※本稿は、安斎勇樹『静かな時間の使い方 自分の解像度を上げる「独りの思索」の全技法』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■「静かな時間」を確保する具体的戦略
まずは、ソーシャルノイズ(=私たちの思考と行動を縛る、外部の規範・評価・期待)から逃れて、「静かな時間」をうまく使えるようになることを目指したいところです。「静かな時間」を以下のように定義しておきましょう。
静かな時間=外部の規範・評価・期待からいったん距離を取り、役割や義務を一時中断した状態
「いったん」「一時」という言葉を使っているのは、この社会で生きていく以上、市場や共同体から完全に逃れることは現実的では無いからです。
しかしそこに埋没していては、自分の主体が外部に奪われてしまう。少しの間でもいいからノイズへのリアクションを宙吊りにして、背負っていた役割や義務を肩から下ろす。自分自身の声に耳を傾けられる状態を整える。これが「静かな時間」の意味するところです。
とはいえ、そもそも時間に余裕がまったく無ければ、「静かな時間」を捻出するのは難しいでしょう。静かな時間をうまく使うには、まず静かな時間を「確保」しなければいけません。
その意味で、いわゆる「生産性」を上げるための「時間術」のノウハウの類は、参照する価値があります。
■時間確保のために活用したい「時間術」
本記事の主題ではないので深掘りはしませんが、書店に行けば大量の時間術の本が並んでいます。それらを参考にしてもらえばいいでしょう。
私がざっと見たところ、メッセージは結局、6つぐらいに集約されるようです。
① 有限性の認識……人生の時間は限られていることを自覚し、行動をうながす
(具体例)「人生は4000週間しかない(注1)」、残りのキャリアでやりたいことを考えるなど
②選択と集中型……限られた時間を何に使うか、絞ってそれに集中する
(具体例)重要度×緊急度マトリクス、やること・やめることリストなど
③時間割・スケジューリング型……いつ・どのくらいの時間を割り当てるかを決める
(具体例)タイムブロッキング、ポモドーロテクニック(注2)、朝活など
④習慣化・仕組み化型……意志力に頼らず、ルールや仕組みで行動を自動化する
(具体例)ルーティン化、習慣形成アプリ、リマインダーなど
⑤注意力・集中力型……限られた認知リソースを守り、密度を高める
(具体例)通知オフ、SNS断食、瞑想、個室作業ブースなど
⑥外部化・委任型……すべて自分でやらず、誰かに思い切って任せる
(具体例)外注、権限移譲、チーム活用など
注1:オリバー・バークマン(2022)『限りある時間の使い方人生は「4000週間」あなたはどう使うか?』かんき出版
注2:25分間の集中作業と5分間の短い休憩を繰り返すことで集中力と生産性を高めるテクニックのこと
■「時間術」にハマる人が陥りやすい罠
これらのテクニックは、短期的な生産性向上には極めて有効です。私自身もほとんどすべて活用しています。
しかし、ここで立ち止まって考えたいのは、なぜこれほど時間をやりくりする解決策が出尽くしているのに、私たちはいまだに悩み続けているのか、という問いです。書店は、時間術の本で溢れているのに、私たちは、時間に悩み続け、また新しい本が出版され続ける。
この背後にある原因を突き詰めていくと、結局のところ、外部から押し寄せる要請に対して、時間をやりくりしてとにかく全力で応えよう、という姿勢は、ある意味、ソーシャルノイズに真っ向からリアクションし続けることに他ならないからです。生産的に働くと言う行為自体が、本質的には「騒がしい時間」そのものとも言えるのです。
根本的な問題は、外部に「過剰適応」し続けることで、自分の声が聞こえなくなること。他者の期待に生産的に応えようとするほど、「内発的動機」が抑圧されること。
時間術を学び、時間を効果的に使うことは、たしかに静かな時間の確保につながります。ただし、それを目的を履き違えると、全力で追い求めることは、かえってミスリードになります。
大事なのは、ソーシャルノイズに対してリアクションしないこと。
リアクションを一時停止し、あえて「反応しない時間」をつくること。
ソーシャルノイズをスルーする時間を、意識的に確保すること。
これこそが、静かな時間を確保するための第一歩なのです。
■すぐに返信を返さない「沈黙タイム」
ここからは「反応しない時間」、ソーシャルノイズをスルーする時間の具体的なつくり方についてお話ししていきます。
まず、ぜひ実践していただきたいのは、すぐに返信を返さない「沈黙タイム」をつくること。つまり、リアクションを「遅延」させることです。
反応速度を意図的にコントロールすることで、1週間のなかに「期待に応えていない時間」を忍ばせる。メールやチャットツールを閉じて、返信をしない時間をつくるのです。
現代のデジタル環境は、私たちに即時性を強く求めます。Slackの通知やメールの着信音が鳴るたびに、まるでパブロフの犬のように反応して、「すぐに返信しなければならない」という強迫観念に駆られている人は少なくないでしょう。「仕事ができるやつは返信が速い」というのは典型的な「共同体の空気」です。
この即時的な反応が、私たちの集中力を細切れにし、深遠な思考や創造的な活動の時間を奪っていくのです。
■「スロー返信デー」を作ろう
実際に、同僚とのスピーディーなコミュニケーションのなかに身を置いていると、仕事がサクサク進んで爽快感があるかもしれません。しかし、相手もまた「速く反応しなければ」と考えていたりするので、おたがいに思考が練られておらず、拙速なやりとりになっていたりもします。
ですからまず、この「速く反応するほうが偉い」という暗黙の前提に疑いをかけましょう。実際に、返信が遅くても仕事ができる人もいるし、返信が速いのに仕事ができない人もいます。
具体的には、「スロー返信デー」を設定するのがおすすめです。「毎週火曜日はメールを返さない」とか、「水曜日はよほど緊急でない限り、Slackに反応しない」と、遅延する日を決めてしまうのです。仕事の内容によりますが、5営業日中、1日くらい返信が遅い日があっても、仕事の質はそこまで下がらないはずです。
丸1日が難しければ、時間帯で区切るのもよいでしょう。
ただし過度にやると、まわりに迷惑をかけたり、シンプルに「使えないやつ」になったりする可能性があるので、そのあんばいは重要です。
それでも、この遅延という行為は、他者の期待から自分を切り離し、自分自身の内なるリズムを取り戻すための、最初の突破口となるはずです。
■「場所の力」を活用する
次に、場所の力も活用しましょう。もっとも手軽なのがカフェです。
カフェは、職場共同体、家族共同体から離れて、ワンコインで静かな時間を確保できる空間です。近所にお気に入りのカフェがあって、なおかつお気に入りの席があると、日々の静かな時間が充実します。
静かな時間といっても、必ずしも物理的に静かな場所を求める必要はありません。多少、ガヤガヤしているほうが落ち着くという人もいます。私自身、ちょっと騒がしいくらいのほうが静かな時間に向き合いやすいので、物理的なノイズはあまり気にしていません。
私の場合、朝、子どもを小学校に送ったあとカフェに立ち寄り、ノートを広げて静かな時間を過ごしています。
ここで大事なのは、Wi-Fiが飛んでいるからといって、メールの返信などをしないことです。それだけで、あっという間に時間が溶けていきます。「カフェでは仕事をしない」「カフェではソーシャルノイズに応えない」と強い気持ちで決めて、自分のためだけにその時間を味わうのです。
■「一人合宿」「山ごもり」もおすすめ
少しハードルは上がりますが、お気に入りのホテルで「ひとり合宿」をするという方法もあります。たまに休みをとって、自分へのご褒美に行ってみたいホテルを予約して、自分だけの静かな時間を過ごすのです。
私は原稿が進まないとき、次に書きたい本のアイデアが思いつかないとき、キャリアがなんとなくうまくいっていない感覚があるとき、予定をなんとか調整して、都内のホテルで「山ごもり」をすることがあります。
ミーティングや余計な予定は入れず、外部を遮断して読書にふけったり、思考を整理したり、執筆を進めたりするのです。
私の著書『問いのデザイン』(学芸出版社)、『冒険する組織のつくりかた』(テオリア)、『新・問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などは、「山ごもり」を何度も重ねることで生まれた作品です。
ぜいたくに思われるかもしれませんが、長い目で見ると、そこから新しい本が生まれたり、自分のキャリアの発見のきっかけになったりしているので、むしろ費用対効果が高いお金の使い方だと思っています。
時間と予算に余裕があれば、旅行もかねて、ふだんとは遠く離れた地に足を運んでひとり合宿をするのもよいでしょう。出張でどこかに行くときに1泊延ばして、ひとり合宿タイムをつくるというやり方もあります。
また、その際の移動時間も有効活用しています。タクシー、新幹線、飛行機など、移動という強制的な切り替えによって、静けさをつくることができます。
■「静かな場所」の究極は「書斎」
静かな場所づくりの究極系は、自分だけの「書斎」をつくることです。
私は2021年頃から自宅の近くに小さなマンションを借りて、書斎として利用しています。落ち着いて本が読めて、思索に耽り、執筆ができる環境が欲しかったのが最初の動機です。ぜいたくなお金の使い方ではあるのですが、いざ借りてみたら最高の投資だったと感じています。
書斎として使うだけなら、お風呂が狭いとか、洗濯物が干せないとか、生活面での機能を気にする必要がありません。みなさんの近所でも、住むには微妙だけれど、書斎としては最適で割安な物件がきっと見つかるはずです。
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安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)
MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』『問いのデザイン』『新 問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。
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(MIMIGURI 代表取締役Co-CEO 安斎 勇樹)

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