■「防衛産業のマイクロソフト」
3月5日、高市早苗首相のもとへ米国のデータ解析企業の会長が表敬訪問したことが、少なからぬ波紋を呼んでいる。
1月にも小泉進次郎防衛相が米ワシントンで幹部と面会したその企業の名はパランティア・テクノロジーズ。「日米の先端技術についての現状と展望について意見交換した」(高市氏Xポスト)というピーター・ティール会長は同社の共同創業者の1人であり、イーロン・マスク氏同様、世界的フィンテック企業PayPalの共同設立者だ。
実は今、大きく変容する世界の安全保障のあり方の中心に君臨するのが同社である。彼らが米軍に提供しているAIシステムのプラットフォームが、今回のイランへの攻撃で早々にハメネイ師ら幹部を殺害し、1月にベネズエラ・マドゥロ前大統領を拉致するなど驚異的な成果を上げたといわれ、より知られるようになった。
2004年創業の同社はロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンなど米国の防衛産業ビッグ5に、売上高こそ及ばぬものの株式の時価総額はこれらをすでに大きく上回っており、「防衛産業のマイクロソフト」とも呼ばれる程の存在感がある。
国内SNS上では、もっぱら同社の持つ「国民監視システムへの懸念」が語られているが、長年安全保障に携わってきた筆者からすれば、ようやく日本も安全保障で世界水準に近づく第一歩を踏み出せるのではないかという期待感のほうが強い。なぜなら、現代の安全保障は高度なデータ解析力やAI技術が不可欠であり、これを欠いたままでは国際社会での競争力や自律性を失いかねないからだ。
■1日約1000の標的を攻撃できる
パランティア社が提供するプラットフォームは主に4つ。まず軍・諜報機関向けの「パランティア・ゴッサム(Gotham)」だ。
2つ目は最新の「パランティアAIプラットフォーム(AIP)」。LLM(大規模言語モデル)を安全なプライベートネットワーク内で運用するもので、イランやベネズエラではこれが戦術案を瞬時に生成した。
3つ目が製造業、金融、航空、医療といった民間企業向けの「パランティア・ファウンドリ(Foundry)」。例えばエアバス社は数百万個の部品供給網の管理に、BP(元ブリティッシュ・ペトロリアム)は石油掘削の最適化にこれを使っている。
4つ目は「パランティア・アポロ(Apollo)。ゴッサムやAIP、ファウンドリを支える、言わば神経系統の役割を果たすプラットフォームである。
■イラン攻撃で使われたシステム
今回イラン、ベネズエラで米軍が使ったのはメイヴン(Maven)という、これら4つの基盤技術を軍事用に特化させてパッケージ化した応用システムである。
メイヴンは軍や諜報機関などさまざまな機関が上げてくる何兆もの断片的なデータ(衛星情報、ドローン映像、電子情報、傍受通信、人的情報など)を「統合」し、1日に約1000箇所もの最適な標的を捕捉、その攻撃方法・順序を決める。以前なら処理に少なくとも数週間ないし1カ月を要した分量である。
そうして作った、例えば敵の軍事施設や人員の動きのようなデータを、直観的に理解できるよう視覚化し、軍の指揮官に提供する。言わば戦争用Googleマップとリアルタイム情報ダッシュボードを組み合わせたようなものだという。
■同社を育んだ米CIAのファンド
パランティアの出自を語る上で欠かせないのが、米中央情報局(CIA)が司る戦略的ベンチャーキャピタル「インキュテル(In-Q-Tel)」だ。1999年に設立されたこの組織は、政府が直接開発するには時間がかかり過ぎる先端ITを、民間の投資スキームを使って迅速に吸い上げるための装置である。
インキュテルはパランティアの創業初期から出資を行い、この支援がその後の同社の成長を後押しした。また、創業当初から「米国の国益を最大化する」ことを理念とし、NATO諸国など、民主主義という価値観を共有する同盟国・友好国のみとビジネスを行う方針を明言している。
ピーター・ティール氏や同じ共同創業者のアレックス・カープCEOは、アップルやマイクロソフトのような「技術で世界を一つに」というリベラル的な理想をはなから受け付けない。彼らが冷戦後の地政学的な冷徹な「戦い」のただ中で産み落とされたからだ。
■目的は「日本の工業製品」
パランティア社の面々は政権が代わる前から、「トランプが勝ったら国防をAIでどう刷新するか、防衛調達をいかに迅速に改革するか」を緻密にシミュレーションしていた。現在は第2次トランプ政権の「ど真ん中」にいる。
ヴァンス副大統領をはじめとする政権幹部たちは、ティールの弟子筋や同調者で固められており、政策の優先順位は彼らの手によって書き換えられているとも言われる。ピーター・ティール氏が「影の大統領」と囁(ささや)かれるのはそのためだ。
■秋田県の町工場のモーターが…
彼らのような米国防衛産業幹部が高市首相や小泉防衛相と面会した目的は、単なる兵器の売り込みではない。彼らが求めているのは、日本の技術力の高い工業製品のサプライチェーンである。
パランティアと並ぶ米国の防衛産業の中枢を担う新興勢力にアンドゥリル・インダストリーズがある。2017年にパルマー・ラッキーらによって設立され、トランプ政権が進める脱中国サプライチェーンを担う「自律型兵器」配備の最も重要なパートナーの一社と見られている。
アンドゥリル社は昨年12月に日本法人を立ち上げ、秋田県の小規模な町工場のモーターを見いだして「100%日本製のドローン」のプロトタイプを作り上げている。
■防衛費増額分が米国の国防産業に?
米国やEU諸国が製造業を軽視しオフショアリングを進めた結果、精密加工の現場を失ってしまった。いくら「脳(AI)」が優秀でも、それを載せて動くドローンや艦艇というリアルな「ボディ」がなければ戦えない。そういう高度な工業製品のサプライチェーンを残す数少ない国の一つが日本というわけだ。
これまで日本の防衛産業、例えば三菱重工業や三菱電機等は、防衛部門の稼ぎは売り上げ全体の1割以下という副業程度でしかなく、しかも競争力に疑問符がつく状態。世界情勢が一変し、需要増に加速がつくこの期に及んで明確な展望を見いだせずにいる。日本の防衛産業の再編も待ったなしである。
米トランプ政権は各国に防衛費の増額を突き付けているが、その増額分がすべて米国の国防産業に持っていかれ、血税が国内の企業にまったく還元されない――そんな事態を招くべきではない。アンドゥリル社の100%国産ドローン一つ取っても、本来なら日本の企業が行うべき案件である。
■民生技術と軍事技術は分けられない
この周回遅れの状態を、ぜひとも一変させなければならない。
体制づくりは始まったばかりだ。数年ほど前から経産省などが主導して日本版インキュテル、つまり防衛テクノロジーのベンチャー等を支援する国家ファンドの立ち上げが政府内部で議論されてきた。防衛省も2024年10月に防衛イノベーション科学技術研究所を立ち上げた。高市政権下で間もなく発足する国家情報局にも安全保障と産業政策の連携強化の舵取りが期待されている。
民生技術と軍事技術を分けることが不可能となった今、日本を「防衛技術供給拠点」へと再定義すること。この冷徹なリアリズムに基づいた戦略こそが、21世紀後半の日本の立ち位置を決定し、日本経済の不可欠性と自律性を高め、私たちの民主主義を守る手段となるだろう。
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平石 積明(ひらいし・せきあき)
セキュリティ会社代表
南ベトナム生まれ。1990年公安調査庁入庁。総務部渉外広報調整官、那覇公安調査事務所長、九州公安調査局長、調査第二部長を経て2025年3月退官、オリガミツキ創業、代表取締役。民間企業を対象に経済安全保障、内部脅威対策などのセキュリティコンサルティング。海外の諜報機関と交流。
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(セキュリティ会社代表 平石 積明 取材・構成=西川修一)

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