「すぐ感情的になるから声をかけたくない」と周囲から忌避される人がいる。精神科医の和田秀樹さんは「むかしなら頑固親父タイプだが、いまは自分の生活信条で得た『絶対善』を曲げないタイプが増えている」という――。
(第3回/全3回)
※本稿は、和田秀樹『感情にふりまわされない心の整理術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■人間関係は感情関係
私は「人間関係は感情関係」とよくいっています。
本人は感情的ではない、ごくごく穏やかな性格なのに、なぜか周囲とトラブルになってしまう人がいます。というのも、周囲にはその人の心にさざ波を立てる「困った人」がいるからです。
あなたにもきっと、自分では意識していないつもりなのに、接するだけでつい感情的になってしまうような相手が、友人や同僚、上司や部下にいるのではないでしょうか。
そういう人たちはきっと、自分の優位性にこだわる性格なのだと思います。だからあなたに対して、高圧的だったり挑戦的だったりします。
ただそのとき、「感情的ではない」はずのあなたにも、自分の優位性へのこだわりが生じてしまいます。
上司や先輩だとしても、高圧的に出られると「ちょっと待って」「ずいぶん理不尽じゃないか」という気持ちになります。「自分だってずいぶんと雑な仕事をしているじゃないか」と言い返したくもなるでしょう。
■「感情」は押されれば押し返そうとするもの
これは、感情的には自然な流れです。感情というものは、押されれば押し返そうとします。
相手が強く出てくれば、こちらも負けまいと強く出てしまうのです。
あるいは性格的に気弱な人は、相手が強く出れば引っ込んでしまうこともあります。その場合はあとで不機嫌になります。自分が情けなく思えてくれば、自己嫌悪さえ抱くでしょう。これは最悪の感情の動きです。
「困った人」の言動が、パワハラ・セクハラに当たるようであれば、社内のしかるべき部署に相談すればいいのです。しかしそれほどまでではないレベルなら、訴えることもできずにただイライラし続けることになります。
かといって、「困った人」を相手に怒りを爆発させるわけにもいきません。その場では適当に合わせたり軽く受け流したりして、あとで誰かしらを相手に愚痴をこぼすくらいが賢いやり方です。
とはいえ、特定の相手にいつもいつも愚痴を聞いてもらうわけにもいきませんよね。そんなことをすれば、その大切な人との関係が壊れてしまいます。ときには愚痴なしで、「困った人」をやり過ごすことも大切です。

■「困った人」は「自分だけの世界」を生きている
あなたを感情的にする「困った人」という存在はなかなか定義が難しいのですが、「頭の固い人」という表現が相応しい場合が多いと思います。
自分の考えが絶対に正しくて、それを否定するような意見は決して認めない。そういう人たちなのです。
仮に議論になって、こちらがきちんとした統計学的エビデンスを示したところで、納得しません。
「人間は、塩分をなるべく控えた方が、血圧も下がるし、長生きできる」と主張する人がいたとします。
実は、その考えは最新の科学的調査で誤りであることが明らかになっているのですが、そうしたエビデンスを示したところで、言下に否定する人たちなのです。そういう人を相手に「正しいこと」をいったところで、おそらく感情的な反発がいっそう強くなるだけでしょう。
■「絶対善」にとらわれる人々
「困った人」は、たとえるなら傲慢な頑固親父タイプが多いと思われるかもしれません。
でも、私が精神科医として医療の現場で遭遇してきた限りでは、意外なことに中高年女性のほうが、自分の生活信条で得た「絶対善」を信じて曲げないパターンが多いのです。
「40代以降は痩せすぎると健康を損ねますよ」と説明しても、痩せることが「絶対善」だと信じているので、話は通じません。
本稿では、そうした「困った人」=「頭の固い人」との付き合い方について、具体的なメソッドを3つ紹介します。
■[対処法1]「それもそうだね」と一呼吸置いてみる
あなたがリラックスしてつき合える人は、どんな話でも聞いてくれるし、ときには自分の(厳しい)意見もはっきり口にするでしょう。

あなたも、その人の意見にいつも賛同するわけでなく、「私は違うと思う」と反論することもあるでしょう。
それでも、2人とも自分の意見に固執せず、「それもそうだね」とか「なるほどなあ」と柔らかい受け止め方をするのではないでしょうか。
お互いに「そういう考えもあるね」と、とりあえずウヤムヤに終らせて、人間関係が困ることはありません。
■自己優位性にこだわる人の特徴
実は自分の優位性にこだわる人は、「ウヤムヤ」が苦手なのです。はっきりと白黒の決着をつけたがります。
もちろん黒(負け)は嫌ですから、白(勝ち)にこだわります。ここで感情の押し合いへし合いが始まるのです。
ところが「それもそうだね」と言われると、押し合いは始まりません。言われたほうは自分の意見をとりあえず聞いてもらえたので、ひとまず満足するからです。
■[対処法2]引くことは簡単、少しも疲れない
押されれば押し返すのが「感情の法則」のようなものですから、その逆に、引かれれば引いてしまうのもまた、感情の法則といえるでしょう。
気の合わない相手でも、あっさり「ゴメン」と言われれば、「そんな謝るようなことじゃないよ」と受けるのが、私たち人間です。押したり押し返されたりは疲れますが、相手を許容してこちらがすっと引いてしまえば、それで相手も押さなくなるのですから、楽なのです。
しかも疲れません。
押し合いになっても決着がつくことはないでしょう。引き分けです。腹立たしさだけが残って、結局、なんの進展もありません。お互いにすっと引けば、これも引き分けです。でも腹立たしさは残りませんから、押し合うよりはるかにましということです。
■[対処法3]「他人の気持ちは変えられないもの」と割り切る
「困った人」は、気遣いがない、常識がない、わかっていない、おまけにキレやすかったり感情的になりやすい傾向のある人です。
ですから教え諭して通じる相手ではないし、叱って素直に従う相手でもありません。それどころか、かえって悪感情をまともに浴びてしまい、あなたのほうがキレてしまいかねません。
他人の気持ちや感情を変えることはできません。悪い感情はとくにそうです。となると、相手にしないで放っておくしかありません。

職場だからそうもいかない……ということでしたら、なるべく自然に距離を取って、淡々と報告をしたり仕事を依頼したりすればいいでしょう。それが結局、あなたが感情的にならずにものごとを進めていく最善の方法です。
他人は変えられないものと割り切ってください。
■「オール・オア・ナッシング」思考が危ない
「困った人」は、なんにでも白黒をつけたがります。
たとえば「Aさんは私の考えに反論したから敵。Bさんは私の言い分を認めてくれたから味方」「海外旅行は危ないからダメ。旅行は絶対に国内」といった具合に、オール・オア・ナッシングの考え方です。
実はこうした考え方やものごとの捉え方は「二分割思考」といって、うつになりやすい不健康な思考パターンです。ものごとには白と黒だけでなく、その中間のグレーもあります。グレーも、限りなく白に近いグレーもあれば、黒に近いグレーもあります。
いつも自分の意見に賛成してくれたAさんが、自分の意見に反対したとしても、「今日の私の考え方は、Aさんの考え方と合わなかったんだな」「今日のAさんは、虫の居所が悪かったのかもしれない」「まあ、そんな日もあるよ」という具合にいろいろな受け止め方ができれば、落ち込んだり心が折れたりすることはありません。
多様な考え方を認められる度合いを「認知的成熟度」と呼び、これが高いとうつの予防になるので、心の健康によいのです。

■「認知的成熟度」を上げることが大切
あなたの周囲にいる「困った人」に感情を左右されないためには、まず相手を感情的にさせないことが大事です。
あなた自身が「自分は正しい」という思い込みを捨て、相手の話を聞く姿勢を持ちましょう。これはすべてのコミュニケーションの基本といってもいいはずで、とても大切なことだと思います。
たとえ「困った人」でも、自分の意見や考えをきちんと聞いてもらえれば、感情的にはなりません。いっとき感情が高ぶることがあったとしても、話を聞いてもらえれば、しだいに落ち着いてきます。
あなたの感情をおだやかに保つためにも、あなた自身の「認知的成熟度」を上げていきましょう。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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