朝鮮半島にはどのような歴史があるのか。作家のギデオン・デフォーさんは「7世紀に新羅の善徳女王は百済と高句麗を征服して史上初の朝鮮半島統一を成し遂げた。
稀代の女帝を輩出した新羅には、異様な身分制度が存在した」という――。(第3回)
※本稿は、ギデオン・デフォー『新版 世界滅亡国家史』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■信憑性に欠ける「王国の起源」
【新羅黄金王国】〈紀元前57~935年〉

人口 200万人(8世紀)

首都 慶州

言語 古代朝鮮語

通貨 オシュチョン

滅亡原因 階級への執着

現在 韓国と北朝鮮の一部
起源の物語は、完全に説得力があるわけではない。
ある晩、村人たちは不気味な光を目撃して調べに行く。彼らは巨大な赤い卵を見つける。卵からは「輝くばかりの容貌」の丸々と太った赤ん坊が生まれる。この輝く子どもは将来の君主に任命され、何世紀にもわたって続く血統の祖になった。こうして王国が誕生した。すると、近くに住む動物たちが、ディズニー映画のようなダンスを始めた。
歴史学者のなかで、国が卵から生まれたという話を支持する人はまずいないだろう。より可能性の高いストーリーは、新羅(文字どおりの意味は「徳の高い業績で四方を網羅する」)は2000年前の朝鮮半島を支配していた12の都市国家の1つから発展したというものだ。
■身分を決めるのは能力ではなく「骨」
埋葬品が豊富な塚の存在は、この王国が徐々に交易ネットワークを広げていったことを伝えている(中東まで達していた)。
新羅の人々は、巨大な金塊が大好きだった。だからこそ、「黄金王国」という派手なニックネームをつけられたのだ。
しかし、それ以上のことは漠然としている。わかっているのは、この王国の支配者のほぼ完全な一覧である。この一覧から、新羅は意外にも着実に発展していったことがうかがえる。
王国は「骨品制」という身分制度を基本に据えていた。
王家の血統と同じく、しかしもっと極端なことに、骨のランクは服の色、家の最大寸法、職業など人生のほとんどあらゆる部分を決定した。
最上位の「聖骨」は、父方と母方の両方が王家の家系であることを意味していた。その下に位置する「真骨」は、片方が王家の家系で、もう片方が貴族の家系だった。そして、真骨の下にはさまざまな階級が存在し、下に行くほど身分が低くなった。国王になることができるのは、聖骨だけだった。
■美しすぎた朝鮮半島初の女性国王
きわめて厳格なこの階級制度は、7世紀半ばに聖骨の男子がいなくなったことで問題にぶつかった。
王国は女性の支配者を戴く(当時のこの地域では考えられないことだった)か、国王の条件を引き下げるかの選択を迫られた。
彼らは階級よりも性別のほうが問題が少ないと判断し、632年に真平(しんぺい)王の娘の善徳(ぜんとく)が女王に即位した。
善徳女王は「数匹の蛙を見た」ことで敵軍の到来を預言するほど賢かったと言われている。そのうえ、善徳は非常に美しかった。彼女に対して報われない恋心を募らせていたある農民は、女王と謁見したとき、燃え上がった想いゆえに王国の塔を全焼させたという。
社会的な死を迎えたその農民には、同情せざるをえない。
■「女を国王にするから不幸になる」
神話はさておき、新羅は643年頃には敵に包囲されていた。当時の朝鮮半島は新羅、百済、高句麗という3つの王国が相争っていた。善徳は唐の皇帝に使者を派遣して、支援を求めた。
だが、皇帝の太宗(たいそう)は次のような善徳を見下した回答をした。
「新羅が不利な立場にいるのも無理はない。男性的な陽の堅硬さと女性的な陰の柔軟さは天が定める原則であり、良識がある人なら誰でも女性が従属的な立場にいることを知っている。
ところが、新羅はこの原則に反して女性を国王にしている。これこそが、新羅が大きな不幸に見舞われている原因なのだ」
そのうえで太宗が提案した解決策は、「善徳の代わりに男が国を支配してはどうか」というものだった。
■朝鮮統一を成し遂げた女帝のその後
善徳の名誉のために言っておくと、彼女はこの提案をどうにか丁重に断り、のちに同盟が結ばれた。そして、その後の数年間で新羅は百済と高句麗の征服に成功し、史上初めて朝鮮半島の統一を成し遂げた(1)。
さらに、善徳はその偉大なリーダーシップで『シヴィライゼーションVI』[ターン制ストラテジーゲーム]参戦という最高の栄誉を獲得した(拡張パックでの配布だが)。これは、太宗でも成し遂げられていない偉業である(2)。

(1) 善徳女王はまた、東アジアで最初の専用の天文台である瞻星(せんせい)台を建設した。これは現在でも残っている。だが、望遠鏡が作られるより1000年前のものなので、天文台の要素といえるのは「外を覗く穴」ぐらいだ。

(2) 新羅では、善徳のあとに2人の女王が誕生した。その後、貴族たちは階級よりも女性を王位に就かせることのほうが問題だと考え、聖骨の要件が変更された。ただし、骨品制のほかの部分は維持された。

骨品制は社会のあらゆる階層で欲求不満が高まる原因になった。また、厳格な階層によって国の発展が頭打ちになり、建国から1000年後の王国崩壊につながったと考えられる。統一王国が崩壊した朝鮮半島は、ふたたび3つの王国に分裂した。

----------

ギデオン・デフォー
作家、アニメ脚本家

オックスフォード大学で考古学と人類学を専攻。『The Pirates!』シリーズの原作者。アカデミー賞にノミネートされた『The Pirates! In an Adventure with Scientists!』の脚本を執筆。その他の著書に『How Animals Have Sex』『Elite Dangerous: Docking is Difficult』など。ロックスミス・アニメーションやスタジオカナルで映像作品の制作にたずさわる。

----------

(作家、アニメ脚本家 ギデオン・デフォー)
編集部おすすめ