■大阪地検トップが部下を襲った
大阪地検のトップだった北川健太郎元検事正が準強制性交罪で起訴された事件で、被害者で検事のひかり氏(匿名)が3月2日会見を開き、検察内部で自分が受けたような犯罪被害やハラスメント被害が起きないよう、第三者委員会を作って実態調査を行い、職場の安全を確保することを、平口洋法務相と畝本直美検事総長に要望した。
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ひかり氏が被害申告をしてから2年。何度も検察幹部相手に繰り返してきた要望で、組織のコンプライアンスとしては当然のことだ。今年に入ってからも福井県や横浜市、小学館、ここ数年でも兵庫県やフジテレビ、ジャニーズ事務所、防衛省、全国の自治体や教育機関など様々な組織で第三者委員会を立ち上げ、ハラスメント等の調査結果を発表し、社会への説明責任を果たすことが常態化している。
「他の公共団体や企業でしていることが、なぜ検察にはできないのか」「絶望的な2年間だった」とひかり氏は訴える。今月末までに実行されなかったら辞職する覚悟で、自死を考えるほど追い詰められているという。なぜここまで深刻な事態になっているのか。現職知事が女性職員へのセクシュアルハラスメントをして辞任した福井県や、自衛隊員だった五ノ井里奈氏が同僚から受けた性暴力を告発した防衛省と比べると、自らのキャリアと人生をかけて訴えている被害者の女性検事に対して、あまりにも冷淡な検察の姿が目立つ。
■検察はなぜ第三者委員会を作らないのか
同じトップによる不祥事でも、福井県の場合9カ月で、通報から第三者委員会の調査報告書発表まで行き着いた。2025年4月、県の公益通報の外部窓口が「杉本達治知事が公務員倫理とハラスメント防止に関する法令に違反するLINEメッセージを職員に送っている」との通報を受けた。5月から8月、人事課が通報者、知事、関係者に聞き取りをし、9月、弁護士3人に特別調査委員を依頼。
しかし、そもそも検察庁には福井県のように、外部の公益通報窓口はない。ひかり氏も北川被告の被害申告をしたのは上司を通じてだった。しかし「上司が加害者とつながっている可能性もあるため、報復人事や人間関係の悪化を恐れて、被害を訴えられない人も多いと思う」と話す。実際、福井県でも、通報者は上司や知人の職員にも相談していたが、人事課に情報は共有されず、また通報者が内部窓口の一つである県人事委員会に相談した時も、適切な対応がされていなかった。
■前知事から被害者を守った福井県
ただ一方、福井県では36歳の新しい知事の下で県条例を改正し、辞職した杉本前知事から退職金6000万円を返納させる動きが具体化している。しかし検察庁では、高額の退職金をもらって辞職し、その後逮捕された北川被告に対して、何の対処もされていない。
特筆すべきは、福井県の場合、杉本前知事から被害を受けた女性職員4人が勤務を続けられるよう、調査報告書で細心の注意が払われていることだ。「声を上げると仕事を失うのではないか」「狭い福井で噂が立ち、家族に迷惑がかかるのではないか」と恐れてきた被害者の不安に配慮している。加害時期も20年と長いスパンを取って被害者の特定を避け、被害者に落ち度はないこと、被害者の怒りや苦痛、恐怖、屈辱感などの精神的ダメージについて詳しく述べ、末尾の付言で、被害者の詮索や侮辱、名誉棄損は許されない、と念押ししている。
■被害後も検察に残った女性に…
これに対しひかり氏の場合、勤務を続けるための配慮はほとんどなかった。
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■フジテレビより自浄作用がない
ひかり氏は大きなショックを受けて復職できなくなったが、その後も検察幹部はずっと、体調を崩したひかり氏の様子を聞き取りすることもなく、放置。ひかり氏の求めに応じて2025年11月にようやく面談した時も、ひかり氏にとって、もはや「恐怖の象徴」となっていた検察庁での面談に固執。結局、別の場所で面談は行われたが、「主治医や支援者の先輩検事と連携し、自分の病状や心情に配慮した支援体制を作ってほしい」とひかり氏が要望したのに対して、その後もなしのつぶてだという。
フジテレビの女性アナウンサーが中居正広氏に性暴力を受けた後、被害女性のサポートを女性幹部1人に丸投げしたまま、上層部が放置していたことが批判されたが、それを上回るひどい対応だ。
■「命にかかわる」ほど追い詰められた
ひかり氏は検察から北川事件の保秘を求められていたため、検察内部で相談できず、苦しい思いをしてきた。その中で唯一、許可をもらって話し相手になってくれていた支援者の先輩検事も、近く異動することとなった。一方で、公益通報の形でひかり氏が記者会見をした後、外部発信しないよう口止めするメールを送ってきた検察幹部の上司が、大阪地検トップに就任。
■陸上自衛隊の性暴力事件の場合
同じ官庁の防衛省では、陸上自衛隊で性暴力を受けたと五ノ井氏が2022年6月に告発した後、11月にハラスメント防止対策有識者会議を設立。会合を複数回開く中で、五ノ井氏も招いて話を聞いている。また2022年9月から11月、全隊員を対象にハラスメントの特別防衛監察を行い、2023年12月、免職2人を含む207件245人を処分したと発表。五ノ井氏が国と元自衛官5人に対し損害賠償を求めた民事訴訟でも、国が安全配慮義務違反を認め、五ノ井氏に賠償金を支払うことで2026年1月、和解が成立したところだ。
こうした他省庁の姿勢に比べ、検察庁には、性暴力被害者であるひかり氏に寄りそう姿勢が見えない。職員であれば、被害者として意見や要望を言う権利は圧迫され、検察幹部の意向に従うしかないのか。それが正当化されるなら、検察職員には人権がないことになる。検察のそうした姿勢は、一般の被害者への対応にも容易にスライドする危険がある。
■検察という組織独特の「歪み」
おそらく検察には元々「容疑者を起訴して有罪にするのが仕事で、被害者対応は本来の仕事ではない」という意識があり、それが今回表れているということではないか。刑法自体が容疑者と国家権力の二者関係を基本にしており、それに対する批判から、被害者を保護しその権利を保障する制度が整えられてきたが、検察幹部は被害者支援の重要性をどれだけ理解しているのだろうか。
また北川被告の起訴が、検察組織内の性暴力やハラスメントの再発防止になるわけではない。犯罪の追及と職場環境の安全は、別次元の話だ。起訴したからといって、その代用はできない。問題はむしろ、公訴権を独占しているのに、このような対応しかせず人権感覚の欠けた組織に、まともな法の執行ができるのかということだ。
■トップの検事総長は女性なのに…
そもそも組織のトップが部下に性暴行をした容疑で逮捕されるという、福井県や自衛隊、フジテレビでも起きていない重大犯罪。検察だけ特別扱いで、何も自浄努力をしなくていい合理的理由は存在しない。第三者委員会を作り、外部の目で検察の組織風土をチェックすべきで、もし自らそれができないなら、国会の場で議論し、今後何らかの検察監察システムを導入する必要があるのではないか。
現在検察組織を束ねる検事総長は、初の女性トップの畝本直美氏だ。女性がトップになったからといって、男性ができなかったことをするよう求めるのは、女性にばかり男性以上の成果を期待する逆差別という側面はある。しかし現実に、性暴力被害者には女性が圧倒的に多い。被害を受けた女性職員に寄りそわず、辞職や自死を口にするところまで追い込んでいくのが、初の女性トップのいる組織であるという状況は、ジェンダー平等最底辺国の権力機構の現在位置を映し出していて、日本の不幸を象徴している。
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柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト
コーネル大学Ph. D.。
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(アカデミック・ジャーナリスト 柴田 優呼)

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