだけを考えればいいのですから。
■土壇場で「動じない人」の思考法
心理学では、こうした捉え方を、ノンゼロサム思考と呼ぶことがあります。一回一回の出来で善し悪しを判断するのではなく、一つひとつの行動が、次につながる土台として残っていくと捉える考え方です。
こうした言葉を覚える必要はありません。ここでお伝えしたかったのは、専門用語ではなく考え方そのものです。結果がどうであれ、出来がどうであれ、あらかじめ決めた「注意の向け先」に立ち戻り続ける。その姿勢を保てるかどうかが、本番の集中や安定感を大きく左右します。
注意の向け先が定まったら、その注意に戻し続ける。「できたか、できなかったか」を評価するのではなく、「戻ろうとする時間」を少しずつ増やしていけばいいのです。注意は逸れる前提で、あらかじめ定めた戻り先に立ち戻り続ける。この考え方こそが、本番で「動じない」姿を形づくっていくのです。
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伴 元裕(ばん・もとひろ)
福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ
株式会社OWN PEAK代表取締役。7年間の商社勤務を経て渡米し、デンバー大学大学院スポーツ&パフォーマンス心理学修士課程を修了。2017年に帰国後、OWN PEAKを創業。野球やサッカーをはじめとするトップアスリートやプロチームに対し、本番で力を発揮するためのメンタルパフォーマンス支援を行ってきた。2024年秋より福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチに就任。2025年シーズン途中からはベンチ入りし、現場からチームに関わりながら、リーグ優勝と日本一達成を支えた。
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(福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ 伴 元裕)

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