健康に気を使っている人ほどハマりやすい落とし穴は何か。尿酸値は正常。
それでも脂汗が止まらない激痛に襲われ、15mmの尿管結石を摘出した60代男性がいる。原因は「体にいい」と信じて毎日食べていた食材だった。医療・健康コミュニケーターの高橋誠さんが、自身の体験を振り返る――。(監修=亀田総合病院泌尿器科 部長 志賀直樹医師)
■“尿管結石”手術から1カ月後に現れた“石の芽”
「……左右の腎臓に、1.6mmほどの石灰化が見えます」
今年1月、泌尿器科医の志賀直樹さんが私に語りかけました。
思わず息をのみました。手術して取り除いたばかりの結石が再発したのかと思いましたが、医師は首を横に振りました。
「これは新しくできた結石ではありません。もともと腎臓の壁の中に埋もれていた、ごく初期の石灰化です」
再発ではないものの、すでに「石の芽」が育っていたとは……。
そもそも結石は突然できるわけではなかったのです。腎臓の腎杯乳頭の内部で生まれ、露出して初めて結石と呼ばれるといいます。今回見つかった「石の芽」はこの前段階のものでした。
私は昨年12月末に千葉県鴨川市の亀田総合病院で、2泊3日の入院手術を受けたばかりでした。
最新の内視鏡レーザー破砕術によって、尿管に居座っていた15mmもの巨大な「岩」を完全に粉砕・摘出したのです。全身麻酔から覚めた私に、医師は破砕回収され容器に入れられたすべての石を見せてくれました。あの時の医師の晴れやかな表情を、私は一生忘れないでしょう。
「これでようやく、あの七転八倒する激痛から解放される。長い戦いだった……」
退院時、私は新しい人生が始まったかのような万能感に包まれていました。術後の経過は極めて良好。ところが、それからわずか30日後。術後の定期検診で私を待っていたのは、冒頭で記した、あまりに残酷な左右の腎臓に映し出された1.6mmの石灰化でした。
■薬を飲み、食事にも気を使っていたのに…
「また再発したようなものだな……」
絶望感が足元から這い上がってきました。私はこの数年、尿酸値を下げる薬を毎日欠かさず飲み、ビールや魚卵といったプリン体の多い食事も徹底して避けてきました。健康診断の数値は常に安定しており、再発防止には万全を期していたはずでした。それでもなお、腎臓の中では“石の芽”が静かに育っていました。

実はそこには、真面目に健康を気遣うビジネスパーソンこそが陥りやすい、恐ろしい「盲点」が隠されていたのです。
■経験した人にしかわからない痛み
そもそも、なぜこれほどまでに私たちは尿管結石を恐れるのでしょうか。それは、この病気がもたらす痛みが、人間の想像力を絶するレベルだからです。
経験したことがない方には想像しにくいかもしれませんが、その痛みは、ある日突然、脇腹から背中にかけて鋭利な刃物で抉られるような、あるいは内臓を雑巾のようにギリギリと絞り上げられるような感覚で襲ってきます。七転八倒し、脂汗を流して床をのたうち回る。痛み止めが効かず、血尿を伴うことも珍しくありません。
救急車で運ばれる患者さんの多くが、人生で初めて本気で「死」を意識するといいます。
「がんが転移したのではないか」

「このまま内臓が破裂して死ぬのではないか」
そんな底なしの不安に引きずり込まれるのです。
しかし、これほど医学が進歩した現代においても、病院でできることは驚くほど限られています。救急外来に担ぎ込まれても、まずは鎮痛剤の点滴で嵐が過ぎるのを待つしかありません。そして、医師からは決まってこう告げられます。
「水分を1日2リットル以上摂ってください」

「ジャンプや縄跳びをして、物理的に石を落としてください」
21世紀の高度医療において、基本戦略が「水とジャンプ」であるという事実に、多くの患者は戸惑いを隠せません。
仕事のスケジュールは破壊され、重要な会議も出張もすべてキャンセル。一度発作が起きれば、社会生活は完全にストップします。結石は単なる病気ではなく、生活とキャリアを根底から脅かす「物理的なリスク」なのです。
近年の食生活の変化により、結石患者は増加傾向にあります。そして驚くべきことに、それは「一部の不摂生な美食家」だけの病気ではなくなっています。むしろ、私のように「健康に気を使い、数値を管理している層」にこそ、巧妙な罠が仕掛けられているのです。
■「石の扱い」には慣れていたつもりだった
私がこれほどまでに再発を恐れるのには、切実な理由があります。4年前、文字通り「命の危機」に直面したからです。
40代以降、私は尿管結石の自然排出を8回ほど経験してきました。いわば「石の扱い」には慣れていたつもりでした。しかし、4年前の冬は明らかに違いました。数週間にわたって重苦しい痛みが続き、ある夜、突然「尿が出なくなる」という異常事態に陥ったのです。

尿意はあるのに、一滴も出ない。下腹部がパンパンに張り、体の中に水が行き場を失っているような不安感。下腹部というより、体の奥から圧迫されるような違和感が広がりました。今思えば、膀胱が張っていたのではなく、両側の尿管が塞がり、腎臓で作られた尿が行き場を失っていたのです。
親しい泌尿器科医に電話すると、「明朝一番に救急車を呼んで、救急搬送されてください」と緊迫した指示が飛びました。
翌朝、CT検査の結果は衝撃的でした。
「左右両方の尿管に、それぞれ7mmの石が詰まっています」
両側同時閉塞。腎臓で作られた尿が完全に堰き止められ、行き場を失った尿が腎臓を圧迫する「水腎症」を引き起こしていました。到着からわずか3時間後に緊急手術。術後、執刀医から告げられた言葉に背筋が凍りました。
「このまま閉塞が続けば、腎機能に深刻な影響が出る可能性がありました」
緊急手術だったこともあり、透析になる恐れもあったのでは、と冷や汗をかきました。
救急医療の現場は、まず「命を救うこと」が最優先です。
当時、治療が終わった後に詳細な生活指導を受ける機会はありませんでした。私は「石が取れたのだから、もう大丈夫だ」と安堵し、また以前と同じ生活に戻ってしまいました。この「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という意識こそが、数年後に15mmという巨大な岩を育てる温床となったのです。
■今度は15mmの巨石が育っていた
4年前の危機を乗り越えたものの、2年前の11月、CT検査で左腎臓に15mmの結石が見つかりました。過去最大だった7mmの、体積にして数倍という巨大なものです。
「なぜこれほど大きな石が、またできたのか。体質なのだろうか?」
当時は驚きと疑問が入り交じっていました。しかし、痛みも自覚症状もなかったため、医師からの「今すぐ摘出しなければならないわけではありません」という言葉を、都合よく「急ぐ話ではない」と受け止めてしまいました。
腎臓にある間は痛みがない。だから、ついつい後回しにしてしまう。しかし、その間も石は静かに、私の体内で成長を続けていました。昨年夏以降、私は原因不明の血尿や腰の重み、常に抜けない倦怠感、動悸や息切れに悩まされるようになりました。
当時の私はそれを「年齢のせいだろう」「仕事の疲れだ」と自分に言い聞かせ、放置していました。
しかし、手術前の検査で原因ははっきりしました。
15mmの巨大石が腎臓から尿管に落ち、尿の流れを阻害していたのです。尿管の太さは2~5mm。15mmの石が自然に排出されるはずもありません。数カ月間、その場所に留まっていた石が、私の体調を内側から蝕んでいたのです。
「痛くなってからでは遅い」
私はようやくそう理解し、手術を受ける決意を固めたのでした。
■「体にいい習慣」という“真犯人”がいた
手術は成功しました。しかし、冒頭でお話しした通り、わずか30日後に石灰化した石の芽が発見されました。なぜ、尿酸値を完璧にコントロールしていた私の体内に、新しい石が誕生したのか。主治医が示した「成分分析」の結果は、私のこれまでの常識を根底から覆すものでした。
「摘出した15mmの石の成分を分析しました。尿酸が66%、シュウ酸が34%です。尿酸の部分は、薬を飲み始める前にできていたものでしょう」
さらに、術後のCTで見つかった1.6mmの石灰化についても、医師はこう補足しました。
「これは再発ではなく、術前から腎臓の壁の中に存在していた初期石灰化です。ただ、成分としてはシュウ酸カルシウムである可能性が考えられます」
シュウ酸。その言葉を聞いた瞬間、私は自分の「良かれと思って続けていた習慣」の数々が脳裏をよぎりました。医師が挙げた「シュウ酸を多く含む食品」のリストは、私がビジネスパーソンとしての健康維持のために、意識的に、かつ毎日欠かさず摂取していたものばかりだったからです。
① 緑茶・コーヒー:水分補給は水よりお茶が良いと信じ、デスクワークのお供として1日中飲んでいました。
② ナッツ類:低糖質で健康的な間食として、お徳用のミックスナッツ、アーモンドやクルミ、ピーナッツを常備し、つまんでいました。
③ 高カカオチョコレート:ポリフェノールが血管を若返らせると聞き、カカオ70%以上のものを毎日数枚食べるのが日課でした。
④ ホウレンソウ:野菜不足を補うための最強の食材として、頻繁に摂取していました。

■「石の材料」を毎日のように食べていた
「先生、これらはすべて、健康番組や雑誌で『積極的に摂るべき』と推奨されている食品ばかりです。私は体にいいと信じて、毎日積極的に食べていました」
私の絞り出すような問いに、医師は頷きました。
「その通りです。一般的には素晴らしい健康食品です。しかし、結石体質の人にとっては、これらはリスク要因、いわば『石の材料』になります。健康意識が高い人ほど、特定の良いとされる食品を過剰に、かつ継続的に摂取してしまう。その真面目さが、静かに石を育てる原因になるのです」
私は愕然としました。私の「高い健康意識」こそが、私の体内で最強の鈍器を作り上げていた。ビジネスにおけるリスクマネジメントの鉄則である「情報のクロスチェック」を、私は自分の体に対して怠っていたのです。
■見落としていた「3つの盲点」
一連の経験を経て、私は結石という病を「痛み」ではなく「構造」で理解すべきだという教訓を得ました。私は以下の3つの大きな誤解をしていたのです。
①「尿酸値が正常=安心」という幻想
尿酸値を下げる薬を飲んでいれば、結石は防げると思い込んでいました。しかし、結石には種類があります。尿酸結石、シュウ酸カルシウム結石、リン酸カルシウム結石……。尿酸値だけを管理していても、シュウ酸という別のルートから燃料が供給されれば、石は物理現象として誕生します。血液検査の数値が正常であることは、結石ができないことの証明にはならないのです。
②「痛みがない=問題がない」という油断
15mmの巨大石も、尿管に落ちるまでは静かに牙を剥いていました。痛くなってから対策を練るのでは、ビジネスで言えば倒産してから資金繰りを考えるようなものです。痛くないときこそ、構造的な問題を解決しなければならないと痛感しました。
③「健康情報」の不完全な受容
緑茶、ナッツ、チョコレート。これら自体が悪なのではありません。問題は「自分の体質に合っているか」という個別性の視点が欠けていたことです。多くの健康情報は「マジョリティに向けた正解」に過ぎません。特定の成分を凝縮して摂取する現代的な食習慣は、一部の人にとっては強力な結石生成器になり得るのです。
■結石は「取って終わり」ではない
結石は、一度経験すると数年以内の再発率が50%を超えると言われるほど、「繰り返す病」です。
救急病院では、目の前の石を取り除き、痛みを止めることが使命です。しかし、その後の「なぜ石ができたのか」という原因究明と、再発防止の生活指導まで踏み込める医療体制は、残念ながら十分とは言えません。結石治療は、救急対応の「急性期医療」と、日々の「慢性管理」の間にある、非常に管理が難しい病気なのです。
今回、私が亀田総合病院で得た最大の収穫は、石を取り除いたことそのものではなく、「自分の石の成分を知り、生活習慣を個別具体的に修正する指針」を得たことにあります。
「次の診察は1年後でいいでしょう。その時、1.6mmの石が大きくなっていなければ、あなたの食生活改善は成功です」
主治医の言葉は、私に「完治」という幻を追うのではなく、「共生と管理」という現実的な目標を与えてくれました。
現在、私の家の冷蔵庫には、かつて「健康習慣」として買い溜めていた大量のアーモンド・チョコレートやマカダミアナッツ、そして「小枝」などが、所狭しと並んでいます。食べるに食べられず、捨てるに捨てられず、鎮座したままです。
尿管結石は、単なる激痛の病気ではない。それは「数値が正常でも安心できない」という、現代人の健康観の盲点を突く疾患だ――。私はようやくこのことに気づかされました。結石は“取って終わり”ではない。成分を理解し、生活を調整し続ける「管理の病気」だったのです。
監修:志賀直樹(しが・なおき)
亀田総合病院 泌尿器科 部長。日本尿路結石症学会 評議員。「尿路結石症診療ガイドライン第3版」(2023年版)システマティックレビューチーム・メンバーとして参加。TUL:経尿道的砕石術(尿管鏡を用いた腎・尿管結石の砕石術)で約3300件の実績を持つ。PNL:経皮的砕石術(大きな結石に対して腎に直接穴をあけて行う高度な高侵襲手術)も約220件手がけたエキスパート。自ら執刀する手術に加え、患者の生活習慣にまで踏み込んだ徹底的な術後の再発予防指導は、医療界の「結石オタク」として信頼が厚い。日々進化する最新の医学論文を網羅しながら、患者一人ひとりに最適な治療を提案している。

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高橋 誠(たかはし・まこと)

医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント

1963年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。ミズノスポーツ広報宣伝部、リクルート宣伝企画部、米国西海岸最大の製函会社でのパッケージ・デザイン営業・マーケティング(LA12年)、ゴルフ場経営(山梨2年)、学校法人慈恵大学広報推進室長(東京16年)を経て、2020年より現職。日米複数法人通算40年の広報宣伝業務を通じ、メディア・医療関係者と幅広い交流網を構築。現職にてメディアと医師をつなぐ。プレジデントオンライン「ドクターに聞く“健康長寿の秘訣”」、月刊美楽「幸せなおじいちゃん、おばあちゃんになろう」、月刊源喜通信「食と健康」で医療・健康コラムを連載中。主な出版プロデュースは『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(2025年、渡邊剛著、坂本昌也監修、あさ出版)、『心を安定させる方法』(2024年、渡邊剛著、アスコム)、『人は背中から老いていく 丸まった背中の改善が、「動ける体」のはじまり』(2025年、野尻英俊著、岡田あやこ体操監修)。趣味はゴルフ、ワイン(日本ソムリエ協会ワインエキスパート#58)。

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(医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント 高橋 誠 監修=亀田総合病院泌尿器科 部長 志賀直樹医師)
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