いつまでも若々しい人は何が違うか。医師の和田秀樹さんは「想定外のことが起きると、意欲を司る前頭葉が活性化する。
いつも相手に反応することで前頭葉を鍛えられる喋る仕事は、運良く老化予防できてラッキーだ。こうした職業と無縁の人も、彼らが享受しているメリットを真似したほうがいい」という――。
※本稿は、和田秀樹『死ぬまで元気 88の読むサプリ』(新潮社)の一部を再編集したものです。
■ラジオパーソナリティに学ぶ前頭葉の老化防止法
最近、ラジオパーソナリティをなさっている方々の、声やしゃべり方の若々しさに驚かされることが続きました。
先日、キャスターでジャーナリストの長野智子さんがMCを務めるラジオ番組に出演し、前頭葉の老化予防について話しました。生活のルーティン化を避けるべきだという話題で、「行きつけの店にしかいかないとか、同じ著者の本しか読まないのはよくない。それは前頭葉が老化する最初の兆候だ」と話しました。
すると長野さんが、「私はファッションでも飲食店でも、これと決めたら一つのものにこだわる傾向があるので、要注意でしょうか?」と問い返されたのです。そのとき長野さんは61歳でしたが、大竹まことさんのラジオ番組に出演したときも、同じような話になりました。大竹さんは75歳でした。
しかし、大竹さんには前頭葉が老け込むような気配がなく、若い長野さんも、これから老け込むようには見えません。それがなぜなのかお話しします。

前頭葉とは脳のなかでも意欲を司っており、想定外のことが起きたときに働く部位です。だから刺激するためには、想定外のことが起きるように意識的に誘導したほうがいいのです。
あえて日常を打破したほうがいいと、私はいつも話しています。しかし、ある種の職業に就いていると、その職業がゆえに、意図しなくても想定外のことが起きます。
■想定外は不愉快でも脳が活性化する
たとえば営業職の人が、失礼な客に会ってひどいことを言われるのは、不愉快でしょうが想定外のことに対処するので、前頭葉は活性化します。
ラジオパーソナリティという仕事も想定外のできごとが起きやすく、前頭葉が老け込みにくいのだと思います。「毎日違う人に会って意見を聞くので、脳にいいのではないですか」と伝えたら納得してもらえました。
もう一つ、この仕事が前頭葉へのよい刺激になると思うことがあります。意見を聞いてまとめることも、自分と違う意見に対応することも必要でしょう。そうしたアウトプットが脳にいいはずです。
同時に声を出すこと自体が、健康に寄与するのだと思います。だから、ラジオだけでなくテレビのしゃべり手もみなさん元気で、話が淀みないです。
当時、浜村淳さんは89歳で、森本毅郎さんは85歳、毒蝮三太夫さんは84歳。喋っていると本当に若々しいです。
私が高齢者の方を見て「大丈夫かな」と懸念するのは、次の二つの点が感じられたときです。経験的に、それらは寿命と密接に結びついているように思えます。
一点目は、体重が減ってくることです。家族に聞くと「最近、食が細くなりましてね」などといわれます。食欲が減退して体重が落ちるのは、健康長寿と反対の傾向です。二点目は声がだんだん小さくなって、聞こえにくくなることです。
これも健康長寿から遠ざかってしまう傾向です。でも、ラジオパーソナリティの方々は声が衰えません。
■しゃべる職業を真似よう
私は「ゲーテ」という雑誌で80代の人と対談を重ねています。たとえば、元オリックス社長の宮内義彦さん、初代Jリーグ・チェアマンの川淵三郎さん、プログラマーの若宮正子さん。
みなさん元気で、とくに共通していると感じるのは声の張りです。
声を聞いた瞬間に張りがあると感じると、「この人はまだまだ長生きするな」「これからもしばらく元気でいるだろうな」と思います。みなさん意図的に声をしっかり出していらっしゃるのではないでしょうか。それがいいのだと考えています。
私自身は、若いころは早口でなにをしゃべっているのかわからないと揶揄されたものですが、最近、講演を数多くこなすようになって、「和田先生、声がとおりますね」と言われます。事実、そういわれるようになってからのほうが、自分が元気な気がしています。
■「しゃべる職業に就けてラッキー」
年齢を重ねて交流する範囲が狭くなり、家族にだけ囲まれて暮らすようになると、相手に聞きとってもらう努力をしなくなります。そうならないようにしてほしいです。
声を出せば呼吸筋も、のどの奥の筋肉も鍛えられます。しっかり呼吸すること自体、健康を維持するうえで馬鹿になりません。だから私は、コロナ禍にマスクを強要することにも反対でした。新鮮な空気を吸ってこそ健康でいられるのに、マスクのせいで呼吸状態を悪くしていましたから。

また、のどの奥の筋肉が衰えると、日本人の死因の6位にまで上昇した誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。しっかりしゃべれば、誤嚥性肺炎の予防にもなります。
加えれば、先ほど紹介した長野さんや大竹さんは、いつも相手に反応することで前頭葉を鍛えています。私は彼らに「しゃべる職業に就けてラッキーですね」と伝えました。
彼らは仕事上の必要から運良く老化予防ができている人たちですが、こうした職業と無縁の人も、彼らが享受しているメリットを真似したほうがいいと思います。
■麻雀はいいが、パチンコはダメ
日本人は欧米人などとくらべて失敗を恐れがちで、結果が読めることを好む傾向があります。人間の脳は放っておいても、年齢を重ねるにつれ想定外のことを避けるようになります。行きつけの店でしか飲食をしなくなったり、決まった作家の本しか読まなくなったりします。
しかし、想定外を避けてばかりいると、刺激が失われた前頭葉が老化してしまいます。一方、ギャンブルは、ほぼ想定外のことばかりが起こります。前頭葉に刺激を与えて老化を防止する点ではとても効果的で、高齢になってからも麻雀などをやっている人は、意外とボケません。
麻雀など1円でも賭けたら違法ですが、いまは賭けない (タバコを吸ったりお酒を飲んだりもしない)「健康マージャン」が高齢者のあいだでブームになっています。

賭けないのでギャンブル性はないとはいえ、こうした遊びは想定外のことが起こりやすいので、脳の老化防止になります。ボードゲームなども同様です。
ただ、パチンコはお勧めしません。お酒の「一人飲み」がアルコール依存症につながりやすいのと似て、家からのアクセスがよく営業時間も長いと、一人で台に向き合い、延々と続けてしまいがちです。その結果、依存症になりやすいのです。
それにパチンコは、麻雀や競馬、競輪ほど考え抜くものではないと思います。頭を使う度合いが高いギャンブルほど、脳の老化防止に効果的です。
その点、麻雀は大勢で遊ぶので依存症になりにくいといえます。パチンコのように台とにらめっこをするものや、問題になったオンラインカジノのように一人でスマホと向き合うものには、「一人飲み」と同じ危険性があります。
競馬や競輪などの公営競技は、公的機関が開催するギャンブルで、お金をけることが例外的に許されています。お金がかかっているだけにスリルがあって、免疫力が向上する効果があります。頭を使うし、勝つために自然と勉強するので、脳の刺激にもなります。

■メンタルヘルスの維持に貢献してきた2つの場所
ただし、はまって依存症になる人もいるのが問題です。やるなら競馬仲間や競輪仲間をつくって、大勢で出かけることをお勧めします。「お前、そんなの来るわけねえよ」などといい合える仲間がいれば、依存症になるリスクも軽減します。
このようにギャンブルは両刃の剣です。脳の老化を予防するためには、とても効果があるのですが、依存症などのリスクも付きまといます。そうかといって、ギャンブル性があるものを生活から排除すれば、前頭葉への刺激が失われてしまいます。
ただでさえ日本人は、計算どおりに物事が進むことや、失敗しないことに慣れているので、脳の老化を招きやすいのです。健康マージャンの教室でもゲームの会でもいいので、リスクが低く、想定外のことが起きやすい場を、みんなで楽しむ機会をつくってはどうでしょうか。
私は、日本人のメンタルヘルスの維持に貢献してきた場が2つあると考えています。ひとつは居酒屋やガード下の飲み屋。こういう場で愚痴をこぼすことで、ビジネスマンはメンタルを保ってきました。
もうひとつは銭湯です。高齢者にとって、よい社交の場になっていたと思います。でも、いまではほとんどの家に風呂があるので、高齢者の社交の場が病院だという、いびつなことになっています。
イタリアの長寿村では高齢者が毎日、バールに集まって活発に会話を交わしています。いまの日本にも高齢者が集まって、社交できる場が必要です。
それが碁会所でもいいし、健康マージャンの教室でもいい。そこで碁でも麻雀でも、想定外の結果が生じやすいことに取り組めるなら、一石二鳥だと思うのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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