交通事故を起こしたら、どんなことに気をつければいいのか。弁護士の藤吉修崇さんは「ドライブレコーダーがあるからと安心してはいけない。
事故直後の対応が、過失割合を決める交渉に大きく影響する。焦っていても、絶対やっておいてほしいことがある」という――。(第1回)
※本稿は、藤吉修崇『交通トラブル六法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「過失割合」が決まる過程は複雑
交通事故のニュースでよく耳にする「過失割合」。でも実際に事故に遭うまで、その正体を知らない人がほとんどではないでしょうか。「まさか適当に決めてるんじゃ……」なんて不安に思ったことはありませんか?
「過失割合」は、例えば「7対3」といった具合に表されます。これは事故の責任がどちらにどの程度あるかを示した数字ですが、なぜか合計すると必ず10 になります。まるで誰かが「きりがいいから10にしよう」と決めたかのようですが、実際は法律や判例に基づいて細かく定型化されています。ちなみに合計を100にしても問題ありません。
とはいえ、事故の態様はさまざま。定型化されていても、実際の過失割合は複雑な要因が絡み合って決まることになります。
例えば、信号のない交差点でお互いに「自分が先だ!」と譲らず衝突した場合、その瞬間の速度、周囲の状況、道路環境などを考慮して、さらに過去の判例なども踏まえて過失割合が決定することになるのです。

■運転手は「かも」を予測し、注意を払う義務
過失割合を決める際には、「どちらがどれだけ注意を怠ったか(注意義務違反)」という視点が最も重要です。過失というのは、専門的な用語で言うと予見義務を前提とした注意義務違反です。わかりやすく言うと、注意すべきときに注意しなかった、つまり「気をつけていれば事故を防げたのに、それをしなかった」ということです。運転する以上、「ここでスピードを出したら危険かも」「歩行者が飛び出してくるかも」と予測して注意を払う義務があります。
具体的な判断材料として、一時停止や徐行義務の遵守、優先道路を走っているかどうか、視界や道路の状況、周囲への配慮(クラクションなどの警告行為)の有無などが挙げられます。結局、「どちらが事故を避けるために何をすべきだったか」を比較して決めるのです。
「7対3ってどうして5対5じゃダメなの?」と疑問に感じた方はいませんか? 先ほども述べたように、過失割合は過去の判例をベースにしたある程度の基準があります。これはなぜかと言うと、同じような事故なのに、毎回バラバラの割合が設定されたり、裁判官の好き嫌いで決められたりしたら納得いきませんよね。だから似たような事故では、統一感のある過失割合が使われるようになったのです。
「歩行者が信号無視しても車側の責任が重くなることが多い」のも、この統一的基準の結果です。車と歩行者のどちらが危険かは一目瞭然ですよね。そのため人に怪我をさせる可能性が高い車の方に「歩行者を守るための注意義務」がより強く求められているのです。

■事故直後の「スマホ撮影」を忘れないで
過失割合がどのように影響するかを具体的に考えてみましょう。
例えば、事故の損害額が100万円の場合、「7対3」という過失割合なら、過失が70%ある側は70万円、過失が30%の側は30万円を負担します。
過失割合が1割違うだけで、金銭的な負担が大きく変わることになるため、細かな注意義務の判断が非常に重要です。
実務上よくある例では、交差点での出会い頭事故、駐車場内での事故、急ブレーキによる追突事故など、それぞれの状況によって判例が異なります。例えば、交差点で一方が一時停止を怠った場合、明確にその側の過失割合が高くなります。
事故直後の対応が、後の交渉に大きく影響します。まず絶対に忘れてはいけないのが「証拠保全」です。最近はドライブレコーダーが有力な証拠として活躍しますが、ドライバー自身が事故現場の写真をスマホで撮影することも重要です。
「相手が良い人だったから」と安心して口約束で済ませるのもNGです。口約束で済ませてしまった結果、相手と連絡が取れなくなったりするケースを弁護士としてたくさん経験しています。事故現場の状況や車両の位置、信号の色までできるだけ詳細に記録しておきましょう。
■「バイクすりぬけ」による巻き込み事故はどうなるか
また、保険会社任せも禁物です。
ときには「担当者が変わったら話が違う!」なんてことも。過失割合に納得がいかない場合は、遠慮せず弁護士に相談するのがベストです。現在は、弁護士費用特約が付いている保険も多く、そうした保険に入っていれば弁護士費用を保険会社が支払ってくれます。
では、このイラストのように、左折した車とバイクがぶつかった場合の過失割合はどうなると思いますか?
コンビニに入ろうと左折した瞬間、横をすり抜けてきたバイクとぶつかった。多くの人が一度は見たことがある光景ですが、いざ当事者になると「どっちが悪いの?」と頭が真っ白になってしまいます。あなたはどちらの過失が重いと思いますか?
今回取り上げる事例は、車が左折してコンビニに入ろうとしたところ、左側をすり抜けてきたバイクと衝突したケースです。バイクに乗る人からすれば「車が突然曲がってきた!」となりますし、車側としては「いきなりバイクが出てきた!」と感じる事故です。実際、このような事故は日常的に発生していますが、双方ともまさか自分が事故に巻き込まれるとは思っていません。
■法律の原則「直進車を妨げてはいけない」
この事故で重要になるのは、車が左折前の安全確認を十分に行ったかどうかという点です。特に左折する場合は、左後方を十分確認して巻き込み事故を防ぐ義務があります。車はミラー確認だけでなく、できれば直接目視による確認もした方がベター。いわゆる死角に入ってミラーに映らないケースがあるからです。

一方、バイク側の視点に立つと、渋滞などで停車中の車列の脇をすり抜けるのは日常的な光景ですが、「車が急に左折してくるかも」とか「急に進路変更してくるかも」というリスクを常に考えて走行しなければなりません。バイクには車よりも高い機動性がありますが、事故をすると怪我も大きくなりがちなので、その分、自身も十分な注意を払う義務があります。
しかし、法律上の基本的な考え方として、車両が進路変更や左折をする場合は直進車を妨げてはいけないという原則があります。この原則が過失割合に大きく影響するのです。
「バイクが勝手に狭いところをすり抜けてくるんだから、バイクが悪いでしょ!」という声をよく聞きますが、実際にはそう単純ではありません。車は左折時、後方の車両やバイクなどに対する安全確認を怠らないことが義務付けられており、これを怠れば過失が重くなるのです。
■過失割合「車8割、バイク2割」が多い
また、バイクが直進している場合は基本的に優先されるという考え方が一般的であるため、バイク側の責任がゼロにはならないにしても、小さくなる傾向があります。また、車の方がバイクよりもはるかに重量があり、衝突時の被害が重大になりやすいため、法律上も車にはより大きな注意義務が求められることが多いのです。
このケースでは一般的に、車側の過失が8割、バイク側の過失が2割とされることが多いです。これは、車側に左折時の安全確認義務違反があったと判断されるためです。車の注意義務が非常に重く、バイク側はすり抜け時に一定の安全確認を怠ったとしても、注意義務の程度が比較的軽く評価されるため、過失割合がこのような設定になります。
事故を未然に防ぐためには、車の運転手は左折前にサイドミラーだけでなく、目視確認を必ず行いましょう。
特に渋滞時や交通量の多い道路では、いつバイクがすり抜けてくるかわかりませんので注意が必要です。
バイクの運転手も、車の陰からいつ左折車両が出てきてもおかしくないということを予測し、安全な速度で慎重にすり抜けを行うことが重要です。事故に巻き込まれた場合は、バイク側も必ず現場の写真や映像を残し、自身の安全運転の状況を証拠として保全するようにしましょう。
意外と納得いかない結果に感じるかもしれませんが、過失割合は「どちらがより注意すべきだったか」という判断で決まります。車の運転手もバイクのライダーも、常に周囲への注意を怠らず、安全運転を心がけましょう!

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藤吉 修崇(藤吉 修崇)

弁護士法人ATB 代表弁護士

東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業。大学時代に演劇に没頭し、スコットランドへ留学。その後、舞台演出や空間プロデュースに携わる。30歳を過ぎてから一念発起し、猛勉強の末に司法試験に合格。弁護士法人ATBを設立。YouTubeチャンネル「二番煎じと言われても」は登録者数が20万人を突破。道路交通法の理不尽な状況を法律の観点から解説している。


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(弁護士法人ATB 代表弁護士 藤吉 修崇)
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