バヌアツとはどんな国か。作家のギデオン・デフォーさんは「80の島で構成されるバヌアツ群島は、国連が最も自然災害のリスクが高い場所と位置付けている。
かつてフランスヴィルと呼ばれた首都のポートビラには、英仏の植民地支配に翻弄された暗い過去がある」という――。(第5回)
※本稿は、ギデオン・デフォー『新版 世界滅亡国家史』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■地震もハリケーンも来る世界一危険な場所
【フランスヴィル】〈1889~90年〉

人口 540人

言語 多数

通貨 豚

滅亡原因 国家の誕生が100年早かった

現在 バヌアツの一部
「自然災害」という観点から、バヌアツは国連によって世界で最も危険な場所と位置づけられている。つまり、トンガやグアテマラやバングラデシュよりも危険なのだ(1)。
この地域は昔から地震とハリケーンの集中砲火を浴びてきたため、先住民のニ・バヌアツは17世紀までに「災難への耐性」を身につけていた(2)。
これは彼らにとって幸運だった。おかげで、「ヨーロッパ人の来襲」という新種の災難にも耐えられたのだから。

(1)「人間はやわじゃない」とでも言うように、蔓と倒れそうな塔を使ってバンジージャンプを発明したのは、バヌアツの住人だった。

(2)世界銀行の『太平洋諸島に関するディスカッションペーパー』(1999年)より。
■いまだに通貨は「豚」
バヌアツ群島はおよそ80の島で構成されている。ココナッツが豊富で、言語の数が113もある。1つの言語につき平均1万5000人の話者がいる計算だ。

そして、現在でも最も重宝される通貨は「豚」である(3)。
バヌアツにはメラネシア人が定住していたが、17世紀になって、ポルトガル人が百日咳とインフルエンザという好ましくない手土産を持って現れた。
最初の訪問者は探検家のペドロ・フェルナンデス・デ・キロスで、彼は「探検家はあらゆることを取り違える」というすばらしい伝統にのっとって、噂に聞く南方の巨大大陸を発見したと思い込んだ。
次のヨーロッパ人である探検家のルイ・アントワーヌ・ド・ブーガンヴィルがこの地を訪れたのはその160年後のことで、彼は長居をせずに去っていった。
さらにその数年後、キャプテン・クックがこの地域を航行し、嬉々として「ニューヘブリディーズ諸島」と命名した。
(3)バヌアツで最も価値が高く、需要がある豚は、マロ島にいる「無毛の雌雄同体豚」だ。
■漂流者も宣教師も食い殺された
クックのあとに、さまざまな捕鯨者と白檀(ビャクダン)[熱帯性常緑樹]の貿易商を自称する男たちが続いた。彼らにとって先住民と取引をするのは簡単なことではなかった。
1847年に「ブリティッシュ・ソブリン」が沈没すると、乗組員は必死になって岸まで泳いだが、あえなく食い殺されてしまった。異文化交流は散々な出だしだったといえる。
だが、貿易商と新たに到着した宣教師はこの地にこだわりつづけた。彼らはプランテーションを始めるために、土地と自分たちの財産を交換しようとしたが、そもそもニ・バヌアツに土地の所有権という概念は存在しなかった。
折悪(おりあ)しく、さらに宣教師が到着したが、またしても彼らは食われてしまった。
イギリス人たちが、苦労の割に得るものがないのではないか、と考えはじめたちょうどそのときに、フランス人がやってきた。超大国らしいきわめてけちな発想をするイギリス人たちは、「人食い人種の島であろうとなかろうと、かつての敵国に渡すわけにはいかない」とすぐに考え直した。
■英仏政府公認の「無法地帯」
植民地主義は非難されて当然だが、同じくらい悪質なものがある。それは、「中途半端な植民地状態」だ。
ニューヘブリディーズは、好戦的な2つの帝国主義国の板挟みになった。いがみ合いが本格的な戦争に発展するのを回避するため、英仏はある協定を結ぶ。それは、群島を英仏共同の海軍委員会の管理下に置くというものだった。
要するに、この地は「適切な政府が存在しない無法地帯」とされたのだ。「中間にある」見捨てられた国のなかには、コスパイア共和国のように、自ら状況に対処し、繁栄するケースも存在する。
しかしニューヘブリディーズの場合、住人(先住民も入植者も含む)はこのことに特段の魅力を感じず、また敬虔な宣教師たちは、合法的に結婚できないことに失望していた。
そのため、エファテ島のフランスヴィル(現在のポートビラ)で、彼らは何らかの行動を起こそうと決意した。

■「見捨てられた地」で芽生えた民主主義
彼らは、独立した生活共同体(コミューン)を宣言して、国際法上の基盤を築こうとした。
国旗を作り、大統領を任命し、憲法を制定した。このちっぽけな孤立地域(エンクレーブ)は、最も早い時期に人種、性別、信条に関係ない普通選挙を実施した国の1つになった(白人が勝利する出来レースだったのだが)。
そしてイギリスとフランスは、地政学をテーマにしたラブコメに出てくるぱっとしないカップルのように、過去のいざこざを水に流して、共通の問題に対処しなければならなくなった。要するに、昔ながらの貪欲な反動主義者[強圧的に旧体制を維持しようとする者]である彼らは、帝国の崩壊につながる自治政府の存在を否定しようとしたのだ。
彼らは船を派遣し、フランスヴィルを解体した。
こうして問題は片づいたが、その問題の原因は未処理のまま放置され、悪化しつづけた。そして、100年後にふたたび表面化することになった。救世主(メシア)のような使命感を持ったブルドーザーの運転手と「ベメラナ共和国」という思いもよらない形となって……。

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ギデオン・デフォー
作家、アニメ脚本家

オックスフォード大学で考古学と人類学を専攻。『The Pirates!』シリーズの原作者。アカデミー賞にノミネートされた『The Pirates! In an Adventure with Scientists!』の脚本を執筆。
その他の著書に『How Animals Have Sex』『Elite Dangerous: Docking is Difficult』など。ロックスミス・アニメーションやスタジオカナルで映像作品の制作にたずさわる。

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(作家、アニメ脚本家 ギデオン・デフォー)
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