今年3月上旬、中国・北京の「スシロー」が現地当局から立ち入り検査を受けた。同店で提供されたマグロから「寄生虫の卵が見つかった」との客からの通報を受けたものだ。
騒動は、その後どうなったのか。中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵さんは「SNSのネガティブな反応は1~2日のみで、現地報道では告発した顧客の誤解だった可能性も指摘されている。だが、今後もスシローが安泰かというと必ずしもそうとは言えない」という――。
■立入検査で「スシロー」株価急落
3月上旬、中国の日系回転ずしチェーン「スシロー」の北京の店舗で食べた顧客が「マグロから寄生虫の卵が見つかった」とSNSに投稿した一件。北京の市場監督局が本格的な調査を開始し、「スシロー」も調査に全面協力すると発表したが、発覚から間もなく、「スシロー」を運営するFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)の株価が急落する事態となった。
日中関係の冷え込みもあり、その影響が心配されたが、あれから2週間以上が経過し、現地の「スシロー」人気に陰りは出ているのだろうか。
16日午後2時(中国時間の午後1時)、筆者が「寿司郎」(「スシロー」の中国名)各店舗の予約待ち状況が見られるアプリで確認してみると、上海の陸家嘴センター店では300組以上が順番待ちだった。北京や広州にある店舗もいくつか調べてみたが、一部の店舗では同様かそれ以上に大人気で、事件の影響が出ているどころか、さらに人気ぶりに拍車がかかっているように見えた。
■ネガティブな反応は最初の1~2日のみ
15日夜、中国の国営中央テレビでは、「世界消費者権利デー」に合わせた毎年恒例の特別番組「3.15晩会」を放送。これは、あらかじめ潜入取材し、不正を行ったり、消費者に被害を与えている企業を実名で告発するというスペシャル番組で、毎年多くの中国企業が戦々恐々としている。
今年は食材の「鶏爪(鶏の足)」を不衛生な工場で薬品を使って漂白した企業、鴨肉を牛肉と偽って使用していた麻辣湯(マーラータン)の企業などがやり玉にあげられ、「スシロー」を含む外資系企業が糾弾されることはなかった。
「スシロー」についてSNSでの反応を見てみると、「寄生虫の卵が発見された」というSNSの投稿後、ネガティブな反応は1~2日のみで、その後は「おかげで少しは空いているかと思って行ってみたら、相変わらず大人気だった。
今すぐ番号を取って食べなくちゃ」「スシローはさすが行列王だ」といった投稿が多く、人気に変化はない。
昨年12月上旬、上海に2店舗がオープンした際、初日に最大14時間待ちという大行列ができて日本でもニュースとなったが、それ以降も、平日でも時間帯によって2~4時間待ちは当たり前という状況が続いている。同社のアプリを見ると、3月初旬から中旬までの半月で、深圳・万象城店、杭州・黄龍国際センター店、上海・LCM置汇旭輝店などが続々とオープンしており、今後も出店ラッシュは続きそうだ。
■有名レストランで起きた「大炎上」
12日に公開された中国メディア「南風窓」の記事によると、「スシロー」の好調ぶりを紹介するとともに、告発した顧客の誤解だった可能性を指摘。寄生虫の専門家の話として「報道写真を見る限り、アニサキスの特徴と一致していない。マイナス20度で24時間冷凍すれば、アニサキスの幼虫は死滅する」と紹介している。調査結果はまだ発表されていないが、このような報道も“追い風”となり、今のところ悪影響は出ていない模様だ。
だが、だからといって今後も「スシロー」が安泰かというと、必ずしもそうとは言えない。昨年9月、中国の有名レストランチェーン「西貝」(シーベイ)で食べた有名インフルエンサーが「店内で調理しているのかと思ったら、実際は『預制菜』(温めるだけの調理済み食品)ではないか。比較的高額な店なのに、これまで顧客をだましていたのか」とSNSに投稿。これに当初、同社が反論したことが火に油を注ぎ、創業者への批判も含め、SNSで激しいバッシングを浴びた。
その結果、顧客が激減した。
今年1月、同社は全店舗の3割にあたる102店舗を閉鎖すると発表。4000人の従業員も転属や解雇となり、関連損失は5億元(約110億円)にも及んだ。SNSを見ると「温めるだけの食品を使うことが悪いわけではないが、隠していたように見えたことが印象を悪くした」という評価が多かった。
■中国の回転寿司業界に「2つのリスク」
中国では企業でも個人でも、SNSを発端として世論から激しいバッシングを浴びる事例が日本とは比べ物にならないほど起きており、どこでどう導火線に火がつくかわからない。日系など外資も含め、こうした社会の環境は、とくに食品を扱う企業にとって不安材料、リスクの一つとなっている。
また、回転寿司業界の過当競争が激しさを増していることも、「ずっと安泰とは言えない」要因だ。中国に進出している日系回転ずしチェーンは同社のほか、14年に出店したゼンショーホールディングスの「はま寿司」があるが、後発の23年に上海に3店舗出店した「くら寿司」は不振が続き、25年末に閉店した。
不振の背景について、筆者は以前の記事「なぜ中国人は14時間待ちでもスシローが食べたいのか…2年で撤退した『くら寿司』との明暗を分けた出店戦略」で紹介した。
その後、上海在住の中国人の友人に取材したところ、「くら寿司は、上海の経営陣が台湾人であまり上海の状況をわかっていなかったことがあるのではないか。そして、くら寿司の真似をして人気が出た金匠(きんしょう)寿司の店舗が多く、金匠の勢いに勝てなかったことも敗因だと思う」と分析していた。
■「地元チェーン」が急拡大しているワケ
金匠寿司は地元系企業が2018年から経営する回転ずしチェーンで、26年3月15日時点で上海に17店舗、杭州に4店舗を展開する。冒頭の予約待ち状況を検索するアプリで見ても、金匠は複数人の入店に100番待ちということもザラで、とくに上海市内で人気がある。

上海の友人によると「中国系は最初はまずいイメージがありましたが、行ってみたら意外に美味しくて、値段も安いです。昔と違い、今、多くの上海人は日本旅行に行った経験があり、本場の味を知っているので、中途半端な味や、まがいものは通用しません。本場に近い味で、かつコスパもよくないとダメです。それに加えて、地元の人に合わせたローカルアレンジ。その3要素がないと、この上海では勝てないと思いますね」という。
金匠寿司の外観や内装、回転レーンなどは日系かと思うほど日本の回転寿司に似ておりメニューも豊富で本格的だ。「くら寿司」に似た抽選ゲームもある。「くら寿司」などのやり方を真似た可能性もあるが、後発者利益で「いいとこ取り」をした結果、本家を負かすほど急成長している。
■競争激化の中「スシロー」は勝ち抜けるか
SNSを見ていると、全国的には、今のところ、「はま寿司」や「スシロー」の人気が上回っているようだが、最近では四川省発の火鍋チェーンで有名な「海底捞」(ハイディーラオ)も回転ずしの業態に乗り出しており、業界はいわゆるレッド・オーシャン状態だ。中国では「内巻」(ネイジュエン=不条理な過当競争)とも言われる。お持ち帰り寿司専門の企業も多く、中国の都市部では日常的に寿司は好んで食べられている。本家である日本発の回転ずしチェーン店といえども、うかうかしていられないのが現状だ。

F&LCが今年2月発表した最新決算によると、スシローの中華圏(中国・香港・台湾など)事業は好調が続いている。中華圏が75%を占める海外事業全体の売上は前年同期比54.4%増、セグメント利益は同75.2%増と飛躍的な成長を記録している。
この大躍進の原動力は、右肩上がりの積極的な出店推移だ。F&LCは中華圏の店舗を25年9月期の160店舗から今年9月期には3割増やし、210~222店舗にすると発表している。昨年12月に上海に2店舗オープンした時点で、中国では71店舗をオープンしており、中国が中華圏の中核になることは確実だ。今後、中国全土で、どれほど売上を伸ばしていけるかが同社の海外事業にとって重要なカギになるといっていいだろう。

----------

中島 恵(なかじま・けい)

フリージャーナリスト

山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)などがある。

----------

(フリージャーナリスト 中島 恵)
編集部おすすめ