いい医者を見極めるにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「神経質な医者にかかって、それが伝染するのは、避けたほうがいい。
自分の病気や心配していることについて、医者の説明を聞いてみて、自分が少しでも元気づけられるかどうかが大事だ」という――。
※本稿は、和田秀樹『死ぬまで元気 88の読むサプリ』(新潮社)の一部を再編集したものです。
■元気になれる医者を選びたい
年をとればとるほど、検査の数値を大事にする秀才型の名医よりも、患者を元気にしてくれる医者にかかったほうがいい。私はそう考えます。
昔は「大丈夫や。ちょっと寝てたらすぐ治るわ」といって診察を終えてしまう、いい加減な開業医がいたものです。こういう医者も患者の気持を明るくするという意味では、あながち否定しきれません。
私が病院を見きわめる基準に、「待合室が元気な病院はいい」というものがあります。待合室に活気があるのは、医者が患者から意欲を引き出すからでしょう。
落語家が「患者が待合室で旅行の相談をしている」などとネタにするので、元気な患者を集めて儲けていると思われがちですが、そこまで患者から意欲を引き出す医者の力はたいしたものです。
根拠が希薄でも「大丈夫や」といってもらえるのは、じつは非常に大事です。そもそも有効成分が含まれていない偽薬で症状が改善するプラセボ効果は、35%の人に認められているので、直接的な効果もあるでしょう。

それ以上に、患者を脅す医者が多いなか、患者を元気づける医者がいかに大事か、ということです。
「この薬を飲まないと大変だ」「お酒をやめないとダメだ」。医者からそう脅された経験がある人は、少なくないと思います。
■医者が強迫的になってはダメ
しかし、ものは考えようです。たとえば、170の高血圧を6年間放置し、脳卒中を発症する確率は8%で、薬を飲めばそれが5%に下がるという場合。薬を飲んでも飲まなくても9割以上の人は発症しないのだから、飲まないと危険というほどではありません。
用心のために飲んでおくという程度の話でしょう。それなのに医者が患者に「飲まないと大変だ」と伝えることに、私は疑問を感じます。
がんにしても、一般に医者は余命を短めに伝えがちです。余命より長く生きたら医者の評価につながるからです。
余命が「2年」というのは平均のことで、現実には半年で亡くなる方も、4年生きる方もいます。でも、医者から「余命2年」と伝えられたら、多くの人は「自分はあと2年しか生きられない」と思ってしまいます。
医者が「余命は平均2年だから4年以上生きる人もいる」と伝えられるかどうかだと思います。
医者には、伝えた余命より早く亡くなったら藪医者だと思われる、という心理が働きがちですが、医者がそのように神経質だと、それが患者に伝わります。
私は森田療法という精神療法を学んだとき、「医者が強迫的になってはダメだ」といわれました。森田療法とは、「かくあるべし思考」にこだわる人を楽にしてあげる療法で、それには医者が「かくあるべし」と思っていてはダメです。
「検査データを正常にする」「○○病に絶対にかからないようにする」ということより、まずは患者が元気になることが大事です。
一定の経験を積んだ医者なら、目の前の患者を元気づけることはできるはずです。医者から「大丈夫や」と言ってもらえることの効果は、私の診療経験からも、とても大きいと感じます。
■ニコッとすることの大切さ
医者が冗談の一つでも言って、患者がニコッとすることもとても大事です。だから、いまなお病院で医者も患者もマスクをさせられることに、強い違和感を覚えます。
医者がマスクをせず、患者にやさしい表情を見せることの効果を、いまの医学部の教授たちが知らないなら、それは日本の医学教育の貧困を物語っています。
私は精神科だからとくにそうですが、うつ病気味の人も、少しでもニコッとしてもらえると、いい効果が得られることが多いのです。しかしマスクをしていると、そこに導けません。

患者が笑顔かどうか一番わかるのは、口の表情です。近年、電子カルテばかり見て患者の顔を見ない医師が問題になっています。おたがいに顔を見せ合うという医療の原則が忘れられてはいけません。それなのにマスク、マスクでいいのでしょうか。
もともと医療現場には、風邪やインフルエンザのウイルスが蔓延しています。それなのにコロナ禍以前は、感染症の流行時以外は医者も患者もマスクをしていなかったのです。発症する確率の低い感染症を怖れるあまり、医療にとって重要な、顔を見せ合うコミュニケーションが避けられている現状は、医療現場の正常な姿には見えません。
認知症も、日本の医療では軽度のものと重度のものを一緒くたにします。がんも同様です。すでにお話ししたように、私は解剖を通じて、85歳以上の人は全員にがんがあるのに、がんが原因で亡くなるのは3人に1人だという現実を見ました。
■神経質な医者にかかり伝染するのは避ける
だから、がんがあっても一緒に生きればいいとか、軽い認知症だったら気にせずに生活するとか、そんなふうに思えてこそ、元気や若さが維持できるのだと思っています。細かいことを気にしすぎると、精神にもよい影響がありません。
感染症のリスクを重んじるあまり、医者と患者が顔を見せ合う原則を軽視するのも同じことです。
その意味で、神経質な医者にかかって、それが伝染するのは、避けたほうがいいと考えます。
では、どうやって医者を見きわめたらいいでしょうか。たとえば患者にマスクを強制しない病院があれば、私は信用しますが、これはあくまでも私見。基本的には、自分の病気や心配していることについて、説明を聞いてみるのが一番でしょう。
そうすれば「これは危険だ」とか「ここは正常にしたほうがいい」という話も出るでしょう。そのときに、自分が少しでも元気づけられるかどうかが大事です。
説明を聞いて怖くなったら、その医者は避けたほうがいい。病院とは病気を治すために行く場所だと思われていますが、行く前より多少でも元気になれるかどうか。それこそ大事だと考えています。

----------

和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。
精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

----------

(精神科医 和田 秀樹)
編集部おすすめ