■中国系の減便で、日系エアラインが潤う
習近平政権の渡航自粛要請で、中国の航空会社は日本路線の座席数を約23%削減。対照的に日本航空(JAL)は、過去最高益を叩き出した。
米航空宇宙専門誌のアビエーション・ウィークは、イギリスの航空データ会社OAGの定期便データ分析を取りあげている。それによると、中国系航空会社が2025年12月に予定していた日本路線の供給座席数は、11月初旬時点の185万席から142万席へ急減し、23.2%の減り幅となった。便数ベースでは9813便から7432便に減少し、24.3%の落ち込みを見せた。中国民用航空局(CAAC)による正式な減便指示は確認されていないものの、習近平政権の渡航自粛要請を受け、各社一斉に大幅な縮小に動いた結果だ。
波乱の中、利益を伸ばしたのがJALだ。同社のプレスリリースによれば、JALグループは2025年度第3四半期累計(4~12月)で、EBIT(利払い・税引き前利益)が前年同期比24.2%増の1791億円、売上収益が同9.2%増の1兆5137億円となり、いずれも再上場以降の同期間最高を更新した。
中国便を利用していた利用者には、出張や大切な帰省など容易に移動をキャンセルできない者もいる。中国系航空各社が減便に舵を切ったことで、こうした需要が日系企業になだれ込んだ。中国が外交カードとして打ち出した減便は、狙いとは裏腹に日本の航空会社を潤している。
■自粛要請は3月まで続く見通し
発端は高市早苗首相の台湾をめぐる発言だ。中国政府はこれに強く反発し、国内航空各社に「当面の措置」として日本便の削減を指示したと、米金融情報サービスのブルームバーグなど複数のメディアが報じている。
どの路線をどれだけ減らすかは各社の裁量に委ねられたが、日中の外交関係に大きな変化がなければ、旧正月にあたる春節の繁忙期を挟んで措置は継続。冬ダイヤが終わる2026年3月末まで続く見通しだ。
ブルームバーグによると、中国発日本行きの12月の予約済み便数は10月比で20%以上減った。上海・広州・南京と名古屋・福岡・札幌を結ぶ少なくとも12路線がすでに廃止された。運航を続ける路線でも、大型のワイドボディ機から単通路の小型機への置き換えが進む。
OAGが分析した航空会社別の削減率は、中国国際航空約10%減、中国東方航空13%減、中国南方航空24%減。だが、国際路線の選択肢が限られる格安航空会社(LCC)各社の痛手はさらに大きい。春秋航空は36%減、吉祥航空は41%減、深圳航空はほぼ半減した。
■中国路線は収益のわずか8%
こうして中国の航空会社が退いたあとの需要を、日本企業が取り込む形となった。
香港の英字新聞のサウスチャイナ・モーニングポスト紙がOAGの集計をもとに報じたところによると、日本の航空会社が運航する中国路線の便数は2025年10月下旬の189便から、2026年1月12日時点で203便に増えた。
増便を牽引したのはANA傘下のLCCピーチ・アビエーションと日本航空の連結子会社で中国便に特化したスプリング・ジャパンだ。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は同紙に、「中国の航空会社が減便した分、乗客が日本側にシフトしている」と語った。
収益への影響がなかったわけではない。旅行業界B2Bメディアのトラベル・アンド・ツアー・ワールドによれば、JALは2025年12月単月では、中国路線の収益640万ドル(約10億円)を失った。だが、同路線は国際線収益の約8%にとどまる。
実際、日本航空のプレスリリースによると、フルサービスキャリア事業の売上収益は1兆1967億円(前年同期比9.2%増)、利払い・税引き前利益を示すEBITは1268億円(同28.6%増)で、国際旅客数は8.2%増、国内旅客数も7.4%増、アジア―北米間の国際貨物収入も19.3%伸びた。中国路線で失った月10億円は、EBIT1268億円に対して極めて小さい。
■トランプ関税が太平洋路線に追い風
なぜ日本の航空業界は、中国からの減便にこれほど動じないのか。答えは、数年がかりで築いてきた収益構造の変化にある。
損失を補っている大きな要因の一つが、太平洋路線だ。印航空専門メディアのアビエーションA2Zによると、2025年4月以降のアメリカの関税拡大を機に、サプライチェーンの再編を迫られた日米双方の企業幹部の出張が急増。JALとANAの太平洋路線ではプレミアムシートの需要が大幅に膨らみ、トランプ関税が思わぬ形で航空会社を支えた。
JALのビジネス需要は前年比121%増に達し、ANAも北米路線を軸に国際線で過去最高益を更新した。円安で日本人のレジャー渡航は細ったが、法人需要の急伸がその目減り分を大きく上回った。
旅客1人あたりの単価も大きく上昇した。航空業界ネットワーク開発専門誌のルーツによると、両社の国際線旅客イールドはコロナ禍前の1.7倍に達している。イールドとは旅客1人を1キロメートル運ぶごとに得られる収入を指し、航空会社の収益力を測る基本指標だ。
プレミアムキャビンの需要増、円安による外貨建て運賃の押し上げ、そして供給がコロナ禍前の水準に戻りきらないなかで需要が先行した需給の逼迫が重なり、座席あたりの稼ぐ力がコロナ禍前とは別次元に跳ね上がった。
JAL副社長の斎藤祐二氏はプレスリリースで、「多様な路線ネットワークと他地域の強い需要により、中国路線で失った収益をカバーできる見込みです」と語った。北米、欧州、東南アジアへと数年がかりで路線を広げてきた結果、一つの市場が欠けても揺らがない収益構造がすでに出来上がっている。
■「制裁」の代償は中国航空会社に集中
皮肉なことに、この「制裁」で最も痛手を負っているのは、発動した中国側の航空会社だ。
航空コンサルティング会社ASMのハン・ジャオ氏は、日中便の大幅な削減について、「(中国の)国内航空会社に短期的な財務的圧力をもたらすことは間違いない」と警告する。
アビエーション・ウィークが伝えた同氏の分析によれば、圧力が最も強まるのは2026年2月の春節旅行シーズンだ。旺盛な訪日需要が見込まれるはずの時期に、大量の払い戻しと減益が集中する。
なかでも中国東方航空は厳しい。ブルームバーグによれば、同社の日本路線は年間約1万6000便にのぼり、中国本土の航空会社のなかで対日輸送力は最大だ。運航規模が大きいだけに、減便の傷も深い。
■繰り返される中国の「観光カード」
中国が観光を外交の武器として使ったのは、今回が初めてではない。「制裁」のたび、中国人旅行客の行き先は変わる。そのたび、周辺国があたかも当番制のように、増えた旅行客を受け入れてきた。
2017年、韓国が米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備した際、中国は報復として韓国への団体旅行を事実上禁止した。韓国の観光業界は深刻な打撃を受けたが、中国人旅行者の需要が消えたわけではない。行き先が日本や東南アジアに移っただけだった。制裁の標的から外れた周辺国が漁夫の利を得る。その構図は、このとき既に鮮明だった。
東京はソウルと同じく、北米とアジアを結ぶ乗り継ぎの要衝にある。米航空業界専門誌のエアライン・ウィークリーは、両都市はハブとしての接続性が高く、中国やロシアと欧米の対立が深まり直行便が制限されるたびに、代替ルートとしての存在感を増してきた――と振り返る。
2023年には、米中間の空路が絞られた。コロナ禍前には1日最大50便飛んでいた米中直行便は、政治上の対立を背景に、週わずか20便にまで減った。このとき、中国からあふれた旅客需要を吸収したのは、やはり東京とソウルだった。
中国からの旅客が急増する年もあれば、急減する時期もある。こうしたパターンに関連諸国はもはや慣れっこになっている。
■訪日中国人は急減したが影響は限定的
もっとも、日本がまったく無傷というわけではない。サウスチャイナ・モーニングポストが出入国在留管理庁のデータをもとに伝えたところでは、2026年1月の中国本土からの訪日者数は34万8710人と、前月の58万7098人から4割超の急減となった。春節期間中の日本渡航を巡り、中国政府が改めて発した警告が直撃した形だ。
同紙によれば、春節連休中の訪日中国人も、前年の推定26万~30万人から16万~18万人に減る見通しだ。
影響は長引く気配もある。
ただ、サウスチャイナ・モーニングポストによると、日本の観光業は年間9.5兆円規模に達する。訪日外国人全体でみれば、1月は352万人と前年12月の349万人をむしろ上回った。
格付け会社フィッチ・レーティングスのエコノミスト、ジェシカ・ヒンズ氏は、「日本への観光は他の地域からは非常に好調だ」と述べる。立命館アジア太平洋大学の佐藤洋一郎学部長が指摘するように、「日本は今のところ吸収できている。観光はタイのように経済の最大の柱ではない」のも確かだ。損失90億ドル(約1兆4000億円)という試算は、日本経済全体を揺るがすにはほど遠い。
■脱中国の成長戦略が加速している
JALの視線はすでに、中国の先にある。
同社は2026年1月17日、成田~デリー線を開設した。プレスリリースは、東南アジア・南アジア・北米を結ぶハブとしての成田の機能強化を狙いに挙げる。2月15日にはインド最大手のLCCインディゴとの3路線でコードシェア(共同運航)も始まり、デリーから成田経由で北米にも日本各地にも乗り継げるようになった。
グループ会社の日本トランスオーシャン航空(JTA)も動いた。国内線が主力の同社が、初の国際定期便となる那覇~台北(桃園)線を開設し、訪日客を沖縄離島や日本各地へつなぐ。
中国路線の比重が下がるほど、今後中国共産党の意向で航空便が絞られても、日本への影響は限定的になる。JALは今、中国依存の軽減に取りかかっているとも見ることができよう。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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