経済専門家の間で、日本のGDP(国内総生産)は、インドに抜かれたとの見方が多いようだ。2025年10月、国際通貨基金(IMF)は、2026年のインド経済の規模は4兆4636億ドル(1ドル=157円で約700兆円)、わが国は4兆2798億ドル(671兆円)と予想した。
最近、わが国の凋落ぶりは鮮明化している。経済の実力を示す潜在成長率を見ても、低下傾向はかなり顕著だ。人口減少・少子高齢化の進展で、国内での経済活動は低迷気味で、企業の期待収益率も下がっている。そのため、国内事業を縮小し海外事業を強化する企業は増えた。それに伴い、海外に逃げ出す資金は増加している。
■「起業家精神」のある企業が成長を牽引する
経済成長率は、ヒト(労働力)とカネ(資本)の投入量、それ以外の要素(全要素生産性)から成る。インドの場合、人口は経済成長を支える重要な要素になっている。主要先進国企業などが脱中国で、インドでの事業展開を積極化していることも見逃せない。
ただ、人口が減少するからといって、経済が必ず縮小するとは限らない。人口が減少しても、イノベーションで企業の付加価値=儲けが増えれば経済は拡大する。しかし、現在のわが国を見ると、イノベーションが力強く進んでいるとは言いにくい。問題は、成長期待を高める、民間部門の「起業家精神=アニマルスピリッツ」があまり感じられないことだ。
日本経済の地位低下で、国内の経済的な富は海外に流出することが懸念される。それは、私たちの生活は一段と厳しくなることを意味する。そうした事態は、何とか避けたいものだ。
■S&P500やオルカンを買い漁る日本人
ここへ来て、わが国の人口減少・少子高齢化は深刻さを増している。国土交通省と総務省の調査によると、2024年4月時点での限界集落数(65歳以上が人口の50%以上を占める集落)は3万1515、調査対象の40.2%を占めた。
人口減少は、自力で国内の経済を運営することが難しくなる主な要因だ。わが国の企業は国内事業を縮小し、成長期待が高いインド、米国やASEAN新興国地域など海外事業をより重視するようになった。
製造業だけでなく、保険などの典型的な内需分野でも、海外戦略を拡充する企業は増えている。海外での買収などにより、国内から海外へ流出する資金は増えた。
そうした動きを映して、海外子会社は収益の4~5割程度を現地で再投資している。国内の企業が、海外で生み出した付加価値の半分程度が国内に戻っていない。成長期待の高い米国株など、海外の株式に資金を振り向ける個人や機関投資家も増えた。
■ヒト、モノ、カネが海外へ流出していく
円安の進行は、私たちのくらしにプラスとマイナスの影響を与える。プラス面として、輸出の増加がある。例えば、自動車や工作機械など競争力がある分野では、円安により企業業績はかさ上げされる。それは株価の上昇、増配、さらには賃上げに必要だ。
一方、プラスの面以上に、近年のわが国にとって円安のマイナス面は増えた。その一つは物価上昇だ。足元で、イラン戦争によって原油価格が上昇した。周辺海域での商船運航リスクの高まりも物価押し上げ要因になる。
長い目で見た円安や輸入物価上昇で、わが国のインフレ懸念は一段と高まるだろう。物価の上昇は、私たちの日常生活にとって重大なマイナス要素だ。
ただ、私たちにとって、日本経済の地位低下の影響はリアルタイムで実感しづらい。
長い目で見ると、わが国の経済の実力が低下すると、海外へのヒト、モノ、カネの流出は加速する。それにより、物価の安定や経済成長を目指すことは難しくなる。インドがわが国を追い抜いたことは、そうした負の影響が増えるきっかけの一つとみるべきだ。
■モディ政権の物価高対策、一方日本は…
対照的に、近年のインド経済は好調だ。2025年10~12月期の実質GDP成長率は、前年同期比7.8%増だった。前期の公共投資の反動減で、GDP成長率は7~9月実績を下回った(減速した)。それでも、世界的にみて実質GDP成長率の水準は高い。
インド経済の高成長の原動力は、人口ボーナス(人口増加による経済へのプラス面)だ。2023年、インドは中国を抜いて世界第1位の人口大国に成長した(当時の人口は14億3800万人程度)。2060年代までインドの人口は増加する見通しだ。
人口が増加すると、当然、個人の消費は増加する。自動車や家電などの耐久財、赤ちゃん用品、ペット用品など消費財を中心に、中長期的な需要増が期待できる。
また、今のところ、インドのインフレ率は抑制されている。これは、ウクライナ戦争が発生する前と後での大きな変化だ。インドは、エネルギー資源などを輸入に頼ってきた。そのため、原油などエネルギー資源の価格が上昇すると、インフレ率は上昇しやすかった。
しかし、2022年4月、消費者物価指数が前年同月比で7.8%上昇して以降、インフレ率は鈍化した。足元は2%台だ。モディ政権がロシア産の安価な原油輸入を積み増した。その影響は絶大だ。原油の輸入価格下落により、インドは物価を抑えつつ、個人消費を拡大させることができている。賛否両論あるが、物価高を抑制できているのは、わが国の経済と対照的である。
■iPhoneの生産拠点も中国からインドへ
人口増加による都市開発やインフラ整備により、公共投資、企業の設備投資も増加する。設備投資の増加は鉄鋼、石油化学、機械、自動車などの工業化の加速を支える。工業化の加速には、多国籍企業の脱中国も影響した。いわゆる、産業拠点の地殻変動だ。
これまで、希土類(レアアース)、汎用型の半導体、医薬品などの分野で世界の企業の中国依存は高かった。中国は、台湾に対する圧力も引き上げた。そうした中国依存のリスク引き下げ、地政学リスクの分散、そして人口増加による安価かつ豊富な労働力の確保ができると、ASEAN新興国やインドに事業拠点を移管する企業は増えている。
アップルがiPhoneの主たる生産拠点を、インドに移管したのは代表例だ。わが国でも、製造業、非製造業の両分野で、中国からインドなどへ経営資源を配分する企業は増えた。
■日本の先行きを案じた若者の「頭脳流出」
実は、ここ1年ほどの間、外国為替市場ではインド・ルピーも、米ドルに対して下落した。それでも、インドは実質ベースで高い経済成長率を達成し、わが国の経済を上回る規模に成長した。人口増以外に、インドではAI、半導体などで自国企業を増やし産業を育成しようとする計画も明確だ。
わが国にとって、高い経済成長を実現することは難しくなっている。この状況は、短期間で改善できない。物価の上昇や社会保障費負担などで、私たちの生活負担は増えると懸念される。
今後、経済低迷が続くと、賃金と雇用の環境の不安感を持つ人は増えるだろう。最近、国内の高校を卒業した後、海外の大学に進学する10代の若者がじわじわ増えている。一旦、国内企業に就職して必要なノウハウや技術を会得して、その後、海外で起業する人もいる。知的資産の海外流出だ(頭脳流出)。その背景には、先行きへの不安の高まりがあるはずだ。
■政策が「経済大国」の運命を左右する
その一方、マニュアルなどで明文化できる業務を、人工知能に任せるようになった。インドやASEAN新興国の安価、かつ豊富な労働力を活用するために、海外進出をより重視する企業もある。わが国経済の地位が低下すると、雇用と所得機会の喪失に直結する問題である。
また、高市政権による積極財政方針で、社会保障制度などを支える財政の懸念も高まる。インドのように人口が増加している国では、人口増が税収増を支える。対して、わが国では人口減少により社会保障関係費は増え、制度の持続性も低下した。
現在の経済状況が続くと、わが国の存在感はさらに低下するだろう。それが現実になると、国際社会での発言力は低下するだろう。
インドがわが国を追い抜いたことは、私たちの生活環境の厳しさが一段と高まった象徴といえる。私たちは、その意味を過小評価すべきではない。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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