※本稿は、山口真美『美人はそれほど得しない? ルッキズムの科学』(ハヤカワ新書)の一部を再編集したものです。
■第一印象だけで選挙結果は予測できるのか
政治と顔にまつわる話として、アメリカのプリンストン大学のアレクサンダー・トドロフたちが、顔で選挙の結果が決まることを科学的に示した実験があります。
研究は用意周到に計画され、2006年の上院議員と州知事選挙に合わせて行われました。実験は、当選確実とされた候補者の2人の顔を100ミリ秒という短時間で並べて見せて、「どちらが有能か」を学生に判断させるものです。
実験では、候補者の政治信条を知らない、選挙区以外の地域出身の学生を選び、選挙前に行われました。つまり、事前情報や先入観は一切なしの1秒にも満たない第一印象から、選挙の結果が予測できるかを調べたのです。
この実験の結果、大学生たちが一瞬で判断した「有能さ」の判断から、70%の確率で選挙の当落を予測できることがわかりました。同じ実験は異なる国の候補者を使って何度か行われましたが、ほぼ同様の結果が再現されています。
厳正に判断されているはずの選挙が、顔で決まるという証拠が示されたのは衝撃的です。しかも、それは自国とは異なる文化を持つ国の顔でも通用するのです。政策が問われるべき選挙にまさか「顔」が介入するとは、誰もが予想もしなかったことでした。
これは人の印象に判断が左右されるという決定的な証拠です。
■顔写真だけでの判断は危険
トドロフの実験の重大なポイントは、事前情報と考える余裕を与えないという点にあります。逆にいえば、事前の情報があって考える時間があると、第一印象は効かないということでもあります。考える余裕さえ作れば、自分の頭で判断を作り上げることができるのです。
もう1つはマイナーポイントですが、この実験での判断の情報源が顔写真だけだったということも心に留めておくべきです。第一印象は、実際に一緒に過ごしてみたり、生の演説を聞いたり、討論会の映像でその人の振る舞いを見たりしているうちに変わるのが現実です。初対面では近寄りがたいと思った人が、話してみたら意外に気さくだった、などといったことはよくあるでしょう。
第一印象とのギャップが激しいほど、本音に近い印象は心に残ります。そんなことから、日常的には、それほど強烈に第一印象に振り回されることはないと思われます。逆にいえば、顔写真だけの判断は危険ということになるでしょう。
選挙の例は極端でしたが、第一印象による読み取りが生存に直結することもあります。
■見た目における「支配性」と「信頼性」
顔から受ける印象には、重要な次元があります。先ほどの選挙が第一印象で決まるという衝撃的な研究を発表したアレクサンダー・トドロフは、自身の著書『第一印象の科学』の中で、顔の印象を決定するのは、「支配性(dominance)」と「信頼性(trustworthiness)」だと語っています。
この2つは、動物世界から受け継いだ、生存のために強い個体が生き残るという次元と、社会を円滑にする次元という、まったく異なる性質を持ちます。支配性は強くて優位な個体を示す進化に関わり、信頼性は互いの信用で成り立つ複雑な人間社会を維持するために必要です。
トドロフらの研究が興味深いのは、「支配性」と「信頼性」それぞれで評価の高い顔と低い顔をコンピュータ・グラフィックスで作り出して見せてくれた点にあります。比べて見れば、第一印象の違いは一目瞭然です。
これらの顔は多くの実験参加者に評価してもらった顔を平均して作ったものですが、あらためて作られた顔を観察すると、支配性と信頼性には、年齢や男女、表情といったさまざまな要因が微妙に関わっていることがわかります。
支配性の高い顔は、男っぽくて大人のような顔です。一方の支配性の低い顔は、女っぽくて子どものような顔です(図表1)。
つまり支配性の印象は、男性的で年上と見られると上がり、一方の信頼性の印象は、表情を作るだけで変わるのです。いずれもちょっとした工夫で印象を操作できるようです。
■信頼性の高い顔は「好ましい」
ここで、現代社会で必要とされる信頼性の判断がどれくらい重要かを調べた研究を紹介しましょう。
結論からいうと、信頼性の高い顔は、好ましいとして選ばれやすくなります。社会心理学に、掛け金をめぐって複数の実験参加者が互いに駆け引きする、信頼性ゲーム実験があります。この実験では、相手への信頼性に基づく協力行動を測るうえで、コンピュータ上の対戦相手の写真に、信頼性の高い顔と低い顔を貼ってみました。
すると信頼性が高い顔は、実際に信頼され、より高い投資がされました。金銭の貸し借りという状況を設定した社会心理の実験でも、信頼性の高い人はそうでない人よりも、低い利率でお金を借りることができたという結果があります。外見的な魅力よりも、信頼性が優先されたのです。
■3~4歳でも「見た目」で判断している
信頼性の評価が高い顔を良い人と見なすのは、3歳や4歳の子どもからという結果もあります。たとえば、子どもたちは幼稚園に入るころには、戦隊物遊びに熱中しだして、周りにいる大人を悪者にしたてて攻撃し始めますが、大人たちが作り上げた戦隊物の世界には、大人たちのイメージが反映されています。
このように対極的にそれぞれの役割を描くことで、話をわかりやすくしているのですが、子どもたちはその洗礼を受けていることでしょう。つまり、子どもたちがする良い人/悪い人の判断は、生まれつきだけでなく、子どもなりに目にしたメディアの影響を受けている可能性があるのです。
一方で、生後6~8カ月の赤ちゃんでも、信頼性の高い顔をそうでない顔よりも好むこともわかっています。私たちの研究室でも、トドロフたちの作った信頼性の高い顔や支配性の高い顔を生後6~8カ月の赤ちゃんに見せ、顔の好みを調べました。
実験の結果、信頼性の高い顔をそうでない顔よりも好むことがわかりました。3歳や4歳なら、大人の様子を見て信頼性の高い顔を好むようになることはありえるでしょう。それが赤ちゃんであっても同様の結果が見られたことは不思議です。おそらく信頼性の高い顔の持つ、独特の微笑みのような表情に魅せられたのだと思います。
■顔の信頼性は罪状判断につながる可能性も
表情の認知については、感情が関わることから幼い赤ちゃんのころから敏感です。生まれたころから表情を察知し、生後半年程度で表情の区別ができます。ということは、赤ちゃんは表情の違いから人を区別し、それが「良い人」と「悪い人」の区別へとつながっていく可能性があります。
ここで極端な話を紹介しておきましょう。信頼性は、罪状判断の鍵ともなる可能性が研究から示唆(しさ)されています。
フロリダの矯正局の死刑と終身刑の犯罪者700名の顔写真を大学生に見せて印象を判断してもらった結果、信頼性が低いと判断された顔には、死刑判決の者が多かったというものです。もちろん判決後の顔写真だけの判断ですから、罪状に直接関係しているわけではありません。つまり、信頼性の印象によって、量刑が重くなっている可能性があるわけです。
人の直観的評価をあらためて考え直すべき、少し背筋が寒くなる結果ではないでしょうか。
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山口 真美(やまぐち・まさみ)
中央大学文学部教授
博士(人文科学)。専門は実験心理学。文部科学省・学術変革領域(A)「顔身体デザイン」の代表として、文化人類学、哲学、心理学を横断しながら新しい身体のあり方を探る。また、20年以上にわたる乳児を対象とした実験心理学の経験を基に、発達に関する科学的なメッセージを発信している。日本赤ちゃん学会理事長、日本顔学会理事。著書に『自分の顔が好きですか?』『こころと身体の心理学』『ままならぬ顔・もどかしい身体』など多数。
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(中央大学文学部教授 山口 真美)

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