■福岡市民のソウルフードになったパン
30cmほどの細長いフランスパンに切り込みが入り、鮮やかなオレンジ色のフィリングがぎっしり詰まっている。明太子とバターを合わせた「明太バター」だ。
福岡では「明太フランス」と呼ばれ、福岡のパン店では定番商品として親しまれている。今では老舗の明太子メーカーもこぞって作るようになった。
その元祖であり、「日本一明太フランスを売る店」とメディアに紹介されのが、福岡市内を中心に5店舗を展開する「国産小麦パン工房フルフル」である。
福岡市東区にある本店で明太フランスを買うと、スタッフが「カットしますか?」と声をかけてくれる。お願いすると、ザクザクザクッと小気味よい音を立てながら手際よく切り分けてくれた。
1本463円(税抜)。ひと切れちぎって口に運ぶ。外はパリパリと香ばしく、中のパンはもっちりとやわらかい。
ひとりで一本は無理だろうと思うかもしれないが、もうひとちぎり、もうひとちぎりと食べているうちに、なくなる。食べたあとも口の中がしばらくおいしい。ごはんにもなるし、小腹が空いたときのおやつにもいい。
この明太フランス、年間150万本売れている。売り上げ11.3億円のうち、4割ほどを占める看板商品だ。なぜ、これほど売れるのか。
■駅前でも大通り沿いでもないのに盛況
福岡市の中心部から車でおよそ30分。「国産小麦パン工房フルフル松崎本店」は、住宅街と田んぼが混在する一角にある。信号のない交差点の角に、大きな敷地が現れる。駅前でも大通りでもない。もともとは別の場所にあったが、駐車場が足りなくなり移ってきたという。
平日の朝、広い駐車場に次々と車が入ってくる。車を停めて店に入ると、ふわっと焼きたてパンの香ばしい香りに包まれた。
「いらっしゃいませー」
広い店の奥ではパンが作られている。焼き上がったパンが次々と売り場に並んでいく。シンプルな食パンやバゲット、ガッツリとしたおかずパン、かわいらしい顔をしたくまのクリームパンまで、多様なラインアップが並ぶ。トレーを持ってまわると、思わずあれもこれも食べてみたくなる。
売り場の横にはイートインスペースがあり、200円でコーヒーや紅茶が飲める。カウンターでひとり、外の景色を眺めながらパンとコーヒーを楽しむ客の姿もある。
平日の朝だというのに、フルフルのパンを求めて客が次々とやってくる。
■1日150回、焼いては売れる
お昼時になると、レジ前にずらりと行列ができる。
「コロッケ出来たてです~」
元気な声が飛び交う店内では、スタッフが揚げたてのコロッケを並べていた。明太フランスも次々と焼き上がってくる。
横並びのレジからは「明太フランス何本ですか」「カットしますか?」という声が聞こえてくる。ザクザクッ、ザクザクッ。明太フランスを手際よくカットする音が響く。
バットに並んだ焼きたての明太フランスは、あっという間に空になる。空になると、また焼きたてが運ばれてくる。焼き上がりを数えてみると、1回に12本。売り場には並べない。レジ横の専用スペースに出した側から売れていく。
フルフルでは、明太フランスをまとめて焼くのではなく、約10分おきに小刻みに焼いている。その回数、1日に約150回。本店だけで、多い日には1300本を焼き上げるという。
■家まで待てない買い物客
店を出て駐車場に向かうと、驚くべき光景を目にした。
車の横で、明太フランスにかぶりつくスーツ姿の男性がいる。スラックスにジャンパーを羽織った男性も、立ったまま明太フランスを食べている。きっと車のなかで思いっきり食べると、パリパリのフランスパンを食べこぼしてしまうからだろう。隣の車では、運転席と助手席に座る女性ふたりが明太フランスをちぎって食べていた。
焼きたてを焼きたてのまま口に運んでいる。
そういえば、筆者自身もそうだ。明太フランスを買ったら、たまらず車の中でちぎって食べてしまう。家まで待てない。それが焼きたての明太フランスなのだ。
この「家まで待てない」を生み出しているのが、1日150回という焼き方だ。
次の焼きたてが出てくるまで、お客さんも10分ほど待つ。
■ヒントになった「高知のパン店」
フルフルの明太フランスが誕生したのは2002年のことだ。3代目社長・古田量平さん(73)が「博多の名物パンを作りたい」という思いを形にした。
パン組合の勉強会で高知を訪れた古田さんは、小さな店で明太子を使ったパンを見つけた。これだ、と思った。明太子といえば福岡。福岡のパン店こそ、力を入れて作るべきではないか。
ところが、開発については簡単ではなかった。
古田さんがこだわったのは、国産小麦でフランスパンを作ること。当時、国産小麦でパンを焼くのは難しいとされていた。
たんぱく質の含有量が少なく、形が安定しない。実際に農家を訪ね、小麦の栽培から学んでは何度も試作を重ね、納得のいくフランスパンが完成するまでに数年を要した。今も明太フランスには北海道産の小麦を、菓子パンや調理パンには熊本県産の小麦や熊本産と北海道産をブレンドしたオリジナルの小麦を使っている。
■最初は1日10本も売れなかった
小麦だけではない。福岡の老舗・福さ屋の明太子を使い、バター6に対して明太子4の比率で明太バターを作る。この黄金比にたどり着くまでに約1年を要した。明太子の辛みとバターのまろやかさが絶妙だ。
外パリパリの中もっちりを実現するための工夫も忘れてはならない。いったん焼いたフランスパンにカットを入れ、明太バターを端までぎっしり詰めてから、もう一度焼き上げる。こだわりの詰まった1本が完成した。
しかし、最初は売れなかった。1日10本も売れない日が続いた。
転機は発売から2~3年が経った頃、ある女性スタッフの提案だった。「1本だと女性には大きい。食べやすくカットしたらどうですか」。古田さんは、せっかくの形が崩れると思い、最初は乗り気ではなかった。ところが、試してみると売れはじめた。カットしながら「焼きたて出ましたよ」「何等分にしますか」と声をかける。そこには会話が生まれた。
明太フランスを売れる商品に変えたのは、現場の声だった。
■パン店なのに野菜を売る理由
フルフルの敷地内にあるのは、パン店だけではない。野菜を売る「Baker's Marché しあわせな台所」という青果店がある。九州各地を中心に、こだわりの野菜や果物が並ぶ。ここにもひとが途切れずやってくる。地域のひととお店のひとが、野菜について会話を交わしていた。
なぜパン店に野菜があるのか。きっかけは客の声だった。「パンを買いに来て、いっしょに野菜やごはんの食材も買いたい」。その声を実現するために知り合いの野菜ソムリエに委託した。
マルシェの隣には、イタリアン「クッチーナフルッタ」もある。朝8時からパンモーニングをいただくことができる。パン店の隣には「ファミリールーム」と呼ばれるレンタルスペースもあり、家族や友人との時間に使える。
パン店なのに野菜がある。イタリアンがある。レンタルスペースがある。すべては、地域のひとの憩いの場を作るため。フルフルは、パンを売るだけの店ではない。
■パン好きが働く場所
取材に訪れたのは1月下旬。当日、福岡の最高気温は5度。雪が散らつくなか、パンと野菜を買って車に戻ると、ジーンと心も身体も温まったように感じた。顔を合わせるスタッフたちがみんな笑顔で挨拶してくれる。その余韻が残っていた。
取材で明太フランスを作る現場に入らせてもらったときのことだ。古田さんが「うちのパン好きなんだって」と筆者を紹介すると、スタッフが満面の笑みで声をかけてきた。筆者が以前、酵母から起こしてパンを作っていたことを話すと、目の色が変わった。
「パン好きなんですか? 今も作るんですか? 楽しいですよね~! 一緒に働きませんか?」
ああ、本当にパンが好きで、ここで働いているんだなと感じた。
今の暮らしでは、買い物に出たからといってお店のひとと話す機会はまずない。でも、フルフルではお店のひとと会話が生まれる。
「コロッケ、出来たてです」「これ、おいしいですよ」「どんなパンが好きですか?」
声をかけてもらうと、思わずこちらも笑顔になる。
スタッフさんの声がけと同時に売り場に並ぶ、焼きたてパンや揚げたてコロッケにお客さんの手が伸びる。運ばれてくるパンはどれも、小さなスペースに並ぶくらい少しずつだ。もちろん、筆者も出来たてコロッケをトレーにのせた。
こんなお店が近くにあったら、毎日でも足を運んでしまいそうだ。ちなみにフルフルは火曜定休で、お盆もお正月も休む。行こうと思い立ってあちゃーとなる日がたまにある。
■“日本一のパン”を生み出した好循環
なぜ、フルフルの明太フランスは日本一売れるのか。
外はパリパリ、中はもっちり。ちゃんとピリッとする明太子をバターがまろやかに包み込む。パンをちぎる手は止まらない。1日150回焼き上げる焼きたてへのこだわりが、家まで待てないほどの魅力を生んでいる。
でも、それだけではない。
カット販売も焼きたてへのこだわりも、野菜の直売所も、すべて現場のスタッフやお客さんの声から生まれたものだ。フルフルのパンを好きなひとたちが集まり、おいしく食べてもらうためのアイデアが生まれ、形になる。そのパンとひとに引かれて、またひとが集まってくる。この循環が、フルフルの明太フランスを日本一にしている。
最近では冷凍技術を活かし、通販やふるさと納税でも購入できるようになった。焼きたての味を家庭で再現できるよう、トースターでの焼き方まで説明書に記されている。
フルフルのパンがおなかを満たし、働くひとたちの笑顔や思いがお客さんの心を満たす。効率が優先される時代に、失われてきた大事なものがここにはあるように感じた。店内をぐるりとまわり、パンを買った頃にはもう、出来たてコロッケは売り切れていた。
後編では、明太フランスが生まれるまでの道のりを、3代目社長の古田量平さんに聞く。
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サオリス・ユーフラテス(さおりす・ゆーふらてす)
インタビュアー・ライター
1979年、佐賀生まれ。製薬会社勤務を経て、2007年より14年半リクルートエージェントに勤めた後、2021年に独立。福岡を拠点に人の人生を深掘りするインタビューや、経営者のアウトプットサポートをメインに活動中。
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(インタビュアー・ライター サオリス・ユーフラテス)

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