好きなものに没頭する人生を送っている人がいる。その一人が、山梨県上野原市でソーセージを製造・販売する村上武士さんだ。
世界各国のソーセージを食べ歩き、34カ国300種類のレシピを再現・考案した。なぜそこまでソーセージにこだわるのか、取材した――。
■レシピを研究・試作し、食べ続ける日々
「ソーセージに憑りつかれた男」。人々は彼のことをこう呼ぶ。
工房で朝から晩まで肉を捌き、肉をこね、スパイスと香草、さらには動物の内臓、野菜、果物、穀物などを調合し肉と混ぜ、腸に詰める。こうしてできるソーセージを1週間に100キロほど淡々と作り続ける。
夜は新しいレシピの試作に専念し、深夜にはソーセージの歴史や食文化に関する文献を読み込み、研究に没頭。彼の1日は、ソーセージを中心に廻っている。しかし、当の本人はそう意識していないようだ。
「傍からは憑りつかれているように見えますかね。なぜこんなにソーセージに魅かれるのか、僕自身もよくわからない。何か新しい食材に出会うとこれ詰められるかな? とまず詰められるか詰められないかを考えてしまう。
四六時中ソーセージのレシピを考えて、それを試作して食べる。寝ているときも、どんなソーセージを作ろうか、頭にはソーセージのことしかありません」
■日本人はウインナーばかり食べている
こう語るのは、「現代ソーセージ研究家・ソーセージ作家」の村上武士さんだ。彼の職業は、ソーセージ作り。山梨県上野原市の工房で世界中のソーセージを製造・販売する「ハヤリソーセージ」のオーナーでもあり、ソーセージの歴史や食文化を調査研究する生体人類学研究者としての顔を持つ。
「ソーセージの歴史は世界最古のメソポタミア文明までさかのぼり、文献としては紀元前8世紀の叙事詩『オデュッセイア』にも記述があります。日本には約100年前、第一次世界大戦後に伝わりました。
当初、売られていたのは本格志向の高級品か混ぜ物だらけの粗悪品が多く市場には出回っていたと言われています。そこに1980年代に入ってから大手メーカーが天然腸入りの歯応えのいいウインナーを発売して、庶民にも爆発的に普及していきました。それから現在まで、日本における市販のものは羊の腸にひき肉類を詰めたウインナーが中心です。以来、レシピに変化が生まれていないのです」
ちなみに、ウインナー(太さ20ミリ未満)は、フランクフルト(20~36ミリ)やボロニア(36ミリ以上)と同じく、ソーセージの一種だ。
■「腸に詰めた筒状」であれば自由な料理
たしかに日本人にとって、朝食やお弁当でおなじみなのは小ぶりのウインナーだ。そんな「ウインナー一辺倒」の世界に新風を吹き込むべく、村上シェフは約16年前からソーセージ開拓に取り組んでいる。
工房で始めた世界のソーセージ作りはその一つだ。
店内のショーケースには、フレッシュハーブ(ローズマリー、セージ)の上品な芳香のするイタリアの焼きソーセージ「サルシッチャ」、レモングラスや青唐辛子を使ったレッドカレーのフレーバーが印象的なタイ北部チェンマイの伝統ソーセージ「サイウア」など、15種の定番と季節の商品が並ぶ。
世界各国で食べた現地のソーセージと文献をヒントに、34カ国のソーセージを再現し、日本にないソーセージを紹介している。創作数は、創業以来約16年で300種類を超えた。
「世界には、豚や羊、牛の腸や胃、膀胱といった袋に、豚だけでなく鶏や牛、羊のひき肉、米やパン、チーズなど、その土地の食材を詰めた多種多様なソーセージがあります。本来、ソーセージは腸などの袋に食材を詰め、保存性を高めた筒状の料理で、メインディッシュやスナックとして食べられている。僕が目指すソーセージはそういう『腸に詰めた筒状』の自由な料理なんです」
■無添加ソーセージ作りは難易度が高い
ハヤリソーセージは、加工肉で常用される化学調味料(アミノ酸等)や結着材、発色剤などを一切加えない、いわゆる無添加が基本だ。「無添加製法にするにはかなりの技術がいる」と、村上シェフは話す。
「食感の良いソーセージ作りのもっとも大切な要素は、肉の粘り気です。粘り気を引き出すために結着剤を入れると、素材の風味や息吹が消えてしまい、無機質な味気のない食べ物になってしまう。それを避けるために、難しいといわれている結着剤無添加製法の開発に挑戦したのです」
肉を寝かせる方法、肉の挽き方、練り方、腸詰の仕方、塩の分量、スパイスと香草の配分、肉以外の食材とのバランスの調整など、一つ一つの手順を何度も精査した。試作と試食を重ね、試行錯誤の末にハヤリソーセージのおいしさを表現する独自の製造方法にたどり着いた。
あくまでもおいしさにこだわった結果、無添加になったのだ。
■「身体になじむ」味わいを目指す
原料となる肉にもこだわった。地元山梨県の目利きの肉屋が厳選した、最上級の三元豚を使用している。ソーセージに使用されることが多い冷凍肉と異なり、生肉はたんぱく質の冷凍変性がないので、粘り気が得やすい。
「無添加を前面に出して強調したいわけではないんです。ただ、化学調味料を使うと、不自然なうま味だけが突出してしまって、全体の味のバランスが崩れてしまう。発色剤もボツリヌス菌を抑制する働きがあるので有効な手段だと思いますが、自然素材の色味を活かすために入れていません。こういう添加物を入れると、身体になじむような味がしない。僕は身体になじんで、身体が喜ぶような滋味あふれるソーセージを作りたいんです」
ハヤリソーセージの商品は1本100g前後で600~1800円。大手市販ブランドのウインナーが1袋6本入り(約115g)で約200円であることと比べると、3~10倍の価格である。
しかし、値段の問題ではなく、質をなにより重視する。中身は肉や自然素材がぎっしり詰まっていて、味わいのない増量成分も入れない。
家飲みの至高のおつまみ、特別な日のメイン料理として価値ある一品になる。プレゼント用の需要も高いという。
「日本ではどうしても大手メーカーの価格がソーセージの価値になっている。良質な肉とスパイスで作ったらその価格にはならないだろうと思うものもあります。そういう商品の原材料を見て、何か懸念点があるかどうかを確認してほしいんです。華美なパッケージの雰囲気に流されて受け身で買わないでほしいというのが、僕が切実に伝えたいことです」
■フランス料理の一皿で人生が変わった
ソーセージにここまで魅せられるとは、村上シェフ自身思ってもみなかった。きっかけは、20代のときに食べたフランス料理の一皿だった。全身に稲妻が走るような衝撃を受けた。
「約20年前、東京・恵比寿の豚肉専門料理店で働いていたのですが、その当時はソーセージというと、ケチャップとマスタードを添えて出すというイメージを持っていました。ところが、店の常連だったフランス料理のシェフが僕のために作ってくれたソーセージは、まったく別次元の物でした。
仔羊の骨(出汁)から抽出した濃厚なソースのかかった羊肉のソーセージは、フレッシュな野性味と深い味わいがありました。口の中でソースの酸味と肉の脂が溶け合い、うま味が舌全体に広がってうなるようなおいしさでした。
世界には料理として完成されているソーセージがあることを初めて知りました」
■「何のためにソーセージを作っているのか」
元来の探究心と好奇心に火が付いた。そこから世界各国のソーセージについて文献を漁り、その後、折りを見ては実際にヨーロッパからアジア、南米まで約15カ国赴き、現地のソーセージを食べ尽くした。
当時、ドイツ系のソーセージ屋はあれど世界のソーセージという括りでの専門店がなかったことに気づき、「これだ‼ 独立して、世界のソーセージ専門レストランをやろう」と直感に従った。
2009年、31歳のときに港区白金に「hayari」を開店させた。世界のソーセージ専門の飲食店という珍しさ、グルメ通が集まる立地の良さもあり、すぐに繁盛店になった。百貨店などから出店の話も舞い込み波に乗っていたが、7年目に立ち止まってふと考えた。
「朝から夜まで働いて、閉店してからは近くで仲間と深夜まで飲み明かして、また働くというずっとオンのままの状態でした。このまま不健康な一生を送りたいのか、何のためにソーセージを作っているのかわからなくなっていった」
都心の繁盛店を閉め、2018年に自然豊かな山梨県上野原市で店舗兼工房を構え、移住した。
■課題を詰めるソーセージ=現代ソーセージ
「現代ソーセージ研究家」というユニークな肩書は、2019年夏に付けた。
「僕の友人が、四六時中ソーセージ作りや研究に没頭している僕の姿を見て、『ソーセージ研究家』ではちょっと言い足りない。もっと深遠な思いが伝わるように、“現代”と付け加えたら良いのではないか? と提案してくれたんです。最初は冗談だと思って笑っていましたが、よくよく考えるとその肩書は、僕がやりたいエシカルなソーセージ作りを言い表していました」
約5000年前に誕生したとされるソーセージは、越冬するための保存食であり、切り落としや筋などの部位を余すことなく利用するために編み出された食べ物。
ソーセージの歴史や食文化に精通していた村上シェフにとって、フードロスという現代の課題解決の道具としてソーセージを活用するのは、理に適っていた。
「日本ではキズやサイズ不良の野菜や果物は、味が良くても売らずに廃棄されてしまうことが多い。そういう未利用の食材を使っておいしいソーセージを作れば、フードロスの課題解決の一助になるのではと思ったんです」
■おいしいのに市場に出回らないブドウを…
この構想に確信を持てたのは、近所のブドウ農家さんがたまたま持ってきた、干しブドウがきっかけだった。
「余ったブドウ、こうやって干して大量にあるんだけど、まさかソーセージには使えないよね?」
巨峰やクイーンニーナ、シャインマスカットといった高級ブドウのハネ出しで、大粒で芳醇なおいしさなのに市場に出回らない品だった。その話を聞いた村上シェフの頭には、鶏肉や鴨の肉を伸ばし野菜やナッツ、ドライフルーツなどを抱き込み筒状に成形したフランス料理「ガランティーヌ」が浮かんだ。
「ブドウをセミドライにして平飼いの鶏ひき肉と合わせると、ジャムのようなテクスチャーになる。そこに、中華料理の鶏肉とカシューナッツ炒めのように、カシューナッツを加えれば、程よい粒感がアクセントになると思ったんです」
こうして「勝沼ぶどうと平飼い鶏のソーセージ」が2023年7月、完成した。
■本マグロも枝豆も内蔵もソーセージに
また、未利用のわさびの葉や茎を塩漬けして豚肉と合わせた「奥多摩わさびのソーセージ」、コロナ禍で豊洲市場に余ったマグロの尾を、醤油で甘辛く煮て葱と合わせた「本マグロの葱鮪(ねぎま)ソーセージ」なども過去に発表した。
山梨のブドウ、新潟の枝豆、大分の放牧牛の内臓など、全国に眠る規格外や端切れの食品、引き取り手のない食品を引き受け、レシピを考案し、ソーセージとして新たな命を吹き込んでいる。
2020~2024年には、ひよこ豆や本マグロなどを使って「ソーセージだけを詰めたおせち」を百貨店で販売。ソーセージだけで3万円という値段にもかかわらず、毎年リピーターがつくほど好評を得た。
「僕、詰め込みニストなんです。限られた空間に、いろいろな食材を詰めて自分の世界観を作り上げていく。その作業が、好きなんですよね。食材の生産者から話を持ちかけられると、誰も詰めたことがない難題であればあるほど燃えます。よく”宿題大好き詰めたがり屋の村上です!”って言っています」
■5000年の歴史を持つ食べ物に新しい変化を
現在、エシカルなレシピを考案する、現代ソーセージのプロデュース業に注力している村上シェフだが、新たに現代ソーセージを軸にしたネットワークづくりにも意欲的だ。
「日本各地に、その土地ならではの食材が豊富にあります。野菜や果物といった自然からの恵みを、同じく腸という動物から頂いた自然の産物に詰めることで、現代ソーセージを通して地域の食文化や自然の恩恵を感じることができる。そういうメッセージ性のある現代ソーセージが、地域ごとにあると面白いと思うんです。
そのためには、全国に製造拠点を広げたい。できれば、この考えに共感していただける小回りのきく小規模工場、個人店の方と共創したいと考えています」
現在、ネットワークは宮城、宮崎、北海道、愛知にある4社に広がっている。今後、全国規模に広げるのが目標だ。
「僕の座右の銘は、不易流行です。ハヤリソーセージの店名も、この言葉が由来です。先人の知恵や技術を踏襲しながら、流行に乗るのでなく、自分で新しいソーセージの世界を切り開いていく。経済合理性にも適い、フードロスも解決するという好循環なソーセージを日本全国に広めていきたい」

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村上 武士(むらかみ・たけし)

ハヤリソーセージ社長

福島県いわき市出身。役者を目指して劇団を渡り歩くも料理の道に目覚め転進。さまざまな料理店の経験中ソーセージの奥深さに魅了され、2009年東京恵比寿に世界のソーセージ専門店hayariをオープン。2018年山梨県上野原市に移転。2023年DLG(ドイツ農業協会)国際コンテスト金賞受賞。2024年「食品産業もったいない大賞 農林水産大臣官房長賞」受賞。2025年ICCサミット FUKUOKA 2025 フード&ドリンクアワード アルチザン部門1位獲得。ICCサミットKYOTO 2025クラフテッドカタパルト優勝。現代ソーセージ研究家・作家としてメディア出演、執筆、レシピ開発などを手掛ける。著書に『シャルキュティエのソーセージレシピ』(誠文堂新光社)がある。

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(ハヤリソーセージ社長 村上 武士 取材・文=ライター・中沢弘子)
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