現代はリアルもネットもなぜかみんな怒っている。反論すればさらにヒートアップし収拾がつかない事態に。
いったいどうすれば。精神科医の和田秀樹さんは「イラっとしても、やり返せば損をする。身を守るための『スルーする技術』が重要だ」という――。(第2回/全3回)
※本稿は、和田秀樹『感情にふりまわされない心の整理術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「感情」はあっていい、でも「感情的」にはならない
最近、感情をコントロールできずに不機嫌になる人が多くなっているような気がします。罪が重くなっても、あおり運転がいまだ続いているのはその一例でしょう。
電車に乗れば乗ったで、会社に行けば行ったで、心には何かしらの波風が立ちます。不満、怒り、不快、イライラ……いらだっている人がそこかしこにいます。
私は、悲しんだり、不安になったり、怒ったりといった感情がわいてくることが「いけない」というつもりは毛頭ありません。
「感情」はあっていいのです。でも、「感情的」になって爆発することなく、うまくコントロールし、心の動きにふりまわされないようにすることが大事だとお伝えしたいのです。相手に対して暴言を吐くとか手を出したりするような展開は、絶対に避けるべきです。

■「感情的になるシチュエーション」を回避する
私自身の最大の「感情的にならない技術」は、感情的になりそうなシチュエーションを予期して避けることです。
たとえば、自分のYouTubeやブログになにかメッセージが来ても、題名や書き出しを見ておそらく不愉快なメッセージだとわかったら絶対に開けません。読みません。
「なんだ、そんなことか」といわれるかもしれませんが、いわゆる「すぐ感情的になる人」というのは、こうした予防的回避行動を取ることができないのです。
無防備に「敵」と出会い、反射的に、感情的な反応をしてしまいます。しかも、そのとき自分が感情的になっていることにも気づかないようです。
■「感情」に翻弄されないための3つの対処法
もちろん、感情的になるシチュエーションが簡単には避けられないこともあるでしょう。
そこで、そういう場面に陥ったときにどう対処すればいいかを、前もって考えておくことをおすすめします。
「対処法」を用意していれば、心に余裕も生まれます。私はそのための秘策を3つ、見出しました。
■[対処法1]「自分はほかの人よりもせっかちである」と自覚する
1つ目は「自分がほかの人よりもせっかちである」と自覚することです。自分の性格の偏りを認めることで、怒りをセーブしたり、コントロールしたりすることができます。

実は、私は非常にせっかちな性格です。たとえば自動車を運転していて、前の車が黄信号で止まったらカッとしてしまいます。
ただ、せっかちであることを自覚しているだけに、私はその対処法をあらかじめ決めていて、それに沿って行動しています。前の車がノロノロ運転だろうが、黄色で停止しようがクラクションは鳴らしませんし、パッシングもしません。ましてや、あおったりなど決してしません。
代わりに車の中で、相手をボロクソにけなします。たとえせっかちで感情的になることがあったとしても、その怒りは他者に向けることなく、車内という自分だけの空間で「消費」しています。
■[対処法2]ものごとを決めつけない
2つ目は、自分の考えを絶対視せずに、他の可能性も認めることです。感情的になりやすい人は、「should思考」が強いのです。常に「~でなければいけない」と考え、強い思い込みや決めつけをおこなってしまいます。
これを、今日からは「wish思考」に切り替えましょう。「~だったらいいな」と捉え、ものごとには黒でも白でもないグレーなゾーンがあると柔軟に受け止めるのです。
正しさにこだわるのを止めれば、ストレスは減ります。
激しい感情が出るのは、自分が定めているルールや価値観と違うことを相手に言われたときだと思います。
自分の主義信条を持つことは悪いことではありませんが、それがあまりに強くなると、異なる意見の人が許せなくなり、感情的になってしまいがちです。
■人は突然スイッチが入って「豹変」するもの
ある人と対談をしたときのことです。
それまでずっと穏やかに会話が進んでいたのですが、私が健康診断について私見を述べたところ(たとえば私は、健診の結果など気にする必要はない、それどころか健診そのものが不要だという考えです)、その方は「医者がそんなことを言ってどうするんですか」と、急に語気を荒らげて言い出すのです。
その人の健診に関する常識なり、大事にしている価値観とはまったく相容れないことを、私が口にしたからでしょう。その豹変(ひょうへん)ぶりには驚きましたが、私はあえて反論しませんでした。
「健診は重要だ」と考える人が世の中にはたくさんいることを知っていますし、それはそれでひとつの考えとして尊重したいと思っているからです。
「なるほど、Aさんはそういうお考えなのですね。それも大事な視点ですよね」
世の中にはいろいろな意見があると認め、絶対に正しい答えはないんだと思うようにしていたので、私はとっさに、相手の考えを否定しないよう、同調するような相槌を打つことで攻撃をかわし、対談を無事に終えることができました。
■[対処法3]結果的に「自分の得」になればいい、と考える
3つ目は、結果を重要視するということです。結果的に自分の得になればいい。
そう思えば、一時の激しい感情に左右されることを抑えられるでしょう。
たとえば先の例のように、前を走る車の運転にイライラしたからといってあおり運転などをしたら、逮捕される可能性もあります。「和田秀樹、あおり運転で捕まる」などと報道される事態にでもなれば、たちまち社会的な信用を失ってしまいます。
前述の対談のケースでも、対談相手が私の意見に反論したからといって、そのことに感情的に反応し、再反論を試みても得るものは何もありません。
仮に相手を論破できたとしましょう。その場では「勝ってよかった」と思うかもしれませんが、後になって「しまった。言いすぎちゃった」と後悔することのほうが多くありませんか。あるいは、相手から敬遠されるようになったたらかえって損をするかもしれません。
建設的な議論ではなく、感情な言い合いをしても、得るものは何もありません。
■[実践メソッド1]3秒間深呼吸をする
この3つの「秘訣」を踏まえたうえで、怒りを消す実践的なメソッドをいくつか紹介します。
まずは「3秒深呼吸をする」。
人間には大脳皮質という理性的な脳があります。
怒りの感情が湧いて行動に出がちな時に、大脳皮質が「ここは我慢のしどころだ」とブレーキをかけてくれるのです。この働きを促してくれるのが、酸素です。
「頭に血が上って、真っ白になってしまう」「怒りでものを言えなくなってしまう」「気持ちがどんどん高ぶる」といったときは、脳が酸素不足でSOSを出していると考えてください。
そんなときは、深呼吸をしてとにかく脳に酸素を送ります。
■[実践メソッド2]カラ元気ではね飛ばす
続いて「カラ元気ではね飛ばす」。
たとえば仕事の終業間際、上司から「これ、急ぎの仕事。今日中だからね」と言われたら、ムッとするでしょう。それでも客観的に見て、引き受けるのが正解なら四の五のいわずに仕事に集中するのです。
注文があると「喜んで!」と威勢よく応える居酒屋がありますよね。あのノリを見習いましょう。“カラ元気”を演じることになるわけですが、不思議なことに演じているうちに本当の元気が芽生えてきます。
前向きな気持ちでやる仕事は、知らず知らずのうちに作業効率が上昇します。
得るものがたくさんあるのです。
■[実践メソッド3]3秒だけ怒る
「3秒だけ怒る」という方法も効果的です。
日頃から適度に、そして上手に怒る。つまり怒りを「小出し」にしておくことで、何かあっても大爆発せずに済みます。
ポイントは「3秒だけ怒る」こと。ダラダラと長く怒り続けていると、不快な気持ちが長続きしてしまいます。
サッと怒って、後腐れなくしたいものです。
■[実践メソッド4]心地のいい景色を思い浮かべる
「気持ちのいい青空を思い出す」というアプローチも、怒りを鎮めるために効果的です。
私の好きな言葉に、「comfortable」があります。「心地よい」「快適な」という意味です。
青空に限らず、対象は何でもいいのです。イライラしたときには、あなたにとっての「comfortable」な光景を思い浮かべることを習慣にしてみてください。
■[実践メソッド5]AIを活用する
最後に「AIに相談してみる」。
AIは常に冷静です。感情がないので、あなたの怒りの発言に対して怒りで応じるということはありません。反対にあなたの心に寄り添ってくれるでしょう。
海外の事例ですが、自殺願望を持つ人がAIに相談し、相談者の願望に沿った答えを示すAIに従っているうちに最終的には命を絶ってしまったというケースもあります。AIをうのみにせず、使い方は慎重にしなければなりません。
ただし、適切に使えば、AIはあなたの感情に上手に合わせてくれます。有能な執事がいると思ってもいいくらいでしょう。AIの答えを聞くうちに、あなたの怒りの感情は収まっていくと思います。
こうしたメソッドを実践するだけで、怒りの大部分はコントロールできます。怒りの感情に思考パターンが支配されないようにすることは、社会生活を円滑に進め、対人関係をよくするための必須のスキルともいえます。
自分自身の感情と上手に付き合い、また、あなたを感情的にさせる「周囲の困った人」にうまく対処するコツをまとめた『』を上梓しました。さまざまなシチュエーション別に対応策を詳しく紹介していますので、ぜひこちらもご参照ください。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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