■実績があっても許されない「不機嫌」の罪深さ
警視庁本部の課長だった男性警視正(60)が、日常的に部下に不機嫌な態度を取り続け、部下を萎縮させ職場環境を悪化させたとして、2025年12月に「警務部長注意」の処分を受けていたことが判明しました。(毎日新聞、2026年3月10日)
この警視正は、決して「無能な上司」ではなく、吉本興業の芸人が関与したオンラインカジノ事件や、世間の注目を集めた退職代行サービス「モームリ」を巡る弁護士法違反事件の摘発など、数々の困難な事案を解決に導いてきた、誰もが認める「シゴデキ(仕事ができる)」人間でした。
仕事での評価は高く、順調に昇進を重ねてきたはずの彼が、なぜ「警務部長注意」という処分を受けるに至ったのか。そこには、現代の組織運営における「新常態(ニューノーマル)」が鮮明に表れており、この事件の真の意味を考えてみたいと思います。(ちなみに、この方は処分と関係なく3月9日付で辞職したそうです)
昨今、カスハラ(カスタマーハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、さらにはお酒の強要であるアルハラ、不快な臭いを放つスメハラ、リモートワーク下でのリモハラ……と、次々に「○○ハラ」という新語が登場しています。
■暴言にも劣らない受動的攻撃の恐ろしさ
今回、警視庁もその存在を認める形となった「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」とは、職場において不機嫌な態度や言動を繰り返すことで、周囲に不快感や精神的苦痛を与える行為を指します。
従来のパワハラが「怒鳴る」「つるし上げる」「ネチネチと執拗にイヤミを言う」といった「能動的・直接的な攻撃」であるのに対し、フキハラはより「受動的・間接的な攻撃」に近いのが特徴です。パワハラ防止法は企業にパワハラ対策を義務化し、セクハラについては男女雇用機会均等法などが法規制をしています。
これらは、一つひとつを取り上げれば「本人の性格」や「その日の体調」として見過ごされがちなものです。しかし、それが日常的に、かつ優越的な立場にある人間から行われた場合、周囲のスタッフに与えるダメージは、直接的な暴言に勝るとも劣らないものとなります。私はハラスメント対策や研修の講師として、日本中の企業や団体を回っています。
■「○○ハラ」という言葉が思考を停止させる
「何でもかんでもハラスメントと呼ばれたら、おちおち部下の指導もできない」
「少し厳しいことを言っただけでハラスメント扱いされるなら、もう何も言わないほうがマシだ」
こうした嘆きは、どの現場に行っても必ず耳にします。パワハラ防止法が企業に義務化され、セクハラについても法規制が強化される中で、管理職はかつてないほどのプレッシャーにさらされています。
しかし、私は「○○ハラ」というネーミング自体には、ほとんど対策としての意味はないと考えています。重要なのは、その行為が「組織の運営にどれだけの悪影響を及ぼしているか」という点なのです。
今回の事件で最も重要なポイントは、毎日新聞が報じた「職場環境を悪化させたとしている。パワハラには当たらないと判断された」という一文に凝縮されています。
厚生労働省が定義する「パワハラ3要件」は以下の通りです。
1:優越的な関係を背景とした言動であること
2:業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
3:労働者の就業環境が害されること
■警視庁が引いた境界線
確かにフキハラに該当する行為によって処分は行われたようですが、実際には「警務部長注意とする処分」という、停職や解雇というような重いものではありません。集英社オンラインによれば、「警務部長注意処分は懲戒ではなく『監督上の措置』だという」とのこと(集英社オンライン、2026年3月10日)。
ちょっとわかりづらいですが、懲戒かどうかはさておき、比較的軽度なものという位置付けなのでしょう。しかし、それでも「警務部長注意」という処分を下しましたが、これは何を意味するのでしょうか。
たとえ法に触れるレベルのパワハラではなくとも、部下を萎縮させ、報告・連絡・相談が滞るような職場環境を作ったこと自体が、「管理職としての能力欠如」であると警視庁は判断したのです。警察、消防、自衛隊、海上保安庁といった「実力組織」やスポーツ団体では、かつては「強い指導」の名の下に、多少の威圧や不機嫌は容認されてきました。しかし、そうした「古い常識」に、警察自らが明確な一線を引いたことの意義は極めて大きいと言えます。
■「実力による免罪符」の終わり
この事件の重要性は、先にも述べましたが、この警視正がいわゆる高位職で部下100人を束ねるほどの「仕事がデキる男」だったからです。
これまでの日本企業において、ハラスメントが根絶できなかった最大の理由は、「ハラスメント体質だが、あいつは稼いでいるから」「仕事ができるから多少の性格の難は目をつぶろう」という、実力による免罪符が存在したことです。
エース社員、ワンマン経営者、あるいは会社を立て直した中興の祖。彼らがどれほど部下を冷遇し、不機嫌を撒き散らしても、「結果を出しているから」という一点で不問に付されてきました。しかし、今のスタンダードは完全に変わりました。
何でもかんでもハラスメントと呼んで、管理職が本来の指導や指示、管理すらもできなくなってしまうのは、組織の責任です。ハラスメントと管理職としての指示・指導は全く別物なのですが、その境界線がむしろさらに厳しくされようとしているのです。
ここ数年のコンプライアンス意識の向上で、どんなに権力があっても、ハラスメント行為だと認定されれば、経営の立場からも退場させられるのが今のスタンダードです。近年でも有名経営者がその立場を追われました。
いわゆるシゴデキ人間は、正に「仕事がデキる」という一点突破で、それ以外のさまざまな不整合や身勝手な特別扱い含めて、見て見ぬふりをしてくれていた会社の基準が変わったのです。
■これから必須のマネジメント能力
シゴデキであってもコンプライアンス違反は認めないという、かなり踏み込んだ判断を警視庁がしたというインパクトは大きいでしょう。
乱暴な言葉遣いや威圧などで部下を萎縮させるだけでなく、不機嫌な態度のような受け身のものであっても、組織にダメージを与える行為はだめなのです。感情を暴露するのでも押し殺すのでもなく、言語化して共感的理解による組織運営をすべきという、新たな方針が決まったといえます。
今回の事件で明らかになったのは、単にパワハラがダメとか、「○○ハラ」に気を付けようといったネーミングの問題ではなく、(管理職としての)行動が組織にどれだけマイナスかが重視されるようになり、管理職もその基準で評価されるフェーズになったということです。
どれほど業績を上げているリーダーであっても、感情的な振る舞いで職場の雰囲気を悪くすることは認められません。
これからの組織運営では、成果を出すだけでなく、「自分の感情をコントロールする力」や「対話によるリーダーシップ」が、管理職能力の必須要件として、より厳しく見られるようになったという、新たなフェーズの始まりです。結果がすべてですらなく、適正なプロセスを通しての業績でなければ評価どころか処分を受けるという時代です。
どれほど輝かしい業績を上げようとも、自分の感情一つコントロールできなければ、一瞬ですべてを失う。私たちは、そのような厳格かつ本質的な時代を生きているのです。
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増沢 隆太(ますざわ・りゅうた)
東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」としてNHK・ドキュメント20min.他、数々のメディアから取材を受ける。
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(東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家 増沢 隆太)

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