■原作ナシなのに大ヒットしているNetflix発アニメ
異例のヒットとなっている『超かぐや姫!』。今作はNetflixオリジナルアニメではめずらしいほどの話題の沸騰ぶりで、XからYouTube、街頭から映画館に至るまで、立体的に「流行っている」を実感する作品になった。
これはNetflix発でもブームは作れる実例を示した意味で、画期的な作品であったといえる。
2026年1月22日に配信されるとすぐさまNetflix映画ランキング1位に。2カ月が経過した現在でもトップ5位レベルを維持しており、日本の他、台湾、香港でもランクインした。初動3週間で300万人が710万時間を視聴していた(iFlix Patrol調べ)。
2015年の日本法人設立からNetflixは様々なオリジナルアニメにチャレンジしてきた。成長の黎明期だった頃に配信した『B:The Beginning』(2018)や『DEVILMAN crybaby』(2018)などはまだしも、登録者数が1000万に到達しつつあった『範馬刃牙』(2021、2023)や『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』(2024)などそのグローバルでの視聴に比して、日本では必ずしも話題の広がりが十分なものだったとは言えない。
むしろ『今際の国のアリス』『サンクチュアリ』『地面師たち』など実写コンテンツのほうが活況を賑わし、配信だけに閉じられているNetflixオリジナルは「話題になる」ことで後手にまわっていた印象がある。
だが『超かぐや姫!』だけは例外だった。Googleトレンドでみても、過去のNetflix大ヒット実写ドラマをも超える話題の渦を作り上げた。
■内容は超現代版「かぐや姫」
『超かぐや姫!』では、『竹取物語』という日本人の誰もが知る古典をベースにしながら、“奥ゆかしさ”からの程遠いかぐや姫はさまざまな魔改造が施されている。
舞台は近未来の日本。多忙な女子高生・酒寄彩葉(さかより・いろは)が、現代の「ゲーミング電柱」から現れた不思議な少女・かぐやと出会い、仮想空間「ツクヨミ」で音楽配信活動を通じて絆を深める物語だ。
女子高生に百合風味、VTuber・ライバー、ボカロ、メタバースという現代の日本ならではの概念をこれでもかと作品に盛り込み、底抜けに明るいサイバーパンクはまるで令和における超訳版『竹取物語』である。
まるで1980年代に東京の未来を描いた『AKIRA』の令和版の描きなおしのようにも感じられた。人口爆発・バブル期絶好調にあった日本で『AKIRA』は行き過ぎた都市社会へ警鐘を鳴らしていた。
『超かぐや姫!』は、高齢化・環境変動・国際情勢不安という過酷にみえる2020年代の現在地で、むしろデジタルとクリエイターエコノミーのもつカオス的な明るさで将来を照らす。
■根底にあるのは2ちゃんねる文化
『超かぐや姫!』の企画が進みはじめたのは2022年夏、ちょうど『ONE PIECE FILM RED』が大流行していたころだ。後に『超かぐや姫!』の監督となる山下清悟氏や企画スタッフ陣は、当時、Adoが熱唱したウタに魅了され、ボカロというコンセプトを入れようと決めたという。ただ、決してボカロ自体に詳しかったわけではない、と聞く。
ボカロなど、2022~25年の日本で新しいカルチャーが百花繚乱となった時代の根底には、ネット界の「古典」ともいうべき2ちゃんねるやニコ動や初音ミクがある。
『超かぐや姫!』の真骨頂は、物語としての古典とネット文化における古典を掛け合わせ、コロナ後のクリエイターワンダーランド的なサービス群で味付けをしたことにある。
制作を担当したのは、17ものスタジオを有する日本最大級のアニメグループ「ツインエンジン」だ。
欧米のアニメ好きのWikipediaともいえるMy Anime Listでは『雨を告げる漂流団地』が8.4万人登録で、作品の評価となるScoreは7.32。『超かぐや姫!』は6.7万人登録の評価Score8.51となっている。
評価こそ上回りながら登録者ベースでは『雨を告げる漂流団地』のほうが多い。欧米からみれば『超かぐや姫!』は決して特別なものではなく、「ツインエンジン制作で一定の視聴を獲得している3作品の一つ」という評価にすぎない。
■欧米ではなく東アジアでブーム
米国のGoogleトレンドをみると、MAPPA作の『LAZARUS ラザロ』(※)のほうが、『超かぐや姫!』の4倍ほどのボリュームがある。
(※ Netflix独占ではなく、通常のテレビアニメ的な放送・配信展開をした作品、2025年4~6月期において『炎炎ノ消防隊』や『WIND BREAKER』とともにトップ3で人気を博していたアニメオリジナルの作品である)
Netflixオリジナル内での比較でも、世界的ヒットとなった『範馬刃牙』の総視聴時間は1.6億。『超かぐや姫!』の視聴時間を1000万としても、10倍以上視聴されているのである。
つまり『超かぐや姫!』の大ブームは、あくまで日本(と台湾などの一部東アジア)のみの現象なのだ。なぜだろうか。
では東アジアでの飛び火をどう考えるべきだろうか。
東アジアではニコニコ動画やボカロが、日本から5~10年遅れての2010年代半ばに取り込まれていった。
例えば中国では苛烈な競争社会のなかで吐き出された人々が自らを揶揄してデャオスー(Diǎo sī)文化を作り上げた。いわゆる日本の2ちゃんねる、ニコ動的な文化であり、そこに乗っかり2010年代後半に多くの配信者が生まれていった。彼らは約10年遅れで日本的ネット配信文化を身につけ、それが『超かぐや姫!』がもつコンテクストを理解するだけのリテラシーにもなっている。
逆を言えば、まだ限定的な広がりはこの高度な“読み解き”が必要な『超かぐや姫!』に世界各国が追い付いていない、ということすらできる。
■他の作品にはない独特のプロモーション
日本での大成功の背景にはネット文化との重ね合わせに加えて、プロモーション・宣伝、そしてUGC(ユーザージェネレイテッドコンテンツ)がある。
通常は巨大作品が軒を連ねるNetflixでは、1作品ごとのプロモーションはリリースの1週間ほど前から大量に撃ち込まれるものがほとんどだった。一気に注目を集め、リリース後の2~3週間目にピークがきて、1カ月もすると次の作品に視線が移ってしまう。
だが『超かぐや姫!』は配信の約2カ月前ともなる11月上旬からX、YouTube、TikTokで、メインキャラクターのかぐや、いろは、やちよのMVが走り始め、上記の3メディアもそれぞれに合う形で使い分けをされていた。
途中から3DCGのお披露目と、ぬるぬる動く様子はまるで「にじさんじ」やホロライブのVTuberデビューのような進化も感じた。ネット世代に刺さる広告コンテンツ、導線設計が徹底されていると感じた。
きわめつけはコラボである。そもそも主題歌がボカロPの黎明を開いたRyo(Supercell)による名曲「ワールドイズマイン」(2009)をアップデートしたものであり、その後「歌ってみた」でAqu3raや40mPなど有名ボカロPの楽曲を歌い合わせ、それぞれ100~200万再生といった視聴数を獲得。
■配信後にコラボのピークが来る
こうしたコラボのピークが“後パブ”というのが興味深い。本編の舞台裏や後日談を描いたEDテーマMV「ray 超かぐや姫!Version」を2月4日にリリース。YouTubeの再生回数は1000万近くにまで跳ね上がった。
この『Ray』はBUMP OF CHICKENの楽曲で、2014年の東京ドーム公演で初音ミクがゲスト出演して歌った伝説的な曲である。こうしたボカロ文化とのコンテクストの重ね合わせを、これでもかというほどに展開した結果、1カ月以上たってもNetflix作品としては異例なほど日本で上位ランクインを続けている。
『超かぐや姫!』はキャラクター性が強く、グッズ化しやすい世界観を持つ。すでにコミカライズやノベライズ、グッズなどの商品化も積極展開中で、今年の春~夏にかけてまだまだ多くの商品が棚に並んでくることが予想される。
二次創作は続々と生まれており、「歌ってみた」「踊ってみた」のアップ動画は引きも切らない。2026年夏のコミケごろにはそれなりの指標が顕在化してくるのではないだろうか。
映像だけは広がっても、その継続性や商品化に課題があったNetflixにおいては、まるで通常のテレビアニメ製作委員会のような息の長い展開へとつながっている。
■元フジテレビ社員の活躍
なぜこんなことが可能だったのか。アニメ制作を担当したツインエンジンが、商品化や宣伝も担当したからだ。
その展開には、元フジテレビ社員で同局に深夜アニメ枠「ノイタミナ」を設立し、その後にツインエンジンを立ち上げた山本幸治氏の力量が光る。近年では怪作『しかのこのこのここしたんたん』も有名だ。
『超かぐや姫!』は配信こそNetflixだが、宣伝はツインエンジンも担い、商品化も手掛けている。得意領域を分けたことが、類を見ないプロモーションに繋がった。
作品の中身から外側のプロモーション、そして作品をとりまく企業の役割の座組まで、すべてが新しく、「配信から始まるIP展開」としていろいろ可能性をみせている本作だが、その極めつけはネットでうまれたこの情熱の渦が、大挙して劇場に“逆流”している点だろう。
■映画は配信後なのに異例の大ヒット
Netflixアニメとしては例外的な「映画館展開」が配信の1カ月後となる2月20日から19館で始まった。
4日間の興行収入は、14.8万人の2.9億円。どの館も完売続出でチケットがとれないと話題になり、1週間限定だったのが、2月27日には27館に拡大。結局2週目、3週目と継続しながら4週目となる3月13日からは100館まで“超拡大”しており、勢いはとどまるところを知らない。
配信では、執筆時点(3月10日)で約500万人が1000万時間ほど視聴したと想定される。
今後、その記録がどこまで伸びるかは不明だが、アニメ作品を消費するという行為に「映像の個人視聴(配信)」→「映像の集団体験(映画館)」→「収集によるIP世界への没入(商品化ほか)」といった奥行きを“発明”したことは本作の歴史的な意義となる。
同じNetflix作品では米国で「配信前」に1300万ドル売上で1.4億時間視聴に到達した『Glass Onion: A Knives Out Mystery』のような事例はあるが、「配信後」でかつこれほど熱量を保ちながら2カ月以上その作品のまわりで“祭り”が起き続けているという事例はみたことがない。
「配信VS放送」「配信VS劇場」といった現在ハリウッドをとりまく喧騒から離れ、この日本という国で映像産業の未来の型が生まれつつあるのかもしれない。
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中山 淳雄(なかやま・あつお)
エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。
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(エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄)

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