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今回取り上げるのは川本大吾『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)――。
■イントロダクション
四方を海に囲まれた日本は世界に名だたる海洋国家だ。領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせ世界第6位となる広大な海域には、寒流と暖流が交差し好漁場が作り出されている。
歴史的に豊かな魚資源に恵まれ漁業と魚食文化が発展してきたが、近年、状況が変わってきているようだ。国産魚が食卓から消えているのだ。
本書では、世界と日本の漁業生産、国内の魚消費量の推移を追いながら、日本で水揚げされる魚の全体量が減少している中、メジャーな国産魚の大半が「非食用」となっている実態を伝えている。
日本で漁獲される魚のツートップはマイワシ・サバであるが、消費者の嗜好が青魚ではなくサーモンといった外国産の魚に移っている。また、マイワシや国産サバは獲れても小型であることが多いため、選別されず飼料や肥料用に回され、消費者には届かないのだという。
著者は時事通信社の水産部に所属し、東京・旧築地市場・豊洲市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当してきた。2014年7月から水産部長を務める。
第1章 減り続ける日本の魚

第2章 獲っても食べない国産魚

第3章 日本一の魚を食べない理由

第4章 消費の主役は外国魚

第5章 秋の味覚はいつ復活するのか

第6章 揺れ動く日本のマグロ事情

第7章 強化される内外のマグロ管理

第8章 マグロ人気に陰り・サーモンが台頭

第9章 おいしいマグロが食べたい!

第10章 大衆魚の利用が水産業復権のカギ

第11章 漁師の減少を食い止めよう
■今、日本で人気がある魚
日本で今人気がある、売れている魚は何なのか。
総務省の家計調査報告を基に水産庁が作成した「生鮮魚介類の1人1年当たり購入量及びその上位品目の購入量の変化」(令和5年度水産白書)によると、近年は、サケがトップで、マグロ、ブリ、エビ、イカの順となっている。サケはチリで養殖されたギンザケや、ノルウェー産のサーモンが人気となっている点も見逃せない。
さらに、マルハニチロ(※2026年3月よりUmios)が2025年3月にまとめた「回転寿司に関する消費者実態調査2025」によると、全国3000人(有効回答者数)対象の調査で、回転寿司でよく食べるネタは、「サーモン」で14年連続1位となった。2位はマグロ(赤身)で、3位がマグロ(中トロ)、4位はハマチ・ブリ、5位はエビ、その後にネギトロ、イカ、えんがわ、イクラ、マグロ(大トロ)というのがベスト10入りしたネタである。どれもスーパーの店頭でもお馴染みのラインナップだ。
■水揚げ量ダントツ1位はマイワシ
ここで、現在の日本の漁業生産を詳しく見ていきたい。2024年の漁業生産を魚種別に見ると、ナンバーワンはマイワシで66万7000トン(千トン単位の概数。以下同じ)、2位はホタテガイで31万7000トン、3位は「サバ類」で25万6000トン、4位はカツオで24万3000トン、以下、5位スケトウダラ(12万4000トン)、6位カタクチイワシ(10万1000トン)までが10万トン以上となっている(農林水産省)。
各魚種、前年よりも水揚げ量が減っている魚種が多いが、そんな中でも群を抜いて多いのが首位のマイワシである。2位で貝殻を含めたホタテガイの2倍以上となっており、孤軍奮闘している貴重な存在と言える。だが、マイワシの人気は、決して高くない。大量に漁獲されている割に、魚売り場で大量に売りさばかれているとは言いがたい。

マイワシに関する調査結果を見ると、興味深い数字が目に入った。農林水産省の全国主要漁港(32漁港)における産地水産物用途別出荷量調査結果(*2024年)を見ると、「養殖用又は漁業用飼料向け」が42.7%でトップ。このほか、「魚油・飼肥料向け」が38.5%となっており、8割以上が刺身や焼き魚ではない「非食用」として扱われていることになる。
2024年の水揚げからみれば、約8.6万トンは食べているが、残りの約37万トンのマイワシは、人が食べずにほかの用途で利用されており、もったいない気がしてならない。水揚げが上位で比較的たくさん獲れている魚たちをもっと利用すれば、漁業者の実入りも上がり、魚食文化の継承についても、良い筋書きが描けるようになってくるのではないかと思う。
■「餌になるんじゃないかな」
2022年冬、三陸の漁港で目の当たりにした光景は印象的だった。定置網で漁獲されたマイワシなど、主に小魚ばかりの水揚げだったが、ドサッとダンベと呼ばれる魚槽いっぱいに詰め込まれていた。
中を覗き込むと、新鮮でピンピンした小魚の中に、それなりに大きめのマイワシも含まれていた。そのマイワシを手に取り、近くにいた漁港関係者に「これは刺身にしたらうまいでしょう?」と言うと、「まあ、そうだね……」と少し頷いたように見えた。
ただ、この数種の小魚が入ったダンベの中身を、鮮魚出荷できる魚だとか、あるいは冷凍して餌にするかなどと判断するような人手は、掛けていられないといった様子。マイワシやアジ、中にはタチウオなども入っていたが、多くが市場価値の低い小魚であれば分ける必要なし。つまり雑魚扱いだ。
まとめて冷凍庫で眠らせ、行きつく先は「(天然・養殖漁業用などの)餌になるんじゃないかな」と、漁港関係者は話していた。
■水産物の複雑すぎる流通
メジャーな青魚が日の目を見ない要因の一つには、水産物の流通が複雑であることが挙げられる。漁港で水揚げされた魚は、多くの場合、漁港に併設された卸売市場で、競りや入札が行われ、産地の仲買人に引き取られる。そこからまた別の業者を通じて、漁港付近の小売店に運ばれたり、あるいは東京・豊洲市場など都市部の中央卸売市場へ出荷されたりする。豊洲では、再度競りや相対などの取引によって、卸業者から仲卸業者へと魚が渡り、料理店や鮮魚店がその仲卸から魚を買い付けるという流れになる。
そうした何人もの組織・人を介して、最終消費段階へ向かうことが多い魚だけに、「人気がなくてもおいしいよ」という共通の思いがつながらなければ、流通しない。逆に言えば、需要が高いとわかっている魚種に流通対象が偏る傾向が強いということになる。こうした事情から、マイワシなど地味な青魚が店頭に並ぶのはごくわずか。流通しない、売っていないから消費は上がらない。
■国産サバより食べられているノルウェー産サバ
日本で2番目に多く獲れている魚であるサバも、あまり食べられていない。総務省の家計調査によれば、2024年の一世帯当たり(2人以上)の「サバ」の購入数量は、年間621グラムで、10年前の2014年(1148グラム)に比べて46%減少。半分近くに減っている。

サバを買って調理し、食べていても、それが国産のサバだかどうか、わからない。今は大西洋産のサバが日本で浸透し、幅を利かせているからだ。特に、ノルウェー産のサバはかなり以前から日本に浸透しており、今やなくてはならない存在となっている。
ノルウェー大使館水産部によると、同国から日本へのサバ輸出は、2024年が約5万3000トンだった。一方、日本の2024年のサバ類生産量は、25万6000トン。したがって、国内生産の5分の1ほどになるが、依存度はそんなものではない。なぜなら、中国やベトナムなどを経由して日本へ入ってくるノルウェー産のサバを合わせれば、およそ14万トンになるからだ(同国大使館水産部)。
日本では(*小型魚が多いため)国産サバの食用としての利用が少なく、飼料や肥料などに使われる分が多い。それを裏付けるように、スーパーや弁当、定食屋などでもノルウェー産のサバは当たり前のように扱われている。国産よりノルウェー産のサバを食べまくっているのに、そうした認識は低く、「国産かな」といった程度にとらえられている可能性が高い。
■ノルウェーの持続可能な漁獲の仕組み
なぜ、ノルウェーでは日本人に好まれる、大型で脂が乗ったサバが獲れるのか。筆者は2022年9月下旬、現地入りしてその理由を目の当たりにした。
漁業が盛んなノルウェー南部西岸のオーレスンを訪れると、岸壁に横付けされた大型漁船から、隣接する水産加工場にフィッシュポンプを通じて、獲れたばかりのサバが次々に送り込まれ、ベルトコンベアーを通ったサバがサイズ別に選別され、ただちに梱包・製品化されていた。
こうした水産加工場は、同国にいくつかあるが、漁獲物の情報は既に漁船上でネットを通じて公開され、その情報を基に現地の商社などが買い付けを済ませている。日本のように、漁港に揚がってから、仲買人などが品定めするのとは大きな違いがある。
加工場に入ってくるサバを見ると、明らかに日本のサバとは違うことに気づく。多少の差はあるものの、すべてが大きく立派なサバばかり。大きいサバばかりなのは海域の違いなのか。現地の漁業関係者に尋ねてみると、「全ての漁船に漁獲量が決まっており、その中でなるべく品質のいい、サイズの大きいサバを獲ろうとするため、サイズの小さい魚の比率はとても低い」という。
こうした選択的な漁獲によって乱獲に陥らず、比較的サバの資源が安定。持続的利用が図られていることが専門家からも評価されている。他方、日本では、小型魚を獲らずに大型魚を待つのではなく、どんなサイズでもとりあえず獲って帰港し、水揚げ金額を稼ごうという傾向がある。常に競争原理が働いており、ノルウェーの小型魚保護につながる管理とは対照的だ。
大きく脂が乗ったノルウェーのサバは、需要が伸びる一方であり、現地の日本人の水産関係者は「この先、10年もすれば日本で食べるサバは、ほとんどノルウェー産になるのではないか」と話していた。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
■コメントby SERENDIP
日本漁業の現状を踏まえ、事態を打開するには「大量に獲れた魚をおいしく食べる」方針が重要だと著者は訴える。本書には低利用魚であるマイワシや小サバを煎餅、味噌煮、缶詰などに加工して付加価値を高める事例も紹介されているが、水産会社や漁協の努力に任せるだけでは進展は望めないだろう。消費者も国産魚に対して理解を深めることが肝要だ。例えば「サイズが小ぶりでもおいしく食べられる」というニュートラルな視点や、国産魚を食べる機会が日本の漁業・魚食文化を支えていくという意識がいっそう求められるのではないか。

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