焼き鳥チェーンの鳥貴族が東大阪市で創業したのは1985年のこと。現在は全国で688店舗、将来は1000店を目指すほどに規模拡大したが、なぜ成長を継続できたのか。
JOCサービスマネージャーで、組織開発を手がけるチームボックス代表の中竹竜二さんは「店の入り口に掲げられた言葉に、25歳で創業した大倉忠司さんの経営哲学が凝縮されている」という――。
本稿は、中竹竜二・加藤洋平『「人の器」の磨き方 リーダーシップ・コーチングと成人発達理論による人間力の変容プロセス』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
■なぜ「鳥貴族」の入口の札は「うぬぼれ中」か
勝ち続けている組織の器は、どのように磨かれていったのでしょうか。具体的な事例で考えてみましょう。
焼鳥居酒屋の「鳥貴族」を1軒の店から全国規模の外食チェーンに成長させたエターナルホスピタリティグループ社長、大倉忠司さんの取り組みは、組織の器がどう広がっていくかを考えるうえでとても参考になる事例です。
大倉社長には「うぬぼれていきましょう」という独特の口癖があります。同社の経営理念でもある「うぬぼれ」という言葉が生まれたのは、まだ6店舗だった創業期のことです。
店長たちから「社長が日々語る飲食業界の素晴らしさを明文化してほしい」という要望を受け、大倉社長は「うぬぼれ」という一見ネガティブな言葉を理念として掲げました。
なぜ、あえてこのような言葉を選んだのか。大倉社長の答えは明快です。
「社外の人は『何をうぬぼれているんだ』と思うでしょう。だから先にこちらから『うぬぼれてますよ、でも本気ですよ』と宣言してしまうんです」
この真意を端的に説明すると、「焼き鳥で世の中を明るくしていく」という同社の創業時の想いを本気で実現するため、世間からの目を気にせず、堂々とその想いに「うぬぼれ」て働こうという意志の表れだということです。

つまり、世の中を明るくするための目的としての焼き鳥屋という戦略的思考が込められているのです。「焼き鳥屋で世の中を明るくするなんて何をうぬぼれてるんだ」という世間からの批判を恐れるのではなく、むしろ先回りして言語化することで、組織の本気度を示す。これは、経営者としての器の大きさを示す一例といえるのではないでしょうか。
鳥貴族の店舗入り口には「営業中」の代わりに、大倉社長自らの筆文字による「うぬぼれ中」の札が掲げられています。これは、「私たちの焼き鳥が世の中を明るくしている」という信念の表明であると同時に、スタッフがいきいきと働くための拠り所となっています。
■「自分の仕事に誇り持って働ける」
「うぬぼれ中」が逆説的に、仕事への誇りを表現していることがこの言葉の重要な点です。
アルバイトスタッフの一人がこう語ってくれました。
「飲食店の経験がないので初めは不安でしたが、『うぬぼれていきましょう』の本当の意味を知って、自分の仕事に誇り持って働くことができています」
単なる作業が誇りある仕事へと変容する。この瞬間こそが、組織の器を広げる転換点です。組織の理念が個人の自己認識を変え、それがさらに組織全体のパフォーマンスを高める好循環を生み出します。
大倉社長の経営哲学で特筆すべきなのが、焼き鳥屋で世の中を明るくしたいという思いを込めた「うぬぼれ」という理念と利益の明確な順序です。だから、会議ではほとんど数字の話をしないといいます。

「目的は理念の達成です。ただし、理念を達成するためには利益が必要になります。利益はあくまでも手段であって、間違った利益は追いません」
この優先順位を組織全体で共有し、ぶれずに貫くことで持続的な成長を実現しています。ここからわかるのは、短期的な数字に振り回されず、長期的な価値創造にコミットする。この姿勢が、組織の器を保ち続けるということです。
■「失敗から学ぶ」で心理的安全性が高まる
「振り返ると失敗はないんです」という大倉社長の言葉も印象的です。
「失敗から学ぶという考え方を持っているので、すべての失敗も、そのおかげで今がある。そう捉えています」
この考えが組織全体に浸透すれば、心理的安全性が高まり、挑戦を促す文化が育ちます。失敗を恐れずに新しいことに取り組める環境こそが、組織の器を広げる土壌となるからです。
同社の組織の器が真に問われたのは、コロナ禍でした。
業界の中でもいち早く休業を決断し、同時に「給与は100%支給する」ことを発表しました。初年度は倒産の危機も現実味を帯びていたといいます。
しかし、大倉社長の判断軸は明確でした。
「人命第一です。大きな決断をするときは、まず社員が成長するのか、社員が幸せになるのかを考えます。その判断軸で決断すれば、失敗はありません」
この決断は個人の器だけでなく、組織としての器の表れです。危機において何を優先するかは、組織の本質的な価値観を浮き彫りにします。
採用において大倉社長が求めるのは「正しい人間」と「起業家精神を持っている人」です。では「正しい」とは何を意味するのでしょうか。
「善悪の判断をきちんとできることです。人間は弱い生き物ですから、誘惑に直面したときに思いとどまることができるかどうか。そして経営者自らが模範となることです」
根底にあるのは「人間はすべて平等」という思想です。肩書きや立場にかかわらず、人として正しくあることを重視する。この価値観が、組織の倫理的基盤を形成します。

■40年間一度も声を荒らげたことがない
興味深いのは、大倉社長が「隙がないのが欠点かもしれない」と自己分析している点です。
40年間一度も声を荒らげたことがないという一貫性を保ちながらも、次世代に対してはこう期待をかけます。
「私と同じである必要はありません。キャラクターはいろいろあっていい。ただし、いい人間がトップでいてほしい」
組織の器は、一人の完璧なリーダーによって維持されるものではありません。理念を共有しながらも、多様な個性を持つ人材によって受け継がれていくものなのです。
■ウイニングカルチャー(常勝文化)の育み方
私(中竹)がウィニングカルチャー(常勝文化)に注目したきっかけは、米GEのCEOを務めたジャック・ウェルチ氏の経営思想に触れたことでした。成果への徹底的なコミットメントと、それを実現するための組織運営。そして、その文化を永続的なものにすることが、ウィニングカルチャーの本質です。
これに即して大倉社長の経営哲学から学ぶべきことは、真に勝ち続ける組織とは「自分たちにとっての勝利とは何か」を常に問い直し続けるその一徹さです。「たかが焼鳥屋」と自己を卑下するのではなく、「私たちがいるから世の中は明るくなる」と組織全体に灯をともす。この自己肯定こそが、持続的成長の原動力となります。

組織の器を磨くために必要なのは、数字や順位といった表層的な指標だけではありません。
「どのような価値を提供するのか」「どのような存在でありたいのか」という、より深いレベルでの共有が不可欠です。
そして、この深層にある価値観は、トップが自ら体現し続けることで初めて組織全体に根付いていきます。言葉だけではなく、日々の行動と決断を通じて示される一貫性こそが、組織文化を形成するのです。
鳥貴族の「うぬぼれ中」は、単なるキャッチフレーズではありません。それは、仕事への誇り、理念への献身、そして人を大切にする経営哲学が凝縮された、組織文化の結晶だったのです。

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中竹 竜二(なかたけ・りゅうじ)

チームボックス代表取締役、日本オリンピック委員会(JOC)サービスマネージャー

福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部卒業後、レスタ―大学大学院社会学修士課程修了。帰国後、三菱総合研究所で経営コンサルタントとして業務を行い、その後早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。フォロワーシップという新しい概念を創出、自律支援型の指導法を用い、全国大学ラグビーフットボール選手権大会にて全国二連覇を果たす。その後、日本ラグビーフットボール協会ではじめての「コーチのコーチ」であるコーチングディレクターに就任。就任期間中、U20 日本代表ヘッドコーチを3 期兼務、また協会理事も務める。
現在は、日本オリンピック委員会(JOC)のサービスマネージャーとして、全オリンピック競技における国を代表する指導者の育成・強化を主導している。また様々なスポーツにおける人材育成経験を活かし、株式会社チームボックスの代表取締役を務め、企業における経営幹部のマネジメント強化、エグゼクティブコーチング、組織開発を行っている。音声配信サービスVoicy “成長に繋がる問いかけコーチング” では、パーソナリティを務める。著書:『自分を育てる方法』『自分で動ける部下の育て方』(以上ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)、『新版リーダーシップからフォロワーシップへ』(CE メディアハウス)、『判断と決断』(東洋経済新報社)など。

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(チームボックス代表取締役、日本オリンピック委員会(JOC)サービスマネージャー 中竹 竜二)
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