渡される生活費は20年間ずっと月5万円、服や靴もボロボロ、「金はない」という夫の言葉は本当なのか……。離婚や男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「十分な収入があるのに生活費を切り詰めている夫の中には、内緒で株式投資をして資産を増やしている人もいる。
離婚の手続きの過程でそれが発覚すると『株の利益は自分の才覚で得たものだから、財産分与の対象にはならない』と言うことがある」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。
■20年間月5万円でやりくり
A子さん(48歳・パート)は、会社員の夫と結婚して20年になります。
夫は誰もが知っている有名企業の会社員です。しかしA子さんは、結婚してから一度も夫の収入や貯蓄額を知らされたことがありませんでした。
夫が払っているのは、マンションのローンと水道光熱費だけ。A子さんが生活費として渡されているお金は、なんと結婚当初からずっと月5万円のままでした。
給与明細を見せてもらったことはありません。会社員なので昇給や賞与はあるはずですが、それについても一切説明はありません。夫の肩書は何なのか、ボーナスが出ているのかすら不明でした。
最初のうちはA子さんも「何に使っているのだろう」と疑問に思い、夫に聞いたこともありました。しかし夫は、「金はない」「俺にたかるつもりか」と怒るばかりで、まともに答えてくれません。

そのうちA子さんは、怖くて聞けなくなってしまいました。
■物価上昇でも生活費据え置きで疲弊
子どもはおらず、A子さんはパートをしながら、なんとか生活費をやりくりしてきました。
しかし、最近の物価高で、いよいよ生活が成り立たなくなりました。米の値段が上がり、買うのもためらうような状況になったのです。
A子さんが生活費を少し増やしてほしいと頼むと、夫はやはり怒りました。
「お前が結婚した時に5万でいいと言ったんだろう」

「米が買えないならパスタを買えばいい」

「行列に並んで備蓄米を買えばいいだろう」
そう言って怒鳴るばかりで、生活費を1円も増やしてもらえず、月5万円の据え置きのままでした。
その後も、全ての食材や生活用品は値上がりしています。A子さんは極力安いものを探して買う毎日に疲弊していきました。パートの時間を増やそうともしましたが、それにも限度があります。やむなく実家や兄弟に援助してもらうこともありました。
しかし、このまま老後まで同じ生活が続くのかと思うと、とても耐えられないと考えるようになり、私の事務所に相談に来ました。
■50歳有名企業勤務「お金がない」は本当か
A子さんの話を聞いた私は、まず、「夫は何にお金を使っているのですか」と聞きました。

するとA子さんは、しばらく考えてこう言いました。
「夫は外見にも無頓着で、服や靴もボロボロなんです。飲みに行くこともないし、趣味も全くありません。だから本当にお金がないのかもしれません」
そして、「財産分与がなくてもいいから、とにかく離婚したい」と言うのです。
しかし私は、「お金がない」というのは考えにくいと思いました。
夫は有名企業に勤める50歳の会社員です。マンションのローンと光熱費、それに月5万円の生活費で、貯金が全くできないとは思えません。
そこで思ったのは、夫は株に投資しているのではないかということです。
するとA子さんは、「そういえば証券会社からダイレクトメールが届いています」と言いました。証券会社が勝手に送ってきているものだと思っていて、全く気にしていなかったというのです。
とりあえず、別居までの間に夫を観察するように伝えて、相談は終わりました。
■年収1000万円超、資産は5000万円
その後、A子さんは別居して実家に戻り、私は離婚についての依頼を受けました。

まずは夫に連絡を取り、別居中の生活費(婚姻費用)を請求しました。
すると夫は、「お金がないから払えない。婚姻費用は0円が妥当である」と主張してきました。
交渉の余地がなさそうなので、婚姻費用分担調停を申し立てました。調停では収入を開示する必要があります。すると夫の年収は1000万円を超えていることがわかりました。この収入であれば、婚姻費用は月15万円以上になります。夫は渋々、それを支払うことになりました。
その後、離婚調停を行いました。
夫はここでも「財産はほとんどない」と主張していましたが、給与口座と証券会社の存在はすでにわかっていました。そこで財産の開示を求めました。
すると夫は予想通り、長年コツコツと株式投資を続けていて、全部で5000万円以上の資産があることがわかりました。

■夫は「株の利益は自分のもの」と主張
調停期日に来る夫は、よれよれの服を着ていて、外見からはとてもそんな資産を持っている人には見えません。しかし履歴を見ると、結婚してすぐに株式投資を始めていて、着実に資産を増やしていたのです。
それが明らかになると、夫は「株の利益は自分の才覚で得たものだ。だから妻への財産分与の対象にはならない」と主張しました。
しかし、婚姻中に形成された財産は、原則として夫婦の共有財産です。株式投資の利益ももちろんその対象です。
さらに、マンションも値上がりしていて、退職金の見込み額も財産分与の対象になります。
これらを計算すると、夫婦の財産はかなりの額になっていました。
最終的にA子さんは、約4000万円の財産分与を受けて離婚することができました。
4000万円が入金された時、A子さんは「信じられないです」と言いました。私は「今まで切り詰めて頑張ったご褒美だと思います」と伝えました。
■投資の利益も財産分与の対象に
A子さんのように、結婚してから渡される生活費が何年経っても同額のままという夫婦は、実は珍しくありません。
「最初に決めたことだから」と、夫の収入が上がっても、昨今のように物価が上がっても、時には妻が病気になって無収入になっても、据え置きのままなのです。
収入も貯蓄も全く知らされず、夫が何にお金を使っているのかもわからないまま、妻はやりくりを強いられていることが多いです。
こういう夫は決まって内緒で貯蓄をしているのですが、中には株式投資をしている人もいます。最近は投資ブームもあり、さらに増えている印象です。
生活費を極限まで切り詰め、「妻や子どもに使わせるくらいなら投資に回す」という考え方の人もいます。そのため、質素な見た目と生活ぶりからは想像できないほど蓄財をしているのです。
妻は限界にまで追い詰められ、離婚を考えるのですが、離婚の手続きの過程で投資で得た利益の存在が発覚すると、夫は「株の利益は自分の才覚で得たものだから、財産分与の対象にはならない」と言います。
確かに、特殊な才能によって得た財産が共有財産にならないと認められる場合もありますが、それは著作権収入のある芸術家など、極めて特殊な例です。医師でも認められることはほとんどありません。
そのため、結局は半分に分けることになります。
生活費を極端に切り詰めて投資を続けて資産を増やしたとしても、そのせいで配偶者に愛想を尽かされて離婚されてしまうのでは本末転倒です。
お金を貯めることも大切ですが、結婚生活では、お金を一緒に使ってもいいと思える関係をつくることも、同じくらい大切なのかもしれません。


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堀井 亜生(ほりい・あおい)

弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。

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(弁護士 堀井 亜生)
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