※本稿は、田中茂樹『子どもを見守ること』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■あることを控えた家庭で現れた劇的な変化
小言を言わないことは、私がカウンセリングで軸としている方針のひとつです。ほかには「子どもにとっていちばん大事なのは、家でリラックスすること」というのもあります。小言を言われてはリラックスできないので、これらはたがいに関係があります。
小言を言わないことは、子どものそのままの姿を受け入れるというメッセージになります。小言は相手の気に入らないところを指摘する言葉です。アドバイスというと少し前向きな印象になりますが、やはり、「今のあなたは、ここがよくない。ここが足りない。だから、それを直すともっとよくなるよ」というメッセージです。
クライアントから子育て相談を受けた際、相談の内容がどうであれ、面接では小言を控えて子どもに接してみることを勧めます。そうして自分や子どもに起こる変化を感じてみましょう、と。
とはいえ、小言を控えるのは、実は、とても難しいことです。それまでの習慣を変えることは簡単ではありません。それを、覚悟を決めてやることで、多くの場合、子どもに明らかな変化が起こってきます。親は体験したことを、面接で話してくれます。
「今までと違って、子どもが食事のあともリビングにいるようになりました」
「スマホを、自分の部屋ではなく、リビングのソファでやるようになりました」
「キッチンで私のそばに寄ってきて、友だちのことや学校のことを話してくれるようになりました」
「よく笑うようになりました」
こういう話が面接で聞かれると、この人はがんばっているんだなと推測できます。
■親が変われば子どもも変わる
子どもに変化が起きるのはなぜか。子どもは、嫌なことを言われないと分かると、親と話がしたいし、一緒にいたいと思うようです。
大人と違って、子どもは柔軟性が高いので、変化もわりとすぐに現れてきます。もっと言えば、小言を言わないでいいとなると、親も楽になるのです。
親としてしっかりしていないといけない、そういう制約から解放されて、親も子どもとの時間をリラックスして過ごせるようになるのです。その親の変化を、子どもはすぐに感じ取ります。
小言を言われないことの快適さは、自分が子どもだったときのことを思い出せばよく分かると思います。
■子どもが喜ぶ・失望する「親の反応」
親としては、悪気はまったくないのです。親から見れば、子どものやることには、いろいろと足りないところがある。そして、少しでも上達・成長してほしいと思って、どうすればもっとよくなるかを伝えようとします。それはもしかしたら、その先の子どもの人生で役立つ場合もあるかもしれません。
しかし、子どもからしたら、できていないところを指摘されて、「そのままではダメだよ」と言われた気分になるでしょう。自分としては、うまくできた、ほめられてうれしかった。だからそれを大好きな親に話した。一緒に喜んでほしいのです。親からの、「話してくれて、見せてくれて、ありがとう」という反応こそ、子どもの望んでいることでしょう。
このように講演で話すと、「では子どもに小言は一切言ってはいけないのですか?」「アドバイスもダメなんですか?」「そんなことでは、子どもは成長しないのではないですか?」「親としての役割、子どもを導き育てる役割を放棄していることになりませんか?」などのコメントを必ずもらいます。
小言やアドバイスを言ってはいけないと言うつもりはありません。
■幸せな家族がやっていること
アドバイスをして子どもを伸ばしてやりたいと思うのは、親として当然です。それは親の大事な務めでもあるでしょうし、喜びでもあるでしょう。そこに異論はありません。ここで述べたいのは、小言を言わないことには前向きな意味がある、ということです。
指摘すべき問題があるのに言わないのは、子どもを放置していることになるのではないか、親としてすべきことをやっていないのではないか、というような不安を持つ人がいます。
そのような人にこそ、小言を言わないことには実はメリットがあるということを伝えたいのです。小言を言われずに家庭でリラックスして過ごせることは、子どもの幸福ですし、子どもが幸福であることは、親も幸せにします。これは、とくに費用もかからない、それでいて効果のある「幸福をもたらす」方法です。
■小言を控える最大のメリット
小言を意識してやめてみると、多くの親は、これまで自分はなんと多くの小言を言っていたのかと気がつき驚きます。そして、自分の関心が子どもの至らないところにばかりに向いていたんだな、ということにも気がついていきます。言葉はよくないですが、いわば、あら探しばかりしてきたようなものです。そこを、意識して抑えてみる。それは“小言依存症”からの離脱を目指すものです。
小言依存症から脱することができると、今まで見えていなかった子どもの部分が見えてきます。たとえば、子どもがどう考えて行動しているのかを発見できることもあるでしょう。
それまでは子どもの考えが理解できず、ただ無意味な行動をしているように親には見えており、小言を言ってしまっていたかもしれません。
小言を控えることを心がけて、うまくできるようになってくると、親にも心の余裕が生まれます。この点こそが、小言を控えることにチャレンジすることの、最も大きなメリットです。子どものきちんとできていないところ、そこばかりに着目していた状態から脱出できるのです。
■「一家団らん」をつくりだす方法
子どもが何を考えているのか、どう思っているのか、それが見えてくると、子どもといることが、楽しくなってきます。余裕を持って見守ることができるようになってきます。もちろん親の気分は楽になります。
親の表情や声がやわらかく、やさしくなると、子どもはもっとリラックスしていきます。親に話しかけたいという思いもでてきます。家全体のコミュニケーションが以前よりも楽しい、温かいものに変わっていきます。
小言を控えることに挑戦してみた親が、よく口にするのは次のような言葉です。
「うちの子は、私が思っていたよりも、ずっとしっかりしているんだと気づきました」
「子どもが話してくれているのを、遮らずに聞いていたら、ふと昔の自分を思い出しました。そういえば、こうやって私も親に話していたなぁって。何十年ぶりかで、思い出しました」
「いろいろとうるさく言ってきたけれど、どれも必要なかったんだなと分かりました。あんなふうに小言ばかり言われて、あの子はつらかっただろうなと思います。それなのに、私のことを好きだと言ってくれます。幸せなことだと思います」
1日だけでも挑戦してみてください。
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田中 茂樹(たなか・しげき)
医師、臨床心理士
1965年東京都生まれ。4歳から高校卒業まで徳島県で育つ。京都大学医学部卒業。京都大学大学院文学研究科博士後期課程(心理学専攻)修了。文学博士。2010年3月まで仁愛大学人間学部心理学科教授、同大学附属心理臨床センター主任。2012年3月から、奈良市内にある佐保川診療所において、医師・臨床心理士として地域医療、カウンセリングに従事している。著書に『子どもを信じること』(さいはて社)、『子どもが幸せになることば』(ダイヤモンド社)、『去られるためにそこにいる』(日本評論社)、『子どもの不登校に向きあうとき、おとなが大切にしたいこと』(びーんずネット)などがある。
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(医師、臨床心理士 田中 茂樹)

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