美白は本当に魅力的なのか。顔研究の第一人者である山口真美氏は「ルッキズム問題の影響で、世界的には『白い肌が良い』と言いにくくなった。
現に、“魅力的”とされる肌の色が変わってきている」という――。
※本稿は、山口真美『美人はそれほど得しない? ルッキズムの科学』(ハヤカワ新書)の一部を再編集したものです。
■世界でNGになった「ホワイト」
ルッキズムの問題の影響で、「美白」という言葉が化粧品業界のコマーシャルから消え、「ブライト」という言葉がよく聞かれるようになりました。ホワイト(白)という言葉はNGで、ブライトならば許されるというわけです。同様の理由で、小学校で使う絵具やクレヨン、色鉛筆から「肌色」という色の名前も消え、「薄だいだい色」となりました。
いずれも人種にまつわる肌の色の問題が原因です。白い肌を良いと安易に口に出すことが憚(はばか)られるようになったのです。そもそもの背景には、これまでハリウッド映画をはじめ、さまざまなメディアで白人を良いものとした情報を流し続けてきた歴史があります。
こうした歴史的な背景が人々の潜在意識の判断を作り上げていることを、マーザリン・バナージらは示しました。彼らの研究によると、白人のみならず黒人の中にも、潜在意識で白人を良い人と判断する傾向があるとのことなので、驚くべき影響力です。
こうした実証的なデータもあって、情報を提供し続けたメディア側も責任を持ち、バイアスのある情報を排除すべく動いている。それが現在のアメリカを中心とする西欧社会の姿勢でしょう。
白い肌や白人が良いなどといった「白=良い」とする連想をメディアで流し続けることによる連合学習を避けるため、細心の注意を払う意志があるのです。
■「白い肌」は本当に魅力的なのか
一方で、日本では、今でもファッション雑誌などに白人モデルが使われています。直近で問題になったのは、洗剤のコマーシャルに女性の白人モデルを使い、汚れを落として白くなるというイメージに直結させるものです。この広告戦略は、かなり厳しいものでした。
さて、肌に関するNGの知識を頭に入れたうえで、人の本性の話に入りましょう。白い肌は、本当に魅力的なのでしょうか。美白好きな日本人からすると納得がいかない結果なのですが、実は最近の研究は、真逆の結果を示しているのです。
あらためて進化心理学からすると、魅力は遺伝子を残すためのアピールです。動物社会でいえば、体格が大きくて子孫を守れることですが、人間の場合は、健康であることが最大のアピールとなるようです。
逆に言うと、生物は不健康な個体を排除する性質があり、不健康は忌避されます。生物をベースとしたかなり過激な考えに立てば、自分の子どもに健康な遺伝子を残すために、健康的な相手を配偶者に選ぶよう遺伝子によって操作されているというわけです。
たとえば、イギリスの著名な動物行動学者デズモンド・モリスは、赤い唇や頬の赤さの魅力は、健康さを示すものだといっています。
化粧は社会や時代によって変わりますが、1980年代には、血色の良さを示すこれらのシンボルが化粧にも生かされていました。白い肌に赤い紅を引いて頬を赤く染めるというクラシックな化粧法は、これらを際立たせる演出だといいます。
■「魅力的な顔」に食生活が影響
人間社会における魅力は、時代や社会事情によって変遷します。これより以前の食糧事情が悪く栄養が足りなかった時代では、ふくよかさが豊かさの象徴として魅力とされていた時代もありました。豊かさは、子どもを産み育てる富を表します。さらに後述するように左右対称の顔も魅力の一つで、遺伝に関わる深刻な病気を持たないことを示すともいわれています。
さて、これらの魅力が人間社会の原始的な雰囲気を残しているのに対し、食糧事情も経済事情も豊かになった現代では、魅力も変化しています。
野菜を多く含む健康的な食生活を送る女性と、そうでない女性の平均顔をコンピュータ・グラフィックスで合成したイギリスの研究(注)があります。どちらの顔が魅力的かを調べたところ、健康的な食生活を送る女性の顔が選ばれました。
さらに健康的な食生活を送って魅力的と判断された顔の特徴を分析したところ、肌に違いがあることがわかりました。肌のツヤや滑らかさは重要ですが、それにもまして重要だったのは肌の色でした。
野菜に含まれるカロテンが入った食べ物を摂取すると、肌が黄色味を帯びるのです。
たとえば、フラミンゴのピンクの羽も食べ物の色素によるものです。それと同様に、カロテンの効果が肌に表れるというのです。
注:Perrett, D. (2017). In your face: The new science of human attraction. Bloomsbury Publishing.
■白い肌は病的に感じられることも
にわかには信じがたい話ですし、美白好きの日本人からすると意外に思うかもしれません。しかし、コンピュータ・グラフィックスで肌色を変化させた顔を評価させた実験では、少しだけ赤黄色い色をほどこした肌の女性のほうが、健康的で好ましいと評価されることがわかりました。しかもこれは白人だけではなく、黒人もアジア人も共通していたのです。
また、ある程度日焼けした顔のほうが魅力的であることも示されました。昔ながらの白い肌はむしろ病的にも感じられるようで、現代らしい健康的な生活が魅力に結びつくという結果が示されたのです。
健康を示す肌の色が、日焼けやカロテンを含む黄色い肌にあると言われたとしても、多くの日本女性は納得しないのではないでしょうか。日本では「色白は七難隠す」ともいわれ、化粧品会社の宣伝で美白と美肌が強調されてきたように、日本女性の美白へのこだわりは圧倒的です。その背後には、美肌をめぐる別の要因が働いているようです。
その要因を考えるために、健康とは逆の肌の劣化状態について考えておきましょう。肌の劣化には、不健康な生活によるものも大きいことは事実のようです。

■肌を劣化させる最大の要因
インターネットやワイドショーなどで、ハリウッドスターたちの整形疑惑が時々持ち上がります。有名なスターが、ドラッグの乱用などの不健康な生活を過ごしているうちに、あっという間に過去とは比べ物にならない容姿となっているのに驚かされることもあります。
進化心理学者のデイビッド・ペレットたちは、健康な生活を送っている人と喫煙者との間で、肌の劣化の具合を画像合成で比較しました。同じ生活を20年間続けたあとの顔を見比べると、喫煙者の肌の劣化の激しさと皺の多さには、目を見張るものがあります。
タバコなどの化学物質はビタミンCを破壊し、肌の弾力を作るコラーゲンの生成を妨(さまた)げます。美容にとって一番大切とされる、肌の張りと弾力性を失ってしまうことにつながり、肌の劣化の最大の原因となるのです。
肌を美しく見せることは化粧においてもとても重要で、日本人の化粧の基本といえば、ファンデーションで肌を作り上げることから始まります。しかし、欧米の化粧では、肌を美しく見せるファンデーションはそれほど使われないと聞きます。欧米では、ファンデーションよりも目や口のポイント化粧を重視します。
■日本の「美白信仰」の背景
欧米と比べ日本では、美肌と美白信仰が強いというわけですが、その信仰の背後にあるものはなんでしょうか。
美肌の完璧な姿は、赤ちゃんのツヤすべ肌でしょう。肌は加齢によって、皺やシミができますが、特に紫外線は肌への最大のストレスで、そのストレスは蓄積され、年を経てからじわじわとシミになってきます。
化粧品会社の宣伝にもあるように、紫外線は時限爆弾のように肌に働くのです。
そうであれば、美肌を保つということは、加齢を隠すことと同義といえるでしょう。年齢差別が厳しく指摘される現代社会で、美白と美肌を保つことにあくせくするのは矛盾しているようにも思えます。
年齢差別にも関わる問題に触れるので、伝統的な進化心理学の考えをあらためて記しておきましょう。進化心理学の考えは、あくまでも仮説です。しかも次に説明するような実証しようがない仮説で、まったく正しいというわけではありません。それでは無駄な話と思われるかもしれませんが、進化心理学の真意は、人が持つ生物としての本性を把握し、野放しにしないことにあります。それを踏まえたうえで、説明していきましょう。
■「若さを求める」という人の本能
生存競争の視点からヒトを考える進化心理学では、配偶者として選択されるのは若い女性で、健康な遺伝子を子孫に伝えることが選択のポイントだと考えます。女性が自由に行動する現代社会では、バランスの良い食生活を示す美肌に健康さを示す魅力があることがわかりました。
つまり、過激な進化心理学によれば、魅力は健康さに宿り、それを示す肌の美しさには年齢の効果も大きいので、結果的に若い相手を選ぶことにもつながると考えます。
美肌を演出するテクニックは飛鳥時代から存在します。
白粉に赤い口紅を描くテクニックによって、美肌と唇の赤さによって表現される健康さ、さらには色の対比という錯視から肌に透明感を演出することもできます。
日本の化粧品開発は、皺とシミという、肌の老化にかかわる二大問題の解決をめざしています。肌の上で光を反射させることによって、透明感を演出して見せるファンデーションもあります。消費者が欲しいと思う肌を表現する言葉も多様で、肌の張りを示す「ジューシー肌」や、赤ちゃんのような「ふっくら肌」など、望ましい肌の質感の演出に技術は進化しています。
しかし、このようにだんだんと要望が過熱し始めると、年齢差別が気になってきます。先に説明したように重要なことは、若さを求める個々の人々の欲望は、本能で止められないことを把握しておくことです。若さの魅力を求める本性を知ったうえで、加速させすぎない、年齢差別とのバランスを気にかけることが必要です。

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山口 真美(やまぐち・まさみ)

中央大学文学部教授

博士(人文科学)。専門は実験心理学。文部科学省・学術変革領域(A)「顔身体デザイン」の代表として、文化人類学、哲学、心理学を横断しながら新しい身体のあり方を探る。また、20年以上にわたる乳児を対象とした実験心理学の経験を基に、発達に関する科学的なメッセージを発信している。日本赤ちゃん学会理事長、日本顔学会理事。著書に『自分の顔が好きですか?』『こころと身体の心理学』『ままならぬ顔・もどかしい身体』など多数。

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(中央大学文学部教授 山口 真美)
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