■「党内でも大丈夫かという雰囲気だ」
高市早苗首相(自民党総裁)が2月の衆院選で、自民党単独で316議席を得て圧勝し、自ら「無双感」を漂わせている。
自民党3役経験者は、こう指摘する。

「解散についてはいろいろあったが、これだけ勝ったら、誰も文句を言えない。皆、入ってしまったんだから。300議席というのは、何かふわふわした感じがして、党内でも地元でも、大丈夫かという雰囲気だ」
具体的には、国会運営に見られる数の驕りや慢心にほかならない。高市首相は2026年度予算案の年度内成立を目論み、3月13日の衆院通過を目指して審議時間の短縮を図るよう、自民党に指示している。
与野党の質疑や異議申し立てを受けるという民主的手続きをきちんと踏もうとしない。国会論戦は首相の適格性、説得力を測定する機会でもある。効率化やスピード感を優先しすぎてはいないか。
自民、日本維新の会両党が3月3日に衆院議員定数(465)の1割削減を図る法案を今国会に提出することで合意したことにも、巨大与党の驕りが垣間見える。法案成立から1年以内に与野党協議で結論が出ない場合、自動的に比例選の45議席を削減するという条項が盛り込まれる方向だという。
衆院議員定数は、選挙制度の根幹で、政党の議席の消長に直接影響するが、維新の会から、なぜ1割削減なのか、なぜ政党交付金や議員報酬の削減ではないのか、という説明や議論を聞いたことがないではないか。
そして、2月24日の週刊文春報道で発覚した、首相が自民党衆院議員315人に当選祝いとして1人3万3990円(税込み)のカタログギフト(総額1070万円余)を配布した問題である。
首相は、政治資金規正法などの法令違反はないとかわすが、政治資金の使い方として適切かどうかが問われているのが分からないのだろう。
内閣支持率の低下が始まる潮目になるのではないのか。
■「資料だけで答弁とはすごい自信だ」
高市首相は、根回ししない、会食しない、耳から入るナマ情報よりも紙の資料を好むという、これまでの永田町にはなかった政治スタイルを取る。
自民党の派閥幹部や国会対策の経験がなく、合意形成を積み重ねて物事を進める政治の技術や、それに必要な人間関係を築く意図を理解しようとしない。3度の総裁選を戦ってきた割に、支持基盤は脆弱で、体を張ってでも守ってくれる側近もいない。
安倍晋三元首相ら歴代首相は、昼食時は食堂から蕎麦やカレーを取り寄せ、官房副長官や首相秘書官らとニュースを観ながら議論や意見交換するなど、官邸チームを重視した。だが、高市首相は、昼食も独りでコンビニのおにぎりなどをほおばっているという。
首相官邸関係筋は「高市首相は普段、執務室内の机に座らず、トイレやシャワールームの奥にある応接室にいる(愛煙家という事情もある)。首相秘書官が用件を抱えてドアをガチャと開けても、目に見える範囲にいない」「奥まで入って行けるのは飯田祐二首相秘書官(政務担当、前経済産業次官)くらいしかいない」などと明かす。
首相経験者の1人は「国会答弁の前に分からないことがあれば、秘書官らに『これ、どうなっているんだ』とか、『そういう経緯があるのか』とか聞いてから、答弁に当たったものだ。高市さんは、資料を読むだけで答弁に臨むんだから、すごい自信だよね」と半ば感心し、半ば呆れてみせた。
実際、高市首相の台湾有事に絡む存立危機事態に関する海上封鎖や邦人救出についての国会答弁は、安全保障の知識不足を露呈し、官僚のブリーフィング(レクチャー)を聞いていれば、あり得なかったシロモノだった。
首相は、官僚が用意した答弁書に自ら赤ペンを入れるほか、場合によってはアドリブで政府見解から外れる答弁をし、物議を醸してしまう。

■「国会は政府の下請け機関ではない」
高市首相が昨年の少数与党だった臨時国会の衆院予算委員会で、答弁機会が多すぎると不満を示していたのは、周知の事実だ。自民党が奪回した予算委員長ポストに就いた坂本哲志元農相が、首相への忖度とは別に、予算案の審議時間の短縮を求め、国会改革に逆行してでも予算委を全閣僚出席にしたのは、首相の問題発言をできるだけ少なくしたいという国会対策上の思惑があるといわれる。
実際、2月27日~3月3日の基本的質疑では、閣僚の答弁回数に占める首相の答弁回数は45%にとどまり、昨年の臨時国会の77%から大幅に減少した。
3月3日の衆院予算委は、予算案採決の前提となる中央公聴会を10日に行うことを自民党、日本維新の会の賛成多数で押し切った。
与党は4~6日に省庁別審査を委員長職権で開き、集中審議などを経て、13日の締めくくり質疑、採決を提案している。この分科会を割愛する案だと衆院の審議時間は59時間で、例年の70~80時間に届かないという。
衆参両院の野党国会対策委員長は3日に国会内で会談し、衆参議長に予算審議時間の確保を(翌4日に)求めるとともに、政府に暫定予算編成を提案することを申し合わせた。中道改革連合の重徳和彦国対委員長は、この後の記者会見で「国会は国民から負託された『熟議の場』で、政府の下請け機関ではない」と強調している。
与党は、米国・イスラエルによるイラン攻撃で、原油・エネルギー価格の上昇など国民生活への不安が予算案の年度内成立への追い風になると思い立ち、参院審議のカギを握る国民民主党に協力を求めている。
国民党は11日、榛葉賀津也幹事長が「衆院採決が16日なら賛成する」と自民党の鈴木俊一幹事長に伝えた。だが、与党は聞き入れず、13日の衆院通過に向けてまっしぐらの体だ。首相のメンツがかかる年度内成立が成るかどうか、予断を許さないが、政治的意味も大したことはない。

■「イランで大変なことが起きている」
気になったのは、高市首相が3月3日の衆院予算委で、自らの1月の衆院解散のせいで「非常に国会日程が窮屈になった」と認めつつ、「イラン攻撃もあり、予算の予見可能性は一層高めるべき時期でもある。何とか早期の成立をお願いできたらと思う」と述べたことだ。ここでイラン情勢を持ち出すのか、と思わざるを得ない。
首相は2月28日夕、米・イスラエルがイランを攻撃した直後にもかかわらず、石川県知事選の現職の馳浩氏を応援するため、予定通り、政府専用機で羽田空港を出発し、午後6時半ごろ、金沢入りしたのだ。演説で「イランで大変なことが起きている。それで飛行機に乗るかどうかだいぶ迷った」としつつも、2021年の総裁選出馬時に推薦人に名を連ねてくれた馳氏への恩義を優先したのだろう。
首相は、北陸新幹線で帰京し、午後10時過ぎに官邸入りし、国家安全保障会議を開いたが、攻撃開始から7時間以上が経ち、イランでは多くの邦人が危険にさらされていた。
3月8日投開票の石川県知事選は、自民、維新両党が推薦した馳氏が、前金沢市長の山野之義氏に敗れた。首相は激怒したと伝えられる。馳氏の力不足が大きいが、与党内からは「高市人気で選挙に勝てるという神話が崩れた」という見方も出ている。
3月9日の衆院予算委で、中道改革連合の小川淳也代表は「第1報から出発まで40分あった。なぜ出発を取り止め、官邸の危機管理センターから指揮を執らなかったのか」と質した。
これに対し、首相は「移動中も機内蔵の秘匿通信回線や携帯電話を通じて、リアルタイムで報告を受け、必要な指示を出し続けていた」と反論したうえ、「夜には会議を開催しており、他国と比較しても日本の初動は迅速だった」と自分を正当化した。
これは危機管理の問題なのだが、首相には自らの「不適切な対応」が見えていないのだろう。地方選挙の応援という政務と米・イスラエルのイランへの軍事作戦への対応という公務のどちらを優先するのか、それが国民の目にどう映るかが問われているのである。
■「多数派で押し切るべきではない」
衆院議員定数削減問題は、自民、維新の会両党は昨年の臨時国会に1割削減する法案を提出したが、1月の衆院解散で廃案となった。この時は、1年以内に結論が得られなければ、小選挙区25、比例選20の計45議席を削減するとしていたが、今回の法案では唐突に比例選のみ45議席削減と踏み込んだ。
維新の会は「身を切る改革」を言い募るが、比例選での議席獲得比率が高い政党を一方的に不利に追い込むことにならないのか。
先の衆院選では自民、維新両党で計352議席を獲得し、与党の議席占有率は75.7%だった。この数字を基に比例選のみ45議席を削減した場合、共同通信の試算によると、自民、維新両党は計338議席となり、与党の占有率は80.4%に上るという。一方、国民民主党、参政党、共産党、れいわ新選組といった中小政党は、大幅に議席を減らす可能性が大きくなる。
維新にとって、他党の身を切る改革になっていないか。民主主義の土台である選挙制度を、巨大与党が主導して多数決で変更していいのか、という自問はないのか。
自民党は3月6日、政治制度改革本部(加藤勝信本部長)の総会を開き、衆院定数削減法案に関する議論を再開した。
総会では「地方の小選挙区をこれ以上減らすべきではない」という賛成の声が上がったが、「中小政党への影響が大きく、多数派で押し切るべきではない」「削減対象を昨年の法案から変更する理由が説明しづらい」という反対・慎重論も出た、と報じられている。
選挙で勝てば、何をしてもいい、ということにはならない。定数削減問題は、民意の集約を果たす小選挙区選に対し、民意の反映といわれる比例選の役割やバランスをどう考えるか、ということも問われているのである。
■「昭和の中小企業のオヤジみたい」
高市首相のカタログギフト配布問題は、首相自身がどう説明し、国会でどう取り上げられ、世論はどう受け止めたか。
首相は2月24日、報道を受けて、X(旧ツイッター)に投稿し、「労いの気持ちも込め、奈良県第2選挙区支部(高市早苗支部長)として、政治活動に役立つものを選んでいただこうと、カタログギフトを差し上げた。数回に分けて夕食会を開催して欲しいとの要望もあったが。政党交付金は一切使用することはない」と明らかにした。
2月27日の衆院予算委員会では、中道改革の小川氏が「違法かどうか置いておいて、庶民感覚、国民の金銭感覚からかなりかけ離れた行為だ」と質した。首相は「昭和の中小企業のオヤジ社長みたいなところが、まだ私にはある」「飯会苦手な女だ。でも何らかの気持ちは示したい。結婚式のご祝儀を参考にした」と弁明している。
政治資金規正法に照らせば、高市早苗個人ではなく、政党支部からの支出だから、合法なのだろう。
個人が現金や有価証券を寄付することは禁止されているが、政党からの寄付は許されているからだ。
首相は、3月3日の衆院予算委で、「自民党総裁でもあるので、かなり例外的なことをした」「批判を受けるのであれば、法律には抵触をしないが、慎みたい」とも語った。
問題の背景にあるのが、政治資金が非課税であることだ。これは、政治活動が公共の利益に資するものだという考え方に基づく。
中小企業のオヤジのご祝儀は、所得税など税を負担したうえでの支出だ。非課税の政治資金を原資にした身内への当選祝いは、これに例えられるのか。法の趣旨からして、相応しいのだろうか。
世論は、首相の説明に納得していない。3月の時事通信世論調査(6~9日)では、高市内閣の支持率は59.3%で、前月を4.5ポイント下回って、過去最低となった。カタログギフト配布について尋ねたところ、「問題だと思う」が45.7%で、「問題だと思わない」の36.5%を上回った。
首相は、政治とカネの問題を甘く見ないほうがいいのではないか。

----------

小田 尚(おだ・たかし)

政治ジャーナリスト

1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て、フリーに。2018~2023年国家公安委員会委員。

----------

(政治ジャーナリスト 小田 尚)
編集部おすすめ