事業計画通りに売上が伸びないとき、どうすればよいのか。アスクル創業者の岩田彰一郎氏は「アスクルは当初、自社商品の売上を伸ばすための事業だったが、実際は他社商品ばかり売れた。
その理由は、取引先を訪問したらすぐに分かった」という――。
※本稿は、岩田彰一郎『起業家になる前に知っておいてほしいこと 経営の難問を乗り越えるたった一つの考え方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■売りたかった自社商品が不人気
アスクルは、どうすれば競合他社に勝てるかを考えたところから生まれました。
しかし、いざアスクルを立ち上げると、早々に、競合他社に勝つことばかり考えていては事業を成長させることができないことに気がつきました。
今でこそ、アスクルは日本の大半の主要メーカーの事務用品はもちろん、オフィスや飲食店、病院、工事現場など、さまざまな職場で使われるありとあらゆる商品を取り扱っています。しかし、創業当初は、ほとんどプラスの事務用品しか扱っていませんでした。
中小企業向けの通信販売のダイレクトモデルとして考えていたので、全体の1割程度はプラス以外の商品も売っていましたが、トイレットペーパーやティッシュペーパーなど、事務用品以外のものでした。立ち上げの目的が、プラスの商品を拡販し、業界最大手のメーカーに勝つことだったからです。
ところが、サービスを開始すると、私たちが望んでいなかったことが起きました。
お客様から「『明日届く』のは便利だが、プラスの商品ではなく、ライバル会社の商品が欲しい」という問い合わせが次々と寄せられたのです。
しかも、お客様から最も要望が多かったのは、打倒を誓った最大手メーカーの商品でした。
■自社商品を勧めても「買ってもらえない」
他社の、しかも最大手メーカーの商品が欲しいといわれても、おいそれと扱うわけにはいきません。
プラスが扱っていない商品ならまだしも、お客様が欲しがった商品は、ファイルや伝票など、プラスでも用意しているものでした。
そうした問い合わせがあると、1年間ほどは、「プラスの商品も大変いいですし、値段も安くなっていますから、こちらをお試しになってはいかがですか?」と、プラス製品の販促に努めていました。お客様からも、「じゃあ、使ってみようかな」という言葉をいただくことも少なくありませんでした。
ところが、その後のお客様の購買履歴を調べると、プラスの商品を勧めたお客様のほとんどが、その商品を購入していませんでした。
電話ではあんなに好感触だったのに、なぜ買っていただけないのか?
なぜ、プラスの商品ではいけないのか?
理由を知りたかった私は、お客様にお願いして、直接訪問してお話を伺うことにしました。
すると、お客様の事情がわかってきました。
■取引先訪問で気づかされたこと
そのひとつが、「他社の商品をずっと使い続けているので、一発注者の権限では簡単には変えられない」ということです。
たとえば、ファイルを欲しいというお客様のもとを訪問したところ、オフィスの棚一面にまったく同じデザインのファイルがびっしりと並んでいました。担当者の方にお話を伺うと、「デザインを統一したいので、今から別の会社のファイルに変えることはできない」ということでした。
また、「伝票は同じものでないと使い勝手が悪くなる」という意見もありました。アスクルのお客様は企業ですから、事務用品に求めるのは、仕事を効率的に行えることです。使い慣れたものを使いたいと考えるのは当然です。

このような事情がまったくわかっていなかったことに気づかされたのです。
こうしてお客様のお話を伺ううちに、私は、
「それでもやっぱり、プラスの商品を使ってほしい」

「プラスの社長や社員が何十年にもわたって抱(いだ)いてきた悔しさを晴らしたい」
と思う一方で、
「私たちがするべきことは、お客様に喜んでいただくことではないか」

「たとえライバル会社の商品だったとしても、お客様が求めるなら取り扱ったほうがいいのではないか」
という考えを持つようになりました。両者のはざまで悩むようになったのです。
■「ライバル社の商品を売る」という決断
そうして私が出した結論は、プラスの商品だけでなく、お客様が求めるライバルメーカーの商品も売ることでした。
もちろん、アスクルやプラスにとってメリットがなければ意味がありませんが、勝算はありました。
最大手メーカーをはじめ、他社の商品も買えるようになれば、アスクルというサービス自体の魅力が高まり、利用するお客様の数が増える。すると、売上に占めるプラス製品の割合は減っても、プラス製品の売上は増えると考えたのです。
ただ、これはあくまでも私の楽観的な見方であり、悲観的に見れば、他社製品ばかりが売れて、プラスの製品が売れなくなることもあり得ます。そんな話が社内ですんなりと通るはずがありません。
役員会に諮(はか)ると、予想通り、大反対をされました。
「プラス製品の直販チャネルとして立ち上げたアスクルで、なぜ他社製品を売るのか」

「易(やす)きに流れて、やるべきことをやっていないのではないか」
そういわれたのです。
特に最大手メーカーの商品を扱うことに関しては大きな反発を受け、「非国民だ」「国賊だ」と厳しいお叱りをいただきました。

しかし最終的には、私を含めたアスクルチームの情熱により、当初は大反対していた社長に決断していただき、最大手メーカーをはじめとしたライバルメーカーの事務用品を売ることができるようになりました。
■どうせ取り扱うなら「徹底的に」
これは、今泉社長にとって並々ならぬ決断だったと思います。父の代から「最大手メーカーの商品がなくても成り立つような文具業界をつくっていきたい」という信念を抱き、自身も一生涯をかけてその実現に身を砕いてきたのですから。その最大手メーカーの商品をアスクルで扱うことは、自分の人生を否定することだといっても大袈裟(おおげさ)ではありません。
一方で、今泉社長は毎日、アスクルの事業部を訪れては、「今日の注文はどうだった?」とたずねて、注文が増えたことをともに喜んでくれました。そうして事業が成長する姿を見ながら、プラスもアスクルも成長させるために決断したのだと思います。
ライバルメーカーの商品を売るといっても、反対派を気にして中途半端に扱うようでは、お客様に喜んでいただけません。必要と思われる商品を徹底的に品揃(しなぞろ)えしました。
「これまでの小売店との関係が悪化する」「安売りされるのはイヤだ」と、アスクルに商品を卸すのを嫌がるメーカーさんもありましたが、その場合は、ホームセンターなどで売っている商品を購入して販売しました。当然、それでは利益は出ませんが、お客様に喜んでいただくには徹底してやらなければならないと考えました。
■たった6年で2億から470億円超へ
もしこれが失敗して、他社製品ばかりが売れれば、私は会社にいられなくなるでしょう。そうした重圧を感じながらも、他社商品を本気で品揃えしたことが、アスクルの成長の大きな要因となりました。

アスクルの売上高は、1994年の2億円から、1995年は6億円、1996年は19億円、1997年は56億円、1998年は106億円、1999年は226億円、2000年に471億円と、倍々で伸びていきました。それに応じて、プラス製品の売上も伸びていきました。
今振り返ると、自社の商品を売るためのプラットフォームを活性化するために他社の商品を売るのは、当然のことかもしれません。
たとえば、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに行って、PB(プライベートブランド)商品しか置いていなければ、あまり魅力的とは感じないでしょう。さまざまなメーカーさんの商品を扱っているからこそ、お客様が集まります。
Netflixも、いくら自社で制作した作品が面白くても、だからといって他社が制作した作品を観られなくしていれば、世界で3億人を超える加入者を集められたでしょうか。さまざまな他社の作品も観られるからこそ、加入者を増やせたのではないかと思います。
短期的には敵に塩を送る行為だとしても、長期的に見れば、そのほうが自社の売上や利益が増えるのです。
ちなみに、アスクルの躍進を見て、他の文具メーカーも同様の通販事業に乗り出しましたが、自社商品を優先して販売していました。アスクルほどの成長ができなかった要因のひとつは、そこにあったと考えています。

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岩田 彰一郎(いわた・しょういちろう)

アスクル創業者/フォース・マーケティングアンドマネージメント代表取締役CEO

1950年、大阪府生まれ。1973年、慶應義塾大学卒業後、ライオン油脂(現・ライオン)入社。
「free & free」などのヒット商品を手がける。1986年、プラス入社。1992年、同社営業本部アスクル事業推進室室長。翌年、アスクル事業を開始。1997年、アスクル事業がプラスから分社し、アスクル代表取締役社長に就任。2000年、同社代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)。2012年、LOHACOをサービス開始。2019年8月、退任。2019年9月、フォース・マーケティングアンドマネージメントを設立し、代表取締役CEOに就任。大手企業のイノベーションの推進およびベンチャー企業のハンズオンによる育成を行う。

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(アスクル創業者/フォース・マーケティングアンドマネージメント代表取締役CEO 岩田 彰一郎)
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