■いまのコメ価格高騰の原因は「人災」
コメ業界関係者によればコメの値段は下がると報道されている。現在供給されている25年産のコメが平年より1割も増産されていることからすれば、当然の見方だろう。しかし、スーパーでの価格はわずかに低くなっている感じはするが、2年前の5キログラムあたり2000円から4000円に上昇したまま高止まりしている。
いつ下がるのだろうか?
現状の原因を解明しなければ、答えはでない。いま、なぜコメ価格は生産が増えたのに高止まりしたままなのだろうか?
昨年の夏までのコメの不足・価格上昇と今起きているコメ価格高騰とでは、現象は同じでも原因が全く異なる。同じコメ騒動ではない。原因において不連続である。
コメは秋に収穫され翌年9月まで消費される。23年産米が猛暑の被害を受けて供給量が減少し、端境期となる24年夏ころにスーパーの店頭からコメが消えた。
ところが今のコメ価格高騰では、コメは不足していない、むしろ生産が増えているのに引き起こされている人災である。
■コメ価格はマーケットでは決まらない
真犯人はJA農協だ。
JA農協は、前年落ち込んだコメの集荷率を上げるために農家にいつもの年の3倍近い概算金(仮払金)を払い、それに自身のマージンを加え、卸売業者に販売している。平成のコメ騒動のときに記録した過去最高の米価2万4000円(玄米60キログラムあたり)より6割高い3万7000円の米価である。(「消費税ゼロ」よりずっと効くのに…政治家が語らず、マスコミが報じない選挙で封印された「物価高の根本原因」を参照)
「生産=供給が増える」と価格は下がる。しかし、コメ流通のかなりを握るJA農協は、「生産=供給」という図式を変えることができる。生産が増えても在庫を増やせば、市場に供給する量を制限することができるのだ。マーケット(市場)でコメの価格は決まらないのですよ! 鈴木大臣。コメの価格を決めているのはJA農協なのだ。
■「概算金」と「政府備蓄米」で在庫調整
もちろん、これにはコストがかかる。
これはJA農協でも同じである。かつて米価が低下し売れない在庫を抱え込みそうだと判断したとき、今回とは逆にJA農協は1万3000円だった概算金を一気に7000円に下げて農家に「売るな(売っても損)」という合図(シグナル)を出したときがあった。
しかし、今回はJA農協にとって好都合な状況がある。石破内閣(2024年10月~2025年10月)の時に、当時の江藤拓と小泉進次郎の両農水大臣が100万トンの備蓄米から70万トンほど既に放出している。残り30万トンの備蓄米在庫も家畜のエサ用に処分寸前のものだ。
つまり、農水省が備蓄米の在庫回復と称して少なくとも70万トン最大で100万トンものコメを買い入れれば、JA農協が積み上げた過剰な在庫を一気に消してくれる。コメの全体需給からしても、70万トン生産が増えても農水省が市場から70万トン買い入れれば供給量は変わらない。しかもJA農協の過剰在庫が政府の備蓄米倉庫に移動するだけではない。後述するように備蓄米は通常市場に回らせずエサ用として処分するので、70万トンは市場から完全に隔離される。こうして高い米価をJA農協は維持できる。
■政府備蓄米と減反の目的は同じ
ところが、農水省にも事情がある。それは今の異常なバブル米価では備蓄米を買い入れられないということである。買い入れのタイミングが悪いのだ。
備蓄米は不作になっても消費者に供給できるようにするためだという。しかし、それなら減反をやめて生産量を増やし、国内で消費できないコメを輸出していれば済む話だ。不作になっても輸出量を減らせば国内への供給は維持できる。減反を続けながら「不作のときに消費者に供給する」というのは国民への表向きの理由で、本心は、毎年20万トンずつ市場から買い入れて5年間保管し、古くなった5年古米をエサ用に処分することで、20万トンを市場から隔離することを目的としたものである。
つまり備蓄米は市場の供給量を20万トン減らすことで米価維持を狙ったものだ。減反と同じで、農水省のコメ政策には常に高米価維持という隠された目的がある。幸いなことに、本質を見抜くことができないマスコミの記者たちは農水省の表面的な説明に騙されてくれる。
■なぜ「エサ米」として処分されるのか
かつては備蓄米として買い入れたものを2年ほど経ったのち市場に売り戻していた(「回転備蓄」と言った)。
このため、米価を高く維持したい農政トライアングルは、備蓄米として買い入れた主食用のコメを5年保管後エサ米として処分することで、主食用の市場から完全隔離することとしたのだ(これを「棚上げ備蓄」と言う)。
ただし、問題はこれに莫大な財政負担が必要となることだ。
主食用のコメの値段は通常の年では玄米60キログラムあたり1万5000円(トン当たり25万円)。エサ米の価格は1200円(トン当たり2万円)。高く買ってタダ同然で売っている。
この差を埋めているのは国民納税者による財政負担である。20万トンの買い上げ処分で、価格差補填だけで毎年460億円を国民は負担している。
これに追加して年間トン当たり最低1億円の保管料が必要となる。20万トンを5年間保管することで100億円の国民負担が生じる。毎年20万トンを備蓄米として積み増すだけで合計560億円も国民は負担している。
■JAが犯した“計算ミス”
このほかに3500億円の減反補助金がある。
国民はマーケットで決まる価格よりも高い価格でコメを買うために、毎年4000億円以上の負担を納税者として行っている。もちろん国民に負担させることで利益を得るのは、JA農協たち農政トライアングルの面々である。
この状況の中で、農水省が備蓄米の回復と称して過剰在庫を処分してくれることにJA農協としては全く異論がない。3万7000円という史上最高の米価を維持できる。しかし、農水省はそうはいかない。
3万7000円はトン当たり62万円である。備蓄米の買い入れは入札で行われるので、おおむねこの価格で農水省は購入することになる。しかし、そうなれば、価格差補填だけで財政負担は1200億円に膨れあがる。
いくらなんでも、財務省がストップするだろう。また、米価が高いなかで買い入れれば、さらに価格を高騰させるのではないかという批判を国民消費者から受ける。
■「今年9月、JAのために価格が下がります」
今の高米価の下では、農水省は備蓄米買入れに動けない。
現状ではJA農協は概算金を下げられない。概算金は仮渡金なので、JA農協が卸売業者に販売する価格が下がると、JA農協は下がった分を農家から回収することになる。しかし、これは農家には不興で、農家は翌年からJA農協を通じて販売しなくなる。つまり、JA農協は25年産米の販売価格を下げられない。
下げられるのは、26年産米からとなる。バブル米価で、農家の生産意欲は高まっている。大きな不作でもなければ26年産米の生産は増える。さらに、国内が異常な高米価となっているため、カリフォルニア米が輸入禁止的な関税を乗り越えて輸入されている。これが国内市場への供給増加要因(国内産米へは需要減少要因)となる。
つまり、26年産米については、需給事情から高い概算金も卸売業者への高い販売価格も実現できないことは明らかとなる。JA農協は、堂々と概算金を下げることができる。農水省もやっと備蓄米を買い入れることができる。私の経験からすれば、農水省とJA農協との間で既にすり合わせが行われていることだろう。農政トライアングルの出来レースである。
農家も仰天するシナリオだろう。JA農協の主人は組合員である農家である。しかし、これまでも、先の概算金7千円への大幅引き下げのように、JA農協は農家の利益よりも自己の組織の利益を優先させてきた。JA農協の本音は、農家ファーストではなく自分ファーストである。
国民の皆さん、コメの値段が下がるのは今年の9月です。それまで今少し我慢してください。
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山下 一仁(やました・かずひと)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、同局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員、2010年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。著書に『バターが買えない不都合な真実』(幻冬舎新書)、『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』『国民のための「食と農」の授業』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)、『食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備える』(日本経済新聞出版)など多数。近刊に『コメ高騰の深層 JA農協の圧力に屈した減反の大罪』(宝島社新書)がある。
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(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 山下 一仁)

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