1932年に建国された「満洲国」とは何だったのか。作家のギデオン・デフォーさんは「日本は、欧米列強を前に植民地になるか、植民地を支配する側になるかの2択を迫られていた。
その結果生まれた傀儡国家だ」という――。(第2回)
※本稿は、ギデオン・デフォー『新版 世界滅亡国家史』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■植民地になるか、宗主国になるか
【満州国】〈1932~45年〉

人口 3500万人

首都 新京、通化(つうか)

言語 日本語、満州語、北京官話

通貨 満州国圓

滅亡原因 第二次世界大戦

現在 中国の一部
19紀半ば、日本は自らに課した眠りから覚めた。かすんだ目を擦(こす)りながら辺りを見回すと、ヨーロッパ人が非道な行為を行っていたが、彼らは何の罰も受けずに済んでいた。
日本は次のように言った。「どいつもこいつも下手なやつらばかりだ。いいか、植民地主義者ども、おれたちが手本を見せてやろう(1)」

(1) 公平を期すために言うと、日本は1つの選択を迫られていることを正しく認識していた。それは、急いで権力を振るう側にまわるか、それとも他国と同じようにヨーロッパ人に搾取される運命を受け入れるか、ということだった。
■満州進出のきっかけ
50年も経たないうちに、日本は朝鮮で戦争を行い、清から台湾を奪っていた。しかし、これでもまだ、この新しい膨張主義者の渇きを癒やすことはできなかった。
さらなるチャンスは鉄道の形をとって現れた。19世紀後半、ロシアの皇帝は、もう少し優雅に、できれば食堂車と専属のシェフつきで広大な帝国を横断したいと思った。

そこで彼は、シベリア横断鉄道を完成させることを決意した。作業を早く終わらせたくてたまらなかった鉄道技師たちは一番シンプルなルートをとった。これには、中国を横断する近道が含まれていた(2)。
ほどなくして、日露関係が悪化した。短い戦争があり、講和条約が結ばれ、清のロシア鉄道のある部分が日本の領土になった。表向きは、日本は狭い南満州鉄道附属地の支配権を獲得しただけだったが、日本はすぐに鉄道に沿って入植地を建設した。
この五月雨(さみだれ)式の領土拡大は、日本政府の目にはもどかしく映ったようだ。開発の速度を上げるための口実が必要だった。

(2) ロシアは、弱体化する清王朝から承認を得ていたため、満州を通過する「東清鉄道」を建設することができた。このときの清はロシアに対して異議を唱えられる立場になかった。
■世界が呆れた日本軍の自作自演
最近はどこの国でも、何か事件が起こると「偽旗(にせはた)作戦だ!」[偽旗作戦:あたかも他の存在が事件を引き起こしているかのように振る舞う軍事作戦]と叫ぶ者が出てくるが、1931年頃は、偽旗作戦はまだ比較的めずらしい手口だった。
日本は自らの鉄道の一部を爆破し、「中国人のテロリスト」にその罪をなすりつけた[柳条湖事件(3)]。

それが、彼らが欲していた口実だった。ちゃちな手口だったこともあり、ほかの国々はすぐにこの計画を見抜いた(4)。国際連盟はおおいに動揺したが、具体的で有効な行動は起こさなかった。
その後、日本軍は満州を占領し、満州国の建国が発表された。

(3) 満州国以前、日本はしゃくに障る中華民国の軍事指導者を消すために列車を爆破していた。要するに、彼らはちょっとした練習を済ませていたのである。

(4) 嘘の可能性:バチカンが満州国を承認した国の1つであるという噂は、ベルトルッチの『ラストエンペラー』で広く知られるようになったが、これは間違いである。ただし、バチカンが使節を派遣したのは確かだ。
■日本が行ったナチスよりも残酷な人体実験
偽の共和国として始まった満州国は、偽の王国に姿を変えた。日本は清国最後の皇帝を名目上の元首に指名し、うわべの正当性を与えた。
大規模な広報活動はどんな国も行うが、満州国も例外ではなかった。ただ、この広報活動は明らかにやりすぎだった。

現実に起こっていることとは正反対で、非常に悪意のある冗談に思える。
ばら色の頬をした多文化の子どもたちが描かれたポスターが至るところに貼られた。満州国の「日常」を伝える本にはある家族の写真が載っていて、「満州国の知識階級の男性が妻と2人の子どもと一緒に自らポーズをとっている」という説明が添えられていた。
写真の説明文に「自ら」とあるのはまずい。演技であることがばれてしまう。将来、合法的に見える傀儡政権を作ろうとしている者たちにアドバイスするとすれば、こうした不用意な表現は慎むべきである。
陽気な外観の裏では、望ましくない少数民族が化学兵器で一掃されていた。
731部隊は「防疫給水部」という快活な名称のもとで、ナチスよりもひどい人体実験を行った。日本の新しくて過剰なナショナリズムは、この傀儡国家が否応なくロシア人との新たな衝突に巻き込まれる原因になった。
今回は日本にとってよい結果にならなかった。ソ連は広島に原爆が投下された2日後に満州国に侵攻した。

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ギデオン・デフォー
作家、アニメ脚本家

オックスフォード大学で考古学と人類学を専攻。
『The Pirates!』シリーズの原作者。アカデミー賞にノミネートされた『The Pirates! In an Adventure with Scientists!』の脚本を執筆。その他の著書に『How Animals Have Sex』『Elite Dangerous: Docking is Difficult』など。ロックスミス・アニメーションやスタジオカナルで映像作品の制作にたずさわる。

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(作家、アニメ脚本家 ギデオン・デフォー)
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