※本稿は、和田秀樹『死ぬまで元気 88の読むサプリ』(新潮社)の一部を再編集したものです。
■年齢で差別されてはいけない理由
フジテレビが中居正広さんの問題で揺れたとき、ある社会学者がテレビで次のように発言して、私は唖然としました。
「ふつうに考えて、87歳の方が巨大なグループの代表という立場にいて、人事権を行使している状況は異常だと思う」。
巨大なグループとはフジサンケイグループで、代表とはフジテレビジョンと親会社のフジ・メディア・ホールディングスの取締役相談役だった日枝久さんです。
しかし、こんな発言をすればアメリカでもヨーロッパでも韓国でも、年齢差別禁止法に引っかかるはずです。アメリカでは1967年から「雇用における年齢差別禁止法」で、採用、賃金、解雇、労働条件など、あらゆる場面での年齢差別が禁止されています。
EUでも2000年に「雇用および職業における均等待遇の一般的枠組みを設定する指令」が採択されました。
日本にも年齢差別禁止法はあります。ところが内容は限定的で、年齢差別を是正する取り組みといえば、「募集・採用時の年齢制限の緩和」などにかぎられます。
先に結論をいいましょう。
年齢を重ねながら経営を続けている方もいることでしょう。そういう方は脳の老化予防のためにも、やめずにがんばったほうがいい。私はそう思います。
■仕事ができているかという一点で評価するべき
「老害」を許容するように主張しているのではありません。歳をとれば能力が落ちるのが当然だと思われていますが、そうではないといいたいのです。
アメリカの年齢差別禁止法は明快かつユニークです。人を性別や人種で差別してはいけないのと同じように、年齢で差別することを禁じているのですが、激しい差別が堂々と行われている分野がひとつあります。能力です。
仮に20歳の人と80歳の人が同じ入社試験を受けて、80歳の人が1点でも上回っていたら、そちらを採用しなければなりません。
人種や性別のほか年齢もその人の属性で、人を属性で評価すると、ある種の予測がともないがちです。
20歳の人と80歳の人の場合も、翌年には20歳の人が80歳の人の能力を上回る可能性が高いかもしれませんが、それは予測にすぎません。
翌年また試験を行って、21歳が81歳に勝てば21歳を採用できますが、結果が出る前から属性で予測してはいけません。それが年齢差別禁止法の基本です。
前述の社会学者の「87歳だからダメだ」という主張は「高齢なので衰えている」という予測にもとづいています。そうした予断は避け、きちんと仕事ができているかという一点で評価すべきです。
■だから90歳でも「文藝春秋」を読める
物言う株主、アメリカの投資ファンドのダルトン・インベストメンツも、日枝さんについて「41年以上在任している取締役もいる」と指摘しました。とはいえ、彼らは在任期間に言及しても、年齢には触れていません。
アメリカでも、長く君臨している人や、引退したはずなのに人事には介入する人などは、非難の対象になります。しかし、「もう87歳なのに」という非難は許されません。
高齢になって性格が先鋭化することはあります。
その意味で、私は「老害」という言葉にも違和感をいだきます。日枝さんについても、亡くなった読売新聞社のナベツネこと渡辺恒雄さんについても、ご自身の性格としかいいようがないものを「老害」と呼ぶのは、高齢者差別に当たると思います。
年齢とともに記憶力は落ちます。しかし、よく知られた事実ですが、聴覚や言語、記憶、感情などをつかさどる側頭葉の機能は、認知症にならなければまず落ちません。だから90歳になっても、「週刊新潮」も「文藝春秋」も読めるのです。
要するに、高齢になっても思考力や読解力は、ほぼ落ちないと考えられています。その意味で、経営ができるかどうかという話は、その人の年齢とはまったく別の話です。
■結晶性知能が使えれば現役でいられる
高齢になるといろんな能力は衰えるばかりだと思い込んでいる人が多いようですが、そんなことはありません。知能も生涯にわたって伸びるといわれています。
1960年代に心理学者のジョン・L・ホーンとその師レイモンド・キャッテルが提唱したところでは、知能は「流動性知能」と「結晶性知能」の二つに分類されます。
一方、結晶性知能は個人が長年にわたって、経験や学習などを通じて獲得する知能で、言語能力や理解力、洞察力などはこちらに含まれるといわれています。知恵といってもいいでしょう。
ホーンとキャッテルによれば、流動性知能は10代後半から20代前半にピークを迎え、あとは低下の一途をたどります。しかし、結晶性知能はその後も上昇し続け、高齢になっても安定し、さらに伸びることもあるというのです。
だとすればITのような、流動性知能で対応すべき分野の企業で、高齢者が社長を務めるのは難しいかもしれません。しかし反対に、結晶性知能で対応すべき分野では、経営者は高齢のほうがいいかもしれません。
■100歳を超えてから麻原彰晃の精神状態を評価
医者も同じで、とくに精神科医の仕事は結晶性知能が重要だといわれます。私自身も精神科医を選んだころ、「この仕事は一生できるから」といわれたものです。
実際、フロイトは83歳で死ぬ間際まで治療をしましたし、ユングも同様でした。私の留学先で全米一の精神病院の創設者カール・メニンガー先生も97歳で亡くなるまで現役でした。
2007年に亡くなった秋元波留夫医師は、100歳を超えてからオウム真理教の麻原彰晃教祖の精神状態を評価し、話題になりました。
たしかに精神科医は、たくさんの患者さんを診るほど、状況ごとに的確に対応できるようになります。医学の世界は日進月歩ですから、早めの引退が必要な分野もあるでしょうが、精神科医は結晶性知能が頼りで、高齢であることがマイナスになりません。
だから、十把一からげに「高齢だからダメだ」とする風潮には違和感を覚えます。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)

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