本稿は、中竹竜二・加藤洋平『「人の器」の磨き方 リーダーシップ・コーチングと成人発達理論による人間力の変容プロセス』の一部を再編集したものです。
■歴代米国大統領「思考の複雑性」調査
私(加藤)はかつて、米国マサチューセッツ州にあるレクティカ(Lectica, Inc)という発達測定研究機関で分析アナリストとしてインターンをしていたことがあります。
レクティカのクライアントは、民間企業や教育機関だけではなく、NSA(米国国家安全保障局)、CIA(中央情報局)、FBI(連邦捜査局)といった国家機関に及びます。
そうした特徴を持つレクティカの創設者のセオ・ドーソンはかつて、歴代米国大統領の思考の複雑性に関する大変興味深い調査を行いました。
直面する課題の複雑性に押し潰されずに、課題を分析し、課題の解決に向かっていくことは政治家として重要な資質であり、それは経営やスポーツの分野においても重要な資質でしょう。人の器を構成する数ある要素の中でも、思考の複雑性は非常に重要なものだとレクティカでは考えます。
それでは、ドーソンが行った、歴代米国大統領の思考の複雑さが、彼らの職務が直面する課題の複雑さにどの程度適応しているのかを調べた調査の結果を紹介しましょう。
■複雑な思考ができるリーダーは誰か
これまでの研究のまとめによると、リーダーの思考の複雑性は、その人がリーダーとしてどれだけ職務遂行できるかを予測するうえで、非常に強力な指標であることがわかっています。つまり、より複雑な思考ができるリーダーほど、困難な職務においても高い成果を出す傾向があるのです。
また、国家リーダーが扱う課題――例えば、国際問題、経済、医療、気候変動など――の多くは、レクティカが採用する思考の複雑性の指標の12段階の中でも最も高い「原理・原則的思考(レベル12)」が求められることが明らかになっています(原理・原則的思考とは、複雑で多元的な状況を、普遍的な原理や価値体系に基づいて体系的・統合的に捉え、判断・行動できる高度な思考力のことです)。
ここで述べている思考の複雑性レベルとは、複雑に絡み合う多くの要素を整理し、体系的に思考をまとめ上げていく力の度合いを指します。
ただし、個人の思考の複雑性を正確に測るためには、その人が「最もよく考えている場面」での言葉や思考が必要になります。
■クリントン「11.41」、オバマ「11.63」…
調査では、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、ドナルド・トランプという4人の大統領を対象に、それぞれ3つのインタビューを選びました。
選定条件は(1)信頼性の高い記者によるもの、(2)大統領の価値観や考え方を問う質問が含まれていること、(3)就任1年以内、あるいは最も早期のインタビューであること、の3点です。
また比較のために、「ニューヨーク・タイムズ」や「ガーディアン」「ワシントン・ポスト」「ウォール・ストリート・ジャーナル」といった代表的な新聞記事11本の思考の複雑性(言い換えると「新聞記事の言語レベル」)も評価しました。
結果として、これらの新聞記事の平均スコアは12段階中の「11.24」となり、これは「初期のシステム思考」レベルに相当します(初期のシステム思考とは、複数の視点や要因の関係性を捉えながら、全体として物事を理解しようとする思考の入り口です。複雑な問題に対して単一の原因ではなく、相互作用や因果関係を意識し始める段階となります)。
レクティカの研究者たちは、大統領たちのスコアもこの辺りのレベルにあるのではないかと仮定していました。しかし、実際の結果には大きなばらつきがありました。
■トランプは他大統領よりかなり低いスコア
ドナルド・トランプ大統領の平均スコアは「10.54」で、これはアメリカの高校3年生(12年生)の平均的なレベルに相当します。ジョージ・W・ブッシュ大統領は「11.7」で、大企業の中間管理職クラスに相当します。ビル・クリントン大統領は「11.41」で、上級管理職レベルに相当し、バラク・オバマ大統領は「11.63」で、シニアリーダーやときにはCEOクラスに匹敵するレベルの思考を示したと評価されています。
オバマ大統領に関しては、インタビューによって複雑性に変動が見られ、後半のインタビューではわざとわかりやすく、シンプルな表現を使っている傾向も確認されました。
ドーソンは、こうした結果から「大統領の思考レベルは一貫して高いとはかぎらず、またそれぞれに大きな差がある」ことを指摘しています。
特にトランプ大統領は、他の大統領と比較してかなり低いスコアを示しており、複雑な問題の構造や背景を理解する力に疑問がある可能性があるとドーソンは述べています。
また、思考の複雑性と職務上の課題との間には「ギャップ」が存在していることも重要な示唆です。先述のように、国家レベルの課題は原理・原則的思考(レベル12)を要するものばかりですが、実際のリーダーたちの思考はそこに届いていない場合が多いのです。
オバマ大統領でさえそのレベルには達しておらず、ブッシュ大統領とクリントン大統領はビジネスリーダー並み、トランプ大統領は国家指導者としては非常に低いレベルだったとされています。
■共和党より民主党の大統領のスコアが高い
なお、調査では民主党の大統領のスコアが共和党の大統領より高い傾向が見られましたが、ドーソンは「保守的であることがイコール思考が浅いわけではない」とも強調しています。過去には、保守的な立場であっても極めて高度な思考を持つリーダーも存在していたことが確認されています。
本研究の結論は、私たちは複雑な社会問題を扱えるリーダーを必要としているにもかかわらず、複雑な思考ができる人のメッセージはわかりにくくなりがちであるということです。「わかりやすさ」と「複雑性」のバランスをどう取るかが、今後のリーダー選びで極めて重要な課題になると述べられています。
今回の調査は、あくまで「思考の複雑性」という一点に焦点を当てたものですが、ドーソンが率いる研究機関レクティカによれば、これはリーダーとしての資質の中でも特に重要な一要素であることが、長年の研究から示されています。
とはいえ、現実にはポピュリズム的傾向が強まる中で、こうした思考の複雑性が高い人物が十分に評価されず、選ばれにくくなっている点にも懸念が示されています。
私が探究している成人発達理論では、人間のさまざまな知性や能力を可視化する「発達測定」という技術があります。
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加藤 洋平(かとう・ようへい)
成人発達学者
一橋大学商学部経営学科卒業後、デロイト・トーマツにて国際税務コンサルティングの仕事に従事。退職後、米国ジョン.エフ・ケネディ大学にて発達心理学とインテグラル理論に関する修士号(MA. Psychology)、および発達測定の資格を取得。オランダのフローニンゲン大学にてタレントディベロップメントに関する修士号(MSc. Psychology)、および実証的教育学に関する修士号を取得(MSc. Evidence-Based Education)。日々の研究に並行して、心の成長について一緒に学び、心の成長の実現に向かって一緒に実践していくコミュニティ「オンライン加藤ゼミナール」を毎週土曜日に開講している。著書:『なぜ部下とうまくいかないのか』『成人発達理論による能力の成長』『人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』(以上、日本能率協会マネジメントセンター)など。翻訳書:『心の複雑さに向き合うとは、どういうことか ~成人発達理論がひもとく痛みと成熟の心理学~』『「人の器」を測るとはどういうことか 成人発達理論における実践的測定手法』(以上、日本能率協会マネジメントセンター)
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(成人発達学者 加藤 洋平)

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