人は相手の何を見て「感じが良い」「感じが悪い」と感じ取っているのだろうか。心理学者の舟木彩乃氏は「人は、相手の様子から『安心できる人か』『信頼できる人か』という2点を感じ取り、感じの良さ・悪さを判断している。
第一印象は長く残るため、ぜひ初対面から『あなたを尊重しています』という姿勢を貫き、良い印象を与えてほしい」という――。
■「怖そう」という印象がひっくり返った瞬間
カウンセリングや打ち合わせを通じて多くの人と関わる中、相手の印象を決定づけるのは、「相手を“個”として尊重しているか」という姿勢だと感じます。
ある企業の役員であるAさんと初めて会ったときのことです。私はAさんと顔を合わせるまで緊張していました。Aさんをメディアで見た際、「冷徹そう」「怖そう」という印象だったからです。
しかし私がAさんの部屋に入った瞬間、Aさんはパソコンを打つ手を止めて椅子から立ち上がり、しっかりと私の目を見て「はじめまして。楽しみにお待ちしていました」と、穏やかな笑顔と心のこもった声で迎えてくださいました。「あなたのための時間を確保しています」というメッセージが非言語で伝わり、信頼関係の土台が築かれた瞬間でした。
「怖そう」だと思っていた人が、実際は「腰が低い」「穏やか」だった場合、人は印象の“差分”に強く反応します。これは心理学でいう「ギャップ効果」「期待違反理論」に当たります。良い意味で期待を裏切ることは、好感が一気に高まると同時に、印象形成における強力な要素になるのです。
また、メディアに出る方は、普通にしていても「偉そう」「近寄りがたい」と思われがちです。
そこに「腰が低い・丁寧・謙虚」という態度が加わると、好意が一気に跳ね上がることがあります。これは「ハロー効果」の一種です。一つの良い特徴が全体の印象を底上げするのです。
■印象管理に失敗したBさん
一方で、「この人は感じが悪いな……」と思ってしまう瞬間もあります。
Bさんは、相手の話を熱心に聞き、気分良く回答できるような質問をするなど、相手の立場で立ち回れる方でした。しかしそれは、自分より役職の高い人や、関係が有利にはたらきそうな人に限定してのこと。打ち合わせ中にお茶を運んできたスタッフが視界に入った瞬間、表情が完全になくなり、そのスタッフから視線を外したのです。私はその振る舞いを見て、「感じが悪い……」と思わざるを得ませんでした。
人は自分ではなく「自分より弱い立場の人」への振る舞いを見て、その人の本質的な誠実さを判断します。このような冷徹さは、周囲に強烈な「感じの悪さ」と不信感を植え付けてしまうのです。
なお、これはBさんの「印象管理の失敗」とも言えます。自分にとって有利な人の前では“良い自分”を演じますが、弱い立場の人には気が緩み、本性が漏れる。
印象管理はエネルギーを使うため、「重要でない相手」にはコントロールが外れやすく、一瞬でその人の“本当の価値観”が露呈するのです。
■第一印象「判断のポイント」
初対面の印象は「パッと見3秒、話し方30秒、立ち居振る舞い3分」などと言われるように、かなりの短時間で決まります。これは心理学で「初頭効果」と呼ばれ、最初に与えられた情報がその後の評価全体に強く影響を及ぼす現象です。第一印象が良いと、その後も好意的に受け取られやすく、逆に出だしでつまづくと、印象の挽回が難しくなることもあります。
このとき、人は本能的に印象を判断しています。そのチェックポイントは主に「敵か味方か(安心感)」「有能かどうか(信頼感)」の2点です。
特に初対面では、脳の生存本能として「この人は自分に害を与えないか」という安心感を優先的にチェックします。そのため、口角の上がった表情(笑顔)や、適度なアイコンタクト、相手の動作に合わせる「ミラーリング」などが、無意識に「感じの良さ」として処理されます。
また、先ほどの「“個”として尊重しているか」という点や、他者に対する態度は、「敵か味方か」、つまり安心感を確認していると言えます。
■「感じが良い人」のメリット
そもそも、相手から「感じが良い」と思われることは、ビジネスパーソンとして強力な「心理的資本」になります。具体的には、以下3つのメリットにつながります。
心理的安全性の向上
メンバーが「この人になら相談できそうだ」と感じることで、報告・連絡・相談がスムーズになり、ミスやトラブルの早期発見につながります。

返報性の原理の活用
人は、好意を受けると好意を返したくなる「好意の返報性」という性質を持っています。感じ良く接することで、周囲からの協力が得やすくなり、結果として自分のパフォーマンスも向上します。
ストレスの軽減
敵対的な関係が減ることで、対人ストレスによるメンタルヘルスの悪化を防ぎ、組織全体のレジリエンス(回復力)が高まります。
一方で、「感じが良い人」を意識するあまりに“みんなの便利屋”になると、いらぬストレスを生むきっかけにもなるため、注意が必要です。
■新年度に意識したい「感じの良い態度」
もうすぐ新年度が始まります。新たな環境に飛び込む方や、職場で新しいメンバーを迎える方も多いでしょう。
これから新しい環境に入る人が、周囲から「感じが良い」と思われるためには、「開示」と「観察」が重要となります。
具体的には、少しずつ「自己開示」を進めていきましょう。自分を完璧に見せようとせず、「実は少し緊張しているんです」などと等身大の気持ちを伝えることで、相手の警戒心が解けていきます。
このとき意識すべきなのは、その職場の「暗黙のルール」を尊重することです。まずは聞き役に徹し、相手の文化を理解しようとする姿勢が「感じの良さ」に直結します。
一方、新しいメンバーを迎える人は、「承認」と「先回り」を重視することが大切です。

「来てくれて助かります」「分からないことがあればいつでも聞いてください」と、相手を肯定、承認するような言葉を意識的に増やしましょう。
このとき意識すべきなのは、相手は「アウェイの状態である」ということです。こちらから積極的に挨拶をし、孤立させないための「心理的ケア」を先回りして行うことが、迎える側としての「感じの良さ」につながります。
なお、新年度は多くの企業で、イントラネットに新入社員の紹介文を掲載する、といった取り組みが行われます。その紹介文に「ランチに誘っていただけたら嬉しいです」や「気軽に声をかけてほしいです」といった文言が並んでいるかもしれません。
近年はハラスメントや若者のタイパ重視などが話題になりがちですが、「話しかけてほしい」「関わりたい」と思っている新入社員も多くいるようです。人によっては声をかけてあげるとよいでしょう。
■「一発アウト」になる人の行動
なお、周囲から「この人、感じが悪い!」と“一発アウト”になるのは、どのような人でしょうか。
まず、新しい環境に入る側では、学生時代や前職での「過去の栄光」をすぐ引き合いに出す人です。「前の会社ではこうでした」という発言は、信頼されたい気持ちの裏返しかもしれませんが、今の環境への否定と受け取られかねません。現状を尊重しない態度は一瞬で敬遠されます。
次に、新しいメンバーを迎える側では、専門用語を並べ立てたり、忙しさをアピールして話しかけにくいオーラを出したりする人です。
これは「心理的マウンティング」といい、「自分の方が上だ」という誇示は、周囲の意欲を著しく削ぎます。
「自分も“一発アウト”の行動を取っているかも……」と不安になったら、以下の方法で確認しましょう。
「相手の反応」を鏡にする
自分が話しかけたとき、相手の表情が和らぐか、あるいは硬くなるかを観察してください。相手の反応は、自分の非言語情報の合わせ鏡です。
自分の行動に「納得感」があるかを自問する
「今の自分は相手に対して誠実だったか?」という内省を繰り返すことで、自然と芯の通った「感じの良さ」が滲み出るようになります。
■「見た目」を味方につけて好印象に
「人は見た目で判断できない」という言葉がありますが、脳科学や心理学から見ると、外見は相手の信頼性を判断するための「最もコストの低い情報源」です。特にビジネスシーンの初対面において、脳は次のポイントを無意識にスキャンしています。
最優先に感じ取っている「清潔感」
脳は、視覚情報の中に、汚れ、シワ、乱れといった違和感を見つけると、それを「ノイズ」として処理し、警戒心を強めます。清潔感がある状態とは、相手に余計なノイズを与えず、安心感を与える状態です。
この清潔感、つまり「セルフケアができているか」ということは、自己管理能力の指標であり、「自分の身なりを整えられるなら、仕事の管理もできるだろう」という信頼を抱かせる、最もコスパの良い投資です。
また、衣服の印象も客観性のバロメーターになります。服のデザイン以上に重要なのが「サイズ感」です。
今の自分の体型にフィットした服を着ているかは、「今の自分を客観視できているか」というメタ認知能力の表れとして脳に認識されます。
以前の体型に合わせた服や、体型を隠すほどの大きすぎる服は、内面の停滞や自信のなさを投影してしまいます。今の自分に合わせる柔軟性は、ビジネスにおける適応能力としても評価されるのです。
「姿勢と所作」からその人の“本質”を読み取る
無意識の所作や姿勢にはその人の日常が反映されます。特に、ペンや名刺、資料などの「モノを扱う丁寧さ」は、「人を扱う丁寧さ」と直結して認識されます。足を使って椅子を動かす、会計時にお金を投げるようにして出すといった行動は、その人の“雑な本質”が見え、“アウト”の引き金になりかねません。
■個性を出すのは「信頼関係を築いてから」
また、人前で個性的なメイクや服装をする人たちがいますが、一般企業に勤務するようなビジネスパーソンの場合、外見を自己表現の手段として使うのは、信頼関係が構築された後です。最初は外見を、相手が自分に対して抱くべき「安心感」と「信頼感」を最大化するための戦略的ツールとして定義しましょう。
心理学では「社会的アイデンティティ」という概念があります。まずはその場にふさわしい「プロフェッショナルとしての外見」を提示することで、相手の脳にスムーズに受け入れられます。自分の個性は、実力が認められ、深掘りされてから出す方が、より魅力的に映るものです。
以上を参考に、ぜひ「感じの良い人」として新年度をお迎えください。

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舟木 彩乃(ふなき・あやの)

心理学者

心理学者〈ヒューマン・ケア科学博士/筑波大学大学院博士課程修了)。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」/筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻長賞受賞。メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。官公庁カウンセラーでもあり、中央官庁や自治体での研修・講演実績多数。文理シナジー学会監事。AIカウンセリング「ストレスマネジメント支援システム」発明(特許取得済み)。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタント技能士2級などを保有。Yahoo!ニュース エキスパート オーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)や『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)他。

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(心理学者 舟木 彩乃)
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