※本稿は、安斎勇樹『静かな時間の使い方 自分の解像度を上げる「独りの思索」の全技法』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■「自分のことを考える時間」が不足している
私たちは、自分が何を大切にしていて、何に時間を使いたいのか、わかっているようでわかっていません。
それはお金も同じです。だからSNSの広告にそそのかされて、「自分は持っていないけれど、あの人は持っている」「みんなが使っている」といった情報に影響されて、欲しくもない流行りのブランド品を衝動買いして、後悔したりするわけです。
それもこれも、ソーシャルノイズがデジタルプラットフォーム包囲網のなかで増幅されているからです。時間の使い方にしても、お金の使い方にしても、自分で決めているようで、自分で決めていない。ソーシャルノイズに脊髄反射している状態です。
これを乗り越える方法はあるのでしょうか? 解決方法は結局、ただひとつです。「自分は何を大切にしたいのか?」「自分に必要なものはなにか?」という価値観をきちんと見つめ直し、自分の欲望に向き合って、言語化するしかありません。
これをやらない限り、どれだけ時間とお金を確保しても、「足りない」「満たされない」と悩み続けることになります。
これこそが、「なぜリフレクションをしたほうがいいのか?」の答えです。
社会の規範、市場のスコア、共同体の空気といったものに惑わされず、ソーシャルノイズの誘惑や抑圧からいったん自由になれたときに、初めて「自分は何を大事にしているのか?」「自分の内にある欲望は何なのか?」が見えてきます。
■やりたいことが見つからない理由
よく「やりたいことが見つからない」という悩みを耳にしますが、当然のことだと思います。これだけソーシャルノイズが鳴り響いている状態で、「あなたは何がしたいのか?」と聞かれても、「社会の規範」からはみ出さないそれらしいことを答えるか、「市場のスコア」を高める目標を答えるか、上司や親の顔色をうかがって「共同体の空気」を読んで答えるかしかありません。
ソーシャルノイズから身をはがさない限り、「やりたいことは?」と聞かれても、それはあなたの「内発的動機」を抑圧する“呪いの質問”にしかならないのです。
もしかすると、すでに「やりたいこと」がハッキリしているから自分にはリフレクションは不要だ、という人もいるかもしれません。しかし、そういう人こそ、油断せずに、定期的にリフレクションの時間をとっていただきたいと思っています。
私自身「書きたい本」がたくさんあって、いくら時間があっても足りません。リフレクションをする暇があったら、少しでも本を書く時間にあてたい。そんな気持ちも多少はあります。
■「自分の軸」は変わっていく
ところが、ソーシャルノイズがうるさい現代に生きていると、好きなことに興じているつもりでも、自分の「大切にしたいこと」や「内発的動機」を見失うことがあります。私自身も、本を書きながら自分が本当に書きたいことがよくわからなくなってしまうことがたまにあります。
書きたくて書いているつもりでも、頭の中で「もっとメリットを煽ったほうが売れるんじゃないか」とか「“サボるのが大事”なんて書いたら、企業の人事担当者から嫌われてしまわないだろうか」などと考えてしまうわけです。
もちろん、せっかく本を書くなら売れたほうがいいし、社会の規範に大きく反しないほうがいいかもしれない。
けれども、気づくとその主従が逆転してしまうことがあります。規範を守って、スコアを上げて、周囲から好かれること自体が目的になってしまう。その結果、自分が純粋に書きたいことがよくわからなくなってしまう。こういう力学が働くわけです。
それに、人間は変わります。就職活動の際に自己分析を通して「自分の軸はこれだ!」と確信していた人も、社会人になって3年も経てば、自分の大事なことがまた見えなくなって、モヤモヤしてくるものです。目標を達成して満足したり、挫折を味わったり、さまざまな経験を通して価値観は変容するのです。
職場が変わったり、家族ができたりなど、環境の変化にも影響を受けます。新型コロナウイルスの脅威を経験したことで、働き方や暮らし方の考えが変わってしまったという人も少なくないでしょう。放っておくと、知らないうちに「自分」という生き物は、別の生き物に変身していくのです。
■1億総リフレクション不足時代
だからこそ、「自分は昔からやりたいことがハッキリしている」「自分の価値観はとっくに言語化済みだ」と確信している人こそ、静かな時間にリフレクションをすることを「習慣化」してほしいと思うのです。自分自身の内面に起きている小さな変化に目を向けて、言語化する癖をつけていただきたいと思うのです。これが、私が万人におすすめしたい静かな時間の使い方です。
実際に、さまざまな調査データに目を向けると、現代人はリフレクションが圧倒的に足りていません。
たとえば転職経験者1000名を対象にしたある調査では、定期的に自身のキャリアやスキルの振り返りをしている人はわずか17.1%でした(注1)。特に40代は10.8%、50代は4.0%と非常に少なく、中年期に特有の「ミドルエイジ・クライシス(注2)」と呼ばれる不安や焦りの背後で、圧倒的にリフレクションが足りていないことが読み取れます。
若手も同様です。20代の若手ビジネスパーソン1300名を対象にした調査でも、自分の「仕事の価値観」を明確に言語化できている人は13.3%とごくわずかです。
近年、人材の流動性がますます高まり、転職が当たり前になっています。ところが、多くの人たちは「自分のキャリアについては、よく振り返っていない」「仕事の価値観については言語化できない」という結果が出ているのです。
注1:Eight「転職経験者のキャリア形成に関する意識調査」~定期的にキャリアの棚卸しをしているのは転職経験者の2割未満、20代転職経験者の7割がコロナ禍で転職を考えるように~
注2:40代から50代の中年期に多くの人が経験する「中年の危機」と呼ばれる心理的・感情的な状態。人生の折り返し地点で「これでいいのか」という不安や後悔、将来への焦りを感じるもので、身体的・社会的な変化が重なることでアイデンティティが揺らぎやすくなる。
■転職しても大して環境が変わらない理由
つまり、「自分は何がやりたいのか?」「何を大切にして働きたいのか」がわかっていないまま、「この会社にずっといてはダメだ」「キャリアアップのためには転職したほうがいい」といった理由で転職しているのです。
近年、面接で「なぜうちの会社を希望するのですか?」「うちの会社に入ったら何やりたいですか?」と聞かれても、うまく言語化できないので、適当なことを答えてしまう人が増えているそうです。結果、前職と同じような業務が割り当てられる。それが採用現場の問題にもなっています。
これはある意味、しかたないところもあります。ウイルスが蔓延したり、生成AIが仕事のあり方を変えたり、働き方のバリエーションが増えたり、外部環境が目まぐるしく変化しているからです。外部環境の変化が激しいと、人はみずからの内側に向き合いにくくなります。外側の変化にふり落とされないことだけで手いっぱいになり、感情や欲望が鈍くなってしまうのです。
私はこれを、「1億総リフレクション不足時代」だと感じています。一生懸命、船を漕いでいるけれど、どこへ向かっているのかよくわかっていない。自分のことをよくわからないまま、変化の激しい時代をサバイブしている。いまはそんな時代です。
だからこそ、「自分は何を大事にしているのか?」「自分はどういう欲望を持っているのか?」をしっかり言語化する。これを、日ごろからストレッチのようにやっておく。それが、この激動の時代を乗りこなすための指針になります。
----------
安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)
MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』『問いのデザイン』『新 問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。
----------
(MIMIGURI 代表取締役Co-CEO 安斎 勇樹)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
